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第78話 女の勘

 

 俺たちが狩場を砦の東側に変えてから三日が経過していた。


 「魔物も途切れたし、そろそろ昼にしようぜ」


 「そうだな」


 ラードの言葉に、俺は相槌を打つ。


 俺たちが砦に向かって歩き出すと、採取隊の隊員の一人がマークⅢに話しかけてくる。


 「よぉ、昼休憩だよな?」


 「もちろんですわ」


 「そうか、ゆっくりしてきてくれ」


 そう言い残した隊員が部隊と合流し、採取隊の部隊が俺たちの代わりに戦場へと向かっていく。


 砦の東側で採取隊と共に戦ったことにより、俺たちの実力を知った採取隊の隊員たちが、フレンドリーにマークⅢに話しかけてくるようになっていた。


 まぁ、俺がヒューマンキラーを倒して、リーダーの聖騎士の窮地を救ったことも大きいが。


 あの日の夜、傷が癒えた聖騎士が俺の元に訪ねてきて、命を救われた礼をしたいと申し出てきた。そこで俺は「アフネアが首都トーナの街までの同行を採取隊に求めたときに協力してやってほしい」と返し、聖騎士は快諾して帰っていったのだった。


 砦内で昼食を終えた俺たちは、再び砦から東側の戦場に赴くと、俺たちの代わりに戦っていた採取隊の部隊が砦に帰還していく。


 「なんだか嫌な気配を感じますの」 


 「嫌な気配? それはあなたの特殊能力によるものですか?」


 女魔法戦士の呟きに、マークⅢが訝しげな声で問いかける。


 彼女たちは砦の北側で戦っていたはずだったが俺たちが戦場を東側に移すと、いつの間にか彼女たちの隊も俺たちの近くで戦うようになっていた。マークⅢのことがよほど気に入っているのか、それとも俺たちの傍で戦うほうが稼げることに気づいたからなのか理由は分からない。


 まぁ、全体指揮を執っている俺からすれば、戦力が多いことに越したことはないから構わないが。


 「女の勘ですの」


 「……」


 この返答に対してマークⅢは何も返さなかった。


 おそらく、人の勘というものに対してのデータがないから沈黙しているんだろうな。


 ていうか、女の勘というのは色恋沙汰に特化していると思っていたが、こっちの人族の女は違うのか?


 「ですから、今日ここで戦うことはリスキーですわ」


 剣を抜刀して天に掲げた女魔法戦士は、挑戦的な眼差しをマークⅢに向けている。


 「それでも私たちはここで戦いますの」


 「それでこそマークⅢですわ。ですが私たちは砦に帰還しますの」


 女魔法戦士はにこやかな表情を浮かべながら去っていった。 


 はぁ? 帰るのかよ……剣を空に掲げたのはなんだったんだ?


 俺は絶句する以外になかった。


 その後、俺たちは日が暮れかけるまで戦い続けたが、危険だと思われる魔物は一匹も出現しなかった。


 「なぁ、ここで戦い始めて今日で三日目だ。この先どうするんだ?」


 俺もそれは考えていた。ここからさらに東に進んだところにある第二砦に行ってみたいが、ここですら魔物の数が多いから俺たちだけで辿り着けるのか疑問だしな。


 「お前はどう思う?」


 「俺は一度街に戻りたいな。転職を試してみたいし、転職がダメだったとしても、ここでかなり稼いだから装備も新調したいしな」


 「ならそうするか。明日、エルザフィールの街に帰還する」


 ラードが言うように、転職や装備のこともあるが、ここから先に進むには新メンバーを加えたい。特に盗賊職が最低でも一人は欲しいところだ。


 「了解した」


 ラードは満足そうに頷いたが、その時だった。


 正面の森から100を超える魔物の群れが現れた。


 現在、聖騎士の部隊が左翼、女大剣豪の部隊が右翼に布陣していて、俺たちがその間の中央にいる状況だが、魔物の群れは聖騎士の部隊の前まで進んで、聖騎士の部隊と魔物の群れが対峙する。


 対峙しただと? 相手は魔物なんだぞ?


 俺は違和感を拭えなかった。


 魔物の群れの先頭には綺麗な服を着て腰に剣を携えるゾンビ種の姿があり、そいつが何かを投げ捨てて、地面に二つの物体が転がった。


 ん? 何を投げたんだ?


 俺は二つの物体に目を凝らすと、その物体は人の首だった。


 それを目の当たりにした採取隊の隊員たちから怒声が上がる。


 あの採取隊の混乱具合から察するに、あの首は採取隊の隊員のものなんだろうな……何なんだあのゾンビ種は?


 「あのゾンビ種はグールから進化したと思われる、突然変異個体のレブナントですの。しかも高レベル個体ですわ」


 マークⅢの声から焦りの色が窺える。


 やべぇな……グールの高レベル個体でもウェアウルフと同じぐらいの速さだったからなぁ。それの上位個体、しかも高レベルだとどれほど強いのか見当もつかない。


 怒りを抑えられないのか、採取隊の隊員たちがレブナントに目掛けて突進するが、レブナントの後方に控えていたゾンビ種の群れが採取隊を迎え討ち、レブナントは悠々と後方に下がっていく。


 俺は我知らず右翼に視線を転ずると、右翼は50匹ほどのゴースト種の群れと戦いを繰り広げていた。


 こっちはゴースト種か……左翼にレブナントが出現したからヤバイ奴がいるかもしれないと思ったが、どうやら杞憂だったようだ。


 〈マ、マスター、右翼にいるハイ・ゴーストが危険過ぎますの〉


 ハイ・ゴーストだと?


 「見分けはつくのか?」


 〈後方にいる大きいのがそうですの〉


 俺が視線を右翼の奥に向けると、そこには通常種のゴーストよりも倍ほどでかいゴーストの姿があったが、唐突に姿が掻き消える。


 「……インビシブルの魔法で姿を消しやがったのか」


 〈ハイ・ゴーストはテレポートの魔法で最前線に移動しましたの〉


 「な、なんだと!?」


 俺は慌てて視線を右翼の最前線に向けると、そこにはハイ・ゴーストの姿があった。ハイ・ゴーストは手で採取隊の女隊員の顔に触れていて、ハイ・ゴーストが手を離すと女隊員は力なく地面に突っ伏した。


 「ハイ・ゴーストは『麻痺』かなんかを持ってるのか?」


 〈彼女が倒れた理由は『死の手』で触られたからですわ。つまり、あの女隊員は死亡しましたの。テレポートの魔法と『死の手』の組み合わせ技を躱すことは困難を極めますの。それにあの女隊員の職業は【大剣豪】で、右翼のサブリーダーですわ。それを見抜いて狙い撃ちしてくるからには、ハイ・ゴーストの知性は相当高いと思われますの〉


 マ、マジかよ……ヤバすぎるだろ……


 俺は底知れぬ戦慄に襲われる。


 「なぁ、何も指示がないがどういう状況なんだ?」


 ラードが怪訝そうに俺に尋ねる。


 「左翼にグールの上位個体と思われる高レベルのレブナント、右翼には触れられるだけで即死するハイ・ゴーストがいる状況だ。だからお前たちは砦に撤退しろ。そして、戦況が悪そうなら躊躇せずにエルザフィールの街に逃げるんだ」


 「お、お前らはどうするんだよ?」


 「俺たちはやれるだけやってみるが、ダメそうなら撤退するつもりだ」


 「……そ、そうか、お前のことだから、引き際はわきまえてると思うが絶対に死ぬなよ」


 「無論だ。お前のほうこそ皆を任せたぞ」


 「あぁ、分かってる。砦に撤退するぞ!!」


 ラードたちが砦に撤退するのと同時に、マークⅢの思念の声が俺に届く。


 〈前方にスケルトンナイトの群れが現れましたの〉


 スケルトンナイトか……だったら問題なく倒せそうだな。とりあえず、そいつらを右翼、左翼に行かせないようにしないとな。


 俺が前方を確認すると、スケルトンナイトの群れの数は20匹ほどで動く気配はなかったが、後方に黒い霧のような物体がうごめいていた。


 なぜこいつらは動かない? それにあの黒い霧は何なんだ?


 俺が黒い霧を注視していると、黒い霧の傍が怪しく輝き始める。


 「黒い霧はシャドー・ミストですの。シャドー・ミストは『闇の魔法陣』を持っていますので、瘴気の魔法陣を作り出しているようですわ」


 こんなところに瘴気の魔法陣を作るってことは、こいつら本気でここを落とそうとしているんじゃないのか?


 「とりあえず、スケルトンナイトの群れを殲滅するぞ」


 「分かりましたの」


 〈分かりました〉


 俺たちは正面のスケルトンナイトの群れに向かって歩き出す。遠距離攻撃が届く距離まで近づいたところで、マークⅢが巨大な火柱を放ち、火柱が回転しながらスケルトンナイトの群れを強襲し、巻き込まれたスケルトンナイト五匹が炎に包まれて一瞬で炭と化した。


 おお、マジで『火柱』の威力はやべぇな。


 すぐにマークⅡ、ワンちゃん、マークⅠが魔法で攻撃を行った。しかし、相手は『魔法耐性』を持っているので効き難く、突進してきたスケルトンナイトの群れと乱戦になる。


 だが、スケルトンナイトの群れは、グールよりもステータスの値が低いので、マークⅡとマークⅢ、そしてワンちゃんの敵ではなく、難なく倒されてシャドー・ミストもマークⅢの『火弾』に焼かれてあえなく霧散した。


 散乱しているスケルトンナイトたちの武具はマークⅠが嬉しそうに回収し、せっせとマークⅢに渡してマークⅢが収納した。残った瘴気の魔法陣は、マークⅡがアイアンバレットの魔法で破壊する。


 俺たちが後退しようとしたところで、正面の森から巨大な人型の木の魔物が姿を現したのだった。

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