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第77話 介入

 

 俺が戦場に到着すると、マークⅢとマークⅡがグールの群れに囲まれながら戦っていて、採取隊たちがヒューマンキラーと戦っている状況だった。


 俺はグールたちの背後に一気に接近し、長剣でグールの頭から一刀両断する。


 グールは縦に真っ二つに裂けて地面に倒れたが、それでも立ち上がろうと足掻いている。


 めんどくせぇ……普通の魔物だったら首を刎ねるだけで死ぬのに、アンデッドは体をバラバラにして行動不能にしないといつまでも動きやがるからな。だが、今はそれをやる時間はない。


 仲間が倒されたことに気づいた三匹のグールが反転し、俺に目掛けて一斉に襲いかかる。


 「――速いっ!?」


 ……この速さは前に戦ったウェアウルフ並みだ。


 俺は長剣からミスリルランスに持ち替えて突進し、半ば強引に正面のグールに突きを繰り出して、その首を刎ね飛ばす。


 だが、それと同時に、グールたちに顔面を殴られて腹に蹴りをくらうが、俺にダメージはない。

 

 くくっ、予想通りだ。こいつらは動きが速いだけで、ウェアウルフみたいに攻撃力は高くない。


 「キュキュ!!」


 「わふぅ!!」


 俺の肩にのっているダークが糸の弾を吐き、左のグールが糸に絡まって転倒し、俺の後ろからワンちゃんが飛び出して右のグールに突進する。


 グールが糸を引き千切れないということは、ダークは『痺れ糸弾』を撃ったのか。いいぞダーク。


 ワンちゃんは果敢にパンチの連打を繰り出すが、グールはパンチを躱しながら拳や蹴りで反撃していて、ワンちゃんは劣勢だ。


 まぁ、俺の『守護』でワンちゃんが受けるダメージを俺が肩代わりしてるから、ワンちゃんがダメージを受けることはないし、俺もグールの物理攻撃でダメージを受けることはない。


 だが、問題は魔法攻撃だ。それさえワンちゃんがくらわなければ、ワンちゃんはグールを倒せるはずだ。


 そう思った俺がマークⅠたちに視線を移すと、マークⅠは地面に突っ伏して動けないグールに、容赦なくウォーターの魔法を唱え続けていて、グールの体をバラバラに切断していた。


 俺がワンちゃんに視線を戻すと、グールが派手に吹っ飛んでいる最中だった。


 くくっ、予想通りに『肉球パンチ』が炸裂したようだな。


 「マスター、採取隊がヒューマンキラーと戦っていますがどうしますか?」


 声が聞こえた方に俺が顔を向けると、そこにはマークⅢとマークⅡの姿があり、どうやら残りのグールたちを全て倒して戻って来たようだ。


 もう倒したのか……こいつら優秀すぎるだろ。


 「一応、女リーダーには今後、手出し無用と伝えておいた。だから今回はとりあえず、静観してくれ」


 「分かりましたの」


 「マークⅠとワンちゃんはよくやった。こいつらは通常のグールよりも格段に強い個体だからな」


 〈よゆうだね〉


 「わふぅ!!」


 ワンちゃんは嬉しそうに尻尾を振っている。


 「じゃあ、マークⅠとワンちゃんはグールの首を回収してきてくれ」


 グールの首10個で7500万になるから放置するのはもったいないからな。


 〈わかった〉


 「わかったわん」


 ダークたちが俺の肩から飛び立ち、ワンちゃんも未だ地面でもがいているグールたちに向かって走り出す。


 俺が視線をヒューマンキラーと戦う採取隊に移すと、すでに三人の隊員が地面にへたり込んでいた。


 残りの二人の隊員たちがヒューマンキラーとの距離を詰めようと躍起になっているが、ヒューマンキラーは枝のような腕を長く伸ばして隊員たちを攻撃していて、隊員たちは接近できずに苦戦している。


 「全員が高レベルの【騎士】ですが、このままでは採取隊は負けますの」


 「だろうな……」


 ヒューマンキラーの動きはグールより遅いが攻撃力が高すぎる。現にヒューマンキラーの枝による攻撃や冷気の攻撃により、【騎士】たちが展開するシールドの魔法が易々と破壊されているからな。


 言うまでもなく、『人型特効』で、全ての攻撃手段の威力が三倍になっているからだ。


 やがて、ヒューマンキラーの枝による連続攻撃によって、腹を貫かれた隊員の口から絶叫が迸る。


 即座にもう一人の隊員が剣で枝を切断したが、腹を貫かれた隊員の顔は老人のようにしわくちゃになっている。


 「……なんだあれは?」


 俺は目を剥いて驚いた。


 「あれは『養分吸収』によって体の生気を吸われたのですわ」


 「……なるほどな。だが、アンデッドが人から養分を吸収しても体力は回復しないから意味ないだろ」


 「ヒューマンキラーはブラックゾルと同様にアンデッドではないですの。ですから、『養分吸収』は攻撃手段として優秀ですわ」


 両者の共通点は見た目が黒いことだ……要するに、瘴気によって突然変異した個体かもしれないな。だが、そんなことよりも何で採取隊は援軍を出さないんだ?


 俺が不審げに右側の部隊を見つめていると、戦士風の男が単独でヒューマンキラーに向かって走り出す。


 どう見ても力の差は歴然なのに遅すぎるだろ。単に運が良いだけで運が悪かったら死人が出ている内容だからな。


 「あの隊員の職業は最上級職の【聖騎士】ですわ」


 「【聖騎士】か……どんな戦いをするのか楽しみだな」


 聖騎士とヒューマンキラーが戦い始めると、五人の隊員たちはゆっくりと後退し、グールの首を回収したマークⅠとワンちゃんが戻って来る。


 ヒューマンキラーはその場からほとんど動かずに、二本の腕から伸びる枝による攻撃を繰り返していて、聖騎士が剣で枝を斬り落とす展開が続いている。


 聖騎士は一瞬の隙をついてヒューマンキラーに近づこうとするが、ヒューマンキラーが冷気によってそれを阻んでいる。


 「待ちに徹せられているとはいえ、聖騎士の方が速いのに何をやっているんだ」


 「あの二本の腕から伸びる枝の攻撃は速度に緩急があり、枝自体が生き物のように自在に動いているので、枝を躱すことは至難の業ですの」


 なるほどな……枝を躱したつもりでも枝は自在に動くから、誘導弾みたいに追ってくるのか……だから聖騎士は枝を斬り続けているんだな。


 「今、あの聖騎士は疑心暗鬼に陥っていると思いますの。枝を斬り続けているのに枝がいつまでも再生してますから」


 確かに言われてみればそうだな……木の魔物とはいえ枝が再生し続けているのはおかしい。回復系の魔法や特殊能力を使っているようには見えないしな。


 聖騎士は襲いかかる枝を斬り続けているが状況は変わらない。


 腕の枝の再生が止まることはないと踏んだのか、聖騎士が一転して突進し、ヒューマンキラーの腕の枝を斬り落として一気に肉薄するが、ヒューマンキラーは冷気を放つ。


 その刹那、聖騎士は斜め前に跳躍して凍てつく冷気を回避したが、盾を持つ左腕が凍りつく。


 それでも構わずにヒューマンキラーの側面に飛び込んだ聖騎士は、剣でヒューマンキラーの右腕を斬り落とした。


 上手い!! こうなれば聖騎士の勝ちは決まったようなもんだろう。


 俺はそう高を括っていたが、俺の目に映る結果は逆だった。


 背後から枝に体を貫かれた聖騎士の姿が俺の目に映っていたからだ。


 「はぁ!? 何が起こったんだよ?」


 「脚の枝を地中に伸ばして聖騎士を背後から攻撃したのですわ。つまり、遊ばれてましたの」


 「なっ!? いつでも聖騎士を倒せたってことか……」


 二本足で歩いていたから完全に騙されたぜ……ってことは、あいつの腕の枝が再生し続けていたのは『養分吸収』で、大地から養分を吸収していたからか。


 「このままではあの聖騎士は殺されてしまいますの」


 聖騎士は体を貫いている枝を剣で切断し、左腕は凍ったままなので、剣を鞘に収めて右手で枝を引き抜いてからヒールの魔法で傷を塞ぐ。


 だが、切断されたヒューマンキラーの右腕もいつの間にか再生していて、二本の枝が聖騎士の体を貫いて聖騎士は絶叫し、体がしぼんでいく。


 ちぃ、仕方ないか。


 俺は肩にのっているダークたちを、ワンちゃんに抱かせて『威風』を発動する。


 深紅のオーラが炎となって燃え盛り、俺は一瞬でヒューマンキラーに肉薄し、長剣でヒューマンキラーをバラバラに斬り裂いた。


 即座に俺が『威風』を解除すると、ダークたちが飛んできて俺の体が何度も金色の光に包まれる。


 「ふぅ、助かったぜマークⅠ」


 〈うん〉 


 「マスター!! ヒューマンキラーはまだ生きていますわ!! 脚を地面から引き抜いてください」


 俺は言われた通りにヒューマンキラーの脚を地面から引き抜くと、ヒューマンキラーは瞬く間に萎れたのだった。


 「マークⅢ、こいつは珍しい個体だからしまっておいてくれ」


 「分かりましたの」


 マークⅢがヒューマンキラーの死体を収納すると、右の部隊から10人ほどの隊員たちがこっちに向かって駆けてくる。


 俺が視線を聖騎士に向けると、体はしわくちゃになってはいるが動いているので、俺たちはラードたちの元に向かって歩き出す。


 俺たちがラードたちと合流すると、女大剣豪がただならぬ表情で俺を見つめていた。そして、ラードが血相を変えて話しかけてくる。


 「さ、さっきの赤いオーラは何なんだよ!?」


 ラードの言葉に、皆の視線が俺に集中する。


 「俺の奥の手というやつだ。強力すぎるから短時間しか使えないがな」


 「やっぱり、ロストさんは凄いです!!」


 レシアは感嘆の声を上げる。


 「何だ皆は知らなかったのか? 私たちを助けてくれた時もあの力をロストは使っていたぞ」


 マミの言葉に、マロンも頷いている。


 「マスター、ゾンビ種の群れが現れましたので迎撃に出ますの」


 「ああ」


 俺たちは採取隊と共に日が暮れるまで戦い続けたのだった。

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