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第75話 東門の攻防

 

 翌日、朝食を終えた俺たちが昨日狩った魔物の首を換金すると、8000万円を超える額になった。


 内訳はゾンビやスケルトンが300匹ほどで4500万、ハイ・ゾンビが4匹で3000万、グール1匹で750万といった感じだ。


 で、皆が寝静まった頃、俺はマークⅢとマークⅡに起こされて、夜の狩りに赴いている。彼女らはどうしてもミスリル製の武器が欲しいらしい。


 だが、俺からすれば、10億と値は張るが魔導具の剣のほうが早くほしいところだ。ゴーストのように物理無効で、魔法の耐性も持っている魔物に対抗するには一番手っ取り早いからな。


 それから俺たちは、砦の東門から出て防壁の左の出入り口から外に出る。


 換金所の店員に東門の方が魔物の数も多く、強い魔物も出現すると聞いたからだ。


 防壁の出入り口の付近には40人ほどの人族が待機していて、北門と同様なら採取隊の守備隊だろう。


 戦場では五部隊が魔物の群れと交戦していた。五部隊全てが10人ほどのパーティなので、おそらく冒険者だろう。


 俺たちが戦場に進み出ると、前方から40匹ほどのスケルトン種の群れが見え始める。


 俺が視線を冒険者たちに向けると、四部隊は問題なさそうだが、ゴースト種の群れと戦っている冒険者たちが大苦戦していた。


 「なぁ、あれ、大丈夫なのか?」


 ラードが心配げに俺を見る。


 「相手は30匹以上のゴースト種の群れだ。まぁ、最悪、採取隊が動くだろう」


 そうは言ってみたが、リーダーの判断ミスであることは否めない。


 「そういえば、ここには採取隊がいたんだよな……ってことは、あいつら最初から採取隊をあてにしてるのか」


 ラードは複雑げな表情を浮かべている。


 「……あいつらの顔を覚えておいて、あいつらの近くでは戦わないことぐらいしか俺たちにできることはない」


 「だよな……」


 ていうか、五部隊もの冒険者がいる状況で、ゴースト種が出ることの方が厄介だ。


 俺たちは前方から接近するスケルトン種の群れを迎え討つために前進する。


 「マロン隊は先陣を頼む。数が多いから俺たちも出るぞ」


 「分かりました」


 マロン隊がスケルトン種の群れに向かって進み始めると、ラード、ミコ、ラゼ、ネヤが後に続く。


 「マークⅡ、お前は遊撃として動いてくれ」


 〈分かりました〉


 マークⅡもラードたちの後を追う。残ったのは俺とワンちゃん、俺の肩にのっているダークとマークⅠ、マークⅢ、そして後衛職たちで、ここではゴースト種が出るから、これ以上分隊するのは危険だ。


 マロン隊とラードたちがスケルトン種の群れと戦い始めると、前方から50匹を超えるゾンビ種の群れが現れる。


 数は多いがゾンビ種ならいけるか? まぁ、俺たちが戦わなくてもラードたちで対応できるが、ここは俺たちが動いてみるか。


 俺たちはスケルトン種と戦うマロン隊やラードたちの横を通り過ぎて前に出る。


 ゾンビ種の群れがある程度俺たちに近づいたところで、四匹のゾンビ種がいきなり突進してくる。


 「グールが一匹に残りはハイ・ゾンビですわ!!」


 「……えっ!?」


 後衛職たちから不安げな声が上がる。


 はぁ? 強い魔物が出るとは聞いていたが、いきなりグールかよ。


 「グールは私が倒しますの!!」


 マークⅢがグールに目掛けて突撃する。


 「わふぅ?」


 俺の後ろに控えていたワンちゃんが、俺の顔の前まで顔を近づけて首を傾げて指示を待っている。


 「近づいてくる三匹のどれでもいいから攻撃してくれ」


 「わかったわん!!」


 ワンちゃんは嬉々としてハイ・ゾンビたちに向かって走り出し、一匹のハイ・ゾンビと戦い始める。


 残りの二匹が俺たちを目指して猛然と駆けてくるが、マークⅠがアースの魔法で攻撃する。


 だが、ハイ・ゾンビは横に跳んで魔法を躱し、ダークに騎乗したマークⅠが俺の肩から飛び立ち、それをハイ・ゾンビが追いかける。


 残る一匹が俺に襲いかかったが、背中の長剣を抜いた俺がハイ・ゾンビの首を刎ね飛ばし、体を蹴り倒すとハイ・ゾンビは地面にめり込んだ。


 「よく狙って攻撃しろ」


 俺が振り返って後衛たちに指示を出すと、後衛たちは顔を見合わせて戸惑っていたが、いち早く攻撃に転じたのが【呪術師】のパエルだった。


 「エナジードレイン!!」


 パエルが魔法を唱えて、緑色の風がハイ・ゾンビの体を包み込み、エメラルド色に輝く光の球体がパエルの体に吸い込まれた。


 エナジードレインの魔法は、対象から経験値を奪って自分のものにできる恐ろしい魔法だ。


 ハイ・ゾンビは立ち上がったが、その動きは鈍重だった。


 経験値を奪われたことにより、おそらく、階級が下がって通常種に格下げになったんだろうな。


 「ファイヤ」


 キャニルが魔法を唱え、激しい炎に包まれたハイ・ゾンビは黒焦げになって崩れ落ちた。


 俺が視線をマークⅢに転ずると、マークⅢはすでにグールを仕留めてゾンビ種の群れと戦っていて、ワンちゃんとマークⅠたちもハイ・ゾンビを倒してこっちに向かっていた。


 欲を言えばもう一人前衛が欲しいところだが、キャニルが何も言ってこないし何とかなるだろう。


 「クビをもってきたわん」


 ワンちゃんがハイ・ゾンビの首を俺の前に置く。


 「よくやった」


 「わふぅ!!」


 ワンちゃんは嬉しそうに尻尾を振っている。マークⅠたちが戻ってきて、マークⅠがハイ・ゾンビの首を俺の前に投げる。


 〈したいはなにももってないから、つまらない〉


 昨日もゾンビ種ばかりと戦って素材を回収できていないから、マークⅠは不満そうだ。


 「こっちは骨が多く出るぞ」


 俺はそう言いながら俺たちが倒したハイ・ゾンビの首を回収し、三つの首を長剣で水平に斬り、上側の部位を麻袋の中に入れた。


 〈えっ? そうなんだ。それならあんしんだね〉


 しばらくすると、マークⅢが一人でゾンビ種の群れを殲滅して帰還する。


 「ここは予想以上に魔物の出現頻度が高いですわ。後衛の経験値稼ぎをしている余裕はなさそうですの」


 「ならラードたちと合流した方が良さそうだな」


 俺たちが急いでラードたちの元に戻ると、ラードたちとマロン隊はすでにスケルトン種の群れを倒していて、あらたに現れたゾンビ種の群れと戦っていた。


 だが、全身に包帯を巻いたようなアンデッドが二匹いて、ミコとマークⅡが一対一で戦いを繰り広げていた。


 「何だあの包帯は?」


 「あれはおそらく、ハイ・ゾンビから進化した突然変異個体のマミーですの。マミーはグールとハイ・ゾンビの中間ぐらいの強さですが、攻撃力だけはグールを上回ってますの」


 はぁ? グールより攻撃力が高いってやばいんじゃないのか?


 そこに、血相を変えたラードが駆けてくる。


 「レシア!! ラゼとキリが包帯野郎にやられた。すぐに診てやってくれ!! こっちだ」


 「は、はい!!」


 レシアは慌ててラードを追いかける。


 おのずと俺の視線はマミーたちと戦うミコとマークⅡに移る。


 ミコと交戦しているマミーが包帯を伸ばして攻撃するが、ミコは剣で包帯を切断する。マミーは黒い風を放つがミコは容易に黒い風を躱しながらマミーとの距離を詰める。


 「あの黒い風はカースの魔法ですの。効果は基本ステータスの値が下がりますの」


 マジか? 厄介過ぎるだろ……


 マミーに肉薄したミコは剣でマミーを斬り裂いたが、それと同時にマミーが放った包帯がミコの左腕に絡まり、ミコは即座に後方に跳躍して距離を取る。


 だが、マミーが包帯を引っ張り、ミコは抵抗しようとしたがなす術なく引き寄せられる。


 「ラゼとキリもあれでやられたんだ。接近戦での包帯は躱し難いし、奴の力は凄まじいからな」


 戻って来たラードが険しい表情を浮かべている。


 ミコを引き寄せたマミーが拳でミコを殴ったその刹那、ミコが二人に増える。


 殴られたミコは激しく吹っ飛んだが、包帯が左腕に絡まっているので途中で止まって地面に突っ伏した。


 しかし、増えたもう一人のミコが、マミーの背後に回って剣でマミーをバラバラに斬り裂いたのだった。


 俺がマークⅡに目をやると、マークⅡの大盾には包帯が巻きついていて、両者は力比べをしている状況だが、逆にじりじりとマミーがマークⅡの方に引き寄せられている。


 だが、マークⅡは力比べに飽きたのか、突然、戦斧で包帯を切断し、なぜかマミーに向かってゆっくりと歩いていき、両者は対峙した。


 マミーは拳でマークⅡの腹を殴ったがマークⅡはビクともせず、マークⅡが上段に振りかぶった戦斧をマミーの頭上に振り下ろす。


 一刀両断されたマミーは体が縦に二つに裂けて地面に倒れたが、それでも立ち上がろうと足掻いている。


 「す、すげぇなマークⅡは……あのマミーの攻撃ですら効かないのかよ」


 ラードは感心したような表情を浮かべている。


 くくっ、マークⅡは大量の魔物を倒し続けているからな。つまり、すでに俺の守備力を超えて、その値は800を超えていて、『鉄壁』を加味すると1600を超える化け物になっている。


 最早、マークⅡに物理攻撃でダメージを与えられる者はほとんどいないだろう。


 マミーの首を持ったミコとマークⅡが帰還し、マミーの首をマークⅢが収納する。


 「驚きましたわ。マミーを一撃で倒すなんて……あなたの隊にはあなたと肩を並べる存在がいたのですね」


 声が聞こえた方向に俺が顔を向けると、そこには女魔法戦士の姿があった。


 こいつ、また来たのかよ……


 「マークⅡは私よりも強いですの」


 「マークⅡ? あなたもそうですが異世界人の名前はどこか記号みたいな感じがしますわね。それで私たちもこちらで戦いますのでよろしくお願いしますわ」


 「……ここはグールやマミーの出現頻度が北側よりも高いですの。ですからあなたたちは北側で戦う方がいいと思いますわ」


 「だからグールやマミーが出たらあなたに任せたいのよ」


 女魔法戦士は当然のように言ってのけた。


 何言ってんだこいつは? そんなのが通るわけがないだろ。


 「グールやマミーを私のところまで連れてこれるなら構いませんわ」


 通すのかよ……


 「おほほっ!! あなたならそう言うと思ってましたの。それじゃあ、よろしくお願いしますわ」


 女魔法戦士はにこやかに自身の隊へと戻っていった。


 〈ここで戦うのなら私とマークⅡは遊撃、つまり、強い魔物を率先して倒す必要がありますが、常に強い魔物がいるわけではないので、女魔法戦士の提案を受けましたの〉


 マークⅢが思念で俺に説明する。


 要するに、早くミスリルが欲しいんだろうが、俺たちだけで戦わないと分配金がないってことを失念しているだろ。


 だが、俺はあえて何もマークⅢに言わなかった。


 その後の俺たちは、強い魔物が出現してもマークⅡとマークⅢが倒し、女魔法戦士が連れてくるグールやマミーもマークⅢが瞬殺した。そして、多数のゴースト種が襲い掛かってきても、ルルルとマークⅢが難なく倒す。


 マークⅢは、マークⅡと同様に大量の魔物を倒し続けたことにより、大幅にレベルが上がって新たな魔法や特殊能力に目覚めていた。


 その中でも『石閃』という巨大な石を高速に飛ばす特殊能力が有用で、これにより、ゴーストの攻略が楽になっている。


 俺たちは暗くなるまで戦い続けて砦に帰還したのだった。

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