表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

74/96

第74話 知ってますの


 俺たちは採取隊の導きにより、彼らの拠点である第一砦に到着した。


 砦は見通しが利く開けた草原の中央に建てられていて、これなら魔物の接近も速やかに知ることができるだろう。


 俺たちは採取隊に連れられ、砦を囲う防壁の南側から入る。


 「戦士の村から南下した砦の防壁と比べると雲泥の差だな」


 「そうだな」


 ラードの言葉に、俺は同意を示して頷いた。


 あっちの防壁はあちこちに亀裂が走っていて今にも崩れそうだったが、こっちの防壁は見上げるほど高く、厚みは10メートルを軽く超えているので重厚だ。


 ただし、俺たちが通った南側の防壁には三カ所の出入り口が設けられていたが、扉もなく守る者すらいないことが不自然だが。


 俺たちが砦に向かって歩いていくと、砦の門の前には20人ほどの武装した人族たちの姿があった。だが、戦士風の男の姿を目にすると、二つに分かれて道を譲り、俺たちは砦の中へと入ることができた。


 砦内は多数の人でごった返していて、出撃準備を整えている者たちや、座り込んで飲食しながら談笑している者たちが散見される。


 俺たちが唖然としていると、戦士風の男が口を開いた。


 「この砦内には常時1000名ほどの採取隊が詰めているが、このフロアは休憩所も兼ねているのでこの有様だ。他には魔物の首を換金できる換金所もある。地下一階は宿泊所になっているから、君ら冒険者は南西のエリア内でなら好きな場所で野営してくれて構わない。地下二階には武具やポーション、食料品や日常品を扱う商店があるから、ここで戦い続けるなら利用してくれ」


 「それは分かりましたが、南門には20人ほどしか門番がいませんでしたわ。ここは本当に稼げる場所なんですの?」


 マークⅢが不服そうに尋ねる。


 「基本的に西門と南門は魔物が少ないんだ。稼ぎたいなら東門か北門だろうな」


 「分かりましたの」


 「他に質問はないか?」


 「ありませんの」


 「そうか、だったら我々は失礼する。私の名前はアーロンだ。何かあったら私を捜してくれ」


 そう言って、アーロンたちは去っていった。


 「で、どうすんだ? あいつはここの説明をしてたんだろ?」


 「まずは地下二階に下りて食料を調達しますわ」


 「地下に店があるのか?」


 ラードが驚きの声を上げる。


 「武具やポーションなども売っているみたいですわ」


 「さすが採取隊の拠点だな」


 俺たちは地下に下りる階段を探すと、部屋の角に地下に下りられる階段を発見し、地下二階に移動した。


 一階と打って変わって人の姿はまばらで、俺たちは商店を見て回る。


 「高いと思ってたのに村や街とどれも値段が変わらないのね」


 キャニルが意外そうに呟く。


 まぁ、日本では出店やイベントなんかで販売されている商品が割高なのは当たり前だが、さすがガダン商会といったところか。


 「とりあえず、マロン隊の【重戦士】たちと【盾士】たちの防具は買い替えだな」


 「えっ? いいんですか!?」


 ラードの言葉に、戸惑うマロンが聞き返す。


 「ああ、構わない」


 マロン隊の隊員たちから歓喜の声が上がり、彼女らは嬉しそうに防具を物色している。


 彼女らはハイ・ゾンビたちに好き放題殴られていたから妥当な判断だ。


 俺は彼女らを横目に、他の商店を見て回っていると飲食店が建ち並ぶ区画に出る。


 この区画は混雑していて、飲食店だけでなく、様々な食材を扱っている店も多い。


 〈わぁ!? ここはゴハンがいっぱいうってるね!! ダークがおなかペコペコっていってるから、いっぱいゴハンをかってよね〉


 こいつには金を盗んだ件で説教しようとしたが、逆にダークの飯代の為に俺から盗んだと反論されて俺は何も言えなかった。


 ダークは魔物を食えるから、飯代はかからないと思っていたからだ。


 だが、マークⅢいわく、ダークは『食いしん坊』という食べることでHPを回復できる特殊能力も持っていて、レベルが上がったことも重なって食べる量もどんどん増えているらしい。ダークはマークⅠのペットだが、ダークの飯代は俺が持つことにした。


 「好きなだけ買え。マークⅢ、ダーク用に食料をストックしておいてくれ」


 「分かりましたの」


 その後、俺たちは飲食店で食事を済ませてから地上に上がり、北門から砦の外に出る。


 北側の防壁も南側の防壁と同じように三カ所の出入り口があり、俺たちは正面の出入り口から外に出ると、アンデッドの群れと人族たちが戦いを繰り広げていた。


 人族側は20人ほどの部隊が三部隊いて、ゾンビ種の群れと戦っている。


 「あの三部隊は連携が取れているので、おそらく採取隊だと思いますの」


 確かに連携が取れているように見えるからそうなんだろうな。しかし、ここで戦うには敵の数が少なすぎる。


 「右の出入り口の方に行ってみるか」


 俺たちが右の出入り口に移動すると、そこには20人ほどの部隊が待機していて、人族たちとアンデッドの群れの戦いを静観していた。


 戦場の人族たちの人数はいずれも10人ほどで、四部隊がそれぞれにアンデッドの群れと交戦している。


 「ここは良さそうですの。アンデッドの数も多いですし、戦っているのはおそらく冒険者だと思いますわ」


 人族たちが戦っているのは20匹を超えるゾンビ種の群れで、さらに前方からは新たなアンデッドの群れが多数迫っている状況だ。


 「一番右の隊と戦ってるアンデッドの中にやたら強い奴がいるな」


 ラードの声に、皆の視線が一番右の隊に集中する。


 人族たちが戦っているのはゾンビ種の群れで、一匹だけだが確かにハイ・ゾンビよりも強いように思える。


 ていうか、ゾンビ種は下位種も上位種も見た目が同じなので、見分けがつかないんだよな。


 「あれはハイ・ゾンビから進化したと思われる突然変異個体のグールですの」


 「やっぱりか……あれは俺たちじゃ手に負えないぞ」


 ラードは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべている。


 「大丈夫ですわ。もし戦うことになったら私たちが倒しますの」


 「ああ、それは任せるが、あいつらは大丈夫なのか?」


 グールとサシで戦っている戦士風の女は苦戦していて、俺はふと視線を出入口の前で待機している連中に向けると出撃準備を整えていた。


 へぇ、劣勢になったら助けに入るのか。てことは採取隊だよな。


 「いずれにせよ、私たちもあそこに向かいますの。勝ったとしてもあの隊にはもう余力がなさそうですから」


 俺たちがグールと戦う隊の傍に移動すると、冒険者たちが驚きの表情で俺たちを見ている。


 グールと戦う戦士風の女は自身の前に透明の盾を展開しながら、ウインドの魔法やブリザーの魔法を唱えて攻撃しているが、グールも緑色の風や無数の石を放って反撃していて、接近戦では明らかに戦士風の女が劣勢だった。


 シールドの魔法を使える職業で前衛職は、上級職の【騎士】だが攻撃魔法を使っているし、【騎士】ではあの動きはできないはずだ。あの女の職業は何なんだ?


 「そこの【魔法戦士】!! 勝てないのなら私たちが引き継ぎますわ!!」


 いつの間にか戦士風の女の近くに移動していたマークⅢが声高らかに宣言する。


 言われて思い出したが、あの女の職業は最上級職の【魔法戦士】だったのか。【魔法戦士】は際立ったところが『魔法耐性』ぐらいしかないので印象が薄かったんだよな。


 「この個体はハイ・ゾンビじゃなくてグールですのよ!!」


 女魔法戦士が険しい表情で訴える。


 「知ってますの」


 「――なっ!?」


 一瞬面食らったような顔をした女魔法戦士が絶句する。


 「……だったら倒して見せなさいよ!!」

   

 女魔法戦士が忌々しそうにそう叫んだ瞬間、マークⅢが矢のようにグールに突進して大剣でグールの胴体を斬り裂き、グールは後方に飛び退いた。


 それを目の当たりにした女魔法戦士は、動揺を隠しきれないようでピクリともしない。


 グールは緑色の風を放ったが、マークⅢは意に返さずに緑色の風の中を突き進んで大剣でグールの首を刎ね飛ばし、魔法を詠唱する。


 「ファイヤボール!!」


 巨大な火の玉がグールに命中し、グールの体が一瞬で燃え尽きて炭に変わり、マークⅢは大剣で地面に転がるグールの首を突き刺して俺たちのところに戻って来た。


 「つ、強ぇなマークⅢは……」 


 ラードが感嘆の声を漏らす。

 

 ていうか、あの緑色の風はポイズンの魔法だよな? それが何でマークⅢに効かないのか考えてみると、アンデッドと同様に体に血が巡ってないからだと今気づいたぜ。当然、マークⅡも鉄の人形であるマークⅠにも毒が効かないことは言うまでもない。


 俺は前方から接近するアンデッドの群れを注視しつつ、冒険者たちの動向を探る。


 今のところアンデッドの群れはゾンビ種ばかりで、グールは例外だがそれを除けば雑魚でしかないが、さらに奥に敵影が見えるので、ここでの戦闘は数との戦いになりそうだ。


 で、マークⅢが言うように、女魔法戦士の隊は隊員たちの疲労の色は隠せないようだから撤退するだろう。あとは残り三隊の冒険者たちの動向次第だな。


 「とりあえず、マロン隊には近づいてくるゾンビ種の群れを任せる」


 「分かりました」


 ラードの指示にマロンが頷き、マロン隊が前方のゾンビ種の群れに向かって進み始めると、女魔法戦士が話しかけてくる。彼女の仲間たちの姿はないので砦に撤退したようだ。


 「あなたたちはもしかして異世界人なのかしら?」


 「そうですわ」


 「やっぱり、そうなのね。でもあなただけは人族語が話せるのね。じゃあ、あなたがソフィかしら?」


 女魔法戦士は自分で質問しておいて微妙そうな顔をしている。


 「違いますわ。私の名前はマークⅢですの」


 「やっぱりそうよね。ソフィは【聖騎士】だと聞いていたけど、あなたは炎の魔法を使うからおかしいと思っていたのよ」


 「それで、話はそれだけですの?」


 マークⅢが話を切ろうと思ったのかキッパリと言い放つ。


 「えっ? ……あ、あなたには一応助けられた形になってるし、あなたたちは異世界人だから知らないことも多いと思うから色々と教えてあげようと思ったのよ」


 少し狼狽えた感じの女魔法戦士が気恥ずかしそうにもじもじしながら言った。


 「では、上位種の上の存在であるグールの討伐金はいくらになるのか知りたいですの」


 「フフフッ、そんなことも知らないのね。いいわ、この私が教えてあげますわ!!」


 女魔法戦士は一転して尊大な態度になる。


 こいつ、面倒臭そうな奴だな……


 「グールの討伐金は上位種と同じ500万円ですわ。ですがここで換金すれば750万円になりますわ」


 「ハイ・ゾンビより明らかに強いグールの討伐金が、ハイ・ゾンビと同じだなんて納得できませんの」


 「フフッ、あなたは魔物のことを全く理解していないようね。この機会にこの私が一から教えてさしあげますわ!!」


 鼻高々の女魔法戦士が意気揚々と饒舌に語り出す。


 彼女の話はあまりに長いので要約するとこうなる。


 まず、上位種が群れの中に存在すると群れが活性化するらしい。それを阻止する為に上位種だけは一律500万円に設定しているとのことだ。


 マークⅢの不満は魔物の強さが違うのに討伐金が同じということだが、それを言えば、弱い部類の魔物と強い部類の魔物の上位種の強さは天と地ほどの開きがあるが、討伐金は同じなのである。


 要するに、上位種の上の存在がどうとかではなく、魔物のステータスの値が1000を超えるような場合において、500万円より上の討伐金を冒険者ギルドが設定するらしいのだ。


 だが、彼女はこうも言っていた。ステータスの値が1000を超えるような化け物に遭遇した場合、英雄級の冒険者でないと討伐できないと。


 俺たちは日が暮れるまで魔物と戦っていたが、女魔法戦士もずっと一緒にいてマークⅢと話し込んでいた。


 まぁ、この狩場は雑魚ばかりだからマークⅢが戦わなくても何の問題もないからいいんだが……

ここまで読んでくれたあなたの一つのブックマークや評価が、作者の命綱です!

少しでも「続きが気になる!」と思っていただけたら、ブックマークや評価(↓の★★★★★)で応援していただけると嬉しいです。


勝手にランキングに参加しています。

リンクをクリックしてもらえるとやる気が出ます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング に参加しています。 リンクをクリックしてもらえると作者のモチベーションが上がります。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ