第70話 魔法と特殊能力
俺たちはゴースト種と戦うために開けた場所に移動する。
「たぶん、ゴースト種の群れが来る。作戦通りに頼む」
キャニルたちが緊張した硬い表情で頷いた。すぐにキャニル、レシア、【戦神官】のミルアが防御系の魔法や特殊能力を展開する。
キャニルのマジックシールドの魔法、レシアの『結界』や『聖盾』、ミルアのレジストの魔法は魔法攻撃に対して有効だからな。
しばらくすると、ラードたちが戻ってきて俺たちとすれ違う。
「任せたぜ」
「ああ」
俺たちを通り過ぎたラードたちが後方の障害物に身を隠し、マークⅡとマークⅢは俺の傍らに並び立つ。
マークⅡが『鋼壁』で身の丈を超える鋼の壁をいたるところに創り出し、レシアたちやマークⅡ、マークⅢは鋼の壁の後ろに身を隠す。
「ワンちゃんは鋼の壁の後ろに隠れながら魔法で攻撃してくれ」
「わかったわん」
ワンちゃんが鋼の壁の後ろに移動すると、俺は囮になるために前へと進み出る。
作戦は俺が前に出てゴースト種の魔法攻撃を躱し続けている間に、後方からキャニルたちが魔法や特殊能力でゴースト種を攻撃するというシンプルなものだ。
俺が前方に目を凝らしていると、ローブを纏った屍のような魔物がふわふわと飛んでくる。
幽体なので体は透けていて、数は20匹ほどだ。
「ポイズン」
俺はポイズンの魔法を唱え、緑色の風がゴースト種たちの体を突き抜けるが、ゴースト種たちは一斉に魔法で反撃し、多数の水の刃が俺に襲いかかる。
俺が広場を戦いの場に選んだのは、標的になりやすいという欠点もあるが、障害物がないほうが動きやすいと考えたからだ。それにキャニルたちからすればゴースト種たちを狙いやすいからな。
俺が降り注ぐ水の刃を紙一重で躱していると、後方のキャニルたちの一斉攻撃がゴースト種たちに着弾し、一匹が墜落しながら霧散した。
あれだけの攻撃が一度に当たって一匹だけなのか? それに俺のポイズンの魔法も何匹かに当たっているはずだが、奴らが苦しむ様子が見られない。どういうことなんだ?
俺が訝しげな眼差しをゴースト種に向けていると、マークⅢの叫び声が聴こえる。
「ここにいるゴースト種は全て通常種ですわ!! 通常種は『魔法耐性』を所持しているので魔法が効きにくいですの!!」
『魔法耐性』だと!? 最上級職でも持っていることが少ない軽減系の特殊能力をこいつらは持っていやがるのか……効果は60パーセント以上の確率で魔法を無効にできるはずだが、そうなると魔法を何度も命中させる必要があるから厄介だな。
一斉攻撃を受けたゴーストたちの大半が、俺を無視してキャニルたちに襲いかかり、戦いは魔法の撃ち合いに発展する。だが、こちらはマジックシールドの魔法や特殊能力で築いた壁があるので有利に戦いを進めている。
俺もポイズンの魔法でゴーストたちを攻撃するが効いているのか分からず、思わず長剣でゴーストを斬ってみたがすり抜けるだけだった。
鬱陶しい……魔法でしか攻撃できないことがこれほど苛つくとは思いもしなかったぜ。だが、これから先のことを考えると軽減系の特殊能力を持つ魔物が増えることが予想される。だとすると、何か対策を考えないと先に進めなくなるのは自明の理だ。
そういえば、プニは魔導具の炎の剣がたいしたことはないと言っていたが、軽減系の特殊能力対策になるんじゃないのか? ただ値段が10億円もすることが問題なんだがなんとか貯めるしかない。
俺が水の刃を躱しながらポイズンの魔法を唱えて攻撃していると、幾つもの水球がゴーストたちに命中し、俺と戦っていた五匹のゴーストが消滅する。
水球? ルルルの『デロデロフェスティバル』か!?
俺は我知らずにキャニルたちのほうに顔を向けると、頭上に無数の水球を浮かべるルルルの姿があり、ルルルが放った水球によって全てのゴーストたちが消え去った。
そうか!? 『デロデロフェスティバル』は特殊能力だから、ゴーストが持つ『魔法耐性』は関係ない。さすがルルルだぜ。
俺がキャニルたちの元に歩き出そうとすると、マークⅠが思念の声を発した。
〈あと2ひきいるよ〉
「はぁ!? どこにいるんだ!?」
俺は慌てて周辺を見回すが、ゴーストの姿は見えない。
〈あっちだよ。アース!!〉
マークⅠが虚空に向かって数知れない石や岩を放ち、それと同時にダークも同じ方向に糸の弾を飛ばす。
石や岩は何も捉えず、どこまでも飛んでいったが、糸の弾は何かを捉えて、その何かが地面に落ちた。
ダークは間髪入れずに闇の竜巻を放ち、闇の竜巻に切り裂かれたことで姿が実体化したのか、糸に絡まったゴーストの姿が露わになる。
マジでいたのか……ってことはこいつら姿を消せるのか!? 厄介すぎるだろ……それにしても、ダークの『糸弾』で何でゴーストが拘束できたんだ?
闇の竜巻に体を切り裂かれたゴーストは奇声を上げて消滅した。俺はキャニルたちに視線を転じると、匂いを嗅ぐ仕草をするワンちゃんが何もない空間にブリザーの魔法を撃っている。
『くんくん』か!? ゴーストが姿を消せるならマークⅠかワンちゃんしか発見できないことになる。
ワンちゃんは何もないところから唐突に放たれる水の刃を回避しながら、ブリザーの魔法で反撃することを繰り返す。
やがて、何もない空間が凍り付き、体が凍ったゴーストが露見して地面に落ちて砕け散ったのだった。
俺がキャニルたちの元に合流すると、身を隠していたラードたちが歩いてくる。
「皆よくやってくれた」
俺の言葉に、キャニルたちは満足そうに微笑んだ。
「しかし、想像以上に厄介な相手だな……」
ラードは難しげな表情を浮かべている。身を隠していた仲間たちも皆一様に暗い。
「ゴーストは姿を消すことができるインビシブルの魔法を持っていますの。ですので探知系の魔法か特殊能力を持っていないと発見できませんわ。正直、ゴーストたちが初めから姿を消して現れていたらと考えるとゾっとしますの」
「確かにな……」
おそらく、現地人が言っていた洗礼ってそれのことだろうしな。
「【目利き】がインビシブルの魔法に対処できたことに驚いてますの。普通は魔法を撃ってきた辺りに勘で魔法攻撃を行う戦法らしいのですわ」
「だろうな。まぁ、種は知れたから次はもっと楽に倒せる。マークⅢ、ダークの『糸弾』で何でゴーストを拘束できたか分かるか?」
「それはダークが放った特殊能力が『痺れ糸弾』だからですわ。『糸弾』は特殊能力によって創り出した糸が敵に巻きつく、つまり、物理攻撃ですのでゴーストの体をすり抜けますが、『痺れ糸弾』は麻痺する効果と闇属性の糸で拘束するというダブル効果がありますの」
ダークもだんだん侮れなくなってきたな。
感心した俺は、俺の肩にのるダークの頭を撫でる。
「キュキュ!! キュキュキュキュ!! キュキュキュッ!!」
〈ダークはプリンがほしいっていってるよ〉
まぁ、仕方ないか。アンデッドの死体を食べさせたら病気、あるいはアンデッドになってしまう恐れから、ダークに何も食べさせていないからな。
俺が腕につけている小型の盾の上に大きめのプリンを出現させると、ダークは歓喜の鳴き声を上げながらプリンを食べるのだった。
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明日もたぶん10時に投稿する予定です。
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