第7話 死肉への誘い
翌日の昼頃、俺は倒したレッサー・コボルトの死体を観察していた。
水晶玉によると、魔物の死体は数日で跡形もなく消え去るが、皮や牙などの素材を採取した場合、その素材は消えないらしい。
レッサー・コボルトから採取できるのは肉だけだが、そんなものを必要とするのは魔物だけだろう。
「これは使えるかもしれないな……」
俺はレッサー・コボルトの死体を見ながら呟いた。
奴の死体は体や内臓を食い散らかされ、手足が四散していた。
これをやったのはおそらく魔物の仕業だろう。
そうだとすると、奴の死体を餌にしてここに魔物を誘き出し、見通しの利くこの場所での戦闘が可能だということだ。
レベル2の俺が森に入って戦闘を行うのはまだ早い。少なくとも基本ステータスの値が40、つまり、最弱とされるレッサー・ラットと同じぐらいの強さにならないと、森に入って戦うのは不安しかない。
俺は奴の死体から距離を取って森を注視する。当然、背後にはコップの中に入ったマークⅠを地面に置いて見張らせている。
しばらくすると、森の中から黒い肌のレッサー・コボルトが姿を現した。
「またかよ。後ろはどうだ?」
俺はレッサー・コボルトから視線を放さずに、マークⅠに問いかける。
〈なにもいないよ〉
「そうか」
俺は少し後退し、左手でコップを回収した。
レッサー・コボルトの右手には鉄の槍、左手には黒い肌の脚を持っていて、口の周りは血だらけだ。
「こいつら同族も食うのかよ……いかれてやがる」
だが、なるほどな。こいつらが魔物っていうのが腑に落ちたぜ。
レッサー・コボルトは嘲うような笑みを浮かべながら、俺に向かってゆっくりと歩き出し、俺との距離がある程度縮まると、鉄の槍を俺に目掛けて放つ。
前より速度が遅い。俺のレベルが上がったからか? それとも前の奴よりこいつが弱いのか?
向かってくる鉄の槍を、俺は右手に持つ鉄の槍で叩き落す。
「ポイズン!!」
俺がポイズンの魔法を唱えると、緑色の風がレッサー・コボルトの体を突き抜けた。
その途端、レッサー・コボルトが奇声を上げて苦しみ始める。
「おお!! なかなか効いているような感じだな。マークⅠ、お前もアースの魔法を撃ってみろよ」
〈うん、わかった。アース〉
マークⅠがアースの魔法を唱えると、無数の岩や石がレッサー・コボルトに襲いかかり、レッサー・コボルトはズタボロになって地面に突っ伏した。
〈やったぁ!! たおれた!!〉
「へぇ、すげぇ威力だな。よくやったぞ」
やっぱり、遠距離攻撃手段があるとかなり有利だよな。マークⅠはマスコットだと思っていたが、意外と戦力になりそうだ。
俺は慎重にレッサー・コボルトとの距離を詰めて、鉄の槍で奴の首を胴から切り離した。そして、奴の死体を最初に倒したレッサー・コボルトの傍に転がした。
これでまた魔物がやってくるだろう。
俺はレッサー・コボルトが投げた鉄の槍を回収し、再び森を見張る。
結果、さらに四匹のレッサー・コボルトを倒した俺は、満足して小屋に帰還した。
俺は六本まで増えた鉄の槍を壁に立てかけると、すぐに水晶玉でステータスを確認する。
名前: ロスト
職業: 【カスタードプリン】レベル: 3
HP: 150
MP: 60
SP: 150
攻撃力: 40
守備力: 40
素早さ: 40
魔法: ポイズン
特殊能力: 生命付与, 生命付与者解析, 生命付与者意識移動
「おぉ、基本ステータスが40まで上がってるぞ」
これでいよいよ森に入れる段階に達したな。
俺はマークⅠのステータスも視てみる。
名前: マークⅠ 水
全長: 約10cm
職業: 【無し】レベル: 3
HP: 200
MP: 200
SP: 100
攻撃力: 1
守備力: 10
素早さ: 1
魔法: アース, ウォーター
特殊能力: 無し
「なっ!? ウォーターの魔法が増えているぞ」
やはり、水だからウォーターの魔法を覚えたってことだろうな……このまま魔法をどんどん覚えてくれれば、強力な戦力になり得るな。
マークⅠはコップから這い出て、樽の蓋の上をうにうにと移動している。
動く練習でもしているのか? こいつに水をかけたらでかくなるのかな?
俺はコップで樽の水をすくってマークⅠに注ぐ。
〈うわっ!? なにするの!?〉
「お前に水をかけたら、でかくなるのかと思ってな」
マークⅠは水を全て吸収したが体のサイズはそのままだった。
〈おおきくなった?〉
「いや、変わってないな」
〈……そうなんだ〉
なんとなく、マークⅠは残念そうにしている。
「明日は森に入るから今日はもう寝るぞ」
〈分かった〉
俺はベッドに寝転がって眠りについたのだった。
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