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第67話 目利き

 

 「ちょ、ちょっと待って……話の腰を折って悪いんだけど、後衛の少ないあなたたちじゃ足手まといなのよ。だから気持ちだけ受け取っておくわ」


 アフネアが申し訳なさそうに頭を下げる。


 くくっ、どうやらアフネアは俺のテーブルにいる奴らだけが、俺の仲間だと思っているみたいだな。


 ラードは険しい表情を浮かべて反論しそうになったが、キャニルに手をつねられて冷静になったラードがアフネアに尋ねる。


 「……後衛が少なかったらここでは戦えないのか?」


 「あなたたちはここで戦うのが初めてだから知らないと思うけど、ここにはゴースト種が出るのよ。ゴースト種は体が幽体だから物理無効なのよね。だから魔法か特殊能力でしか倒せないから後衛職が育ってないとここで戦い続けるのは難しいのよ」


 「……なるほどな。だからギルド職員は塩対応だったわけか」


 「でしょうね。特に今は魔物の数が多いから弱いと判断された冒険者たちは、街の周辺でしか戦うなと言われるはずよ。無駄な犠牲を出さないためにね」


 「話は分かったぜ。だが、俺たちはあんたが想定してるより遥かに強い。あんたはここにいる奴らだけが俺たちの仲間だと思っているようだが、俺たちの人数は20を超えているからな」


 「えっ!?」


 アフネアは驚きの声を上げる。


 「あっちとあっちとあっちが私たちの仲間なのよ」


 仲間たちのテーブルを指差したネヤがしたり顔でアフネアに説明する。


 「20人を超えてるってすごいわね。最大規模だと言われているルガー隊と同じぐらいじゃない」


 「そのルガーも一時はうちの下につきたいって言ってきたのよね」


 ネヤがここぞとばかりに畳みかける。


 「なっ!?」


 アフネアは虚脱したような呆けた表情を晒している。


 くくっ、ネヤは弱いと思われたことがよっぽどむかついたんだろうな。


 「……ほ、本当なのその話? 今のルガー隊はガーラ隊を超えて最強なのよ」


 我に返ったアフネアが訝しげな表情をネヤに向ける。


 「本当の話よ。で、なんでルガー隊が最強になったのよ?」


 「【聖騎士】ソフイが加入したからよ。さらに頭角を現し出した四人の日本人の中で、【風使い】のヒュリルがルガー隊に加入したのよ。使い系の職業は強い職業だと言われているけど、その中でも自然使いは最強と言われているのよ。だから今一番強い日本人は【風使い】のヒュリルで、ヒュリルがいるルガー隊が最強なのよ」


 「ふ~ん、そうなんだ」


 「……って、あなたたちこの情報に驚かないの?」


 アフネアは動揺を隠せないようだ。


 「なんか想定内って感じなのよね」


 「そ、想定内って……」


 絶句したアフネアは身じろぎもしない。


 「そんなことより、有名な日本人の残り三人が気にならない?」


 「だよなぁ、いったいどんな奴らなんだ?」


 「一人は【大魔物使い】のゼリルで、五人組のパーティよ。すでにハイ・スコーピオンを使役しているって噂だから相当な実力者よ」


 マジか? ハイ・スコーピオンとは俺も戦ったが、あんなのをペットにできるってやばすぎだろ。


 「もう一人は【聖魔導士】のネールね。【聖魔導士】は最上級職の中でもすごくレアで、その存在はあまり知られていないらしいわ。噂では最上級職の【聖職者】を攻撃寄りにしたような職業だと言われてて、彼女の隊も五人組よ。最後の一人は名前がクラウザーで職業は分からないけど強いのよ。彼は一人で魔物と戦って倒し、その魔物を食べるのよ」


 「俺が思うにその三人の中では、一人で戦ってるクラウザーが一番強いような気がするぜ。それに魔物を食う職業って何なんだろうな」


 確かに魔物を食う職業は気になるな。水晶玉の職業一覧にもそんな職業は載っていなかったからな。


 「私は【聖魔導士】とレシアの職業がどっちがレアなのか気になるわ」


 「どっちも水晶玉に載ってない職業だから同じぐらいだと思うわよ」


 ネヤの言葉に、難しげな表情をしたキャニルが答える。


 「ちょ、ちょっと待って。あなたたちの仲間にもしかしてだけど最上級職がいるの?」


 「いるわよ。あっちのテーブルにウルフの毛皮を着込んだ子がいるでしょ? その子が最上級職の【聖女】なのよ」


 「――っ!? そんな風に全く見えない。後衛職なのになんでウルフの毛皮を着てるのよ」


 レシアを見つめるアフネアはただならぬ表情を浮かべている。


 「お待たせしましたの」


 そこにマークⅢが白装束を纏った女を伴なって戻ってきた。


 「馬鹿なっ!? なんであいつらに【目利き】がついてんだよ!?」


 「あの日本人たちが相当な手練れってことだろうな」


 「そ、そんな……う、嘘よ……」


 ん? なんか現地人が騒いでいるが、白装束を着ている女が【目利き】ってことなのか?


 俺が視線をアフネアたちに向けると、彼女らは白装束の女を目の当たりにして目を剥いて驚いている。


 「こちらの方はギルド職員なのですが、私たちの狩りに同行してもらおうと思いますの。理由は主に幽体系の魔物を倒したときに体が消滅するので討伐部位である頭を回収できないからですわ」


 「言われてみるとその通りだな。さすがマークⅢだぜ」


 ラードがマークⅢを絶賛し、キャニルたちも納得して頷いている。


 その後、マークⅢの説明が続き、要約するとこうだ。


 彼女らのような魔物をカウントする存在を【目利き】といい、かなりの戦果を上げるような冒険者にしか【目利き】がつくことはないらしい。


 そして【目利き】のような存在が必要になった理由は、冒険者たちがリスクの高い幽体系の魔物を倒しても金にならないから避けたことで、幽体系の魔物が増えたからだ。そこで魔物をカウントする【目利き】の仕組みが発案され、【目利き】が幽体系の魔物を倒したことを確認すると、通常の三倍の討伐金がもらえるということだ。


 これにより、【目利き】がいる隊は、率先して幽体系の魔物を倒して回ったほうが稼げることになり、結果、幽体系の魔物が減ることに繫がるらしい。


 「あ、あなたたちって【目利き】がつくぐらい強い隊だったのね」


 「だから言っただろ。俺たちはあんたが想定してるより遥かに強いってな」


 「そ、そのようね」


 アフネアは自嘲気味に肩をすくめた。


 「で、作戦はどうするんだロスト?」


 「今回は不測の事態に備えるために、隊を分けずにまとまって動くつもりだ」


 「そうだな、【目利き】も一人しかいないからその方が稼げるかもな」


 「……えっ? ロストって参謀なの?」


 アフネアは面食らったような顔をした。


 「はぁ? 何言ってんだ……ロストから聞いてないのか? 俺たちはロスト隊だ」


 「えっ!? ロストはプリン屋さんだと思ってた……」


 「ぷっ!! ロストがプリン屋さんって……ぷぷっ、もしそうだったとしたら可愛い過ぎるだろう」


 堪えきれずに吹きだしたマミが、肩を震わせて笑いを堪えている。


 「だ、だってこの隊は女性が多いから、ロストのプリンで繋ぎとめてると思ったのよ」


 「そんな訳ないだろ。だが、確かにロストのプリンは美味しいと私も思う」


 「じゃあ、なんでロストがリーダーなのよ?」


 「ロストの強さが日本人の中で屈指だからだ」 


 マミが当たり前のように言い放つ。


 「――っ!? く、屈指ってロストも最上級職なの?」


 「くくっ、俺はプリン屋だ」


 「もうっ!! はぐらかさないでよ!!」 


 アフネアは膨れっ面を晒している。


 「仲間じゃない奴に俺の職業を教えるつもりはない。マークⅢ、アフネアにプリン二つを渡してくれ」


 「分かりましたわ……あっ、間違えましたの。これはハイ・ジャイアントスパイダーの首でしたわ。これじゃなくてこっちですの」


 マークⅢは時空の裂け目からくぐり出てきたハイ・ジャイアントスパイダーの首をちらりと見せたが、しれっと首を元に戻し、プリンがのった皿を二つ取り出してアフネアに手渡した。


 こいつ、俺が強いことをアフネアに分からせるためにわざとやっただろ。


 巨大すぎるハイ・ジャイアントスパイダーの首を目の当たりにしたアフネアと【目利き】は、驚きすぎて茫然としている。


 そんな中、大胆にもマークⅠがしのびあしでテーブルの上を移動し、二枚の金貨を回収してダークのモフモフの中にしまい込む。


 一仕事終えたマークⅠは溜息を漏らして安堵している。


 こいつ、バレていないと本気で思っているのか? 本当に戦闘以外はポンコツだな。まぁ、金貨二枚なんてどうでもいいが、こいつの手癖が悪くなると俺が困るから後で説教だ。


 「じゃあ、俺たちは狩りにいくぜ。あんたの計画を手助けしたいから俺たちがあんたの協力者だって宣伝しといてくれよな」


 そうラードが締めくくって、俺たちは換金場を後にしたのだった。

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