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第66話 二つ食うのかよ ☆アフネア

 

 転職の神殿を後にした俺たちは、早速、武具屋に足を運んだ。


 俺が懸念していることは、【呪術師】に就いたパエルの攻撃力と素早さが40まで下がっていることだった。


 彼女は「このままでも問題はないです」と遠慮していたが、今後、レベルが上がったとしても後衛職はステータスの値がほとんど上昇しないので、さすがに鋼の装備のままではしんどいことは明白だ。


 なので、彼女と話し合った結果、鎧と盾とブーツは隊の予備にすることになった。服と靴は魔物の革を使用したものを購入したが、武器である剣だけはそのまま使用することで話は落ち着いた。


 まぁ、魔導具の杖じゃなければ杖は何の効果もないからな。強いて言えば、精神を落ち着かせるための道具だと言えないこともないが、前衛職でも魔法は普通に使うのでほとんど意味はない。


 要するに、殴るぐらいしか役に立たないので、【戦士】だったパエルなら剣でも問題ないはずだ。


 その後、俺たちは冒険者ギルドに立ち寄り、街から東や南の情報収集をしてから外に出ると、日が暮れていたので宿で休むことにした。


 殺人鬼はまだ捕まっていないので全員で大部屋に泊まり、扉の前を俺とラードが交代で見張ることにした。殺人鬼は姿を消した上で扉の鍵を開けて侵入し、犯行に及んでいるみたいだが、結局のところ、扉を開けないと部屋の中には入れないと考えたからだ。


 俺たちは朝まで扉を交代で見張っていたが、扉が開くことはなかった。


 「結局、殺人鬼は来なかったな……」 


 ラードが不満げに呟く。


 「これって扉に鈴みたいなものをつけておくだけでいいんじゃないの?」


 「それだと初動が遅れるし、こっちが先制できない」


 ネヤの提案をミコが一蹴する。


 くく、さすがミコ。俺もその通りだと思う。殺人鬼が鈴が鳴った時点で退散してくれればいいが、戦闘になった場合は初動が遅れる上に寝ぼけている危険性も孕んでいるからな。  


 俺たちは朝食を済ませてから出撃準備を整えて、街から東に出現するアンデッドと戦うために、東門から近い冒険者ギルドの換金所に向かう。


 こっちの冒険者ギルドのほうが、よりリアルな情報が聞けると思ったからだ。


 換金所に到着した俺たちが中に入ると、まだ早い時間帯なのにもかかわらず、冒険者たちでごった返していた。


 すぐにラード、キャニル、ネヤが受付に向かうが、少し遅れてマークⅢがラードたちとは別の受付に歩いて行った。


 冒険者ギルドの換金所では、魔物の首の換金や魔物の素材の買取、魔物の解体の依頼、仕事の依頼を受けたりできる他に、ポーションなどの回復薬も販売されている。


 中央の冒険者ギルドとの相違点は飲食店が併設されていないことなのだが、テーブル席などは設置されているので手持ちの食料を飲食することは問題なくできる。


 俺が空いているテーブル席に座ると、仲間たちもそれに続く。テーブル席は八人掛けだが俺たちだけで四つのテーブルが埋まり、俺の横にはワンちゃんとマークⅡが座り、対面の席にはマロンとマミが腰掛けている。


 彼女らが俺のテーブルに座っているのは、冒険者ギルドでは俺のテーブルが作戦会議の場になるからだ。


 俺たちがラードたちが戻るのを待っていると、マークⅠを背に乗せるダークが俺の肩から飛び降りて、テーブルの上を歩き回って鳴きだした。


 「キュキュ!! キュキュ!! キュキュッ!!」


 〈ダークがごはんはまだかってきいてるよ〉


 どうやらダークはテーブルに座ると飯が食べられると思っているようだ。


 「ここで飯は注文できないから我慢しろ」


 「キューン……」


 マークⅠが飯を食べれないことをダークに伝えたのか、ダークはしょんぼりしている。


 こいつらの伝達方法はいったい何なのか全く分からんな。


 だが、しょんぼりしていたダークが、一転して俺の右手にしがみついて瞳を輝かせて強請りだす。


 「キューン……キューン……キューン……」


 ぐっ、こいつ俺がプリンを出せることを思い出しやがったな……だが、食べ物を与えないで他所のテーブルの荷物を漁られても困る。


 俺は左腕につけている小型の盾で右手を隠しながら、テーブルの上に大きめのプリンを出現させた。


 ダークが嬉しそうにプリンを食べ始めるのと同時に、ラードたちが戻ってきてテーブル席に座る。


 やけに早くないか? ラードたちは人族語学習セットで対話しているから普段でも時間が掛かるはずだ。


 「俺たちが突っ込んだ話をしようとしても、職員は相手にしてくれないから埒が明かないぜ」


 「日本人は街から浅いエリアでしか戦うなって一点張りなのよ」


 キャニルが不満げに漏らす。


 ここで戦うなということではなく、浅いエリアでは戦っていいのか。ということは、浅いエリアの先に何かがあるんだろうな。


 「マークⅢも情報収集に出ているから戻ってくるまで待ったほうが良さそうだな」


 「いつもついてくるのにいないからどうしたんだと思ってたんだ。さすがマークⅢだぜ」


 くくっ、マークⅢはハイ・ジャイアントスパイダーと戦いたいと言い出したりして、自分の意思で動くようになってきているからな。


 話が一段落したので、俺は何か役にたちそうな情報はないかと現地人の会話に耳を傾ける。


 「見ない顔だな。あいつら日本人だよな?」


 「弱いのにこっちに来て何をするつもりなんだ?」


 「まぁ、そう馬鹿にすることもないだろう。ここに来れている時点で少なくとも何人かは上級職以上なことは確実なんだからな」


 「だが、ここで戦うには後衛が育ってないと無理だ」


 「それはこっちで戦う奴らの誰もが受ける洗礼みたいなもんだから仕方ないだろ」


 「まぁ、見ものじゃない」


 「見もの? どうせすぐ逃げ出すだけだろ」


 どうやら俺たち日本人はあまり歓迎されてないようだ。だが、彼らの言う洗礼って言葉が気になるな。


 「ロストじゃない!!」


 いきなり名前を呼ばれた俺は声の方向に顔を向けると、そこにいたのは五人組の冒険者だった。

 

 「アフネアか、久しぶりだな」


 彼女は艶やかな長い黒髪を背中に流し、整った顔立ちをしている。身に着けた革の装備の上から薄い青色のローブを纏い、手には杖が握られている。たぶん、ヒーラーだろうな。


 アフネアの隣にいる男は酒場にいた日本人だが、他の三人は知らない顔だな。装備が杖にローブといった感じなので後衛職だと思うが。


 「ずっとあなたを捜してたけど、いないからどこに行ったのかと心配してたのよ」


 「プリンが食えなくなるからだろ?」


 「うぅ……そ、それもあるけど、それだけじゃないわよ。同じ日本人なんだから」


 「くくっ、冗談だ。俺がエルザフィールにいなかったのは、俺たちが泊っていた宿が殺人鬼に襲われた宿だったからだ。うちは女性が多いから、さすがにエルザフィールに滞在し続けるのは無理があったからな」


 「……なるほどね」


 アフネアは少し表情を曇らせていたが、腰の鞄から何かを取り出してテーブルの上に置く。


 テーブルに置かれた物は金貨二枚だった。


 二つ食うのかよ。


 「マークⅢが戻るまで待ってくれ」


 さすがに彼女の前で俺がプリンを出すと職業がばれるからな。


 「……マークⅢ? あぁ、亜空間からプリンを取り出せる人のことね」


 思い出したようにアフネアが返し、俺は肯定して頷いた。


 「俺たちはここで戦うのは初めてなんだが、あんたらはここでよく戦ってるのか?」


 「そうよ。私たちの目的のためにはここで現地人に協力するのが一番の近道だから」


 「協力って何をやっているんだ?」


 「今エルザフィールの街は魔物の襲撃を受けていて危機的状況なのよ。特にここと南がやばい状況で、だから私たちはここの現地人たちのパーティに加わって魔物を倒しているのよね」


 へぇ、ちゃんと動いているんだな。


 「何でこっちで戦ってるんだ? 南には行かないのか?」


 「こっちは採取隊が多いからよ」


 「採取隊ってガダン商会の私兵だよな? そんなに強いのか?」


 「上のほうは最上級職だけで組まれている隊もあるし、何よりも採取隊の支援者たちが化け物みたいに強いらしいのよ。噂ではその支援者たちがいたから、戦士の村やエルザフィールの街が作れたみたいだし」


 なるほどな。さすがアフネア、抜け目ないな。


 「おい、俺たちだけ置いてけぼりかよ。目的って何なんだよ?」


 ラードの問いかけに、皆の視線が俺に集中する。


 「彼女は全ての言葉を理解できる『言語』を所持しているんだ。だからそれを駆使して現地人と関わり、困難なメローズン王国までの道のりを現地人に護衛してもらう計画を立てているんだ」


 「なっ!?」


 ラードたちの顔が驚愕に染まる。


 「た、確かにその帰還方法は最も確実だよな。メローズン王国に辿り着くには最低、大連合ぐらいの人数が必要らしいからな。なぁ、そういうことなら俺たちも彼女らに協力したらいいんじゃないか?」


 ラードならそう言うと思ってたぜ。だが、俺は日本に帰還するタイミングを決めかねている。


 俺たちが弱すぎるからだ。日本に帰還するなら少なくとも最上級職の前衛が三人は欲しいからな。だからそれまでは日本に帰還するつもりはないが、彼女らに協力して彼女らだけでも日本に帰還するのはありだと思う。

アフネアのイメージ

挿絵(By みてみん)


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