第63話 ドロロンパ
俺たちが野営地の中に踏み込んで進んでいくと、四匹のオークが俺たちを待ち構えていた。
俺が言葉を発する前に、あっという間にマークⅡとマークⅢがオークたちを倒してしまう。
弱ぇ……オークは魔法や特殊能力に対抗手段がないから、オークメイジがいないと話にならないな。
だが、俺に油断や慢心はない。
俺たちは警戒しながらテントを横切って進んでいくと、一際大きい天幕が見えてくる。
「たぶんボスはアヴェンジャーか、オークかコボルトの上位種だろう。後者だった場合、マークⅢはステータスを確認してくれよ」
まだオークとコボルトの上位種には遭遇していないから情報が欲しい。マークⅢとマークⅡは先に言っておかないと勝手に攻撃するようになったからな。けど今の段階でそれをとやかく言うつもりはない。どんな形であれ、こいつらの成長を止めたくはないからな。
「分かりましたの」
〈でもテントのなかにはだれもいないよ?〉
マークⅠが訝しげな声を上げる。
「……はぁ!? マジかよ!? 何でテントにボスがいないんだよ?」
何でだ? マークⅠは『気配探知』を持っているから間違いはないはずだ。
「わふ? テントのなかにはだれもいないわん」
ワンちゃんが辺りの匂いを嗅ぐ仕草を見せる。
そういえばワンちゃんは『くんくん』を持っているから、匂いで探知できるんだよな。
「もしかすると先ほどのオーク四匹がボスだったのかもしれませんの」
「――なっ!?」
俺は鉄の棒で頭を殴られたような衝撃を受けた。
あり得るのか? いや、可能性の一つではある。だとすると、どういうことなんだ? 1000匹近い数の黒亜人たちがいたんだからそれを統率するボスは必要不可欠なんじゃないのか?
〈なかにピカピカがいっぱいあるよ!!〉
その嬉しそうな思念の声で俺は我に返る。
すでにマークⅠが一際大きい天幕の中に入っているようで、俺たちもその天幕の中に入ってみると、中央には金や銀、宝石や武具などが山のように積み上げられていた。
「すげぇ量だな……」
「おそらく、ここは黒亜人たちの中継地点だと思いますの。黒亜人たちは様々な場所に展開していますから、拠点以外にもこういう一時的にアイテムを保管できる場所が必要なんだと思いますわ」
なるほどな。黒亜人たちのそれぞれの部隊が人族や獣人、亜人から奪った物をここに置いていくからボスはいないのか。
だが、それはただの推測でしかなく、たまたまボスが不在なだけかもしれない。
そもそも、俺たちは黒亜人たちの生態を知らなすぎるんだよな。
俺は黒亜人たちが洞窟みたいなところに住んでいて、そこが拠点だと思っていた。だが、マークⅢが言うようにここが中継地点なのだとすると、中継地点でこの規模なんだから、拠点はもっと大規模なことは想像に難くない。
「今の戦力ではこの先にある森に進むと危険かもしれないから引き返すぞ」
「分かりましたわ。ですが、この財宝は私たちのものにしたいですの」
「はぁ? 何でだよ?」
「マスターの仲間たちと一緒に戦うと私たちの稼ぎがないからですの」
俺がリーダーだから当たり前だと思っていたが、確かにその通りだ。俺たちだけが分配から外れている……指摘されて初めて気づいたぜ。
「今回の戦いでは黒亜人たちだけでもかなりの数を倒していますので、それだけでも十分すぎる稼ぎになると思いますの」
「そうだな……じゃあ、そうするか」
俺たちも資金は必要だからな。【無銘の刀】の転職資金やマークⅡやマークⅢにミスリルの武器を持たせたいしな。
「マークⅡとマークⅠは他のテントに財宝があるか調べてきてほしいですの」
〈分かりました〉
〈うん〉
マークⅡとマークⅠが天幕から出ていき、マークⅢは大量のお宝を空間の裂け目にせっせと収納している。
財宝を回収した俺たちは、全てのテントを焼き払ってから野営地を後にして、ラードたちの元に向かう。
俺たちがラードたちと合流すると、そこには黒亜人たちの大量の首と素材が積み上げられていた。
マークⅢがそれらを亜空間に放り込んでいく。
「で、どんなボスだったんだ?」
ラードが興味深げに俺に尋ねる。
「高レベルのオーク四匹だけだった。まぁ、拍子抜けだな」
「それは確かに意外だな。で、何でテントが燃えてるんだ?」
その言葉に、皆の視線が俺に集中する。
「聞かない方がいいと思うぞ?」
「何でだよ? 気になるだろ?」
「……おそらく、奴らの食料なんだろうが魔物だけでなく、人の死体も多数あったからだ」
「マジかよ……」
ラードが沈痛な面持ちになり、皆の顔も恐怖に彩られている。
「じゃあ、これからエルザフィールに行くぞ」
俺が歩き出すと、すぐにラードに止められる。
「お、おい、待てよ!! 皆疲れ切ってるから無理だ。しばらく休憩してから戦士の村に戻ったほうがいい」
……俺たちは昼夜問わずに戦い続けているから、普通の感覚を完全に失念していたようだ。まぁ、【聖女】のレシアがファテーグの魔法を持っているからSPは回復できるが、そこまでして今日、エルザフィールに行く必要もないか。
「じゃあ、そうするか」
その言葉に、ラードは安堵の溜息を漏らした。
休憩後、俺たちは来た道を引き返していると、突如、上空に一匹の魔物が姿を現した。
何だこいつは?
俺は足を止めて上空の魔物を凝視する。まるで黒いシーツを被ったお化けのような姿をしている魔物だ。
「あれはドロロンパですわ!! 絶対に捕まえて下さいっ!!」
いつになく慌てた様子のマークⅢが叫ぶ。
「……はぁ? 捕まえる? 何なんだよドロロンパって?」
「妖精ですわ!! 捕まえて融合すると、とても強くなりますの!!」
「融合? 融合したらどんな姿になるんだ?」
「それはドロロンパが混ざったような姿になりますの」
嫌だ……嫌すぎる……そんな変態的な姿になってまで俺は強くなりたくはない。
「何をしているんですかマスター!! マークⅡ!! 早く捕まえて下さいっ!!」
マークⅢの叱咤が飛ぶ。
「お、おう……」
マークⅡが凄まじい速さでドロロンパに突進して捕まえようとするが、ひらりと躱される。俺もドロロンパに目掛けて突撃するが、全く気が乗らないので捕まえるふりだけだ。
「なんてスピードですの……」
マークⅢもドロロンパを捕まえようとしているが、とんでもない移動速度だ。ドロロンパは基本的に宙に浮いている状態でほとんど動いていないが、捕まえようとすると高速移動して逃げる感じだ。
これは俺が奥の手を使っても捕まえるのは難しいだろうな。
それでもマークⅡとマークⅢは必死に追いかけていたが、捕まえられずにドロロンパはいなくなった。
「……とても残念ですの」
「あいつを捕まえたらそんなに強くなるのか?」
「ドロロンパをアナリシスの魔法で視ると、ドロロンパを捕まえて融合することにより、絶大な力を得られるらしいですの。精霊王はドロロンパのような妖精を四匹しか創っていませんの。つまり、これは精霊王による【妖精探し】のクエストなのですわ」
精霊王? そんなのもいるのか。絶大な力というのが気になるが、変態的な姿になる時点でどうでもいい。
「まぁ、四匹いるんだからまた会える可能性はあるだろ」
「必ず捕まえますわ」
こうして、俺たちは戦士の村に帰還したのだった。
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明日もたぶん10時に投稿する予定です。
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