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第58話 無言の圧力

 

 宿に戻った俺たちが俺の部屋に入ると、そこにはラードとキャニル、レシアとネコちゃんの姿があった。


 「わぁ!! ワンちゃんの装備を新調したんですね!! すごく可愛いです」


 レシアは嬉しそうに微笑んでいる。


 「まぁな」


 だが、誰もワンちゃんが強くなったのか聞いてこない。まぁ、強くなれないと思っているからあえて聞かないんだろう。こいつらは優しいからな。


 俺が背中から槍と長剣を外して壁に立て掛けると、ドアが開いてルルルが部屋に入ってくる。


 このタイミング……こいつ、部屋を監視しているのは確実だな。

 

 ルルルは迷いなくダークに近づき、ダークを抱き寄せて干し肉を与えている。


 「俺は明日、マロンたちと狩りに出るつもりだ」


 「そうなのか。だったら俺たちも行く」


 「ならマロンたちは俺がみたほうがいいな。で、狩場はどこがいい?」


 「東の砦でいいんじゃないか? エルザフィールの街に行ったとしても、俺たちが戦える狩場は西側だけだしな。それにエルザフィールの街は殺人鬼が捕まってないから、女たちが怖がって泊まれないだろう」


 「じゃあ、そうするか」


 結局、ネックになっているのがデインたちやマロンたちだ。俺たちだけならエルザフィールの街の東側や南側での狩りは可能だからな。


 「で、デインたちはどんな感じなんだ?」


 「積極的に下位種の魔物と戦わせてはいる」


 「そうか。なぁ、転職できる予兆みたいなものはあったりするのか?」


 俺は一度も転職していないからその辺のことは分からないからな。


 「俺は全く何もなかったな」


 「私もなかったわ」


 「私もです」


 てことは、本人にすら手応えみたいなのがないってことか。


 だとすると、むやみに人数を増やすと誰も転職できなくて、下級職ばかりになる可能性もあるか。


 「デインたちやマロンの仲間たちが上級職に転職できない未来も想定する必要があるな。つまり、フォースパーティ、ファイブパーティは上級職が多いパーティをスカウトしたほうが良さそうだ。メローズン王国に辿り着くには大連合規模の人数が必要らしいからな」


 「分かった。良さそうな奴らがいたら声をかけておくぜ」


 「頼む」


 俺が装備を外していると、デインたちが帰ってきた。


 「どこに行ってたんだよ?」


 ラードがにこやかにデインたちに声をかける。


 「日本人の野営地にメンバーを探しにだ。俺たちは六人しかいないからな」


 「で、いたのか?」


 「いや、いなかった……だが、悪いが俺は隊を脱退させてもらう」


 「はぁ!? 突然何でだよ!?」


 「……あんたらの無言の圧力に疲れたんだよ。俺は上級職になれないかもしれないからな」


 「無言の圧力だと?」


 ラードは訝しげな表情を浮かべている。


 「あんたが仮に上級職になれていなかったら、あんたはリーダーで居続けられたか?」


 「そ、それは分からない……だが、レベルを上げてそれでも上級職になれなかったら、そのときは仕方がないことだろ」


 「仕方がないか……それは上級職になれた奴の理屈だ。俺はお荷物になるのはご免なんだ」


 「じゃあ、仮にお前が上級職になれたとして、新たな下級職の仲間を迎えたときに、そいつがお前と同じことを言ったらお前はどうするんだ?」


 「勿論、受け入れる」


 「……そうか、だったら俺はもう何も言わん。お前の好きにすればいい。だが、いつでも戻って来ていいからな」


 「これまで世話になった」


 デインが一礼して部屋から出ていった。慌てた様子のソックとミドーも申し訳なそうに頭を下げて、その後を追いかける。


 「確かにあったかもしれないな……」


 ラードがぼそりと言った。


 「無言の圧力ってやつのこと?」


 キャニルが聞き返す。


 「ああ、言われて一瞬ギクリとした。俺は確かにあいつらが上級職になれると期待していたからな」


 「そりゃ、仲間なんだから期待するでしょ。でも、転職は資質が全てなんだから、結果がどうなったとしても仲間であることに変わりはないわよ」


 キャニルが沈痛な面持ちのラードの手を握って慰める。


 「ロスト、お前はなぜ何も言わなかったんだ?」


 「お前に任せているし、俺が口を挟んでもあいつの決心は変わらないと思ったからだ」


 「そうか……今となってはデインたちに気を使い過ぎて、転職できる予兆みたいなものはないと説明していなかったことが悔やまれる」


 なるほどな。確かに転職関係の情報を説明すると、プレッシャーになるかもしれないからな。特に転職できるという感覚自体が全くないという情報は有用だろうしな。


 場に重い空気が辺りを包んでいたが、ドアがノックされてミルアたちが部屋の中に入ってくる。


 「ソックとミドーはデインを一人にさせられないと言ってデインと一緒に隊を抜けました。でも私たちは残りたいです」


 「了解した。だが、隊は三人でやっていくのか?」


 ミルアの言葉に、ラードが複雑そうな表情で尋ねる。


 「できれば、ロストさんの隊に入りたいです」


 「分かった。俺たちは10人いるが、ネコちゃんとワンちゃんは解体要員だから実質8人だ。ミルアたちが入れば11人になるから丁度いい感じになる。それでいいよなロスト?」


 「ああ」


 だが、ワンちゃんは解体要員ではなく、戦闘要員だ。しかし、今言うことでもないか。


 「ありがとうございます。元々、私たちはお金に困ってロストさんに助けてもらったんです。そのときにデインたちもいてデインがロストさんの隊に入れてくれって言ったのに、こんなことになって申し訳ありません」


 「いや、そのことはミルアたちが気にする必要はない」


 ラードが当たり前のように言った。


 「はい」


 「明日、朝から狩りに行くから準備しといてくれ」


 「分かりました」


 「じゃあ、私たちも部屋に戻ってネヤたちに説明するわ」


 ラードが頷き、女たちが部屋から出ようとするが、ワンちゃんが俺の傍で座ったままだ。


 レシアはワンちゃんがついてこないので怪訝に思ったのか、ワンちゃんの両手を持って声をかける。


 「ワンちゃん、部屋に戻りますよ」


 それでもワンちゃんは動かない。


 レシアは不可解そうな表情でワンちゃんを見つめている。


 「ここにいるわん」


 はぁ? なんでレシアについていかないんだよ?


 だが、レシアにはワンちゃんが何て言っているのか分からない。というか、俺とマークⅢ以外は、ワンちゃんの言葉が分からないからな。


 「ワンちゃんは自力で『忠犬』に目覚めたので、マスターを主人と思っているようですの。『忠犬』は主人の近くにいると守備力が二倍になりますわ」


 「えっ!?」


 その場にいる誰もが驚愕してワンちゃんを見つめている。


 こうして、ワンちゃんが俺の部屋に居つくようになったのだった。

ここまで読んでくださりありがとうございます。

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明日もたぶん10時に投稿する予定です。


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