第57話 弱点
「それでお前らはどんな感じなんだ?」
俺に何か言いたげなマミに対し、俺はしれっと言い放った。
「……どうしても【無銘の刀】のことを言うつもりはないようだな」
マミは呆れたような表情を浮かべているが、俺は何も答えない。
「まぁ、それならそれで仕方ない。それで私たちの状況だが狩場が南の砦しかないのが問題だな」
魔物の数も出現頻度も少ない南の砦では、10人編成のマロン隊だと戦闘効率が悪すぎる。かといって、東の砦では上級職がマロンとマミだけだから火力が足らないか。
「じゃあ、明日一緒に狩りに行くか?」
「いいのか!?」
「ああ。明日の朝、東の門の前に集合でどうだ?」
ラードたちがどう動くかまだ分からんが、最悪、俺たちだけでも何の問題もないからな。
「分かった。ところでロストは今から用事はあるのか?」
「……何かあるのか?」
まぁ、狩りに行こうと考えていたが、外せない訳ではないからな。
「私たちは今日は休みなんだ。だから私の買い物につき合ってほしい」
にんまりと笑うマミが俺の腕に腕を絡ませる。
俺たちはマミに連れられて市場に移動した。
マミは市場の入り口付近に多数並んでいるボロい台車を一台選んで、俺と腕を組みながら左手一本で台車を操作して歩き出す。
どうやら台車は勝手に使ってもいいルールのようだ。
通りには食料品を扱う店や雑貨屋が並んでいて、多数の人が行き交って活気に満ちている。
「そういえば、市場には来たことはなかったな」
「そうなのか? 私たちは大人数で全員が戦闘職だから皆よく食べるんだ。だから少しでも食費を浮かすためによく来るんだ」
マミは野菜や果物を樽ごと購入して台車に積んでいく。彼女が購入している食料品は安い値段のものばかりだ。
「お前、人族語の文字が読めるのか?」
「数字は完璧だが、言葉はまだまだだな」
「へぇ、それはすごいな。俺はマークⅢに任せきりだからな」
「ロストのところはマークⅢが会計役なのか?」
「俺のところというより、マークⅢは俺の会計や通訳だな。隊としてはキャニルが会計役だ」
「……ていうか、俺のという意味が分からん」
「まぁ、マークⅢたちは俺の『生命付与』で創り出したペットだからな」
「はぁ!?」
素っ頓狂な声を上げたマミがマークⅢをじーっと見つめている。
「マミが驚くのも無理はない。俺の職業や特殊能力の話の件を話すと皆そうなるからな」
「ということは、四人パーティに見えるが実際はロストと女獣人の二人ということか……それで、マークⅢ、マークⅡは鎧だがマークⅠは別のところにいるのか?」
「ダークの背に乗っているのがマークⅠだ」
「ダークとはモフモフのことか……なるほど、人形か……『生命付与』は何にでも命を吹きこめるようだな」
マミはダークの背に乗るマークⅠを指で触ろうとしたが、マークⅠは跳躍して俺の肩にのった。
前から思っていたが、マークⅠは俺以外に懐かないようだ。
マミは台車一杯に食料を買い込むと、今度は武具屋に行きたいと言ってきた。
了承した俺がマークⅢに台車の食材を収納するように指示を出す。マークⅢは次元の亀裂の中に次々と食材を入れていく。
俺たちはマミに案内されながら歩いていると、市場から近い武具屋に到着する。
なるほどな……考えてみると購入する商品はだいたい決まっているから、いつも行く一番でかい武具屋でなくてもいいわけか。
俺たちが店の中に入ると、マミは他の商品には目もくれず、武器が飾られている区画に歩いて行って、次々に剣を物色している。
彼女はガダン商会の鋼の剣ばかりを品定めしているようだ。しかし、なぜ中古品ばかり見てるんだ?
「なぜ新品を買わないんだ?」
「私たちにはヒーラーがいないから、生命線であるポーションやキュアポーションを買い込む必要があるし、戦えば戦うほど金がかかるんだ。それにまだ二人分の転職費用しか貯まっていないしな」
そういえば、別行動だからこいつらのことは全く気にしてなかったな。
「とりあえず、お前用にガダン商会の鋼の装備一式と、マロンにはガダン商会の鋼で剣でいいか? それとお前らの仲間たちの装備はどうする?」
「はぁ? ……いや、そこまで面倒をみてもらうわけには……」
「デインたちも俺たちが面倒をみているから、お前らの面倒も俺たちがみてもおかしな話ではないだろう」
「……」
マミは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべている。
強情な奴だ。さて、どう納得させるか。
「マミ、これを見ろ」
俺は背中の槍をマミに手渡す。
「こ、これはミスリル!?」
マミの顔が驚愕に染まる。
「値段は8000万円だ」
「――っ!? 本隊はそんなに稼いでいるのか……」
「そういうことだ。だからお前たちの装備の面倒など取るに足らないものだ」
そんな訳ないが、ここは隊のリーダーとして格好をつけさせてもらう。
「……分かった。ありがたく使わせてもらう」
マミから彼女の仲間たちの装備の情報を聞いた俺は、全てガダン商会の鋼製品で装備を揃えた。
マミとマロン以外は下級職なので、ガダン商会の鉄製品でも十分なんだが、攻撃力や防御力が高い方が回復薬などを節約できると考えて、俺は鋼製品にした。
武具屋を後にした俺たちは日本人たちの野営地に戻り、マミたちのテントが張られている場所に向かう。
マミたちのテントに到着したが、テントには誰の姿もなかった。マークⅢは空間に手を入れて、次々に食材や武具をテント内に下す。
「誰もいないから中に入ってくれ」
俺はマミに腕を引っ張られて強引にテントの中に引き込まれる。テント内は毛布が敷きっぱなしで装備や服が散乱していて、極めつけは下着を吊るして干してあり、俺はマミの隣に座らされる。
さすがに女性だけで泊っているテントの中に入るのは、目のやり場に困るし気まずいな。
「……私はロストが好きだ」
「お前は本当に直球だよな」
「君は押しに弱いと思っているからな。戦士としては相手の弱点を突くのは当たり前だろう」
マミは俺の目を正面から見つめる。
言われて初めて気づいたが当たっているかもしれん。自分のことなのに分からないものだな。
「なるほどな。だが、俺は覚悟を決めて異世界に来た以上、日本を取り戻すまで誰ともつき合うつもりはない」
「それはおかしくないか? 日本に残っている者たちが恋愛できて、命を懸けてこっちに来た君がなぜ恋愛できないんだ?」
「俺がそう思っているだけで、お前はお前の好きなようにしたらいいんじゃないか?」
「では、好きにさせてもらう」
マミは俺の顔に爆乳を押し付けて俺を抱きしめた。
あまりの出来事に動揺した俺は金縛りにあったように体が硬直する。
「君は私の胸を見てあからさまに目を逸らしていた。つまり、君の最大の弱点だ。ここで一気に落とさせてもらう」
やべぇ、頭が痺れてきた……このままではまずい。
だが、俺は何者かに頭を掴まれて、強引にマミから引き剝がされる。視界が回復した俺が我に返ると、そこにはワンちゃんが立っていた。
「はなれるわん!!」
ワンちゃんはプンスカ怒っている。
はぁ? レシアがいないのに何でワンちゃんが怒っているんだ? だが、助かった。あのままでは俺は傀儡に落ちるところだったからな。
理解が追いつかないのかマミは辺りを見回している。
「……私はあの獣人に引き剥がされたのか?」
「ああ。それ以外にないだろう」
「馬鹿なっ!? この獣人にそんな力はないはずだ!!」
「俺たちが鍛えて強くなったんだ。今のワンちゃんは上級職だからな」
「なっ!?」
マミは信じられないといったような表情を浮かべている。
まぁ、ワンちゃんを食べ物で餌付けしてあしらっていたのに、いきなり、同格だと言われても認められないのは無理もないことだ。
そこにタイミング良くマロンたちが帰還する。彼女らは俺がいることに驚いていたが、テント内に置かれた新品の装備品を目にして大はしゃぎだ。
俺たちはその隙にテントから離脱して宿へと帰還したのだった。
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作者の執筆速度が 1.5倍…いや2倍くらい になります。(※個人差があります)
明日もたぶん10時に投稿する予定です。
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