第54話 無銘の刀③
エルザフィールの街を後にした俺たちが、戦士の村を目指して進んでいると、前方に20匹ほどのアント種の群れが見え始める。
「ワンちゃんたちに通常種を一匹ずつ倒させるから、他は倒してくれ」
〈うん〉
〈分かりました〉
「分かりましたの」
マークⅠたちは一斉にアント種の群れに突撃し、その後をワンちゃんとシズナたちが追いかける。
アント種は数いる魔物たちの中でも弱い部類で、所謂、雑魚だからワンちゃんたちの初戦には丁度いい相手だ。
マークⅠたちの一斉攻撃により、瞬く間にアント種の群れは倒されて、ワンちゃんたちがアントたちと対峙する。
彼女らはアントたちと戦い始めたが動きが鈍い。
三人とものにステータスの値が上昇したことにより、自身の体の動きに戸惑っているといった感じだな。おそらく、素早さが上がったことで相手の動きも遅く感じていることだろう。
まぁ、急激にステータスの値が上がった時のあるあるでもある。
シズナとソローミがいろんな動きを試している中、ワンちゃんがアントに突進して蹴りを叩き込み、アントは派手に吹っ飛んで視界から消えた。
おおっ!! いきなり『肉球キック』が炸裂したぜ。1300を超える攻撃力の一撃だ。いや、蹴りだから威力はもっと上なのかもしれないな。
俺は戻ってきたワンちゃんの頭を優しく撫でる。
たった数日しか鍛えていないが、俺たちの中で最弱だったワンちゃんが、これほど強くなるとはなかなか感慨深いものがある。
「よくやったぞワンちゃん」
「わふぅ!!」
ワンちゃんは嬉しそうに微笑んで尻尾を振っている。
これなら前衛としても十分に戦えるだろう。くくっ、皆の反応が楽しみだぜ。
シズナとソローミは、アントたちの攻撃を躱しながら体の動きを確認していたようだが、一転して攻勢に出る。
ワンちゃんの攻撃に触発されたのか、二人ともにアントを一撃で倒していた。
シズナはおそらく『居合斬り』を放ったんだろうな。アントの死体が上下に分かれているからな。
ソローミは『豪力』だろう。死体が砕け散っているからだ。
何にしても上々な結果だな。
俺たちは魔物を倒しながら進み、暗くなる前に戦士の村に到着し、『無銘の刀』の拠点に赴いた。
俺たちが食堂へと移動すると、テーブル席にはエゼロスとハゴンの姿があった。
「戻ったか。お疲れさん。二人はどうだった?」
エゼロスが興味深げに俺に尋ねる。
俺たちはエゼロスたちの対面の席に腰掛けた。
「二人とも逸材だと思う。正直、俺も驚いている」
「そ、そうなのか?」
俺の返答が意外だったのか、エゼロスとハゴンはぽかんとしている。
「ああ、いきなり上級職に転職できたからな」
「なっ!? それは本当なのか!?」
驚きすぎたのかハゴンがいきなり立ち上がる。
「まぁな。【武者】と【喧嘩師】という職業だ。特筆すべき点としては、両者ともに現時点ですでに上位種にダメージを与えられるほどの攻撃力だということだ」
「なっ!?」
ハゴンは絶句している。
「くくくっ、それはうちとしても人が集めやすくなって助かるな。だが、俺はお前の行動力のほうに驚いている。普通、いきなり、エルザフィールの街まで遠征するか?」
エゼロスは呆れ顔だ。
「まぁ、ワンちゃんに転職を試したかったからそのついでだ」
「よく言うよ。この人、500匹以上の魔物の群れを前にして、戦うことを何の躊躇いもなく決めたんだよ。正直、私は体が震えて最初は動けなかったよ」
ソローミが自嘲気味に笑う。
「はぁ!? マジかよ!?」
ハゴンが訝しげな声を上げる。
「ロスト、お前は普段、どんな戦い方をしてるんだよ」
エゼロスは呆れ果てているようだ。
「たまたまだ。で、転職の話が出たから提案するが、月一ぐらいの頻度で転職したい奴らを俺がエルザフィールの街に連れて行くってのはどうだ?」
「それは妙案だな。転職したい奴らはかなりいるはずだからな。ただ、そいつらが転職費用を持っているかが問題だが」
エゼロスは沈痛な面持ちを浮かべている。
「えっ? 転職ってお金がいるの?」
意外そうな表情のソローミが驚きの声を上げる。
「上級職で500万、最上級職で1000万円だ。つまり、お前たちの転職費用の1000万円はロストが出している。感謝するんだな」
「「ありがとうございます」」
エゼロスの言葉に、ソローミとシズナが深々と頭を下げる。
「気にするな」
二人が上級職に就いたことにより、通常種の魔物を狩れるようになる。それによって無銘の刀の資金源になることは間違いないから、俺も気が楽になる。
「まぁ、シズナとソローミが上級職になったことや、ロストが提案してくれた転職の件のどちらも無銘の刀の宣伝になるからありがたい。これからもよろしく頼む」
「言われなくてもそのつもりだ。で、ワンちゃんが眠りかけているから一階の部屋を借りるぞ」
ワンちゃんは俺の言葉しか分からないから眠くなったんだろうな。
「もちろんだ。空いている部屋なら好きに使ってくれ」
「助かる。俺たちは朝から狩りに出るつもりだが、シズナとソローミはどうする?」
「お供させていただきます」
「私も行く」
「そうか。では明日の朝ここで」
俺が立ち上がると、マークⅡが半分寝ているワンちゃんを抱きかかえて、俺たちは一階の部屋に移動する。
マークⅡがワンちゃんをベッドに寝かせると、ワンちゃんは数秒で眠りに落ちた。
「マークⅠ、俺のスタミナを回復してくれ」
〈うん〉
俺の体が何度も金色に輝き、俺のスタミナが回復する。
くくっ、このファテーグの魔法があれば寝る必要はないんじゃないか?
「俺は朝まで狩りに出るつもりだ。お前らはどうする? 休みたかったら休んでもいいぞ」
〈えっ? いまからかりにいくの!? ぜったいいくよ!!〉
さすがマークⅠは戦闘狂だな。
〈私もついて行きます〉
「私も行きますの」
身支度を整えた俺たちは、夜の狩に赴くのだった。
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