第51話 無銘の刀② ☆シズナ ソローミ
魔物の村を後にした俺たちは、俺の小屋があった場所でワンちゃんを鍛え続けて野営した。
そして、翌日の朝に俺たちは【無銘の刀】の拠点に赴く。
拠点の中に入った俺たちが食堂に足を運ぶと、テーブル席にエゼロスとハゴンの姿があった。
「ロスト!?」
エゼロスが驚きの表情を見せる。
「どんな感じだ?」
「なんとかやれてるよ」
「そうか。資金面はどうだ?」
「仲間を失くして一人になった者たちや、怪我で動けない者たち、金がない困窮者たちに対して無料で部屋を貸しているから資金は減る一方だ。一応、金策として一泊1000円で宿を運営してるが客は来ていない状況だしな」
「そうか。じゃあ、使ってくれ」
俺は予め用意していた金袋をエゼロスに手渡した。
「500万!? こんなにいいのか?」
金袋の中身を確認したエゼロスが戸惑うような表情を浮かべている。
「ああ」
当たりを引いた連中には振り返らずに進んでほしい。振り返るのは不遇職の俺の役目だからな。
「感謝しかない」
エゼロスは深々と頭を下げる。
「それで仲間は増えたのか?」
「まぁな。俺たちは日本人たちの野営地に何度も足を運び、【無銘の刀】の存在を宣伝してたからな」
「そうか、どんな奴なんだ?」
「二人の女性が俺たちの活動理念に共感して仲間になってくれたんだ。二人共に下級職で【足軽】【拳士】といった珍しい職業なんだが、これといって強いわけではないらしい」
確かに水晶玉に載っていた下級職一覧にはなかった職業だ。それにいかにも日本の職業らしい名前だ。
「俺は今ワンちゃんを鍛えている最中だから、ここに仲間がいるのならついでに鍛えようと思って寄ったんだ」
「ワンちゃんってそこの獣人のことだよな? なんか姿が変わってるな」
「ああ、先祖返りの類らしい」
「……そんなことがあるのか。だったら、人族にもあるんじゃないのか?」
その言葉に、俺ははっとなる。
「その可能性はあるな……人族の先祖返りってことは猿っぽくなるんだろうな」
「日本なら進化論でそういう解釈だが、ここは異世界だから人族の先祖が猿じゃないかもしれん」
「なるほど……ありえそうな話だ」
ここは異世界だから創造論的な神が人族を創ったみたいな感じなのかもしれない。そうだとすると、人族には先祖返りはないが、ワンちゃんたちがそうであるように、獣人には先祖返りが存在する。そう考えると、獣人は人族と動物の混血なのかもしれない……
俺が考え込んでいると、エゼロスの声で我に返る。
「いくら考えても答えなんて出ないだろ。それよりもシズナとソローミを鍛えてやってほしい」
「俺が呼んでくるぜ」
ハゴンが立ち上がって離席する。
しばらくすると、二人の女を伴ってハゴンが戻ってきた。
「彼はうちの指導役のロストだ。今から狩りに出るみたいだから一緒に鍛えてもらうといい」
エゼロスの言葉に、青い髪を腰まで伸ばした女が面食らったような顔をした。
彼女は革の装備に背中に鉄の槍を背負っていて、落ち着いた雰囲気の美人だ。
「【無銘の刀】はエゼロスさんとハゴンさんだけではなかったんですね」
「まぁな。ロストは忙しい身だから、いつこっちにこれるか分からないから言ってなかったんだ」
「そうですか。私はシズナと申します。よろしくお願いいたします」
「私はソローミ。よろしく!! なぁ、犬の獣人もあんたの仲間なんだよな?」
ソローミはワンちゃんを見つめて目を細めている。
彼女の容姿は茶髪のロングヘアーで褐色肌の美人だ。装備は革で両手には鉄製のナックルが握られている。
「ああ、名前はワンちゃんだ」
「ワンちゃんよろしく!!」
ワンちゃんの手を握ったソローミは満面の笑みを浮かべている。
「わ、わふぅ?」
言葉が分からないワンちゃんは困惑しているようだ。
「ソローミが仲良くしようと言ってるぞ」
「わふぅ!!」
ワンちゃんは嬉しそうに微笑んだ。
「では行くぞ」
俺たちは拠点を後にして、戦士の村から南に進んで南の砦を通過する。
「どこで狩りをするんでしょうか?」
南の砦を通り過ぎたからか、シズナは不安げな顔だ。
「とりあえず、南に進んでみるつもりだ。俺たちも行ったことがないからな。まぁ、通常種以上は俺たちが倒すからお前たちは下位種だけを攻撃すればいい。で、狩った魔物の首を入れるためにこれを渡しておく」
俺はシズナとソローミに大きな麻袋を手渡す。
「は、はい。ありがとうございます」
「ありがとう!!」
俺たちが南に向かって進んでいくと、黒亜人の群れが佇んでいた。
「オークか……」
10匹以上いるから『徒党』が面倒だな。
「マークⅡ、通常種を倒せ」
〈分かりました〉
マークⅡはオーク種の群れに突撃し、事もなげに戦斧でオークたちの首を刎ね飛ばした。
驚きのあまりに血相を変えるレッサー・オークたちは身じろぎもしない。
「……つ、強すぎます」
緊張した面持ちのシズナが息を呑む。
下位種が五匹か……
「ワンちゃん、やれるか?」
「わふぅ!!」
自信ありげに応えたワンちゃんは、一直線にレッサー・オークたちに向かって突進する。
くくっ、ワンちゃんはさらにレベルが4つ上がって、レベル8になってかなり強くなった。
まぁ、プニに『貧弱』を奪ってもらった上に、全ての攻撃手段が1.5倍になる『加撃』、『堅守』を付与されてるしな。
マークⅢによると、『貧弱』はレベルアップ時のステータスの上昇が低下し、魔法や特殊能力にも目覚めないらしい。
現在のワンちゃんの攻撃力は85で、『加撃』を加味するとその攻撃力は120ほどになる。なので、鍛え始めの頃と比べると格段に強くなっている。
「私たちも戦ってよろしいでしょうか?」
シズナが探るような眼差しを俺に向ける。
「ああ」
俺が了承すると、シズナとソローミが走り出す。ワンちゃんは一撃でレッサー・オークを沈めていて、すでに三匹のレッサー・オークが地面に突っ伏している。
そこにシズナたちが参戦し、レッサー・オークたちと戦いを繰り広げる。
マークⅢによると、シズナたちのレベルは2で攻撃力は80ほどらしい。まぁ、レッサー・オークは弱いからシズナたちでも問題なく倒せるだろう。
ほどなくして、シズナたちが危なげなく、レッサー・オークたちを倒した。
すぐにマークⅠとダーク、マークⅢが死体の処理に向かい、首を三つ持ったワンちゃんとシズナたちが戻ってくる。
「ていうか、ワンちゃんて私たちよりも強いじゃん」
ソローミは意外そうな表情を浮かべている。
「まぁな。だが、ワンちゃんの職業は【村人】なんだ。戦闘職に転職できればもっと強くなれるかもしれない」
「えっ!? 私たちより強いのに【村人】なんだ……」
その辺りが獣人のよく分からないところだ。人族の【村人】の攻撃力はだいたい3程度だが、ワンちゃんは30あったからな。強い種族の獣人のステータスの値がどれだけ高いのか気になるところだ。
「……だからとりあえず、昼まで戦ってエルザフィールの街に行くつもりだ。ワンちゃんのこともあるがお前らが転職できるかもしれないからな」
俺たちはさらに南へと進んでいくと巨大な湖が見えてきた。
そこでは多数の魔物たちが戦闘を繰り広げていた。湖を背にして戦っているのが主に白亜人たちで、それを攻撃しているのが黒亜人の群れだった。