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第50話 魔物の村③


 あれから俺たちはエルザフィールの街の西側で三日間、魔物を狩って過ごしていた。


 その間に殺人事件が発生しなかったので、殺人鬼は野放し状態だ。まぁ、正体が分かっていないから現場を押さえない限り捕まえようがないが。


 そのことから、俺だけが戦士の村に行くのは女性陣が不安がるのは明白で、俺は全員で戦士の村に移動することにした。


 ちなみに、マロンたちは俺たちのサードパーティになることを承諾したので、俺たちと一緒についてきている。


 だが、マミが俺に近づこうとすると、女獣人たちがプンスカ怒って阻止しようとする。しかし、マミはその度に干し肉で女獣人たちを餌付けして突破し、それを察知したレシアとルルルが俺の前に立ちはだかって、両者は睨み合って火花を散らす。


 そんなことが魔物を倒して移動する度に繰り返される。困惑する俺を見てラードがにやにや笑っているのが正直、耐え難い苦痛だ。


 そんなこんなで戦士の村に到着した俺たちは、冒険者ギルドに足を運ぶ。俺はマークⅢにエルザフィールの街で発生したような殺人事件が、この村で起きたことがあるのか尋ねるように指示を出す。


 結果、様々な殺人事件はあるものの、犯人すら特定できない大量殺人事件はないとのことだった。この話を聞いた女性陣たちは安心できたようで、これによって俺は単独で動くことが可能になった。


 俺は村から西に出現する小屋の確認に行こうと思ったが、西の小屋に出現する弱い黒亜人は女獣人たちが勝てる希少な魔物なので、彼女たちを鍛えるために一緒に連れて行くことを考える。


 俺はマークⅢにそのことを伝え、マークⅢが女獣人たちに説明するが、レシアにベッタリの彼女たちが渋った。


 マークⅢは「レシアを連れて行けば問題は解決しますの」と俺に提案したが、レシアは動かせない。ラードたちが狩りに出て何かあったときに【聖女】は必要だからな。


 なので、俺は「強い方がレシアを護り、弱い方を狩りに連れて行くから説得しろ」とマークⅢに指示を出す。


 その結果、力比べで敗れた犬の女獣人が俺たちについてくることになり、俺たちは村から西の方角に出現する小屋に向かって進み始める。


 レッサー・コボルトが姿を現すと、マークⅢが瀕死に追い込んで無力化し、ワンちゃんに攻撃するように伝える。


 マークⅢによると、ワンちゃんの攻撃力は30らしい。彼女は着ぐるみを着ているような姿なので、噛みつき攻撃を行うには口が小さすぎるし、爪も無いに等しく指が短すぎるので武器を持てない。だから、手足の肉球で殴る蹴るしか攻撃手段がない。


 つまり、剣やクロスボウを持てないから、魔物を弱らせても倒すのに時間が掛かることになる。


 これでは小屋に辿り着くまでに時間が掛かりすぎると思った俺は、マークⅢにワンちゃんを抱えさせて一気に森を抜けて、ラードたちの小屋があった開けた平原に移動したが、そこに小屋はなかった。


 もう小屋は出現しないかもしれないような気がしてきたぜ。


 「ここでワンちゃんを育てるぞ。マークⅠの『気配探知』で魔物の位置を特定して、マークⅡとマークⅢがそこに行って魔物を弱らせて連れてきてくれ」


 〈分かりました〉


 「分かりましたの」


 〈あっちとあっちだよ〉


 ダークの背に乗るマークⅠが魔物のいる方向を指し示すと、その方角にマークⅡとマークⅢが駆け出した。


 すぐに、マークⅡたちは魔物を引きずって戻ってきて、ワンちゃんが止めを刺す。


 「わふぅ!! わふぅ!!」


 ワンちゃんは必死そうにパンチを繰り出して戦っているが、肩で息をして疲労困憊だ。だが、ワンちゃんの身体が金色の光に包まれる。


 「わふ?」


 ワンちゃんは不思議そうな顔をしている。


 〈ほらっ!! まものがたまってきてるよ!! もっとガンガンたおして!!〉


 くくっ、ファテーグの魔法か。マークⅠは馬鹿だが戦闘においては賢いな……いや、戦闘狂なだけかもしれんが。


 俺は繰り返されるそんな光景を眺めていたが、マークⅡたちが手ぶらで戻ってくることがたまにあるので妙に思えた。


 「マークⅢ、なんで手ぶらなんだよ?」


 「それはマークⅠが鑑定系の魔法や特殊能力を所持していないからですわ。『気配探知』は全ての生物の場所を探知できる特殊能力ですから」


 「そういうことか……行った先には魔物ではなく、動物とかがいる場合もあるってことか。お前が『気配探知』を持っていたらアプレーザルの魔法で魔物の位置を特定できるのにな」


 「距離が近ければ可能ですが、探知系に比べて鑑定系は探れる距離が短いですから距離が離れると無理ですの」


 「……ややこしいな」 


 ……けど言われてみるとそうだよな。マークⅠは遠くの森にいる生物を探知してるが、そんな遠くの生物を鑑定系で視るのは無理そうなのは分かる。鑑定系は目で見たものを鑑定しているように思えるからな。


 「ですが私はディスタントビジョンの魔法を所持していますので、やろうと思えばできますの。ただ魔物がどこにいるのか分からないので、それをディスタントビジョンで探すことが面倒ですわ」


 なるほどな……結局、鑑定する前に魔物を探し出さないといけないのは確かに面倒そうだ。


 俺はしばらく見守っていたが、俺なしでも問題なさそうなので、南に移動する。


 デインたちの小屋があった場所に俺は到着したが、小屋はなかったので、残りの二カ所の場所にも行ってみたが小屋はない。


 もう小屋は出現しないのかもしれないが、それを考えても仕方ないし、可能な限り足を運ぶしかない。


 俺は急いでマークⅠたちの元に戻り、マークⅢに尋ねる。


 「ワンちゃんはどんな感じだ?」


 「レベルが3つ上がってレベル4になり、攻撃力は45になりましたの」


 はぁ? レベル1だったのかよ。まぁ、この短時間でレベルが3も上がったなら、とりあえずOKだな。


 「魔物の村に行くぞ」


 俺の指示でマークⅡがワンちゃんを抱え、俺たちは一気に森を抜けて魔物の村に移動し、プニたちが暮らしている洞窟に到着する。


 「これはこれはロスト殿。どうされたのですか?」


 フローが意外そうに俺に尋ねる。


 「エルザフィールの街で大量殺人事件が起きたんだ。名前なんかは一切分からないんだが、その殺人鬼を見つける手段があるのか聞きに来たんだよ」


 「なるほど。結論から申しますと我々には発見する手段がありませんね。マスターなら可能かもしれませんが」


 ……いったい、こいつらのマスターって何者なんだよ?


 「手あたり次第でいいなら怪しそうな人物を、解析系で経歴や個人史を視れば分かるデシよ」


 「マジか……」

 

 解析系の魔法や特殊能力ってそこまで視れるのか……ヤバすぎるだろ。


 「私は解析できるアナリシスの魔法に目覚めていたので、すでにその方法で殺人鬼を探してましたの」


 くくっ、さすがマークⅢ、頼れる存在だぜ。


 「マークⅢ、すまんが継続して探してくれ」


 「分かりましたわ」


 「ついでに聞きたいんだが、戦いに使えそうな魔導具を日本に戻る前までに手に入れておきたい。メローズン王国に行ったら売っているのか?」


 「売ってるデシけど、たいしたことのない吸収型の炎の剣でも10億円ぐらいするデシ」


 「……高すぎるな」


 この値段でたいしたことないなら魔導具の線は消えたかもしれん。


 「で、吸収型って言ったが魔導具に種類があるのか?」


 「あるデシよ。たとえば吸収型の炎の剣は使用者の魔力を使って炎を創り出すデシよ。制限型は使用回数があるデシ。一回使えば壊れるタイプと日に何回とか制限があるデシ。永久型は壊れるまで使えるデシ。一回使って壊れる制限型を除けば、吸収型、制限型、永久型の順に高くなるデシ」


 なるほど。制限型と永久型は魔力がなくても使用できる魔導具ってことか。値段が高くなるのも頷ける。


 「でも魔導具なんかを気にするより、ある程度、強くなったら戻ったほうがいいと思うデシ。プルがそっちに行ってるデシから」


 「プルって何者なんだ?」


 「プルはピンク色のスライムデシ」


 なんか聞き覚えがあるな――って!? もしかして天の声が言ってたスライムのことか!?


 「そのプルってのは強いのか?」


 「こっちの世界なら強いデシ。でも、どんなに強くてもむこうに行けばステータスの値が1000ぐらいまで下がるってマスターが言ってたデシ」


 「ということは、攻めてきている魔物も同じってことだよな?」


 「そうデシよ」


 なるほどな……そうなると短期決戦に勝機があることになる。


 「いろいろと助かった。また何かあれば寄らせてもらうぜ」


 俺たちが帰ろうとすると、プニに止められる。


 「待つデシ。その獣人は弱すぎるデシ。だからプニたちと一緒に暮らすほうがいいと思うデシよ」


 「……それはこいつが決めることだな」


 「じゃあ、聞いてみるデシ。わんわんわん」


 「わ、わふぅ? わんわわん」


  面食らったワンちゃんが何かを必至に訴えている。


 「嫌みたいデシね……」


 プニは複雑そうな表情を浮かべている。


 「こいつはレシアが大好きだからな。まぁ、弱くても俺はこいつを育てるつもりだ」


 「それなら少しでも強くするデシよ」


 プニが触手を伸ばしてワンちゃんに触れる。


 「ワンちゃんの『貧弱』が消えた代わりに、『加撃』と『堅守』が増えましたの」


 訝しげな声を発したマークⅢが俺に報告する。


 「はぁ?」 


 何で特殊能力が消えたり増えたりするんだ? てか、『貧弱』は聞くからに弱くなりそうな特殊能力だな……そんな特殊能力を持っていたからワンちゃんは弱かったのか……いや、そうじゃない。外見がおかしいのは変わっていないから、元々弱い個体なんだということか。

 

 「『貧弱』を持ってたら弱くなるからプニが奪ったデシ。でも、そのままだと弱すぎるから『加撃』と『堅守』をつけたデシよ」


 そんなことができる特殊能力が存在するのか……


 「けど奪ったら、今度はあんたが弱くなるんじゃないのか?」


 「プニは奪った特殊能力をアイテムに付加することもできるデシよ」


 こいつ無茶苦茶すぎるだろ。


 「ただし、プニがそういうことができることは内緒にしてほしいデシ。それにプニは魔法や特殊能力を集めてるデシ。だから珍しい『貧弱』という特殊能力が手に入って良かったデシから、ロストに『言語』の指輪をあげるデシ。それで犬の女獸人と仲良くするデシよ」


 プニは俺に指輪を手渡し、俺はすぐに指に指輪をはめる。


 「おい、ワンちゃん、何か話してみろ」


 「わふぅ!? なんでしゃべれるわん?」


 これはすごいな。ワンちゃんの言葉が分かるし、俺は日本語で話してるつもりなのに、相手に分かる言語に変換されてるようだ。


 「これからは伝えたいことがあったら俺にも言っていいぞ」


 「わふぅ!! わかったわん」


 ワンちゃんは嬉しそうだ。


 「ところでプニ、俺の『プリンに夢中』はレアなんじゃないか?」


 「超激レアデシ。そもそも、ロストが持ってる特殊能力は視たこともないデシよ」


 「だったら、使い道のない『プリンに夢中』を礼として譲渡してもいいがどうだ?」


 「くれるデシか!? 欲しいデシ!!」


 物欲しそうな表情のプニが俺の前まで飛んできて浮いている。


 こいつ、飛行もできるのか……本当に何でもありっぽいな。


 俺は苦笑する以外になかった。


 「ああ、構わない」


 「ありがとデシ!!」


 プニが俺の体に触手で触れる。


 「代わりに『守護』をつけといたデシ。『守護』はダメージを肩代わりできるデシから、犬の女獣人を護ってあげるデシ」


 くくっ、これではキリがないな。


 「ありがたくもらっておくぜ。それではまた何かあったら寄らせてもらう」


 俺たちは洞窟を後にしたのだった。

ここまで読んでくださりありがとうございます。

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作者の執筆速度が 1.5倍…いや2倍くらい になります。(※個人差があります)


明日もたぶん10時に投稿する予定です。


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