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第49話 手を握る理由


 男の風貌は金髪で太っていて、腰に剣を携えているが鎧などは身に着けておらず軽装だ。


 「入ってもいいかい? 僕は殺人事件の情報を持ってるんだ。気になるだろ?」


 何? 日本人か……確かに殺人鬼の情報は欲しい。


 「入っていいぞ」


 男が部屋に入ると俺が扉を閉める。俺と男は部屋の奥へと移動する。


 「この男が殺人事件の情報を持っていると言ったから連れてきた」


 「僕の名前はキュード。うわぁぁぁ!! ここは美人さんばかりで天国だね!!」


 女たちを舐めるように見ていたキュードが歓喜の声を上げた。


 しかし、女たちは害虫でも見るような目でキュードを見ている。


 「……おい、どんな情報をもってるんだ」


 こいつを連れてきたのは間違いだったのかもしれん。


 「殺人事件があったとき、僕は一階の部屋に泊まってたんだけど、異変に気付いたんだ。僕は『人物探知』を持ってるからね。つまり、僕が『人物探知』で二階を視ていると、探知できていた人が消えていくんだよ。おかしいだろ?」


 「それでどうなったんだ?」

 

 ラードが先を促す。


 「何が起こっているのか確かめるために、僕は二階に上がって物陰から部屋を見てたんだ。すると、勝手に扉が開いて閉まり、すぐ隣の部屋の扉が開いて閉まったんだ。これは間違いなく透明人間がいると思ったけど、同時に見えない相手と戦う手段がないとも思ったよ。でも僕の『人物探知』で捉えていた人たちは消え続けていたんだよ。僕は勇気を振り絞って透明人間がいる部屋の扉を思いっきり叩いて「お前の姿は見えているぞっ!!」って叫んで、僕のもう一つの特殊能力を駆使して僕はなんとか逃げ切ったんだよ」


 キュードは身振り手振りを加えながら饒舌に語る。


 「へぇ、やるじゃねぇか」


 ラードが感心したような表情を浮かべている。


 「へへっ、分かるかい? つまり、今君たちが生きていられるのは僕のおかげってことなのさ!!」


 自信満々に言い放ったキュードは悦に浸っている。


 「……その話が本当だったらそうかもしれないが確証もないだろ。それにどうもお前は胡散臭い」


 「分かってないねぇ!! 僕が五番目の部屋の扉を叩いたからそこで殺人が止まったんだよ。でなければ、なんで五番目で殺人が止まったのか理由を教えてよ」


 「ぐっ……」


 ラードは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべている。


 「答えられないよねぇ、だって本当のことだからね!! だから命を助けてあげたんだから僕に協力してほしいんだよね」


 「あぁ? 協力ってなんだよ?」


 「僕が透明人間から逃げ切れたのはこの『劣化コピー』っていう特殊能力のおかげなのさ」


 キュードの傍に前触れもなく老婆が出現する。


 「なっ!?」


 ラードは驚きの表情を見せる。


 こいつ、『人物探知』に『劣化コピー』ってとんでもなくレアな特殊能力を持っているな。まぁ、その分、戦闘向きではなさそうだが。


 「この特殊能力は動かないし、触ることもできない幻影みたいなものさ。でも、僕はこんな特殊能力しかないけど透明人間に立ち向かったんだよ。すごくない? だからこんな特殊能力でも手札を増やしたいんだよね。ただ、手札を増やすには手を握る必要があるんだよ。一回握れば一回分のコピーがストックできるけど、出現させると一分ほどで消えるんだよ。だから、どんどん補給しないと使えないのが難点なんだよね」


 ラードは老婆の肩に触れようとしたが手が透けて突き抜ける。そして、時間経過により老婆は音もなく消失した。


 「ほ、本当に触れないんだな……」


 「僕は嘘は言わないよ。まず、君から手を握らせてくれるかな?」


 キュードはキャニルに向かって手を伸ばす。


 「い、嫌よ……」


 キャニルは不快そうに言った。


 「な、なんでだよ? 僕は正義の味方なんだよ!?」


 「絶対に嫌よ!!」


 心底嫌そうに声を荒げたキャニルは切るような鋭い視線でキュードを睨みつけるが、それでもキュードが強引にキャニルの手を掴もうとする。


 「キャニルに触るなっ!!」


 鬼の形相のラードがキュードの腕を掴んでキャニルから引き離し、あまりの恐怖からかキュードは尻もちをついて悲鳴を上げる。


 「ひぃいいいぃ!?」


 腰が抜けたのかキュードは尻もちをついたままの姿勢で後ずさり、キャニルは頬を染めてラードを見つめている。


 〈ラードはキャニルのことが好きですわ〉


 気を使っているのかマークⅢが思念で俺に報告する。


 ……いくらなんでもこの状況なら誰でも分かるだろ。それにキャニルもラードのことが好きだろう……ていうか、こいつはそれが俺に分からないと思っているのか? いや、分からないと思っているから報告してることになる……マジかよ? 俺はどんだけ馬鹿だと思われてるんだよ。


 「ぜ、絶対に後悔するぞ!! こ、この僕に協力しなかったことをなっ!!」


 捨て台詞を吐いたキュードは大慌てで逃げて行った。


 〈マスター、キュードは『人物探知』を所持していると言っていましたが、所持しているのは『女探知』ですの。それにもう一つの特殊能力も『劣化コピー』ではなく、『女コピー』ですわ〉


 全然違うじゃねぇか。ていうか、あいつ、女をコピーしようとしてただけのただの変態じゃねぇか。


 〈それにキュードが言った『劣化コピー』の効果は大噓ですの。実際は対象を見ただけで動かない幻影をストックできますの。出現させると一分ほどしかもたないことだけは事実ですが、対象に手を触れることで本物と遜色ない動くコピーを作り出せる強力な特殊能力ですわ。しかも寿命を迎えるまで消えませんの〉


 はぁ? だったらソフィの手を握るだけでソフィが二人になるのか? マジでやばすぎる特殊能力だろ。


 「とにかく、女性陣はキュードに出くわしても絶対に手を握らせるな。あいつの本当の特殊能力は『女コピー』で、本物と遜色ない動くコピーを作り出せるらしいからな」


 「あいつ、キャニルのコピーを作ろうとしてたのか……」


 ラードは怒りに打ち震えている。女たちは皆一様に嫌悪感を露わにしたのだった。


 俺たちは荷物をまとめて宿を後にして、夕方まで狩りを行った。


 そして、別の宿を探した俺たちは、全員で大部屋に泊まることにした。


 女たちが不安がるので、しばらくは夜の狩りは中止するしかない。


 ちなみに、マークⅢに山賊と盗賊の違いと採取隊のことを尋ねると、この世界では、陸で活動する族は全て山賊と呼ばれているらしい。


 まぁ、俺が日本人だから盗賊って言葉に引っかかるものがあるんだろうな。そもそも、こっちでは職業に【盗賊】があるから、現地人からすれば盗賊って言葉に何の違和感もないらしい。


 あと、採取隊についてだが、ガダン商会が運営している採取ギルドの隊員のことらしい。つまり、戦士の村やエルザフィールの街の衛兵的存在とのことだった。

ここまで読んでくださりありがとうございます。

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明日もたぶん10時に投稿する予定です。


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