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第44話 言う順番を間違えた

 

 エルザフィールの街に入った俺たちは、魔物の首を換金するために冒険者ギルドに向かっていた。


 「かなりの数の魔物を狩れたから結構な額になるんじゃないか?」


 満足げにラードが語る。


 「そうね。これまでの資金と合わせると確実に1000万円を超えるでしょうから、デインたちを転職の神殿に連れて行ってもいいんじゃないかしら?」


 そう返答したキャニルが判断を仰ぎたいのか俺を見る。


 「いや、すまん。衝動的に使ってしまって200万ぐらいしか残ってない」


 「えっ? 衝動的っていうのが気になるわね。けど……」


 「まぁ、キャニルが言葉を濁しているように、俺たちは金については何も言えないからな……」


 そう言ってくれると助かるぜ。


 だが、安堵した俺がデインたちに視線を向けると、デインたちはジト目で俺を見ていた。


 ぐっ、どうやらデインたちに頼りない存在だと思われてるみたいだな……今更、【無銘の刀】を立ち上げたことを語っても、俺がカッコ悪いことに変わりはない……話す順番を間違えたぜ。


 「……今日の感じだと余裕で500万は稼げてると思う。だからデインたちに適性があれば、一人は上級職に転職できるだろ」


 「そうだな……前から思っていたんだが、キャニルには参謀になってもらいたいんだがどうだ?」


 「えっ? 私?」


 キャニルは困惑しているようだが、俺はさらに話を続ける。


 「具体的には作戦参謀と会計管理を任せたい。今は俺が指揮を執っているが、デインたちセカンドパーティが加わったことで、俺は全体指揮を執ることになるだろう。まぁ、ラードの指揮で当面は問題ないと思うが、今後は魔物が強くなるから俺やラードが状態異常とかで、行動不能に陥ることもあるだろうからな」


 「キャニルならやれるだろう」


 「そうね」


 ラードの言葉に、ネヤが同意を示して頷いた。


 「分かったわ」


 キャニルは硬い表情で頷く。


 「まぁ、指揮のほうはラードと話し合いながらやってくれ。それと会計についてだが、今後は換金した金はキャニルに管理を頼みたい」


 キャニルに金の管理を任せることで、デインたちの俺への不信感も軽減されるからな。


 「指揮のことは了解よ。でも換金したお金は盗難されるかもしれないから、私とラードで半分ずつ管理するわ。それにお金の使い道は転職費用が最優先。けど、仮に誰も転職できずに3000万円を超えた時点で、まずはうちのエースであるミコにミスリルソードを買って戦力を底上げしたいと考えてるわ」


 「確かにミスリルは欲しいが、転職を優先した方が戦力が上がるっていう理屈は俺もそうだと思うぜ」


 「そうね。私もそれでいいと思う」


 ラードとネヤが了承し、誰からも異論はなさそうだ。


 話は終わったので、俺は歩く速度を落とす。デインたちも何か意見があるのではないかと思ったからだ。


 俺はデインの様子を窺うが何も言ってこなかった。だが、ソックが俺に小声で話し掛けてくる。


 「エースというか、一番強いのはロストさんであることは明白なのに、なぜミコさんがエースということになっているんでしょうか? それにミコさんでは、マークⅡさんにも相性が悪いので勝てないのではないですか?」


 へぇ、意外と鋭いな。まぁ、俺のことは置いておくとしても、ミコよりマークⅡが強いことを分かっているのはこいつだけじゃないのか?


 「まぁ、俺は皆と戦うときは前線に出ずに指揮ばかりやっているからな。皆は俺が強いということは暗黙の了解みたいな感じで知っているが確信がない。要するに、皆は俺が本気で戦ったところを見たことがないんだ」


 「な、なるほど……ですがミコさんよりマークⅡさんのほうが強いですよね。つまり、ミコさんは三番なのにエースなのはおかしくないですか?」


 「俺が誰かと戦うとすると、マークⅡたちとも戦うことになる理屈は分かるか?」


 「……え? 一対一ならロストさんだけでしょ?」


 「それは日本的というか地球での一対一の理屈だろうな。ここでは魔法や特殊能力、魔導具がある。だから俺の特殊能力で生み出されたマークⅡたちは特殊能力扱いということになるんだ。もっとかみ砕いて言えば、お前の定義だと『分身』のような特殊能力を持つ者は、一対一の戦いでは使用できないということになるがどう思う?」


 「た、確かにその通りですね。『分身』のような特殊能力を使用できないとなると不公平になりますね」


 ソックは納得したような顔になる。


 そもそも不遇職である俺が、今更誰が強いとかどうでもいい話だけどな。


 「だからラードたちは感覚的にマークⅡを除外しているんだろうな。それよりもお前はなんでミコよりマークⅡのほうが強いと思うんだ?」


 「近接戦ではミコさんに分がありますが、砂鉄の体のマークⅡさんを剣で両断したとしても、ダメージを受けるのは斬った部分の砂鉄だけなので微々たるものです。ですからマークⅡさんに効果的なダメージを与えるなら、体全体を攻撃できる魔法や特殊能力が必要ですが、ミコさんはそれを備えていません。それに、距離を取られれば遠距離攻撃手段もありませんから勝算がありません」


 反論の余地がない。こいつは間違いなく参謀タイプだが、デインたちはそれに気づいているのか?


 まぁ、なんにせよ、うちも盗賊職と弓職が欲しいな。【戦士の街】に行ったときにでも探してみるか。


 俺たちは冒険者ギルドに到着し、魔物の首や素材を換金すると900万を超える金額になった。


 ちなみに、マークⅢがギルド職員に、この辺りの魔物の傾向などを尋ねると、街から北は虫系の魔物が多く、東は主にアンデッド、南は魔物の大群がいるらしい。


 その中で冒険者ギルドが警戒しているのが、東から押し寄せるアンデッドの群れと南の魔物の大群で、南には強い冒険者たちが集結している状況とのことだ。


 まぁ、俺たちは一番無難な西で戦うしかないが、戦力が整えば東や南に参戦したいものだ。


 キャニルがマークⅢに俺が所持している金を出すように要求し、マークⅢは約200万をキャニルに渡して俺は無一文になった。


 やべぇ、このままだと【無銘の刀】に回す運営資金がない。なんとかしないとな。


 合計金額が1000万円を超えたので、デインたちの転職を優先することになり、明日の午前中に転職の神殿に行くことが決まった。


 俺たちは野営することも考えたが、もうその程度の金をケチる状況でもないという話になり、安めの宿に泊まることが決定した。


 部屋は三部屋取って、俺とラード、キャニルたち、デインたちといった感じだ。


 俺は「情報収集に出るから明日の昼までには戻る」と言い残して宿を後にする。


 なんとしてでも金を稼がなくてはいけなくなったので、俺はマークⅡたちを伴って夜の狩りに出向くことにした。俺が西門から出ると、門の周辺には松明などの明かりで照らされているが、門から先は漆黒の闇が広がっていた。


 俺は左手に松明を持って歩き出す。


 「松明じゃほとんど見えないな……」


 「このような場合、ナイトビジョンの魔法かライトの魔法が有効ですわ」


 「てことは、キャニルが使えるよな」


 けど、夜戦をするから魔法をかけてくれとは言えないからな。


 「お前らは夜目が利くのか?」


 「ダークも含めて見えていますわ」


 はぁ? 俺だけ見えないのかよ……まぁ、マークⅠの『気配探知』で魔物の数は分かるからなんとかなるか。


 「マークⅡ、俺と一緒に戦うときだけは本気で戦っていいぞ」


 〈分かりました〉


 そう答えたマークⅡの体が淡い光に包まれる。


 「何だ今のは?」


 「マジカルライズの魔法ですわ」


 一時的に魔法力が上昇するやつか。


 俺たちが闇の中を進んで行くと、マークⅠが魔物の接近を報告する。


 魔物たちが射程距離に入った瞬間、マークⅡが無数の鉄弾を放つ。鉄弾を体に受けた魔物たちは瞬時に肉片に変わる。


 マジカルライズの魔法と範囲攻撃のアイアンバレットの魔法が合わさると、威力が半端ないな。


 しかもマークⅡは魔法を放ち続けているので、俺のやっていることは弱った魔物にとどめを刺すぐらいのものだ。


 マークⅠは魔物の素材を回収し、ダークは首を回収しながら嬉しそうに魔物の死体を食べている。


 もはや、夜戦であることを気にする必要もなく、一方的な展開が続く。


 こうして、俺たちは昼前まで魔物を狩り続けて宿に帰還したのだった。

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