第40話 ワンちゃんと猫ちゃんの手は肉球 ☆ミルアたち デインたち
翌朝、俺たちが南門に行くと、約束通りにミルアたちの姿があった。
俺はミルアたちがセカンドパーティになったことを仲間たちに説明し、彼らは互いに自己紹介を行った。
ミルアの職業は【戦士】で、赤い髪のショートカットで可愛らしい顔をしていて、人懐っこい性格で小柄な体形だ。
パエルの職業も【戦士】で、緑色の髪を肩で揃えて、体形はネヤよりも大柄でゴツイ筋肉質で、まさに女戦士って感じだ。
ベルアの職業は【弓使い】で、薄い青髪のツインテールの長身で、彼女も人懐っこい感じだ。
デインの職業は【剣士】で、金髪のスパイキーヘアでイケメンだ。長身で引き締まった体は均整が取れている。
ソックの職業は【怪盗】で、彼らの中で唯一の上級職で、細身の長身で髪は灰色の短髪だ。
ミドーの職業は【僧侶】で、見た目は腹の出たおっさんでスキンヘッド。なんとなく、俺のイメージにある僧侶像に近い。
ちなみに、リーダーはデインがやることになったようだ。
それから俺たちは魔物と戦わずに東の砦まで進み、そこから少し離れた場所で足を止める。
しばらくこの辺りで戦ってみるか。
「ここで戦うことにする。前衛は変わらずラード、ネヤ、ミコ、ラゼで頼む」
この辺りの魔物の群れは10匹を超えるし、通常種も多くて連戦にもなりやすい。だから中衛を多めにしたほうが良さそうだな。
「中衛は俺たちとレシアだ。後衛はルルルとキャニル、女獣人たち。そして、デインたちも後衛で俺たちの戦いを見学してくれ」
皆が硬い表情で頷いた。
「まずはここでの戦闘が可能なのかを試すために、戦闘効率も経験値効率も無視して戦う。連戦を強いられるだろうから常に次の戦いを意識してくれ」
「数はどうするんだ? あと、どんな魔物でも戦うのか?」
ラードが質問を投げかける。
「そうだな。魔物の群れ一つで20匹を超えるような場合や、上位種、アヴェンジャーが出たらこちらから指示を出すつもりだ」
「分かった」
「では、やるか」
皆が配置につくと、前方からスネーク種の群れが接近してくる。
数は通常種が10匹、下位種が5匹だ。スネーク種は強い部類の魔物だが、ここで戦う以上は避けては通れない相手だ。
スネーク種の群れが俺たちにある程度近づいたところで、ラードたちが突撃した。
6匹のスネークがラードたちを迎え撃ち、残りの4匹が俺たちに向かって突っ込んでくる。
俺はふとレシアに視線を向けると、なぜか女獣人たちがレシアを庇うように立っていた。
はぁ? 何してんだよ? 下位種の攻撃ですら一発もらえば死ぬんだぞ……
「レシア、女獣人たちを連れていったん下がれ」
「は、はい!!」
レシアは女獣人たちを伴なって後衛へと下がる。
「マークⅠ、マークⅡ、マークⅢ、通常種を狙え」
〈うん〉
〈分かりました〉
「分かりましたわ」
マークⅡがヘルムのバイザーを上げて、マークⅢが剥き出しになる。
振り返った俺はルルルたちに指示を出す。
「ルルル、キャニル、下位種は任せたぞ」
さて、どうなる?
マークⅠとマークⅡとマークⅢは、真っ先に突っ込んできた一匹のスネークに、魔法攻撃を集中させる。
結果、スネークはでかすぎる鉄矛に貫かれ、真紅の炎に包まれ、数知れない岩や石に体をぶちのめされて動かなくなった。
ダークが糸を飛ばして次のスネークに糸が絡まるが、蛇は手足がないのでほとんど効果はなく、糸が絡まったままのスネークがマークⅡに襲い掛かる。
マークⅡは至近距離から魔法を放ち、巨大な鉄槍がスネークの体を突き破り、即座にマークⅡが戦斧でスネークの頭を切断し、スネークは派手に血を撒き散らして息絶えた。
マークⅠとマークⅢが残る二匹の内の一匹に魔法を放ち、水の刃がスネークの頭を断ち切り、激しい炎に焼かれてスネークは炭と化す。
最後に残ったスネークが突っ込んでくるが、俺が長剣でスネークの体を三つに切断し、五匹の下位種が俺たちの横を通り過ぎていく。
俺が振り返ると、ルルルが放った四つの水球が、一発ずつレッサー・スネークに命中し、レッサー・スネークたちは瞬く間に溶け落ちた。
キャニルが魔法を放ち、燃え盛る火弾が直撃したレッサー・スネークは一瞬で燃え尽きた。
ルルルのデロデロフェスティバルの威力も凄まじいが、キャニルも【魔法師】に就いたことによって、火力が格段に上がっているようだな。
俺が視線をラードたちに移すと、すでに五匹が倒されていて、透明の盾を展開しているネヤにスネークが攻撃を仕掛けていた。
なるほどな、守備力の高いネヤに、敵の攻撃を集める戦術のようだな。
透明の盾を破壊できないスネークにラゼが拳を叩き込むと、スネークの胴体は内部から破裂した。
あれが『発勁』だろうな……やばすぎるだろ。あんなのを人体に打ち込まれたらたまったもんじゃない。
「キュキュ!! キュキュ!!」
ダークは嬉しそうな鳴き声を発しながら、スネークたちの死体に食いついている。
ラードたちが歩いてきて、台車の中にスネークの頭を投げ入れると、レシアがおずおずと戻ってきた。
「傷の回復はどっちに頼んだらいいんだ?」
「基本的にミドーだな。ミドー、ラードの傷を頼む」
頷いたミドーが歩いてきて、ラードの傷を癒す。
ラード以外は傷を負っていないようだな。強い部類のスネーク種の群れと戦ってこの結果は優秀だ。それに予想よりも戦闘時間が早いように感じる。とりあえず、配置はこのままで良さそうだ。
〈むこうからアリがいっぱいくるよ〉
ダークの背に乗っていたマークⅠが、俺の肩に飛びのった。
くくっ、いくらでもくればいい。
俺は皆に指示を出そうとしたが、戻って来たレシアの後ろに女獣人たちの姿があった。
「……何で女獣人たちはレシアから離れないんだ?」
〈おそらく、自分たちを護ってくれていた存在と、レシアをどうしても重ねてしまうんだと思いますの〉
なるほどな。そういう純粋な思いを無下にするわけにはいかないか。
「レシア、お前はもう後衛でいい」
「えっ?」
戸惑うような素振りを見せたレシアが振り返ると女獣人たちの姿があった。
弱りきった表情を浮かべているレシアは、女獣人たちを連れて後衛へと移動した。
レシアを後衛から動かすには女獣人たちを育てる必要がある。しかし、彼女らは弱すぎる上に手が獣のそれなので、指が短すぎて鉄のクロスボウを持てないから、ここでは育てる手段がないことが悩みどころだ。
「ルルル、中衛に上がれ。デイン、ミルア、パエルはルルルを護ってくれ。ソック、お前は周辺の魔物を探って報せてくれ」
ルルルたちが歩き出すのと同時に、ソックが風のように消える。
「……あんたらマジで強いな」
デインは動揺を隠しきれない様子だ。
「ロストさんが強いのは知ってたけど、皆さんも強いんですね。すごいです!!」
ミルアは感服しきったような表情を浮かべている。
「お前らも上級職に転職できればこれぐらいはやれるだろう。次はアント種が来るぞ!!」
こうして、俺たちは魔物の群れと戦い続けるのだった。




