第39話 セカンドパーティ
俺は小屋にいなかった六人に会うのを忘れていたことを思い出し、再び南門へと移動した。
いつもは南門から東に行っているが、西にもいるんじゃないのか?
そう考えた俺は南門から西へと進んでいくと、予想通りにテントが防壁沿いに続いていたが、テントの数は東の半分ほどだった。
俺たちはテントを確認しながら歩いていくと、最後尾に目的の顔を見つける。
まだ六人で行動しているようだが、とりあえず無事なようで安心したぜ。だが、何やら話し込んでいるようだな。話の腰を折るのも躊躇われるので離れた場所で待つことにする。
六人を眺めていると、女性陣がその場から離れようとしたので、俺は彼女らに向かって歩き出す。
「よぉ、上手くやれているのか?」
「ロ、ロストさん!?」
ミルアたちが驚きの声を上げる。
「それでどうなんだ?」
「い、いえ……」
ミルアたちは重苦しそうな表情を浮かべていて、男たちは皆一様に俯き加減に視線をそらしている。
「このままでは金が稼げずにじり貧といったところか?」
「――なぜそれを!?」
ミルアの顔は驚愕に満ちている。
「まぁ、下級職のパーティの大半が陥る事態だからな。それに、ここに来た日本人たちが上手くやれているなら、こんな防壁の隅に追いやられている状況になっていないだろう」
「や、やっぱり皆そうなんですね……下位種だけの魔物の群れは、取り合いになっていて全然稼げないんです。でも、ホーネットに全くダメージを与えられなかった経験から、通常種と戦うのが怖くて戦えないんです」
「正しい判断だ。今のお前たちが通常種を倒すには、最低でも【魔法使い】が必要だからな」
「そ、そうなんですね……それで私たちは話し合って、西門のほうである程度稼いでから分隊しようと決めたんです」
「オークの通常種の中で、最強個体のアヴェンジャーを知ってるか?」
「い、いえ、知りません」
「アヴェンジャーは討伐金が上位種扱いになるほど危険な魔物だ。それが稀にだがあっちにも出る。視界の悪いあっちでアヴェンジャーに遭遇すると、今のお前たちでは全滅する可能性が極めて高い」
エゼロスの受け売りをそのまま伝えているだけなので恥ずかしいが、彼女らに死んでほしくはないから仕方ない。
「そ、そんな……じゃあ、私たちはどうしたらいいんでしょうか?」
「南門から真っすぐに進んで行くと古びた宿屋がある。そこには日本人が運営する【無銘の刀】という支援組織がある。そこに行けば飯ぐらいは食べさせてもらえる」
「おいおい、待ってくれよ。俺たちはそんなにちんたらやってる時間はないんじゃないのか?」
苛立たしげに声を荒げたデインが話に割って入ってくる。
「どう行動するかはお前たち次第だ。だが、俺たちはガチャで言えば外れを引いたことになる。そんな俺たちが序盤に無理をすれば仲間が命を落とす危険性は拭えない。だから俺は当たりや大当たりを引いた奴らを信じるしかないと思ってる」
「……あんたの言う当たりは上級職で、大当たりは最上級職ってことだよな?」
「ああ」
「あんたは大当たりを引いた奴らを知っているのか?」
その言葉に、皆の視線が俺に集中する。
「会ったことはない。だが聞いた話では【暗黒剣士】のガーラ、【聖騎士】のソフィが大当たりを引いたようだな。他に噂になっている奴らが四人いるが、その内の一人が【風使い】らしい。【風使い】は【暗黒剣士】や【聖騎士】よりも遥かに強いらしいから、現状、知られている日本人の中ではそいつが最強だろうな」
「なるほどな……」
デインは考え込むような表情を浮かべている。
「あ、あの……私たちだけでもロストさんの隊に入れてもらえないでしょうか? 西でお金を稼ぐ予定だったので、このままではデインたちにお金の面で迷惑をかけてしまいますので……」
ミルアが申し訳なそうに俺に尋ねる。
「……昨日の時点で俺の仲間たちが、下級職から上級職への転職が完了したんだ。それにより、俺たちは狩場を東の砦やそこからさらに東にあるエルザフィールの街に変えるつもりだ。まぁ、その辺りは10匹以上の魔物の群れと連戦になるのが普通の狩場だ。だから、お前たちを育てるのは後回しになる。それでもいいか?」
「ぜ、全然構わないです!! よろしくお願いします!!」
ミルアは嬉しそうに頭を下げる。
「ああ」
「ちょ、ちょっと待ってくれ……俺たちもあんたのパーティに加えてくれないか!?」
気まずそうにデインが俺に訴える。
「俺たちは10人いる。だからお前ら6人が入れば、人数が多すぎて指揮が困難になる」
「だったら俺たちをあんたらのセカンドパーティにしてくれないか?」
確かにそれなら指揮は可能になるな。
「お前らがそれでいいなら構わない。で、いつからにする?」
「こっちはいつからでもいける」
「なら明日の朝、南門の前に集合だ」
踵を返した俺は宿へと戻る。
俺が宿の部屋に戻ると、すぐにルルルが部屋に入ってきて、マークⅡの肩にのっているダークを抱き寄せる。
どんなタイミングなんだよ、ずっと待っていたのか? どんだけダークが好きなんだよ。
「で、どうだったんだ?」
「前回いた六人が俺たちのセカンドパーティとして加わった。で、西に小屋はなかった」
「……なるほど、考えたな。セカンドパーティなら指揮も執れる。で、小屋のことだが、南には毎日出現しているみたいだが、西はどういう基準なんだろうな」
「全く分からん」
俺はマークⅡの肩にのるマークⅠをふと見て思い出す。
マークⅠの意識をファテーグポーションに移すことをだ。狙いはSPの回復手段に目覚めさせることだが、未だ索敵手段に目覚めないことから、水系にしか意識を移動できないという理由もあるが、さらに問題がある。
それはダークがなかなかマークⅠから離れたがらないことで、そうなってしまった原因が俺のせいでもあるからだ。
マークⅢが言うには、前回、俺がマークⅠの意識を移したときに、ダークは地面に広がった水を見てマークⅠが死んだと思っていたらしい。
それからは、今まで気にしていなかったマークⅠの所在をダークが気にするようになり、離れることを嫌うようになった。
まぁ、マークⅢがダークの言葉もある程度らしいが、理解できているのも驚きだが、今回はそうならないようにマークⅠの意識を移さなければダークがかわいそうだ。
俺はボウルを二つ用意して、片方にマークⅠに入ってもらい、もう片方にファテーグポーションを注ぐ。
準備は整ったので俺はルルルに耳打ちし、ルルルは微笑んだ。
ルルルはダークを床に下し、地面に千切った干し肉を置きながら部屋から出ていき、ダークは干し肉を食いながらルルルの後を追う。
くくくっ、上手いぞルルル。
俺はさくっとマークⅠの意識をファテーグポーションに移し、マークⅠの体だったポーションが残ってマークⅠが動き出す。
これは使えるのか? 一応、マークⅢに預けておくか。
俺がマークⅡの顔にボウル二つを近づけると、空間が歪んでボウルは消える。
少しの間をおいて、ダークを抱いたルルルが部屋に戻ってくると、ダークはマークⅠを二度見し、マークⅠの前に飛来する。
ダークは疑わしげな目でマークⅠを見つめている。
ぷっ、まぁ、そりゃそうだろうな。さっきまではマークⅠは20センチほどの大きさで、体色はポーションの色の薄い青色だった。だが、今は前より体も少し大きくなって、体色もファテーグポーションの色の薄い黄色だからな。
ダークは両前脚でマークⅠを持ち上げて、不審げな眼差しで床を見ている。
くくっ、いくら見ても水はない。しかし、こうなるとマークⅠは水系にしか移せない問題が生じることになる。マークⅠが水系以外の生命体になったら、認識できるのか分からないからな。
ダークがマークⅠを床に下すと、今度はマークⅠが二本の触手でダークを持ち上げる。
「キュ!! キュ!! キュキュ!!」
ダークは嬉しそうに鳴いている。
「マークⅠ、お前はダークとコミュニケーション可能なんだよな?」
〈うん、なんとなく〉
なんとなくかよ……だが、今後、マークⅠを別の物体に移動することがあるかもしれないからな。
「マークⅠ、マークⅢ、ゆっくりでいいからダークに、マークⅠが水系以外にもなれることを説明しておいてくれ」
〈うん〉
「分かりましたわ」
今日はいろいろあったな……
俺はベッドに横になると、一瞬で眠りに落ちたのだった。
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明日もたぶん10時に投稿する予定です。
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