第36話 魔物の村①
「待ってたデシ。ロストが初めてこの村に来た日本人デシ」
20センチほどの白いスライムが言った。
「なっ!? 日本語を話せるのか? それになぜ俺の名を?」
「プニは『言語』『解析』をもってるデシ」
「な、なるほどな。プニってのがあんたの名なんだよな?」
「そうデシ」
〈マ、マスター落ち着いて聞いて下さい。プニのステータスは何かしらの妨害で視れませんが、白い蜂のステータスは視れましたの。種族名はスノー・ホーネットで名前はフロー。『剛力』という攻撃力が2倍になる特殊能力を加味すると、その攻撃力は1万を超えていますの〉
マークⅢが発する思念の声は、明らかな焦りを帯びていた。
い、1万だと!? 攻撃特化の【暗黒剣士】ですら、『剛力』を加味しても1600ぐらいなはずだ……こんなのがごろごろいるのなら日本の奪還は不可能だ。
「……質問していいか?」
「いいデシよ」
「そっちのフローってのはこの世界において強いのか? それとフローぐらいの奴はいっぱいいるのか?」
向こうが先に俺たちを『解析』で視てるんだから、こっちが視てても文句は言わないはずだと思いたい。
「フローは元々、フロストホーネットという突然変異個体だったデシ。そこからスノー・ホーネットに進化した個体だから強いデシ。あと、フローぐらいの強さの魔物は一握りデシ」
「そ、そうか……」
俺は心の底から安堵した。
「それでロストをここに呼んだのは、一番最初にここに訪れた日本人にこれを渡せとマスターに言われてたからデシ」
マスター? こいつは誰かに仕えているのか?
プニは体から触手を伸ばして口の中に入れると、その触手の先には腕輪が握られていた。触手を伸ばしたプニは俺に腕輪を手渡した。
何で口から腕輪が出てくるんだ? 四次元ポケットかよ。
「くれるなら貰っておくが、何なんだこの腕輪は?」
「『全耐性』が付加された腕輪デシ」
「全耐性?」
「……ロスト殿は特殊能力についてあまり知らないようですね」
見かねたのかフローが話に割って入ってくる。
「ああ、特殊能力というより、この世界のこともほとんど知らないな」
「なるほど。では基本的なことをご説明します」
「よろしく頼む」
「まずは攻防手段についてですが、物理、魔法、特殊能力、魔導具の四つが存在します。たとえば剣による物理攻撃をシールドの魔法で防ぐこともできますし、ファイヤの魔法による攻撃を特殊能力の『土壁』で防ぐこともできます。つまり、魔法は魔法でしか防げないということではありません」
「なるほどな」
「次に状態異常攻撃についてですが、魔法、特殊能力、魔導具に存在します。たとえば『魅了』という特殊能力による攻撃を今のロスト殿が受ければ、100パーセントの確率で術者の傀儡に落ちることになります」
「……」
マジかよ……100パーセントなのか……
俺は驚きを禁じ得なかった。
「相手が強くなってくると特殊な攻撃で足元をすくわれることがありますので、それを懸念したマスターが『全耐性』が付加された腕輪を、ロスト殿に渡すように指示されたのです。そして、私の言う相手とは何も魔物だけではなく、人族、亜人、獣人も含まれているということです」
俺は人と争う気はないが、あえてこの場で警告してくるということは、人族だけでなく、亜人や獣人も信用し過ぎるなということなんだろうな。
「腕輪があれば防げるのか?」
「60パーセントほどの確率で無効にしてくれます。詳しく説明しますね」
俺はフローから説明を受ける。
まず、攻撃を無効にする手段として、代表的なものを挙げるなら軽減系という特殊能力らしい。
軽減系は軽減、耐性、無効の三段階があり、軽減は30パーセント、耐性は60パーセント、無効は100パーセントで攻撃を無効にできるらしく、一般的には四つの攻防手段ごとに分かれているとのことだ。
以下は軽減系の一覧
『物理軽減』『物理耐性』『物理無効』
『魔法軽減』『魔法耐性』『魔法無効』
『能力軽減』『能力耐性』『能力無効』
『魔導具軽減』『魔導具耐性』『魔導具無効』
『全軽減』『全耐性』『全無効』
フローによると、軽減ですら最上級職に就いても所持している職業は少なく、激レアな特殊能力らしい。そして、俺が貰った腕輪は『全耐性』が付加されているので、世界にこれのみだということだ。
そんな貴重すぎる物を貰った俺はどうすればいいんだ……
「とにかく、あんたらのマスターに直に会って、礼を言いたいんだがどこにいるんだ?」
「どこにいるのか分からないデシ。でもその腕輪はこの村に一番に来た日本人が貰えるものデシから、ロストが気にすることはないデシよ」
なんか論点をずらされてるような気もするが、所在が分からないのならこれ以上、食い下がっても意味はないか。
「じゃあ、すまんがマスターに会ったときにでも、本当に感謝していると俺が言っていたと伝えてもらえないか」
「分かったデシ」
「助かる。じゃあ、俺たちは行く」
「待ってほしいデシ」
俺が踵を返そうとしたところで、プニに声を掛けられる。
「ロストは『生命付与』っていう、プニも見たことがない能力を持ってるデシ」
「……それがどうしたんだ?」
見たことないって『生命付与』は、そんなに希少だったのか。
「プニたちはここで自我意識を創り出す研究をしてるデシ。でも難しいデシ……」
そう言われて俺は辺りを見回すと、整然と並ぶ棚があることや、様々な素材が置かれた作業台が目に入る。
日本でもAIに自我を持たせようとしているが、こっちでもそうなのか。
「だからロストにお願いがあるデシ。『生命付与』で四番目の生命を創って、それをプニに譲ってほしいデシ。ダメデシか?」
一緒に過ごしてきたマークⅠたちを譲れと言われれば、即座にNOだと答えるが、今から創り出す生命なら問題ないか……それにこいつらには腕輪を貰った借りがあるしな。
「……だが、どうやって四番目をプニに譲るんだ? 言っとくが俺はそんなことはできないぞ?」
「それはこっちでやるから大丈夫デシ!! 大切に育てるから譲ってほしいデシ!! お願いデシ!!」
プニは縋るような面持ちで訴える。
「分かったからそんな顔するな」
「ありがとデシ!! じゃあ、持ってくるデシ」
瞳を輝かせたプニはその場から掻き消える。
消えた? テレポートの魔法か? いや、魔法は魔法名を発声しないと発動しないはずだ。となると『瞬間移動』か……マジかよ。
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作者の執筆速度が 1.5倍…いや2倍くらい になります。(※個人差があります)
明日もたぶん10時に投稿する予定です。
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