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第35話 ウニ

 

 俺たちが防壁の門を抜けると、そこには見渡す限りの岩場が広がっていた。


 「はぁ?」


 なんで岩場なんだよ? 普通は建物とか農地とかじゃないのか?


 「……いや、違うな」


 ここは魔物の村だ。そんなものはなくてもおかしくない。


 俺は岩場を観察すると、岩場の中に何本かの道があることに気づいて、一番近い道を進む。


 しばらく歩いていると、岩場にゼリーのお化けのような魔物があちこちに見え始めた。


 「あれはロパロパ種ですわ。常軌を逸した移動速度と壁を軽々と登る強靭な脚力。近づく敵には『強酸』や『溶解液』を浴びせかけ、攻撃魔法まで備えた獰猛な魔物ですの」


 「パックマンの敵キャラにしか見えん」


 ロパロパ種の体色は多彩で、一メートルほどの個体ばかりが目につくが、俺たちが先に進んで行くと二メートルを超える大きさの個体が散見される。


 さすがにこのでかさになると不気味だな。


 俺はロパロパ種と目を合わせないように歩いていると、左右の岩場から20センチほどのロパロパ種が、ぞろぞろと出現して俺とマークⅡに飛び掛かる。


 「ロパロパ種の子供たちですわ。彼らは穴の中で育てられていますが、好奇心旺盛で穴の中からよく出てきますの。野生ではそれが災いして行方不明になったり、魔物に食べられたりして大人になれる個体は少ないですの」


 ロパロパ種の子供たちは、俺やマークⅡの体をよじ登って遊んでいるみたいだ。ダークたちはマークⅡの肩にのっていたが、今は上空に逃れている。


 俺とマークⅡはロパロパ種の子供たちに好きにさせながら進み、岩場を抜けると辺り一帯に花が咲き乱れていた。


 今度は花か? 次は何がいるんだ?


 俺とマークⅡが立ち止まって花を眺めていると、俺たちにしがみついていたロパロパ種の子供たちが、一斉に花の中へと突撃して見えなくなった。


 花園にも何本かの道があり、俺たちは一番近い道を進んで行くと、蜂の魔物の姿が無数に見える。


 「ホーネット種がこんなにいるのか」


 「ビー種も交ざっていますし、ビー種のほうが数も多いですわ」


 「ビー種? 蜜蜂の魔物ってことか? 両方ともモフモフで全く見分けがつかないな」


 「あえて言えば、ビー種の方が顔が丸く、毛が多くてずんぐりむっくりしていますの」


 「そう言われても俺には見分けがつかん」


 「決定的に違うところは上位種の姿ですわ。ビー種は上位種になっても大きくなるだけで姿は変わりませんが、ホーネット種の上位種の姿は大雀蜂に酷似し、その強さは虫系の魔物の中でもトップクラスですの」


 大雀蜂だと? 凶悪すぎるだろ。そんなのには出会いたくない。


 俺たちが道を進んでいくと三メートルを超える個体も数知れず存在し、蜂たちは巨大な花の中にもぐることを繰り返している。


 今、こいつらに襲われたら一溜りもないだろうな。まぁ、襲われることはないだろうが、だが、それは俺の楽観的な思い込みに過ぎないかもしれず、一抹の不安が脳裏をよぎる。


 しかし、魔物の村から攻撃を受けたという話を俺は聞いたことがない。そのことから推測すると、この村を統治している存在は人族と共存を望んでいると考えることができる。それにこの村を訪れることを俺が決めたのだから、俺から攻撃することはない。


 俺は猜疑心に苛まれながらもなんとか花のエリアを抜けると、建物が立ち並ぶ区画に出る。


 そこには、蟻の魔物や鼠の魔物といったように様々な種類の魔物が多数いたが、最早、俺に驚きはなかった。


 俺たちが先に進んでいくと建物の他に畑もあり、巨大な野菜のような作物を育てているようだ。


 「ていうか、村に入ったときに建物や畑がないからおかしいと思ったが、ロパロパ種が岩場で暮らしていたから納得したのに、建物や畑があるのかよ」


 「そもそも、一般的に知られている魔物は巣を作って暮らしているので、建物を建築したり、農業などは行いませんわ」


 「言われてみればそうだよな」


 じゃあ、俺が見ているものは何なんだ?


 「この村を統治している存在は何だと思う?」


 「分かりませんの。ですが知性の高い魔物の筆頭は魔族ですの。けれども魔族は極悪非道と言われていますので、この村を統治している存在だとは思えませんわ」


 「確かに漫画なんかでも魔族は知性が高いからな」


 ていうか、魔族は極悪非道なのかよ……


 「それに他を挙げるとすると、魔物が上位種を超えた存在に至ることで、高い知性を得ることもありますし、虫系の魔物のキングやクイーンも高い知性を有していると思いますの」


 「はぁ!? なんだそりゃ? 上位種以上の存在が魔物にはいるのか……」


 ……おいおい、そうなってくると話は違ってくる。最上級職じゃ勝てない魔物が日本にいるかもしれないってことだからな。


 「ただそれらの魔物たちは同系統の魔物を傘下に加えることはあっても、この村のように多系統の魔物を傘下に加えることはないと思いますわ。例外があるとすれば、それは魔王だけだと思いますの」


 「魔王か……」


 やっぱりいるのか。魔王自ら日本に来ることはないだろうが、そうなると、上位種以上の存在が日本で魔物の指揮を執っている可能性が高い……これはいよいよ俺の嫌な予感が現実味を帯びてきたようだ。


 「ですがこの村に魔王はいませんし、この村の統治者は人族とも共存しようとしていることから、この村の統治者の特定は困難を極めますの」


 「……なら会ってみるしかないな」


 俺たちが道なりに進んでいくと、突然、多数の鳴き声が響き渡る。俺は鳴き声が聴こえる方向に顔を向けると、そこには多数のペンギンのような魔物が手に木の杖をもって鳴き喚いていた。


 「何をやってるんだあのペンギンたちは?」


 「聞いてみますの。スフェニシダエ種の方に向かってほしいですわ」


 頷いたマークⅡが道から逸れて右へと歩いていく。


 しばらくすると、話を聞き終えたらしいマークⅡが戻ってきた。


 「彼らは魔法を会得しようと修業しているようですの」


 「……えっ? 魔物って修業したりするのか?」

 

 「普通はしませんが、ここの魔物は異質ですから。けれども、やっていることがおかしいので助言をしたのですが、聞く耳を持ってくれませんでしたわ」


 「おかしいって何がおかしいんだよ?」


 「修業の内容が魔法!! 魔法!! 魔法!!という感じで魔法という言葉を連呼しているだけですの。そんなことをしても、魔法を会得することはできませんから意味がありませんの」


 「お、おう……」


 俺は苦笑する以外にない。


 再び歩き始めた俺たちが建物の区画を抜けると、平原が広がっていた。


 「はぁ? どういう基準なんだよ」


 一応遠くまで見てみたが、何もなさそうなので俺たちは一気に進むことにした。


 かなり進んだところで、黒いウニのような魔物が俺たちの傍に寄ってくる。


 なんだこいつは?


 俺たちの前方に移動したウニは俺たちを先導したいのか、前をピョンピョン飛びながら移動している。


 まぁ、進行方向は同じだからついていくとするか。


 しばらくウニを追いかけていると、巨大な山が見えてくる。


 山が見えてきたってことは、この村の支配者は山の中に拠点を構えているのか?


 俺たちが平原を進んでいくと、饅頭のような魔物がいたるところに佇んでいた。


 「あの魔物たちはスライムですわ」


 「強いのか?」


 スライムの体の大きさは30センチほどで、様々なカラーバリエーションがあるようだ。


 「レベル1だと基本ステータスの値が1ですので、とても弱いですわ」


 はぁ? ここは村の最深部じゃないのか? 普通、支配者がいるような区画は強い奴らに護られているもんだろ? そこを護る魔物が弱いって、いったいどうなってんだ? ……マジでこの村は分からんな。


 俺たちはスライムを踏まないように平原を進んでいくと、ようやく、山に辿り着いた。


 ウニは勢い余ったのか、ごつごつした山壁に突き刺り、ウニの中から黒い物体が飛び出てきた。


 その物体は、黒いスライムだった。


 へぇ、殻から離脱できるスライムもいるのか。


 俺は山壁に突き刺さったままの殻を引き抜き、黒いスライムに渡そうとしたが手の感触に違和感を感じ、思わずマークⅢに尋ねる。


 「この殻は何でできてるんだ?」


 「ブラックミスリルですわ。つまり、それはスライム用の武具ですの」


 「やっぱりか……なんかおかしいと思ったんだよな」


 それにしても、ミスリルまであるのかよ。


 俺は棘の武具を黒いスライムの横に置いたが、黒いスライムは棘の武具を気にもせずに、ピョンピョン移動して俺たちの方に振り返る。


 「またついて来いってことか……」


 俺たちは黒いスライムの後を追いかける。


 黒いスライムが山沿いに進んでいくと、山肌に巨大な洞穴が掘られているのが目に飛び込んでくる。


 洞穴の前には門番の姿はなく、辺りにはスライムたちがウロウロしているだけだ。


 黒いスライムは洞窟の前で立ち止まり、振り返って待っている。


 ここに入れってことだよな。さて、どんな魔物がいるのか楽しみだぜ。


 俺たちは洞穴の中に入って進んでいくと、洞穴の壁が土から綺麗な白い石へと変わり、開けた場所に出る。


 そこには、白いスライムと巨大すぎる白い蜂の魔物の姿があったのだった。

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