第3話 10日間の結界と『生命付与』の代償 ☆ロスト
目が覚めると、俺はテーブルの上で突っ伏していた。
どうやら水晶玉の情報を見ながら、寝落ちしていたようだ。
俺はふと左腕につけている、機械式の腕時計に視線を移す。
「12時か……」
だが、ここに来た時間を見ていないので、ここに来てから何時間経っているのか分からない。それにこっちも一日が24時間なのかもだ。
苦笑した俺は自分の服装に視線を転ずると、黒い半袖Tシャツにグレーのズボン、黒のスニーカーという格好だった。
「まるで近所のコンビニに買い物に出る格好だな」
こんな格好で外に出ても大丈夫なのか?
そんな思いが脳裏をよぎったが喉が激しく乾いていることに気づく。俺は樽の蓋を開けてテーブルの上に置いてあるコップを手に取り水を飲む。
「俺の髪色は灰色なのか……」
樽の水に映る自分の姿を見た俺は、思わず呟いた。
髪型は普通にミディアムヘアーで顔の作りは悪くはない。だが、正直、そんなことはどうでもいい。俺は日本を魔物から奪還するためにここに来たんだからな。
まずは『生命付与』の検証が最優先だ。
俺は多数置かれている樽の蓋を開けて中身を確認したが、干し肉と果物、水しか入っていなかった。
「短剣すらないのかよ……」
仕方ない……外に出て生命を付与できそうな物を探すしかないか。
俺は部屋の扉を開けて外に出ると、小屋は半球体の透明な膜のようなもので覆われていた。
これが水晶玉の情報にあった結界ってやつだな。
しかし、10日でこの結界は消失するらしい。
要するにあと9日ほどで、この小屋から出ていけるぐらいに強くならなければいけないということになる。
俺は小屋を一周して周辺の様子を確認すると、俺の小屋は森の中にある開けた草原に建てられていた。そして、小屋の出入り口を基準にすると、左と右にも小屋がある。
距離は50メートルほど離れていて、二軒とも結界が張られているから俺と同じ転移者がいる可能性が高いだろう。
俺は結界の外に出るために、手で結界に触れてみると手は何の抵抗もなく結界をすり抜けた。
この結界は本当に機能しているのか?
俺は不安に苛まれながら結界の外を、注意深く観察する。
「今なら大丈夫そうだな」
俺は結界から外に出て周辺を探索したが、草や花が咲いているだけであとは枯れ葉が落ちているだけだった。
摘んだ花に『生命付与』は使えるだろうか? いや、摘んでも花はすぐには死なないよな? さすがに枯れ葉は生命として弱すぎるし、さてどうするか?
俺の視線はおのずと森の方角に向いていた。
やはり、森の中に入るしかないよな……
俺は意を決して森の中に入り、折れた木と10センチメートルほどの黒くて丸い石を拾い、急いで小屋へと逃げ帰る。
さて、どっちに『生命付与』を使うか?
折れた木は50センチメートルほどの長さがあるから、武器にでもしたほうがいいだろうな。ってことは、石に使うしかない。
俺は『生命付与』を丸い石に発動すると、突然、俺の視界がぐるぐると回り、急速に体から力が抜けていく。
な、何だ? 何なんだこの急激な疲労感は? まるで重い荷物の積み込みのバイトをやってる時の感じに似ている。
それと同時に急激な空腹感に襲われた俺は、立っていられなくなり、腹を押さえながら地面に膝をついた。
「や、やばすぎるだろ……」
たった一回『生命付与』を使っただけでこうなるのか?
――やべぇ、このままでは意識が飛ぶ……
俺は気合を入れてなんとか立ち上がり、テーブルまで移動して水晶玉に触れる。
HPは20ほど残っているが、SPが残り1しかないのかよ……
「マジでやべぇな……」
俺は樽の傍まで移動し、中に入っている干し肉を手に取って食らいつく。干し肉を食べ終わると、限界が訪れて意識を失ったのだった。