第28話 転職という一手
翌日、東門の近くで野営をしていた俺たちは、身支度を整えてから冒険者ギルドで魔物の首を換金し、武具で素材も売却した。
締めて500万円ほどになったが、通常種を50匹狩れば500万になるから、三日でこの額だと少ないと感じてしまう。
今の俺の強さからすれば、通常種など雑魚でしかないからだ。
まぁ、ルルルたちのレベルUPや小屋を探すために、移動に重点を置きすぎたことが原因だから仕方ないが、その甲斐あってか、マークⅠは『治療』に目覚めたし、マークⅡも強くなった。
マークⅡは意識を砂鉄に移動させた時点では、ゴーレム種のようにドシン! ドシン! と一歩ずつ歩いて動きが鈍重だった。
だが、レベルが上がるとそれも改善された。マークⅡを視てみると攻撃力が約200、守備力が約200、素早さが約100といった感じのステータスの値になっていて、職業的に言えば上級職の【重戦士】に近い。
さらには砂鉄の塊だからか【重戦士】と同様に、『強力』と『堅守』に目覚めている。それらを反映させれば、攻撃力と守備力の値は300になり、アイアンランスという鉄の槍を飛ばす魔法にも目覚めている。
要するに、すでにラードたちより強い。
道具屋で、ポーションなどの回復アイテムや食料などを調達した俺たちは、南門に向かって歩を進める。
台車はマークⅡが押していて、ダークを抱いたルルルが台車に乗っている。
ルルルはマークⅢによると、レベルが9まで上がっている。基本ステータスの値が80まで上がっているので、台車に乗る必要はないのだが、好きにさせている。
歩いたからといって、彼女の身体能力やSPが向上する訳でもないからだ。
南門に到着した俺たちが、防壁沿いに長蛇の列をなすテントを確認しながら進んでいると、ラードたちがテントを片付けているところだった。
「どうやら、丁度いいタイミングだったようだな」
「ロスト!?」
ラードの驚きの声に、すぐにレシアがテントの中から躍り出てくる。
「ロストさん!! 戻ってきてくれたんですね!!」
レシアはこぼれるような笑みを浮かべている。
「まぁな。だが五日程度に一度ぐらいの頻度で、西の小屋には確認に行くつもりだ。今回は戦闘職の奴らが六人いただけだったからな」
「なるほどな」
「ちなみに、北と東も探したが小屋は発見できなかった。お前たちは何か進展があったか?」
「いや、ないな。それに格好の悪い話だが、俺が安全策をとりすぎて金策すら上手くいってない。だから今日は、西の小屋の方に金策に行こうと考えてたんだ」
ラードはバツが悪そうに頭を搔いている。
この面子で金に困るのか……やはり、転職を急ぐべきだな。
「そうか。だが今日は東の街に行くぞ」
「はぁ!? そ、それはいくらなんでも無茶だろ……少なくとも上級職の前衛で固めないと、東には進めないんだぞ」
「いや、そうでもない。とにかく東の街に行って、転職可能かどうかをまず調べることが最優先だ」
「て、転職だと!? ロスト、お前は転職に掛かる費用を知ってて言ってるのか?」
「ああ、上級職で500万、最上級職で1000万だろ」
「その通りだ。それが分かっているなら、金の無い俺たちが転職なんてまだまだ先の話だろ」
ラードの言葉に、ネヤたちも同意を示して頷いている。
「いや、すでに一人、二人なら転職できる金はある」
「えっ!?」
ラードたちは面食らったような表情を浮かべている。
「だが、それ以前に転職できるかどうかのほうが問題だ。転職は資質が全てらしいからな。とにかく行くぞ」
俺が踵を返して歩き出すと、マークⅡが俺の横に並んで歩く。
「ちょ、ちょっと待てよ」
南門から出た俺たちは、東の砦に向かって移動する。
「で、どうやって東の砦に行くんだ?」
「まずは魔物と戦っている冒険者たちを目指して進み、そこから別の魔物の群れと戦っている冒険者たちを目指す」
「……はぁ? 要するに魔物と戦わないのか?」
「ああ。前に俺たちが別れた時に、俺たちが東の砦に行くって言っていたのを覚えているか?」
「まぁな」
「その時もこのやり方で東の砦に行ったんだ。ちなみに東の街の難易度も東の砦に行くのと変わらないらしい」
「あの時点ですでに転職を想定してたのか」
ラードは呆れたような表情を浮かべている。
「……それで鎧の彼女は何者なんだ? 全く喋らないが新しく加わった仲間なのか?」
「何を言ってる。俺の特殊能力を忘れたのか? その鎧はマークⅡだ」
「なっ!? けどマークⅡは台車だっただろ?」
「俺は俺が生命付与した生命体の意識を、別のものに移動させることもできるんだ」
「マ、マジかよ……」
絶句したラードは、台車とマークⅡを何度も見比べている。
「ねぇ、何の話をしているの? 私たちにも分かるように説明してよ」
ネヤたちは不可解そうな表情を浮かべている。
「何だ、俺の特殊能力を言ってなかったのか」
「ああ、お前たちが新たな仲間たちを連れてくると思ってたから、二度手間になると思ってな」
「なるほどな。俺の特殊能力は『生命付与』で、命がないものに生命を与えて使役できるというものだ」
「えっ!? 【魔物使い】じゃなかったの!?」
ネヤは純粋な驚きに満ちている。
「そして、俺の職業は【カスタードプリン】だ」
「は、はぁ!? 何言ってるのよ!?」
理解が追いつかないのか、ネヤは声を荒げた。
台車に積んである鞄から皿を取り出した俺は、『無限プリン』で皿の上にプリンを出現させる。
「なっ!?」
ネヤたちは雷に打たれたように顔色を変える。
「た、食べてもよろしいですか?」
口から少し涎を垂らしているレシアが俺に尋ねると、俺は無言で頷いた。
俺から皿を受け取ったレシアは、懐からスプーンを取り出してプリンを口に運ぶ。
「やっぱり、ロストさんのプリンはとても美味しいです」
レシアは幸せそうにプリンを食べている。
「ちなみに、マークⅡの本体は鎧ではなく砂鉄だ。砂鉄の塊だから鎧を動かすことが可能なんだ」
俺は台車の購入を検討していたときに、全身鎧にも着目していた。
しかし、俺が作った台車が曲がれなかったことから、物理的に動かせない物は動かないことを理解していたから、全身鎧を購入しなかった。
「ねぇ、【カスタードプリン】って聞いたことない職業だけど、強い職業なの?」
ネヤは探るような眼差しを俺に向けている。
「ああ、強い職業だと言えるだろう。だが、最初があまりに弱すぎるんだ。だから俺とルルルは、そんな不遇職の奴らを保護するために小屋を探していたんだ」
「……なるほどね。ていうか、ルルルも不遇職なの?」
「まぁな。ルルルは【無職】という職業で、俺の初期値は10だったがルルルは1だ」
「い、1ってそんなのどうしようもないじゃない……」
「まぁな。だが、今のルルルの強さは、お前たちと遜色ないレベルに達している」
「えっ!?」
これにはネヤたちも、ラードたちも間抜けな面をさらすことになったのだった。
お盆の連休が終わったので、明日からは毎日一話ずつ投稿する予定です。
たぶん、10時頃だと思います。
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