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第27話 引き継がれし力?


 俺たちは俺が小屋の位置を予想した地点に向かっていた。


 移動速度を優先するために、俺がアント種やホーネット種を倒して森を進み、俺たちは中間地点にたどり着く。


 俺はこの辺りにも小屋があっても不思議ではないと思っていたのだが、小屋はなかった。


 「マークⅠ、空から何か見えないか探ってくれ。ただし、真上にしか飛ぶなよ。また魔物に襲われる可能性があるからな」


 〈わかった〉


 ダークたちは空高く上昇して点になる。


 あいつは加減を知らないのか……とはいえ、この世界は広すぎるから小屋を探すにはダークの飛行能力は有用だ。


 確か飛行機が飛んでる高さが1万メートルぐらいで、その高さから見える範囲が400キロぐらいだったと記憶している。


 そこから計算すると、1000メートルで40キロ先が見えることになるから、最低でもそのぐらいの高さは必要だろう。でないと、俺の移動速度は日本にいた頃の200倍以上に上がっているから、歩いて探したほうが早いからな。


 しばらくすると、マークⅠたちが空から帰還する。


 周辺には小屋はなかったが、俺が予想した地点に小屋があるらしい。


 ということは、俺が推測したように四角形の全ての角に小屋があることになる。


 俺たちが進み始めると、三匹のレッサー・コボルトが躍り出てくる。


 〈ファイヤですわ〉


 俺が左手で持っているマークⅢが、ファイアの魔法を唱え、激しい炎が一匹のレッサー・コボルトを焼き尽くす。


 〈ウォーター〉


 レッサー・コボルトたちの様子を見ていたマークⅠが、ウォーターの魔法を唱える。


 突進してくるレッサー・コボルトの首を水の刃が刎ね飛ばし、残ったレッサー・コボルトが俺に向かって槍を投げるが、俺は平然と右手で槍を受け止める。


 恐怖に顔を歪めて後ずさるレッサー・コボルトに対して、30センチほどの青い粘液の塊を手に持ったルルルが走り出す。


 「えいっ!」


 レッサー・コボルトに接近したルルルが粘液の塊を投げつける。


 水の塊が顔に命中したレッサー・コボルトは、顔が溶け始めてもがき苦しむ。


 ルルルが青い風を放ち、青い風がレッサー・コボルトの体を突き抜けて消失すると、レッサー・コボルトの体から青い球体が出現し、ルルルの体に吸収された。


 顔が溶け落ちたレッサー・コボルトは、力なく地面に突っ伏した。


 へぇ、ルルルも動けるようになってきたな。


 「なぁ、マークⅢ、ルルルが吸収した青い球みたいなのは何なんだ?」


 〈あれは『ヘロヘロリターン』ですの。SP1を消費して、敵からSPを大幅に奪えるんですわ〉


 「上手く立ち回れば特殊能力使い放題じゃねぇか」


 ルルルも俺とは違う方向で強くなるかもしれないな。


 マークⅠたちが槍と首を回収し、マークⅡに積み込むと俺たちは進み始める。


 ここまで来れば、レッサー・コボルトやレッサー・オークなどの、弱い黒亜人たちばかりが出現するので、俺はルルルたちや戦いたいと言ってきたミルアたちに戦闘を任せる。


 稀に黒亜人の中では手強い通常種のオークにも遭遇するが、基本的に数が少ない。なので、彼らが得意とする『徒党』での戦術は意味がないので問題にならず、俺たちは順調に進んでいると開けた場所に出る。


 そこには結界に護られた三軒の小屋が並び建っていた。


 俺は小屋の扉をノックしてみたが三軒共に返事はない。仕方ないので俺たちは住人たちの帰りを待つために、結界内で休憩することにした。


 俺がマークⅡに積んでいた樽を下すと、ルルルが樽の蓋を開けて果物を食べ始める。


 その光景を目の当たりにしたミルアとベルアが、物欲しげな表情で果物を見つめている。


 やはり、戦闘職だと小屋に食料はないっぽいな。


 「食っていいぞ」


 「あ、ありがとうございます!!」


 歓喜の声を上げるミルアが果物を手に取ると、ベルアが申し訳なさそうに何度も頭を下げながら、果物を手にして口に運ぶ。


 「ルルルの小屋に食料はあったのか?」


 「うん」


 「内訳は?」


 「果物が10樽」


 「へぇ、少ないな」


 基準が分からんな。俺の小屋には干し肉、果物、水が10樽ずつあった。ルルルのほうが弱いのに樽の数が俺より少ないのはどういうことなんだ?


 俺は思考を巡らせていると、レシアの話を思い出してはっとなる。


 レッサー・コボルトに殺害された男の樽が俺に引き継がれているのか? それに隣の小屋の住人の姿も見ていないが、そいつも俺が来た時には殺害されていて無人だった可能性もある。


 そうだとすると、二人分の20樽が俺の小屋にあったと考えてもおかしくはない。


 何よりも、この仮説は樽の数だけの話ではない。俺の職業、魔法、特殊能力に関連性がないことも含まれている。


 ルルルは【無職】で魔法も特殊能力もなかった。これを基準に考えると俺は【カスタードプリン】で、魔法も特殊能力もないはずだ。


 つまり、俺は殺害された二人分の魔法と特殊能力を、引き継いでいる可能性があるかもしれないってことだ。


 〈マスター、ひとがここにくるよ。かずは3〉


 マークⅠの思念の声で俺は我に返って頷くと、ルルルが俺に木のコップを手渡した。


 数が3ってことは、小屋の住人たちだろうな。


 俺は無言で受け取った木のコップの中に、『無限プリン』でプリンを創り出してルルルに手渡す。


 木のコップを受け取ったルルルは、幸せそうにプリンを木のスプーンですくって食べている。


 しばらくすると、森の中から三人の男が姿を見せる。


 彼らの格好は、革の装備に剣、革の装備に短剣、灰色のローブに杖といった感じだ。


 装備からしてこいつらも不遇職ではないようだな。


 男たちは真っすぐに俺たちに向かって歩いてきて、剣士風の男が硬い表情で話を切り出した。


 「あんたら日本人だよな?」


 「ああ、そうだ」


 「……そうか。それでここで何をしてるんだ?」


 俺の言葉に安堵したのか、剣士風の男は少し表情を和らげる。


 「俺はこっちに来て困っている奴がいたら助けるために動いてる。だが、あんたらには必要ないようだから、俺の用事は済んだ。ミルアたちはどうする?」


 「私たちはここで戦わせてほしいです」


 「どういうことなんだ? あんたらは仲間じゃないのか?」


 剣士風の男は怪訝そうな顔をする。


 「それは……」 


 俺は男たちに、ミルアたちと合流した経緯を説明する。


 「なるほどな。そういうことならここで戦っても構わないし、俺の小屋を貸し出すぜ」


 「ありがとうございます!」


 ミルアは男たちに深くお辞儀をし、互いに簡単な自己紹介をしたのだった。


 ちなみに、剣士風の男が【剣士】で名前がデイン。短剣を携えている男が上級職の【怪盗】でソック。ローブの男が【僧侶】のミドーだ。


 俺は魔物の素材や魔物の首が村で換金できることや、この辺りにいる日本人は極めて少数で、大半が村の南に小屋が出現しているので、村の南門に近くに日本人が集まっていることなどを説明した。そして、デインたちに人族語学習セットを手渡してから、足早に戦士の村へと帰還した。


 翌日、戦士の村の西門から外に出た俺たちは、戦士の村の北門に向かっていた。


 わざわざ、村の外を移動している訳は、ルルルやマークⅠたちのレベルを上げたいからだ。さすがにレッサー・コボルトなどの弱い魔物では、経験値効率が悪いからな。


 だが、村の周りは巡回している兵士たちが多く、それによって魔物の数も少ないので、金を稼ぐことができないから冒険者たちもいなかった。


 失敗した。こんな状況なら村の中を移動した方が良かったぜ。


 俺たちは魔物と戦うことなく北門に到着し、そこから北上する。


 この辺りは森の中に巨大な岩が点在している地形だ。出現する魔物がセンチピード種、蠍の魔物のスコーピオン種、亀の魔物のタートス種のように、異常に守備力が高い魔物が集まっている。


 それが理由なのか、ここに冒険者たちはいなかった。


 幸いなことに、ルルルやマークⅠ、マークⅢは魔法や特殊能力による攻撃がメインなので、魔物の守備力が高くてもダメージを与えられるので問題ないが、ラードたちなら即撤退だろうな。まぁ、それ以前にマークⅠの索敵能力がなければここでは戦えないが。


 俺たちは魔物を倒しながら北上し、小屋を探すが見つからない。それでも北上し続けていると、おかしな魔物たちに遭遇した。


 レッサー・アースゴーレム、レッサー・ストーンゴーレム、レッサー・アイアンゴーレムという人型の魔物だ。


 それぞれの体が土、石、鉄で構成されていて、その全長はニメートルを超えている。


 どんなに攻撃してもゆっくりと再生するのだが、腹の辺りにあるコアを破壊すれば体が崩れ落ちて、体を構成している素材の塊になる。


 そんな性質のため首も回収できないので、彼らと戦うメリットはないが、レッサー・ストーンゴーレムとレッサー・アイアンゴーレムを倒すと砂の塊と砂鉄の塊になったので、一応麻袋に回収している。


 マークⅢのアイテム収納能力はレベルが上がったことにより、台車一台分だった収納力が大幅に上昇しているので、どんなに素材を入れても問題ないようで助かっている。


 彼らの他にもおかしな魔物はここにはいる。


 それがレッサー・レザーアーマーと、レッサー・アイアンアーマーだ。


 彼らの見た目は皮の全身鎧と鉄の全身鎧といったもので、ゴーレム種と違ってコアが存在しないので、バラバラに破壊しないと倒せないのが面倒だ。


 マークⅠは彼らの死体を嬉しそうに回収しているが、おそらく、首以外は金にならないだろう。


 で、俺はずっとマークⅡの次の体の候補を考えていたが、ゴーレム種やレッサー・アイアンアーマーから発想を得て、マークⅡの意識を新たな体に移動させた。


 その体は砂鉄の塊だ。マークⅠのように石や水でも悪くはないのだが、どうせなら違う方向性を試したかったのが理由だ。


 そのため、俺は巨木を斬り倒し、その木で人型の型を作り、その型に砂鉄の塊を流し込んでから、マークⅡの意識を砂鉄に移動させた。


 これにより、マークⅡは人型のままで動き回っている。


 ルルルは俺が何をしているのか分からなかったのか、マークⅡが起き上がって動き出すと、目を剥いて驚いていた。


 まぁ、どうなるのか不安だったが、最悪、マークⅠのように饅頭のような姿にはなるだろうと思っていたが、人型をイメージした俺の意思が反映されることが分かったのは収穫だった。


 とりあえず、マークⅡには戦斧を持たせてある。


 次はマークⅠだ。マークⅠはもっと早い段階で次の体に移動させようと考えていたのだが、体を変更するとマークⅠの索敵能力が失われる可能性があるので躊躇していた。


 俺は、マークⅠが索敵能力に目覚めることを期待していたが、一向に目覚めないので、液体ならいいだろうとマークⅠの体をポーションに変更した。


 マークⅠの体はコップに入っていた水の容量しかなく、10センチメートルほどの饅頭のような姿なので、今回はボウルにポーションを5本を入れて、体の容量も大きくすることにした。


 狙いは当然、ポーションによる回復手段に目覚めることと、体の容量を増やしたことによる索敵能力の向上だ。


 マークⅠは20センチほどの大きさになり、辺りを動き回っているが、ダークは地面に広がった水をマークⅠだと思っているようで、ずっと悲し気な声で鳴いていたのだった。


 俺たちは日が暮れる前に戦士の村に帰還したが、北門に近づくとマークⅡを台車に乗せて北門を通過し、そのままの足で武器に直行する。


 俺は砂鉄の塊が動いていると不審に思われることを懸念して、マークⅡに全身鎧を薦めた。マークⅡは女性用の全身鎧を選び、武器は戦斧が気に入ったのか武器は購入しなかったが、その代わりに大盾を選んだ。


 翌日、俺たちは東門から外に出て、一日かけて小屋を探したが、発見にはいたらずに村に帰還したのだった。

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本日、もう一話投稿する予定です。


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