第26話 小屋の法則
俺たちはマークⅠたちが発見した小屋に向かって、鬱蒼とした森の中を進んでいた。
最初に遭遇した魔物が例のごとく、二匹のレッサー・コボルトだった。
「マークⅠ、ダークに糸で動きを封じるように指示を出せ」
〈わかった〉
「キュキュッ!!」
ダークは二発の糸の球を吐き出し、レッサー・コボルトたちは糸によって動きを封じられる。
俺は瞬時にレッサー・コボルトたちに肉薄し、両方を軽く押して倒した。
そして、片方の腹を槍で突き刺して地面に縫い付けると、動くことができないレッサー・コボルトが奇声を上げる。
だが、俺は構わずに左手に持った松明をレッサー・コボルトに近づけると、マークⅢがレッサー・コボルトの顔に移動した。
レッサー・コボルトの口から、これまで以上の奇声が迸る。
くくっ、さすがマークⅢだ。相手のどの部分を焼けば、早く絶命させられるか分かっている。
「ルルル、もう片方に止めをさせ」
「う、うん」
ルルルは、糸をほどこうと唸り声を上げているレッサー・コボルトに近づき、鉄のクロスボウで矢を放つ。
矢は脳天を貫通して、レッサー・コボルトは沈黙した。
俺はルルルが倒したレッサー・コボルトの首を槍で切断すると、ダークが飛んできて、前脚で首を掴んで飛んでいき、マークⅡに積み込んだ。
へぇ、頭がいいな。マークⅠの指示か?
〈あたまがないほうは、いらないよね?〉
「ああ」
すぐにダークは、レッサー・コボルトの死体に目掛けて飛んでいって食いつくと、マークⅠは地面に転がっている二本の鉄の槍を拾い、マークⅡに積み込んだ。
本当にアイテム回収が好きな奴だな。金銭的にはレッサー・コボルトの鉄の槍などいらないが、投擲による対空手段になるから使い道はある。
俺が視線を顔を焼かれているレッサー・コボルトに転ずると、レッサー・コボルトはまだ動いていた。
ていうか、顔全体が炎に包まれているのになんでまだ動けるんだ? 炎と一緒に酸素も吸い込んでいるのか? どうやらこいつらに一酸化炭素中毒みたいな概念はないみたいだな。
しばらくすると、レッサー・コボルトの顔は完全に炭になり、マークⅢがふわふわと飛んできて松明の炎と一緒になる。すぐにダークがレッサー・コボルトの死体をばくばくと食べ始める。
「よくやったマークⅢ」
〈余裕ですわ〉
俺は『生命付与者解析』でマークⅢを視る。
「おお、レベルが上がってファイヤの魔法に目覚めてるぞ」
やはり、火に関連した魔法や特殊能力に目覚めるという推測は、合っているようだ……ん?
「なんでアプレーザルの魔法と『アイテム収納』がないんだ?」
〈それは水晶玉に付加された魔法と特殊能力だからですの〉
そういえば高性能だと言っていた気がするな。となると、マークⅢを水晶玉に戻さないと首が溜まる一方だ。だがここはもうしばらく、火のままでレベルを上げたいところだ。
というのも、マークⅢを水晶玉に戻したら、もう攻撃手段に目覚めない可能性があるからだ。
俺には水晶玉がどんな魔法や特殊能力に目覚めるのか、想像もできないからな。
俺たちは再び進み始めて、マークⅢとルルルが止めを刺すというやり方で、10匹ほどのレッサー・コボルト倒した。
だが、そこから先は、アント種とホーネット種の縄張りだったようで、俺はホーネット種の『毒針』を危惧して、ホーネット種に遭遇した場合は俺が瞬殺していた。
アント種の場合は、首と全ての脚を斬り落として無力化し、マークⅢたちに止めを刺させて、経験値を稼ぎながら俺たちは進む。
この森でのアント種とホーネット種は、必ず三匹以上の群れで行動している。両者は敵対関係にあるようで、両者が戦っている場面に何度も遭遇するほど多かったが、俺たちは遭遇した魔物の群れを全て倒したことにより、マークⅢのレベルが四にまで上昇していた。
名前: マークⅢ 火
全長: 約30cm
職業: 【無し】レベル: 4
HP: 300
MP: 500
SP: 500
攻撃力: 80
守備力: 20
素早さ: 5
魔法: ファイヤ
特殊能力: 火弾, 火柱
魔法と特殊能力が三つに増えたことで俺は満足し、『生命付与者意識移動』で、マークⅢの意識を火から水晶玉へと移して、マークⅢにルルルのステータスを聞いた。
名前: ルルル
職業: 【無職】レベル: 4
HP: 150
MP: 0
SP: 250
攻撃力: 30
守備力: 30
素早さ: 30
魔法: 無し
特殊能力: でろでろ, ヘロヘロ,
ルルルも少しずつだが強くなってるな。『ヘロヘロ』は敵のSPを大幅に減少させる特殊能力らしいし、強敵に有効な特殊能力だろう。
俺たちが森を抜けると、草原に結界で護られた小屋が三軒並んで建っていた。
そこでは、三人の女たちとホーネットが結界を挟んで、戦闘を繰り広げていた。
へぇ、結界を盾にして戦っているのか。上手い戦い方だが結界は敵の攻撃を通さないが、こっちの攻撃も通らないからな。
結界内では、女たちの一人がすでに蹲っていて、弓を持っている女は放心しているのか、立ち尽くしている。戦士風の女が結界から出入りしながら、ホーネットを攻撃している。
静観するつもりだったが、唯一のダメージ源である戦士風の女の攻撃が、全くダメージを与えていないように思える。
俺は背中の長剣を抜き放ち、ゆっくりとホーネットに向かって歩いていく。
ホーネットは俺の接近に気づいて振り返り、俺に目掛けて襲い掛かってくるが、俺は長剣でたやすくホーネットを肉片に変えた。
それを目の当たりにした戦士風の女は呆然としている。
「そっちの女は大丈夫なのか?」
その言葉に、我に返った戦士風の女と弓を持っている女が蹲っている女に駆け寄った。
「針が刺さってる……大丈夫なの!? 立てる?」
戦士風の女は蹲っている女の太もものに刺さっている針を引き抜いたが、蹲っている女は苦痛に顔を歪めて何も発しない。
「おそらく毒だ。【僧侶】はいないのか? いないと死ぬぞ」
「――えっ!?」
戦士風の女の顔が驚愕に染まる。
俺は振り返って待機しているルルルたちに手招きすると、ルルルたちが俺の傍にやってくる。
ダークが地面に転がっているホーネットの頭を前脚で掴んでマークⅢに渡すと、マークⅢはホーネットの頭を収納した。
「ど、どうしょう……どうしたらいいの……」
戦士風の女と弓を持っている女は悲痛な表情を浮かべている。
「マークⅢ、あの女はどんな感じだ?」
〈HPが残り10、毒に侵されていますわ〉
「マークⅠ、毒を治してやれ」
〈わかった〉
ダークたちが女たちに近づくと、蹲っている女がエメラルド色に光り輝く。
〈毒は消えましたわ〉
「毒は消えた。もう死ぬことはないだろう」
「「あ、ありがとうございます!!」」
女たちが声を揃えて言った。
毒に侵されていた女が装備を身に着けていることから、彼女らの全員が戦闘職であることが窺える。
つまり、彼女らは俺たちのように不遇職ではないということだ。
「ここの敵はあんたらには強すぎるだろう。ここから東か南にここと同じように開けた場所がある。そこで腕を磨いてから、東の方角にある戦士の村に行くといいだろう。その村には俺たち日本人が集まっているからな」
「そ、そうなんですね。ありがとうございます。私の名前はミルアです」
戦士風の女は屈託の無い笑顔を見せる。
「私はベルアで、この子はパエルです」
弓を持っている女がそう話すと、毒に侵されていた女が微かに微笑む。
「俺はロストだ。こっちはルルル。マークⅢ、あれを出してくれ」
〈これですわね〉
俺はマークⅢから、人族語学習セットを受け取る。
「ロストさんはすごく強いんですね。あの大きな蜂はどんなに攻撃しても傷つけられなかったのに……」
「私の矢も全然効いてませんでした」
ミルアとベルアは尊敬の眼差しで俺を見ている。
「あのホーネットは通常種だからな。下級職で倒すのは困難だろう」
「あの蜂は通常種だったんですね」
ミルアは納得したような顔をした。
「あんたらにはこれを渡しておく」
俺は人族語学習セットをミルアに手渡した。
「これは?」
「人族語学習セットだ。戦士の村に入るときに必要になる。現地人には日本語が通じないからな」
「ありがとうございます」
「では俺たちは行く」
「えっ!? 行っちゃうんですか……ここは危険なので私たちもついて行ってもいいですか?」
「俺たちの目的は小屋を探すことだ。それでもついてきたいなら好きにすればいい」
「ついて行きます」
ミルアは即答した。
「ならパエルをマークⅡに乗せろ」
「マークⅡ?」
ミルアは不可解そうに聞き返す。
「台車のことだ」
「分かりました」
ミルアはパエルを抱きかかえて、マークⅡに乗せる。
対空用に槍も多数積んでるし、さすがに二人乗ると狭そうだな。
「それでロストさんたちはどこを探すんですか?」
「……ここから対角にあたる場所に小屋がある可能性が高い。俺の小屋から北に進んで、ルルルの小屋から西に進んだ交点がここだからな」
俺たちは南東の方角に向かって進み始めたのだった。
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本日、もう一話投稿する予定です。
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