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第25話 始まりの一矢


 俺たちは俺の小屋があった場所に向かっていたが、普通に移動すれば一日掛かるので、俺がマークⅡを押して高速移動することで、一時間ほどで到着することができた。


 だが、そこには小屋は見当たらず、俺たちはルルルたちの小屋があった場所まで行ってみたが、そこにも小屋はなかった。


 だからといって、もう小屋が出現しないとは言いきれない。


 「マークⅠ、ここと同じように開けた場所に小屋がないか空から見てきてくれ」


 〈わかった〉


 ダークに乗るマークⅠは、西に向かって飛んでいった。


 手待ちの時間を利用して、ルルルのレベルを上げるとするか。


 購入した鉄のクロスボウの取り扱いを、俺がルルルに教えていると、森からレッサー・コボルトが姿を現した。


 「丁度いいな」


 俺が無造作にレッサー・コボルトに向かって歩いていくと、レッサー・コボルトは俺に向かって槍を投げてくる。


 飛んでくる槍を難なく右手で掴んだ俺は、その槍でレッサー・コボルトの腹を貫いてから、左手で顔を掴んで動きを封じる。


 レッサー・コボルトは暴れているが、俺が押さえているので奇声を発することしかできない。


 最早、俺にとってレッサー・コボルトなど雑魚ですらない。


 「ルルル、近づいてクロスボウでこいつの頭を撃て」


 振り返った俺が指示を出すと、ルルルは小走りに駆けてくる。


 意を決したような表情のルルルは、そっとクロスボウの先端を、レッサー・コボルトの頭に近づけて引き金を引いた。


 発射された矢がレッサー・コボルトの脳天を貫通し、俺が顔から手を放すと、レッサー・コボルトは糸が切れた操り人形のように崩れ落ちた。


 「ルルル、よくやった」


 「う、うん」


 ルルルはなぜか顔を顰めていて、両手で持っていたクロスボウを片手で持ったり、ジャンプしたりして動き回っている。


 「な、なんか体がすごく軽くなってる……」 


 俺の傍に戻って来たルルルが嬉しそうに言った。


 「おそらくレベルが上がったんだろう」


 俺がマークⅡに手招きすると、マークⅡは俺の傍にやってくる。


 「マークⅢ、ルルルを視てやってくれ」


 〈分かりましたわ。アプレーザル〉


 マークⅢがアプレーザルの魔法を唱える。


 〈ルルルのレベルは2。HP50、MP0、SP50、攻撃力10、守備力10、素早さ10。そして『でろでろ』に目覚めましたの。『でろでろ』は溶ける粘液の塊を出すことができますわ〉


 「ルルル、ステータスが1から10まで上がったみたいだぞ。あと『でろでろ』っていう特殊能力に目覚めたみたいで、効果は溶かす粘液で攻撃できるみたいだぞ」


 その言葉に、ルルルは感極まったのか瞳に涙を浮かべている。


 やっぱり、相当不安だったんだろうな。早めに対応できてよかったぜ。


 それから、2匹のレッサー・コボルトが出現したので、俺が弱らせてから、ルルルが『でろでろ』を試した。


 だが、即効性はなく、レッサー・コボルトの体を溶かすのに、10秒ほどの時間が掛かることが分かった。


 まぁ、強敵には向いているが、雑魚の止めには時間がかかりすぎるので、しばらくはクロスボウのほうがいいだろうな。


 すると、突然、俺の脳裏に思念の声が届く。


 〈マ、マスター!! たすけてぇ!!〉


 「キュキュキュッ!! キュキュッ!! キュキュッ!!」


 俺はダークの鳴き声が聴こえた方向に振り向くと、ダークが俺の胸に飛び込んできた。


 〈マスター!! マークⅠたちを追ってきているのはホーネットですわ〉

 

 「なんだとっ!?」


 俺は視線を空に向けると、二メートルほどの蜂の魔物が俺たちに向かって接近していた。


 ちぃ、ぬかったぜ。ここから西の方角には、虫系の魔物がいやがったのか。 


 即座に俺はレッサー・コボルトの槍を空に放ち、ホーネットは槍に貫かれて地面に衝突した。それでもホーネットは半壊した体を引きずって、俺に目掛けて緑色の霧を放つ。


 「毒霧か!?」


 緑色の霧を躱した俺はホーネットの側面に回り込み、背中の長剣を抜き放ってホーネットの体を三つに分断したが、頭を切り離してもホーネットは動いている。


 「頭を切断しても死なないのか……虫系はさすがにしぶといな」


 俺がホーネットの体をバラバラに斬り裂くと、ホーネットは動かなくなった。


 「キューン……キューン……キューン……」


 俺の胸にしがみついているダークが、苦しそうに鳴いている。


 「これは『毒針』だろうな……マークⅢ、ダークはどんな感じだ?」


 俺はダークの体に刺さっている、二本の針を引き抜いた。


 〈HPは残り30ほどで、毒に侵されてますわ〉


 「やっぱりか。マークⅠ、ダークは毒に侵されている。お前の『浄化』で治してやれ」 


 〈えぇ!? またなの? やっぱり、あのおおきいハチはきけんだね〉


 ダークの体がエメラルド色に光輝く。


 〈ダークの毒が消えましたの〉


 「キュ!! キュキュッ!! キュ!!」


 すぐに元気になったダークは、背中に乗っていたマークⅠを両前脚で掴んで、目の前に移動させて何かを訴えている。


 〈イヌのしたいは、あたまいがいは、いらないよね?〉


 「ああ」


 俺がそう答えると、ダークはマークⅠを地面に置き、一直線にレッサー・コボルトの死体に向かって飛んでいった。


 「……ていうか、お前らよくホーネットから生き延びたな」


 〈さいしょはちいさいのが3びきだったんだよ。それをやっつけたらおおきいのがきて、カゼをうってきたからにげたんだよ〉


 「……」


 戦わずにすぐ逃げたのか……まぁ、そうしなければ、こいつらはここにはいないだろうからな。


 そもそも俺は空中戦を想定してなかったから、地上の敵の戦い方しかマークⅠに教えていなかった。それなのに生還できたってことは、やはり、マークⅠは馬鹿だが戦闘センスだけは高いようだ。


 だが、魔物が空にもいるってことは、空からの攻撃を俺以外の仲間が受けると、一撃で死ぬ可能性がある。これは早急に皆のレベルを上げるしかないようだ。


 「それで小屋はあったのか?」


 〈うん、あったよ〉


 「えっ!? あったのか?」


 俺は思わず自分の耳を疑った。


 〈うん〉


 「よくやったぞマークⅠ」


 すぐにでも小屋に行きたいところだが、多少無理をしてでも、仲間たちのレベルを上げることが先決だ。


 具体的にはHPが5しかないマークⅢを優先したい。次いでルルル、最後はマークⅡといったところか。


 マークⅡを最後にまわしたのは、レベルが2でHPが400もあるからだ。


 しかし、マークⅢには攻撃手段がない。石だったマークⅠのときのように、水晶玉で殴ったら割れるだろうからな。


 なので、『生命付与者意識移動』でマークⅢの意識を、何かに移動させる必要があるが、問題は何に移動させるかで俺は悩んでいた。


 石に意識を移して石で魔物を殴り、レベルを上げてアースの魔法に目覚めさせるのが確実だ。


 だが、すでにアースの魔法はマークⅠが目覚めているので、どうせなら違う攻撃手段が欲しい。


 だから水も同じ理由で除外になる。それに水だと意識を移しても攻撃手段がないから無意味だからな。


 そこで候補に挙がったのが、火、剣、クロスボウだ。


 火なら弱らせた魔物を焼き殺せるし、関連のある火の魔法か、火の特殊能力に目覚める可能性が高いと思う。


 だが、剣とクロスボウはそれ自体に殺傷力はあるが、関連のある魔法や特殊能力が想像できなかった。結局、俺はマークⅢが攻撃手段を手に入れたら、再び水晶玉に戻すつもりなので、火にすることに決めた。


 剣とクロスボウではレベルが上がっても、水晶玉に戻したときに攻撃手段がないということになりかねないからだ。


 俺が薪を集めていると、ダークがレッサー・コボルトの死体を食べ終わって戻って来る。


 俺は駆け出しセットの火打石を使い、薪に火をつける。


 ある程度に火が大きくなったところで、俺は火だけに意識を集中し、『生命付与者意識移動』でマークⅢの意識を火の中に移動した。


 「動けるかマークⅢ」


 〈動けますわ〉


 マークⅢは焚火からゆっくりと移動したが、焚火はまだ燃えている。


 どういう現象だ? マークⅢが焚火から移動すると、焚火は消えると思っていたんだが面白いな。


 俺は焚火から一番大きい薪を手に取り、マークⅢに近づけるとマークⅢが薪に移動する。


 「よし、行くとするか」


 俺たちは西に向かって進み始めたのだった。

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明日も10時に投稿する予定です。


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