第23話 食いしん坊の受難
オークたちの背後から奇襲を仕掛けた俺は、振りかぶった戦斧を目の前のオークの横腹に叩き込み、オークの体はくの字に曲がって吹っ飛んだ。
吹っ飛ぶだけかよ……さすがに硬いぜ。
オークメイジを護る囲いをこじ開けた俺は、思いっきり振りかぶった戦斧を、オークメイジの脳天に目掛けて全力で振り下ろし、勢い余って戦斧が地面を叩いて地面が爆砕する。
俺は後方に跳躍するのと同時にオークメイジに視線を向けると、オークメイジの体は縦に真っ二つに裂けて、ズレ落ちるところだった。
よしっ!! メイジは仕留めた。これで10匹を割った奴らの守備力は、2倍から1,5倍に下がったはずだ。
オークたちは虚を突かれたような顔をしていたが、オークメイジの死体を目の当たりにして怒りの形相を露わにした。
「ポイズン」
俺はポイズンの魔法を唱え、緑色の風がオークたちの体を貫きながら、でかい方のアヴェンジャーの体も突き抜ける。
毒に侵されたオークたちが、激痛に顔を歪めて奇声を上げるのと同時に、オークたちが俺に目掛けて突撃してくる。
「何してる!! 早く撤退しろっ!!」
俺は全身鎧に身を包んだ冒険者に向かって叫ぶ。
「日本人かっ!? すまん……恩に着る!!」
そう叫び返した全身鎧に身を包んだ冒険者は、構えを崩さずにゆっくりと後退していく。
あんたのような日本人には死なれては困るからな。なんとか生き延びてくれ。
身を翻した俺は、逃走しながらポイズンの魔法で攻撃する。
もう無理はしない。だが、でかい方のアヴェンジャーの弱体化が最優先だ。後は逃げながらポイズンの魔法で削り殺す。幸い奴らよりも俺の方が素早さは上だからな。
俺は逃げ回りながらポイズンの魔法を唱え、でかい方のアヴェンジャーを狙う。当然、その射線上にはオークたちがいることは言うまでもない。
次第に毒によってオークたちの動きは鈍重になるが、でかい方のアヴェンジャーはまだまだ体力があるようで、俺に目掛けて執拗に突撃を繰り返す。
だが、俺に油断も慢心もない。俺はでかい方のアヴェンジャーの突進を躱しながら、淡々とポイズンの魔法を撃つだけだ。
俺とでかい方のアヴェンジャーが攻防を続けていると、動きが鈍重だったオークたちの足が止まり、地面に膝をつく。
くくっ、小さい方のアヴェンジャーはまだ動いているが、奴も時間の問題だろう。前回の戦いの時はラードたちを助けるために、できる限り早く倒す必要があったが、今回はその必要もないから、いくらでも時間をかけていいからな。
やがて、でかい方のアヴェンジャーが戦斧を地面に突き刺し、かろうじて立っている状況になり、他のオークたちは地に倒れて動く気配がない。
それでも俺のやることに変わりはない。
「ポイズン……ポイズン……ポイズン……」
行動不能に陥ったでかい方のアヴェンジャーに対して俺は、近づくことなく遠距離からポイズンの魔法を連発する。
でかい方のアヴェンジャーは憤怒の形相で俺を睨んでいたが、全身から血を撒き散らしながら地面に突っ伏したのだった。
やはり、ポイズンの魔法の重ね掛けは有用だな。
俺はその場から動かずに、アヴェンジャーたちに動きがないかしばらく観察してから、オークたちの元に移動し、即座にオークの首に戦斧を振り下ろす。
切断できたってことは、少なくともオークたちは死んでいるようだな。でなければ、俺の攻撃が通ることはないからな。つまり、オークメイジとオーク七匹が死んだことにより、『徒党』の効果が消えたということになる。
俺は次々にオークたちの首を切り離し、アヴェンジャーたちの首も刎ね飛ばし、オークの群れの殲滅に成功したのだった。
「ふぅ、とりあえず、なんとかなったな……」
俺は周辺を見渡してルルルたちの所在を確認すると、彼女らは岩陰から動いていなかったようで、俺が手招きするとこっちに向かって移動し始める。
〈まさか、あの高レベルのアヴェンジャーに勝てるとは思いませんでしたわ〉
〈やったね!! そうびがいっぱいあるよ〉
「キュ!! キュ!! キュキュッ!!」
マークⅠはすぐにオークたちの装備を剥がしに掛かり、ダークは嬉しそうな鳴き声を発しながら、でかい方のアヴェンジャーの死体の匂いを嗅いでいたが、マークⅠの傍に飛んでいって何かを訴えている。
〈マスター、したいはいらないよね?〉
「ああ、頭以外は好きにしろ」
ダークは再びでかい方のアヴェンジャーの死体の傍に移動し、バクバクとアヴェンジャーの死体を食べ始める。
へぇ、奴らの死体は毒に侵されているが大丈夫なんだな。
俺はオークたちの首を回収し、マークⅢに収納してから、重いアヴェンジャーの装備をマークⅡに積み込んだ。
通常種を10匹狩ったから100万の稼ぎになる。それに30匹ほど魔物を狩っているから、それも含めるとかなりの額になるだろう。これで装備を整えられるな。
マークⅠが全ての装備を剥がし、マークⅡに積み込んだところで、ダークも戻って来た。
「珍しく残しているな」
毒入りが不味いのか? それともさすがに10匹は多いのか? まぁ、それでも半数は食っているが。
「キュ~ン……キュ~ン……キュ~ン……」
ダークはマークⅠに身を寄せて、切なげに鳴いている。
〈ダークは毒に侵されていますわ〉
「はぁ!? 臭いを嗅いでたのは何だったんだよ!?」
俺は愕然とした。
「マークⅠ、ダークは毒に侵されてるみたいだぞ。お前の『浄化』で治してやれ」
〈えぇ!? なんでなの?〉
何でって、こいつは馬鹿なのか?
俺は苦笑する以外にない。
突然、ダークがエメラルド色に光り輝く。
〈毒は消えましたわ〉
毒がよほど苦しかったのか、ダークは嬉しそうにマークⅠに頬ずりしている。
「よし、帰るか」
俺たちは行きと同じ要領で、戦士の村に帰還したのだった。
面白いと思っていただけましたら、ブックマークや評価(↓の★★★★★)で応援していただけると、作者の執筆速度が1.5倍になります。(たぶん)
本日、もう一話投稿する予定です。