表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/95

第21話 ラード頑張れ


 俺たちがラードたちと合流すると、ラードがキャニルとレシアの護りについていて、ネヤたちが蟻のような魔物たちと戦いを繰り広げていた。


 「苦戦しているように見えるが大丈夫なのか?」


 「ロスト!? もう旅立ったのかと思ってたぜ」


 「ロストさんがいてくれたら、すごく心強いです」


 レシアの表情がぱーっと明るくなる。

 

 「で、どうなんだ?」


 「ネヤたちも通常種のアントとは戦ったことはないんだ。だが、相手が三匹で一対一で戦えることや、素早さがそれほど速くないから傷や毒を受けてもレシアが治せる。だから最悪、俺と交代することもできるという考えで挑んだんだが、まずい状況だな」


 速度ではこちらが上回っているものの、相手の高い守備力の前に効果的なダメージを与えていないからな。


 「確かにこのままではじり貧になりそうだな」


 問題はネヤとラゼが同じぐらいに交代を求めた場合だな。そうなると、交代要員はラード一人なのでそのタイミングで崩壊、つまり、レシアたちが攻撃される危険性を孕んでいる。


 このままネヤたちの作戦を継続するなら、ラードがいますぐにネヤかラゼと交代するべきなのだが、ラードは気づいていないのか?


 「あいつらは硬すぎる……ミコですらいまだまともなダメージを与えてないし、正直、俺は勝てる気がしない」


 なるほどな、交代することには気づいてはいるが、勝機がないから躊躇している感じか。


 「加勢するか?」


 「い、いいのか!?」


 ラードは意外そうな顔をした。


 「無論だ。だが仮にネヤたちが文句を言ってきても、お前が対処しろよ」


 「ああ、勿論だ」 


 「ならレシアとキャニルはマークⅡに乗ってくれ」


 頷いたレシアたちはマークⅡに乗ろうとして、体を硬直させる。


 「こ、これってウルフの死体ですよね……ま、まさか……」


 「ああ、西にいたウルフたちだ。邪魔だから排除しておいた」


 ていうか、まだ皮剥ぎをやっていたのか。どうやら最後の一匹を処理しているみたいだが、ダークの糸がなかなか切れないようで時間が掛かっているみたいだな。だが、死体はルルルたちが処理している一匹しかないので、ダークがちゃっかりと骨まで食ったみたいだ。


 「やっぱりロストさんはすごいです!!」


 レシアは尊敬の眼差しを俺に向けている。


 「マ、マジかよ……三匹いたのにどうやって倒したんだよ」


 ラードは不可解そうな表情を浮かべている。


 「運が良かったんだろうな。とりあえず、一番劣勢に見えるネヤのところに行くか」


 適当に言葉を濁した俺は、マークⅡを押してネヤに向かって進み出す。


 まぁ、さすがに雑魚でしかないとは言えないからな。


 俺は歩きながらラードたちに作戦を説明し、俺たちはネヤが戦うアントの後方に回り込む。


 「ファイアボール」


 キャニルが魔法を唱えてすぐにしゃがんで身を隠す。火の球がアントの胴体に着弾し、アントは炎に包まれて奇声を上げる。


 俺は素知らぬ顔でマークⅡを押してその場から離脱し、反転したアントは一人残ったラードに目掛けて突進した。


 くくっ、頑張れよラード。まぁ、ラードには無理な攻撃はしないで、回避に専念しろと伝えているがな。


 俺はゆっくりとマークⅡを押してネヤの前に到着する。


 「あ、あなた【魔物使い】なのにすごい度胸ね」


 ネヤは信じられないといったような形相だ。


 くくっ、まだ俺が【魔物使い】だと思っているのか。彼女は頭が良いのか馬鹿なのか分からないな。


 「お怪我はありませんか?」


 レシアが台車から顔を出してネヤに尋ねる。


 「脚を『毒牙』でやられちゃって正直、来てくれて助かったわ」


 「すぐに治療します」


 レシアが魔法で解毒してから、脚の傷を魔法で癒す。


 「助かったわ。やっぱり、現場にヒーラーがいるといいわね。じゃあ、私はラードを助けに行ってくるわ」


 ネヤは踵を返して歩き出す。


「ファイアボール」


 キャニルが魔法を唱えてすぐにしゃがむ。


 振り返ったネヤの顔は驚きに満ちている。火の球がアントの胴体に直撃すると、アントの体は内部から破裂した。


 だが、それでもアントは平然と動いている。


 「マークⅢ、奴の守備力の値と状態はどんな感じなんだ?」


 〈守備力は180ほどで、体力はほとんど残っていませんわ〉


 180だと? 彼女らの攻撃力では、全くダメージを与えられていないんじゃないのか? 下級職の前衛のレベル1の攻撃力は100程度だからな。そこからレベルが上がって武器を持っても、180という数値には到底届かないだろう。


 「キャニル、魔法はあと何発撃てるんだ?」


 「あと五回ぐらいだと思う」


 いけるとこまでいってみるか。


 「キャニル、もう一回だ」


 「しぶといわね……フレイム!!」


 マークⅡから立ち上がったキャニルは、すぐに魔法を唱えずに、精神を集中させているのか、真剣な硬い表情を浮かべていたが、やがて魔法を唱えた。


 すると、唐突にアントがいる場所に炎が吹き上がり、アントはもがき苦しんでいたが動かなくなった。


 「ファイアボール以外も使えたんだな」


 「まぁね。フレイムの魔法は威力があるけど当てるのが難しいのよ。あと私はファイアの魔法も使えるわ」


 火の魔法ばかりだな。そういうものなのか?


 「次はラゼのところに向かう」


 俺たちがラゼに向かって歩き出すと、アントの首を持ったラードとネヤが俺たちと合流する。


 「助かったぜキャニル。マジで強すぎだろアントは」


 ラードは照れくさそうに笑っている。


 ネヤは俺を見つめて何か言いたげな表情だが、結局、何も話さなかった。


 俺たちはラゼと戦いを繰り広げているアントの後方に回り込み、同じ要領でアントを倒した。


 そして、ミコが戦うアントにも同様の攻撃を仕掛けたが、一発目の魔法攻撃でキャニルが魔力切れを起こし、二発目の魔法を撃てない事態に陥った。


 この事態は想定内なので何の問題もないのだが、キャニルが激しい頭痛と吐き気を訴えた。


 怪訝に思った俺がマークⅢに聞いてみると、MPが0になると死ぬこともあるそうで、キャニルの場合はまだMPが残っていたので、死ぬことはないそうだ。


 早い段階で分かって心底安堵した俺は、仲間たちにこの現象を説明し、魔法を使用できる者にはMP管理に気を配れと注意喚起を行った。


 ちなみに、ミコが戦っていたアントは、マークⅠが魔法で容易く仕留め、アントたちの死体はダークが食したことは言うまでもない。


 「……それにしてもロスト、あなたは的確な判断ができるみたいね。この中で一番リーダー向きじゃないかしら?」


 俺に何か言いたげだったネヤが口を開く。


 「俺たちのリーダーはロストだったからな」


 「でしょうね。今回の件は私たち、いえ私の判断ミスだと痛感しているわ」


 「この作戦は俺も了承したし、俺たちは駆け出しなんだから仕方ない。次にいかそうぜ」


 次があればいいがな……安全、確実を行動理念にしている彼女らが、アントを標的にしたのは使える奴だとアピールし、仲間になりたいという思いが、焦りに繋がったんだろうな。


 さらにつけ加えるなら金だ。現地人と日本人で下位種の魔物を奪い合っている状況で、三人のパーティでも野営を強いられるのに、人数が倍になるのだから考えずにはいられないだろう。


 「そう言ってもらえると助かるわ。キャニルがこんな状態だし、今日はもう戦えないと思うんだけど、私たちはあなたたちのパーティに入れてもらえるのかしら?」


 「キャニルとレシアはどう思ってるんだ?」


 「……意見を言うのは構わないけど、最終判断をラードに任すことができるんだったら私はいいと思う。もっとも、ロストさんが戻って来るまでの話だけど」


 キャニルが気だるそうに答えた。


 「わ、私もその意見に賛成です」


 「俺に異論はない。ネヤたちはそれでいいか?」


 「も、もちろんだよ!!」


 ネヤたちは満足そうに顔をほころばせる


 「だそうだぞ、リーダー。俺はお前が戻ってくるまでのサブらしい」


 にんまりと笑うラードが、からかうように言った。


 「……好きにしろ」


 俺は苦笑する以外になかった。


 「ラード、金策に困ったら俺たちの小屋があった周辺で、レッサー・コボルトを狩るのも手だぞ」


 あいつらでも下位種、首一つで5000円になるからな。


 「な、なるほどな……狩場はここだけじゃないってことか。目から鱗だぜ」


 「では、俺たちは行く」


 「えっ? 戻らないのか?」


 「東の砦とやらを見てから戻るつもりだ」


 「そうか」


 マークⅡの中で、ぐったりしているキャニルをラードが抱きかかえると、不満げな顔のレシアがマークⅡから降りた。


 「ロストさん!! できるだけ早く戻ってきて下さいね」


 レシアが切実な表情で訴える。


 「ああ、そのつもりだ」


 そう返した俺はマークⅡを押して歩き出したのだった。

面白いと思っていただけましたら、ブックマークや評価(↓の★★★★★)で応援していただけると、作者の執筆速度が1.5倍になります。(たぶん)


本日、もう一話投稿する予定です。


勝手にランキングに参加しています。

リンクをクリックしてもらえるとやる気が出ます。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング に参加しています。 リンクをクリックしてもらえると作者のモチベーションが上がります。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ