第21話 ラード頑張れ
俺たちがラードたちと合流すると、ラードがキャニルとレシアの護りについていて、ネヤたちが蟻のような魔物たちと戦いを繰り広げていた。
「苦戦しているように見えるが大丈夫なのか?」
「ロスト!? もう旅立ったのかと思ってたぜ」
「ロストさんがいてくれたら、すごく心強いです」
レシアの表情がぱーっと明るくなる。
「で、どうなんだ?」
「ネヤたちも通常種のアントとは戦ったことはないんだ。だが、相手が三匹で一対一で戦えることや、素早さがそれほど速くないから傷や毒を受けてもレシアが治せる。だから最悪、俺と交代することもできるという考えで挑んだんだが、まずい状況だな」
速度ではこちらが上回っているものの、相手の高い守備力の前に効果的なダメージを与えていないからな。
「確かにこのままではじり貧になりそうだな」
問題はネヤとラゼが同じぐらいに交代を求めた場合だな。そうなると、交代要員はラード一人なのでそのタイミングで崩壊、つまり、レシアたちが攻撃される危険性を孕んでいる。
このままネヤたちの作戦を継続するなら、ラードがいますぐにネヤかラゼと交代するべきなのだが、ラードは気づいていないのか?
「あいつらは硬すぎる……ミコですらいまだまともなダメージを与えてないし、正直、俺は勝てる気がしない」
なるほどな、交代することには気づいてはいるが、勝機がないから躊躇している感じか。
「加勢するか?」
「い、いいのか!?」
ラードは意外そうな顔をした。
「無論だ。だが仮にネヤたちが文句を言ってきても、お前が対処しろよ」
「ああ、勿論だ」
「ならレシアとキャニルはマークⅡに乗ってくれ」
頷いたレシアたちはマークⅡに乗ろうとして、体を硬直させる。
「こ、これってウルフの死体ですよね……ま、まさか……」
「ああ、西にいたウルフたちだ。邪魔だから排除しておいた」
ていうか、まだ皮剥ぎをやっていたのか。どうやら最後の一匹を処理しているみたいだが、ダークの糸がなかなか切れないようで時間が掛かっているみたいだな。だが、死体はルルルたちが処理している一匹しかないので、ダークがちゃっかりと骨まで食ったみたいだ。
「やっぱりロストさんはすごいです!!」
レシアは尊敬の眼差しを俺に向けている。
「マ、マジかよ……三匹いたのにどうやって倒したんだよ」
ラードは不可解そうな表情を浮かべている。
「運が良かったんだろうな。とりあえず、一番劣勢に見えるネヤのところに行くか」
適当に言葉を濁した俺は、マークⅡを押してネヤに向かって進み出す。
まぁ、さすがに雑魚でしかないとは言えないからな。
俺は歩きながらラードたちに作戦を説明し、俺たちはネヤが戦うアントの後方に回り込む。
「ファイアボール」
キャニルが魔法を唱えてすぐにしゃがんで身を隠す。火の球がアントの胴体に着弾し、アントは炎に包まれて奇声を上げる。
俺は素知らぬ顔でマークⅡを押してその場から離脱し、反転したアントは一人残ったラードに目掛けて突進した。
くくっ、頑張れよラード。まぁ、ラードには無理な攻撃はしないで、回避に専念しろと伝えているがな。
俺はゆっくりとマークⅡを押してネヤの前に到着する。
「あ、あなた【魔物使い】なのにすごい度胸ね」
ネヤは信じられないといったような形相だ。
くくっ、まだ俺が【魔物使い】だと思っているのか。彼女は頭が良いのか馬鹿なのか分からないな。
「お怪我はありませんか?」
レシアが台車から顔を出してネヤに尋ねる。
「脚を『毒牙』でやられちゃって正直、来てくれて助かったわ」
「すぐに治療します」
レシアが魔法で解毒してから、脚の傷を魔法で癒す。
「助かったわ。やっぱり、現場にヒーラーがいるといいわね。じゃあ、私はラードを助けに行ってくるわ」
ネヤは踵を返して歩き出す。
「ファイアボール」
キャニルが魔法を唱えてすぐにしゃがむ。
振り返ったネヤの顔は驚きに満ちている。火の球がアントの胴体に直撃すると、アントの体は内部から破裂した。
だが、それでもアントは平然と動いている。
「マークⅢ、奴の守備力の値と状態はどんな感じなんだ?」
〈守備力は180ほどで、体力はほとんど残っていませんわ〉
180だと? 彼女らの攻撃力では、全くダメージを与えられていないんじゃないのか? 下級職の前衛のレベル1の攻撃力は100程度だからな。そこからレベルが上がって武器を持っても、180という数値には到底届かないだろう。
「キャニル、魔法はあと何発撃てるんだ?」
「あと五回ぐらいだと思う」
いけるとこまでいってみるか。
「キャニル、もう一回だ」
「しぶといわね……フレイム!!」
マークⅡから立ち上がったキャニルは、すぐに魔法を唱えずに、精神を集中させているのか、真剣な硬い表情を浮かべていたが、やがて魔法を唱えた。
すると、唐突にアントがいる場所に炎が吹き上がり、アントはもがき苦しんでいたが動かなくなった。
「ファイアボール以外も使えたんだな」
「まぁね。フレイムの魔法は威力があるけど当てるのが難しいのよ。あと私はファイアの魔法も使えるわ」
火の魔法ばかりだな。そういうものなのか?
「次はラゼのところに向かう」
俺たちがラゼに向かって歩き出すと、アントの首を持ったラードとネヤが俺たちと合流する。
「助かったぜキャニル。マジで強すぎだろアントは」
ラードは照れくさそうに笑っている。
ネヤは俺を見つめて何か言いたげな表情だが、結局、何も話さなかった。
俺たちはラゼと戦いを繰り広げているアントの後方に回り込み、同じ要領でアントを倒した。
そして、ミコが戦うアントにも同様の攻撃を仕掛けたが、一発目の魔法攻撃でキャニルが魔力切れを起こし、二発目の魔法を撃てない事態に陥った。
この事態は想定内なので何の問題もないのだが、キャニルが激しい頭痛と吐き気を訴えた。
怪訝に思った俺がマークⅢに聞いてみると、MPが0になると死ぬこともあるそうで、キャニルの場合はまだMPが残っていたので、死ぬことはないそうだ。
早い段階で分かって心底安堵した俺は、仲間たちにこの現象を説明し、魔法を使用できる者にはMP管理に気を配れと注意喚起を行った。
ちなみに、ミコが戦っていたアントは、マークⅠが魔法で容易く仕留め、アントたちの死体はダークが食したことは言うまでもない。
「……それにしてもロスト、あなたは的確な判断ができるみたいね。この中で一番リーダー向きじゃないかしら?」
俺に何か言いたげだったネヤが口を開く。
「俺たちのリーダーはロストだったからな」
「でしょうね。今回の件は私たち、いえ私の判断ミスだと痛感しているわ」
「この作戦は俺も了承したし、俺たちは駆け出しなんだから仕方ない。次にいかそうぜ」
次があればいいがな……安全、確実を行動理念にしている彼女らが、アントを標的にしたのは使える奴だとアピールし、仲間になりたいという思いが、焦りに繋がったんだろうな。
さらにつけ加えるなら金だ。現地人と日本人で下位種の魔物を奪い合っている状況で、三人のパーティでも野営を強いられるのに、人数が倍になるのだから考えずにはいられないだろう。
「そう言ってもらえると助かるわ。キャニルがこんな状態だし、今日はもう戦えないと思うんだけど、私たちはあなたたちのパーティに入れてもらえるのかしら?」
「キャニルとレシアはどう思ってるんだ?」
「……意見を言うのは構わないけど、最終判断をラードに任すことができるんだったら私はいいと思う。もっとも、ロストさんが戻って来るまでの話だけど」
キャニルが気だるそうに答えた。
「わ、私もその意見に賛成です」
「俺に異論はない。ネヤたちはそれでいいか?」
「も、もちろんだよ!!」
ネヤたちは満足そうに顔をほころばせる
「だそうだぞ、リーダー。俺はお前が戻ってくるまでのサブらしい」
にんまりと笑うラードが、からかうように言った。
「……好きにしろ」
俺は苦笑する以外になかった。
「ラード、金策に困ったら俺たちの小屋があった周辺で、レッサー・コボルトを狩るのも手だぞ」
あいつらでも下位種、首一つで5000円になるからな。
「な、なるほどな……狩場はここだけじゃないってことか。目から鱗だぜ」
「では、俺たちは行く」
「えっ? 戻らないのか?」
「東の砦とやらを見てから戻るつもりだ」
「そうか」
マークⅡの中で、ぐったりしているキャニルをラードが抱きかかえると、不満げな顔のレシアがマークⅡから降りた。
「ロストさん!! できるだけ早く戻ってきて下さいね」
レシアが切実な表情で訴える。
「ああ、そのつもりだ」
そう返した俺はマークⅡを押して歩き出したのだった。
面白いと思っていただけましたら、ブックマークや評価(↓の★★★★★)で応援していただけると、作者の執筆速度が1.5倍になります。(たぶん)
本日、もう一話投稿する予定です。
勝手にランキングに参加しています。
リンクをクリックしてもらえるとやる気が出ます。