第20話 ウルフ狩り
ラードたちが俺たちの元に戻ってきて、ラードが開口一番に切り出した。
「ミコ、あんたビックリするぐらい強いな」
「……あなたは一つ一つの動作がとろいのよ。だから大きめの盾を持ったほうが性に合うんじゃない」
ぷっ、とろいって見た目的に逆だろ……しかしそれは日本、いや地球的思考での話で、最早、異世界では外見による能力判断は害悪でしかないと理解しているつもりだが、いまだ頭が混乱しそうになる面白い事例だな。
「なるほど、参考にさせてもらう。それでリーダーのあんたはもっと強いのか?」
ラードは探るような眼差しをネヤに向ける。
「うちのエースはミコよ。次に強いのがラゼで私が一番弱い。だからリーダーをしているのよ」
「……そういうこともあるのか」
そう返したラードの顔は、腑に落ちないといったような形相だ。
まぁ、一番強い奴がリーダーというのが普通だろうから、ラードがそんな顔をするのは無理もない。けど、これを仕事に置き換えてみると、エースが現場にいたほうが仕事が捗るのも事実だからな。結局はエースがリーダーをやりたいかどうかの話なのかもしれないな。
ネヤはミコたちからサハギンの首を受け取って、大きな麻袋の中にしまう。
「これで11万5000円、幸先がいいわね。だけど西の方角にウルフの群れがいるから、逃げたほうがいいわね」
その言葉に、皆の視線が西に集中する。
「まだかなり遠い距離にいるし、なんで逃げるんだ?」
「三匹とも通常種だからよ。そもそも私たちが勝てるのは弱い部類の通常種までで、サハギンに勝てたのは陸の上で弱体化してたからなのよ」
「……ミコでもウルフは無理なのか?」
「差しで五分ってところね。ウルフの攻撃力は200ぐらいだから、一撃もらえば致命傷になり得るし、魔法も使うのよ。それに魔物にもレベルはあるんだから、最低でもその強さってことはあなたにも分かるでしょ?」
「なるほどな、よく分かったよ。俺たちは逃げ回りながら戦うことを強いられるってことだな」
「厳密に言うと、倒せそうな魔物がいても、強い魔物が近づいてきそうなら、即座に逃げるのが私たちのやり方なのよ」
「異論はない」
「じゃあ、東に進むわよ。これ以上南に進むと湖があって、湖に住んでる勢力と黒亜人たちが戦争してるから巻き込まれると大変なのよね」
ラードたちは東の方角に進んでいくが、俺は足を止めたままだ。
「ウルフを狩るぞ」
〈やっとだね〉
俺は周辺を見渡して魔物の位置を探る。
ウルフたちの近くに、魔物の姿はないから大丈夫だろう。
俺はマークⅠに、ウルフたちとの戦闘の立ち回り方を指導し、ルルルを乗せたマークⅡに指示を出してから、ウルフたちに向かって走り出した。
佇んでいたウルフたちは、俺を視認してからすぐに二匹が左右に展開する。
ほう、俺の背後に回り込むつもりなのか? だが無理だな。
俺は一気に速度を上げて正面のウルフに接近し、槍の一撃でウルフの脳天を貫いた。
さすが高品質の槍だな。レッサー・コボルトの槍とは威力がまるで違う。
瞬時にウルフの頭部から槍を引き抜いた俺は、ウルフを注視しながら右に跳躍する。
頭部を貫いたらさすがに死んでいるとは思うが、俺に油断はない。
俺が振り返ると一匹が俺に向かって飛びかかり、もう一匹が地面を駆って接近していた。俺は飛びかかってきたウルフの喉元に槍を突き刺して引き抜いた。
それと同時に、俺に接近するウルフに上空から糸が放たれ、糸に絡まったウルフが転倒する。
糸だと?
俺は視線をダークに転ずると、上空のダークとウルフは糸で繋がっていなかった。
糸を飛ばして絡めることができるのか? どういう理屈か分からないがやるじゃねぇかダーク。完全にマスコットキャラだと思っていたぜ。
俺は虫の息のウルフの首を槍で切断する。
想定していた以上にウルフは弱い。同時に三匹を相手にしても倒せそうな感じだ。
俺は再びダークに視線を向ける。
……何でマークⅠは魔法で攻撃しないんだ?
「――っ!?」
まさかダークの糸の強度を測っているのか!?
ウルフは絡まった糸を強引に引き千切ろうと暴れている。次第に糸の呪縛が弱まっていくが、そこにさらに糸が飛んできて、ウルフが行動不能に陥ったところで、上空から無数の岩や石が降り注ぐ。
やべぇコンボだな……一方的じゃねぇか。それに魔法の選択も合っている。この状況でウォーターだと糸が切れる可能性があるからな。くくっ、戦いになるとマークⅠは賢くなるようだ。
容赦ないマークⅠの連続魔法攻撃により、ウルフは動かなくなった。
上空からダークが飛来し、マークⅠが嬉しそうな声を上げる。
〈やったぁ!! オオカミをたおしたよ!!〉
「見直したぞマークⅠ」
〈えっ? なにが?〉
「……」
言ってるこっちが恥ずかしくなってくる。やっぱり、こいつは馬鹿だ。
俺が手筈通りにマークⅡに手招きすると、マークⅡに乗っていたルルルがマークⅡから降りて、必死そうに俺たちの方向にマークⅡを向けて、再びマークⅡに乗り込んだ。
不便そうだな。方向転換できる台車は五万で売っていたが、一メートルほどの大きさしかなく、小さかったんだ。
それに木を鉄で補強した程度の剛性しかなかったし、マークⅢにアイテムを収納できるから、台車の購入を棚上げしたんだが、まさか、ルルルがついてくるとは俺には想定できなかったんだよな。
マークⅡが到着すると、俺はウルフの首三つをマークⅢに収納してから、ウルフの死体をマークⅡに積み込んだ。その内の一匹を仰向けにし、槍で皮を裂いて強引に毛皮を剥ぎ取った。
〈オオカミはケガワになるんだね〉
「やってみるか?」
俺は駆け出しセットの中に入っていたナイフを、マークⅠの前に差し出した。
〈うん!!〉
「私もやる」
マークⅠとルルルは協力してウルフの皮を剥ごうとしているが、悪戦苦闘している。
まぁ、ウルフは二メートルを超える巨体だから、その体重は数百キロになるだろうから無理もない。
「キュ!! キュ!! キュキュッ!! キュ!! キュ!!」
ダークは俺が皮を剥いだウルフの死体を、マークⅠの前まで引きずってきて何やら訴えている。
〈いそがしいからあとにして〉
「キュ~ン……」
ダークはしょんぼりしていたが、急に俺の胸に飛び込んできて瞳を輝かせている。
まぁ、一匹はこいつらが倒したから好きにすればいい。
俺が頷くと、ダークは嬉々としてウルフの死体に食いついた。
俺たちと違ってこいつは咀嚼をせずに、食い千切って飲み込んでいるような食い方なので、食うのが早いな。
俺は周辺を見渡し、ラードたちの位置を確認してからマークⅡを押して進み始めたのだった。
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