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第18話 日本人たちの現状


 武器屋を後にした俺たちは、マークⅢの勧めで冒険者ギルドに立ち寄った。


 マークⅢが言うには、ギルドに入ったほうが金を稼げるらしいからだ。


 現在、冒険者ギルドでは魔物討伐依頼が発せられていて、魔物を倒せば金を稼げるらしく、倒した魔物の首を冒険者ギルドに持っていけば換金してくれるとのことだ。


 討伐金は階級によってことなり、下位種1匹5000円、通常種1匹10万円、上位種1匹500万円ということらしい。


 冒険者カードを入手した俺たちは、村の南門に移動する。


 冒険者ギルドでマークⅢが得た情報によると、日本人が村の南側に集まっているらしく、その中でも駆け出しの日本人は南門付近で野営を行っているらしい。


 まぁ、言葉が通じない中で金もないから、駆け出しは野営するしかないんだろうな。だが、野営するならテントを買っておけばよかったぜ。


 南門に到着すると門は閉じられていて、俺は守衛の前にマークⅢを差し出した。


 情報収集はマークⅢに丸投げでいいだろう。


 〈こっちですわ〉


 俺たちは南門から東の方角に歩いていくと、多数のテントが張られているのが見えてきた。


 さて、どういう状況なんだろうか? 泊まる場所を確保できても、情報収集ができなくては意味がない。


 テントは防壁に沿って張られているので、俺たちは空きスペースを探しながら歩いていくが、マークⅡを停車させて五人が泊まれるほどの空きがなく、結局、最後尾まで歩いたのだった。


 「なんていうか俺が思ってた状況と違うな……」


 ラードの言葉に、皆も難しげな表情を浮かべている。


 確かにな。テントの前に見張り役がいるだけで、その見張り役も疲弊しているように見える。これでは難民と変わらないだろう。俺は日本人が団結し、熱い談義を交えているような状況を思い描いていたからな。


 「私が話を聞いみるわ」


 皆が沈黙している中、キャニルがそう切り出した。


 彼女はどこか飄々としているので、こういう場面では頼もしいな。


 キャニルは俺たちの前で、テントを張っている見張り役に話し掛けた。


 「すみません。できればここの状況を教えてくれませんか?」


 「えっ? なんでいまさら? あなたたちは五人いるじゃない」


 面食らった表情を浮かべた女の見張り役は、すぐに訝しげに聞き返してきた。


 「五人? 意味が分かりません。私たちはこの村に来たばかりなので、状況が分からないんです」


 「この世界に来た時、小屋が三つあったでしょ? だから三人でこの村に辿り着くから、人数が増えるのはここの事情を知った後になるからよ」


 この女、村に辿り着くのが三人と断定しているが、どういうことなんだ? 説明を端折りすぎていないか?


 「ちょっと待って下さい。私たちは村にたどり着く前に全滅しかけた経緯があって、それで人数が増えたんですが、それは珍しいことなんですか?」


 「どういうこと? 小屋から村はそれほど遠くないし、場所も水晶玉が教えてくれたでしょ?」


 女の見張り役は訝しげな表情を深める。


 「私たちの小屋からこの村までの道のりは、野営を一日しないとたどり着けない距離がありましたし、水晶玉には村の場所の情報もありませんでした」


 「はぁ? あなたたちの小屋はいったいどこにあったのよ? 私たちの小屋は南門から南の方向に五キロ圏内にあったし、普通はそうなのよ」


 「えっ? そうなんですね。話がかみ合わない訳です。私たちは西門から入ってきたんですよ」


 「西門? 日本人が南門以外の門から入ってきてるって話を、私は聞いたことがないわ。それにしても水晶玉に村の情報がないのによく辿り着けたわね」


 「初期メンバーだけだったら無理でした。なので右も左も分からない状況なので、教えてもらえるとありがたいです」


 「そうね。だったら私たちが異世界ここに来てから、落ち着くまでの話をしてあげるわ」


 女の見張りが語り始める。


 要約すると、こっちに来てから水晶玉に触れると、名前を決定して自身の職業を確認し、様々な情報にアクセスできるまでは俺たちと同じだ。だが、時間が経つと近くに小屋が二つあるので、パーティを組めと水晶玉に表示されるらしい。無事にパーティが組めれば、水晶玉に小屋の位置と村の位置が表示されて、協力して村を目指すことになるらしい。


 装備品は職業によって初めから身に着けていて、食料などは一日分が置かれているだけで、小屋の結界もない状況だ。


 なので、早々に村を目指さなくてはならないが、全ての者が戦闘職に就いているので、五キロほどの距離は何の問題もなく、むしろ、劇的に向上した身体能力に慣れるほうが大変だったらしい。


 彼女いわく、戦闘職の前衛が大半を占めていて、魔法を使用できる後衛は極めて少数で、彼女らのパーティも全員が下級職の前衛とのことだ。


 問題は、村に入るためには言葉が通じないことだと思っていたが、南門には人族語学習セットという教材があり、それを用いてコミュニケーションを図れるらしい。


 この人族語学習セットは薄い板に文字が書かれていて、「あ」という日本語が書かれた板の裏には、人族語の「あ」という意味の文字が書かれているらしい。日本語の文字が読めれば誰でも使うことができる上に、よく使う言葉の冊子も入っているので、同じ要領で使用できるので優れた教材らしい。


 ちなみに、人族語学習セットは冒険者ギルドで、1000円で販売されているとのことだ。俺もマークⅢがいなければ世話になっていただろうな。


 そして、守衛から得た情報により、冒険者ギルドに赴いた彼女らはギルドカードを入手し、再び南門に戻って魔物と戦うことになるらしい。


 狩場は彼女らの小屋があった場所から、さらに南に進むと砦があるらしい。


 その周辺の下位種は、日本人たちや、さらには現地人の冒険者たちとも奪い合いになっているとのことだ。


 なので、遭遇率は低く、敬遠されている強い部類の下位種か、通常種との戦いを強いられるとのことだった。彼女らが疲弊して見えるのは、そのせいかもしれないな。


 で、村の状況は魔物に攻められているが、防壁が破られることはないようだ。


 あとは、先導役になるような英雄的存在、つまり、強い日本人が二人確認されているという話だ。


 一人は最上級職の【聖騎士】ソフィ、もう一人は最上級職の【暗黒剣士】ガーラだ。


 ソフィ隊は東の砦を主戦場にしていて、ガーラ隊は東の砦から、さらに東の方角にある街に向かったとのことだ。


 下級職しかいないのかと不安に思っていたが、どうやら杞憂だったようで安心したぜ。


 女の見張り役の話が一段落したところで、俺はマークⅢに干し肉が入った樽を二つ出すように指示を出した。


 無論、彼女に見えないようにだ。見られると説明が面倒だからな。


 武器屋でアイテムを売ったときに空いた台車は引き取ってもらったが、その時点で樽を載せた台車をマークⅢの中に収納することを思いついたのだ。


 今思えば、村に着いた時点で気づいていれば、二台の台車を押して移動する必要もなかったので、馬鹿なことをしたと思う。


 「情報の礼だ。中身は干し肉だから仲間たちと食ってくれ」 


 俺は樽を女の見張り役の前に置く。


 「ありがたくいただくわ」


 女の見張り役は、樽を抱えてテントの中に消えた。


 俺たちが干し肉を食っていると、俺の傍で眠っていたダークが目を覚まし、樽の上にのった。


 「キュ!! キュ!! キュキュ!!」


 ダークは羽をバタつかせて鳴いている。


 〈もう、ちょっとだけだよ。これはマスターたちのごはんだからね〉


 ダークの背に乗っていたマークⅠが器用に体を変形させ、樽から干し肉を三つ取り、一つずつダークに食べさせている。


 「キュキュッ!! キュキュッ!! キュキュッ!!」 


 ダークは嬉しそうに干し肉を食べている。


 こいつは大食漢だから三つ程度で満足するのか?


 干し肉を食べ終わったダークは、すぐに樽の中を凝視した。


 各人が三つ程度しか取っていないから、樽の中の干し肉はまだ三分の二以上はあるからな。


 〈めっ!! 3つだけっていったでしょ!!〉


 「キュ~ン……キュキュ!! キュキュ!! キュキュ!!」


 一瞬しょんぼりしたように見えたダークが、一転して俺の胸に飛び込んできて、鳴き声を上げながら瞳を輝かせている。


 ……参ったな。


 「マークⅠ、お前の小遣いから引いておくからな」


 食わせないで人に襲い掛かると厄介だからな。まぁ、マークⅠはよくやっていると思うが、主人はこいつだからちゃんと躾てもらわなければ困る。


 〈えぇ~~~っ!! しょうがないなぁ……〉


 俺が樽から干し肉を取ってダークに差し出すと、ダークは嬉しそうに干し肉を頬張るのだった。

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本日、もう一話投稿する予定です。


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