第16話 高性能な水晶玉
翌日の昼、俺たちは旅支度を終えて小屋の外に集まっていた。
小屋が消えるまでにはあと数日あると思うが、村を探すほうを優先した感じだ。
昨日の魔物との戦いでレシアとマークⅡのレベルは2になったが、他の者たちのレベルはそのままだった。
まぁ、レベルがそう簡単に上がるものではないが、ここで戦っていても、変わらないということだ。
俺は昨日、さらにもう一台の台車を作っていて、マークⅡを含めると台車は三台あることになる。
マークⅡを先頭に、二台の台車をダークの吐き出した糸で列車のように連結させ、俺たちは樽や魔物から採取したアイテムを台車に積み込んだ。
「忘れ物はないか?」
俺の問いかけに、皆は無言で頷いた。
俺はなんとなく小屋の中に入って小屋の中を見渡すと、水晶玉に目を止める。
「何で今まで気づかなかったんだ……」
俺は自分の愚かさに思わず呟いた。
だが、気付けて良かった。小屋が消えてから気づいてもどうしようもないからな。
水晶玉を手に取った俺は、水晶玉に『生命付与』を使用する。
「……マジか? かなりSPをもっていかれたような気がするな」
素材によってSPの使用量が違うのか?
「そうですの。250ぐらい減ってますわ」
「マジかよ……そんなに減るのか……ん? お前喋ってないか?」
「私は高性能だから話せますの。ですが、水晶玉に『生命付与』を使用するということによく気づきましたわね」
「あぁ、俺もよく気づいたもんだと驚いている。で、お前の名前はマークⅢだ」
「分かりましたわ」
俺はマークⅢと共に小屋を後にした。
「あれ? ロストさん、水晶玉を持ってきたんですね。でもそれ私もやりましたけど、しばらくすると消えますよ」
キャニルがしたり顔で言った。
「えっ? マジかよ」
俺は愕然とした。
〈それは量産品の話ですの。ですが高性能な私は消えませんから心配いりませんわ〉
「……それを聞いて安心したぜ。ていうかお前、思念でも話せるのか」
〈当然ですわ〉
「俺のは大丈夫らしい」
「えっ? 何で大丈夫だと分かるのよ?」
「紹介するぜ。新しい仲間のマークⅢだ」
俺は掌の上にのせたマークⅢを皆に見せる。
「はぁ? ロストさんの特殊能力は物に命令できるだけよね?」
キャニルは訝しげな顔をした。
「あぁ、それは間違いじゃない。だが、俺の特殊能力は物に生命を付与できる『生命付与』なんだ」
「なっ!?」
キャニルたちの顔が驚愕に染まる。
「な、なんだかネクロマンサーみたいな特殊能力ね」
キャニルが難しそうな顔で呟いた。
「まぁな、俺もそれは思ったぜ」
「だ、だったら強い魔物を倒して『生命付与』を使ったら、強力な戦力になるじゃない!!」
キャニルは歓喜に顔を輝かせた。
「だが俺のは自我意識を発生させるだけだから、肉体が腐って維持できなくて骨になるだろう。それでも強さを維持できるのか試してみないと分からないが、試してみたいと思わないんだ。俺にとってマークⅠたちはペットみたいなもんだからな」
おそらく、俺は魔物の死体に『生命付与』を使ったら、雑な扱いをしてしまうだろう。だが、結局はマークⅠたちと同じ存在だからそれを考えると躊躇われる。
「そ、そうね……」
キャニルは複雑そうな表情で、ダークの背に乗るマークⅠを見つめている。
俺は『生命付与者解析』でマークⅢを視てみる。
名前: マークⅢ 水晶玉
全長: 約20cm
職業: 【無し】レベル: 1
HP: 5
MP: 200
SP: 200
攻撃力: 1
守備力: 1
素早さ: 1
魔法: アプレーザル
特殊能力: アイテム収納
お? アプレーザルの魔法は鑑定の効果があるのか。さすが水晶玉だな……それに『アイテム収納』もあるのか。
「なぁ、『アイテムを収納』ってのはどのくらい入るんだ?」
〈レベル1ですと、台車一台分ぐらいですわ〉
なるほど、レベルが上がれば収納力が増える感じなのか。なら今はマークⅡにアイテムを積んだままでいいか。
「で、どの方角に進むつもりなんだ。俺たちはこの小屋の正面から真っすぐに進んだ森の方角を、重点的に探してたんだが、村の発見には至らなかった」
〈北に進めば魔物の村、東に進めば人族の村や街があるはずですわ〉
魔物の国もあるのかよ。まぁ、普通に考えれば人族の村だろうな。
「なぁ、そもそも東ってどっちの方角なんだ?」
〈小屋の正面を真っすぐに進んだ方向が東ですわ〉
「ラードたちが進んだ方角は合っていたみたいだ。さらに進んだところに人族の村や街があるらしい。、小屋の正面から左に進めば魔物の村があるらしいとマークⅢが言ってるぞ。どうする?」
「ま、魔物の村!? そっちは論外だろ。行くなら人族の村だ」
その言葉に、キャニルも頷いた。
「まぁ、そうだろうな。なら人族の村に向かおうぜ」
個人的には魔物の村が気になるな。村ということは自我意識を持っている個体が支配しているはずだ。そうでなければ単なる魔物の巣のはずだからな。
俺たちは東に向かって進み始める。
これまでの経験値稼ぎのような戦い方ではなく、レシアたち後衛をマークⅡに乗せてラードがマークⅡを護っている。
そして俺が前面に出て、遭遇する敵を皆殺しにして進んでいるので進軍速度は速く、マークⅠの索敵能力があるので不意打ちされることもない。
とにかく、大量の荷物があるので、できるだけ早く村を発見することが最優先だ。
道中、俺たちはあのオークの化け物に遭遇するかもしれないと危惧していた。だが、そんな化け物には遭遇せず、レッサー・コボルトやコボルト、レッサー・オークやオークなどの魔物としか遭遇せずに、一度の野営を経て村を発見した。
迷うことなく村を発見できたのは、マークⅢの情報によるものだということは言うまでもない。
「なぁ、本当にここは村なのか?」
外壁を見上げていたラードが俺に問いかける。
まぁ、石の外壁の高さが10メートルをゆうに超えているから、そう思うのも無理はない。俺も村といえば漫画なんかに出てくる柵すらない村や、柵があってもせいぜい木の柵で囲われているのを想像していたからな。
〈ここは戦士の村ですわ。村としては最大規模ですけど、このくらいの規模の村は小規模な街と言う場合もありますの。つまり、その辺の基準は曖昧ですの〉
「これが村だというのは分かった。どのくらいの広さがあるんだ?」
〈単純に村の一辺の長さが50キロメートルありますわ。最大規模の街だと、一辺の長さが200キロメートルにもなりますの〉
はぁ!? 馬鹿げたでかさだな……
「どうやらここは最大規模の村で戦士の村ということらしい」
「戦士の村か。とにかく門の前まで行ってみようぜ」
頷いた俺たちは、門に向かって移動する。
門は開いているが、その前に鉄製の装備で身を包んだ門番が10人ほどいて、俺たち以外に中に入ろうとしている奴は誰もいなかった。
ラードが門番に話し掛けているが、どうやら話が通じていないようだ。まぁ、そりゃそうだろう。どう聞いても日本語じゃないからな。
〈基本的に大規模な村以上になると、身分証がないと入れませんの〉
「えっ? そうなのか。どうやったら身分証を作れるんだ?」
〈人族語が話せれば詰所で作れますわ〉
「ていうか、人族語って何なんだ? えらく曖昧だな。この世界の人間はその人族語っていう言語しか使っていないのか?」
〈その通りですわ〉
「マジかよ……他に方法はないのか?」
〈人族語と日本語が話せる者に仲介してもらえば可能ですの。つまり、私が交渉いたしますわ〉
なるほど、目から鱗だ。マークⅢは俺たち側の奴だと勝手に思い込んでいたが、よく考えてみると水晶玉はこの世界で作られたんだから、人族語が話せないわけがない。むしろ、日本語を理解していることのほうが驚きだな。さすが、自分で高性能だと言っているだけのことはある。
俺は交渉役をラードと交代し、掌の上にのせたマークⅢに交渉を任せた。
すぐに俺たちは詰所に連れて行かれて身分証を作り、村に入ることを許されたのだった。
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