第14話 俺の職業は【カスタードプリン】だ ☆ラード キャニル
俺たちが小屋に戻ると、ラードとキャニルの意識が回復していて、レシアたちと談笑していた。
「今回は本当に助かった。ありがとう」
「ありがとうございます」
俺を目にしたラードとキャニルが、深々と頭を下げる。
ラードは黒髪の短髪で筋肉質なゴツイ体をしていて、キャニルは長い赤い髪を大雑把に後ろで束ねて、スレンダーな体つきをしている美人さんだ。
「頭を上げろ、気にするな。あんたらも日本を救うためにここに来た戦士なんだからな」
「助かる……それにしてもあのオークによく勝てたものだ」
顔を上げたラードが感心したような表情を浮かべてる。キャニルも同意して頷いている。
「……あのオークっていうのはどういうことなんだ? やっぱり通常種じゃないのか?」
「ああ、普通のオークではないことは確実だ。普通のオークはあんなにでかくない。それに装備も普通サイズの鉄の斧と皮の装備なんだ」
「マジかよ……」
確かに奴の鉄の斧は普通の三倍ほどのでかさだったな……どうりで俺の渾身の一撃で腹を貫けなかったはずだぜ。だが、だとすると奴は上位種ってことになるが、少なくとも上位種なら俺の倍以上のステータスのはずだ。
俺は不可解さを拭えなかった。
「俺の職業は【傭兵】なんだが、あんたの職業はいったい何なんだ? 強さ的には上級職の【騎士】だと思うんだが、あんたは攻撃魔法を使ってたから違うんだろ?」
へぇ、さすがにちゃんと水晶玉から知識を得てるんだな。おそらく、あの時点での俺の強さを考慮して【騎士】だと考えたんだろう。だが、低レベルの【騎士】が使用できる魔法は、シールドのみだから疑問に思ったんだろうな。
「水晶玉のデータには一般職と戦闘職しか載っていないが、実際にはそれ以外の職業も存在してるんだ。つまり、俺は戦闘職ではないんだ」
「なるほど……一般職と戦闘職ではない転移者は意外にいるもんなんだな」
「どういうことだ?」
「ルルルもそうなのよ、ね?」
代わりに答えたキャニルが、ルルルに同意を求める。
「う、うん……私の職業は【無職】なの」
ルルルは心底嫌そうに言った。
「はぁ? それって職業についてないってことなのか?」
「いえ、違うのよ。ルルルのは【無職】っていう職業なのよ」
「ほう、ややこしいな。だが面白い。俺の職業も他人からすれば、かなり面白いと思うだろうからな」
「もったいつけるなよ。あんたの職業はいったい何なんだ?」
皆が興味深げに俺を見る。
「俺の職業は【カスタードプリン】だ」
俺はあえて誇らしげに答えた。
「……はぁ? ほ、本当にそんな職業であのオークを倒したのか……」
ラードとキャニルは困惑しているみたいだが、ルルルは同類が現れたからか嬉しそうにしている。
「な、納得です!! どうりでロストさんからは、バニラのようなカスタードのような甘い香りがしていると思っていたんです!!」
熱弁するレシアの口からは少し涎が垂れている。
どんだけプリンが好きなんだよ。いや、果物の食いっぷりからして、もしかして日本ではフードファイターだったのか?
「で、俺は職業を証明できなかったから口にしなかったが、今は証明できるようになった」
俺は樽置き場の前まで行って、樽の上に置いてある木のコップを手に取ってから、皆のところに戻る。
「これはありふれた木のコップだ。無論、中には何も入っていない」
コップの中身を皆に見せた俺は、『無限プリン』を発動すると、コップの中に瞬時に、カスタードプリンが出現したのだった。
「なっ!?」
ラードとキャニルは絶句している。
俺は『無限プリン』の他に『プリンに夢中』にも目覚めている。
『プリンに夢中』は俺が創り出したプリンを対象に食べさせると、プリンが好きになるというどうでもいい特殊能力だ。
『無限プリン』は無限となっているが、実際にはコップ一杯のプリンでSPが1減少するので無限には創れない。
俺はやっと俺の職業に関連した特殊能力に目覚めたと歓喜したが、戦闘では何の役にも立たないことを知った俺が、酷く落ち込んだことは言うまでもない。
まぁ、これで食料不足の懸念はなくなったが、糖尿病になるかもしれないな。
「た、食べてもよろしいですか?」
レシアの目はプリンに釘付けだ。
「ああ」
「ありがとうございます!!」
レシアはローブのポケットから、木で作ったヘラのような道具を取り出し、器用にプリンを食べ始めて幸せそうだ。
「それであんたらはなんであんなところにいたんだ?」
「俺たちは村や街を探すために探索していたんだ」
「やっぱりか。俺たちもこの小屋が消えたら村を探す予定で、それまではできるだけレベルを上げようと思ってる」
「だろうな。俺たちもそうだったからな。なぁ、ロスト、俺たちをあんたのパーティに入れてくれないか?」
「申し出は嬉しいが俺は戦闘職ではないから断る」
「なぜだ? あんたほどの強さなら戦闘職じゃなくても、何の問題もないだろう。違うか?」
「俺はレシアを村に送り届けたら、戦闘職や一般職でもない俺のような職業の連中を探す旅に出るつもりだからな。俺はなんとか生き残れたが、俺のような職業の奴は、おそらく序盤はぎりぎりの戦いを強いられると思うから、それを手助けしたいんだ」
「なるほどな……だったら村を探すまでの間ならどうなんだ?」
「ああ、それなら構わない」
こうして、俺達は一時的にパーティを組むことになったのだった。