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第12話 豚鼻

 

 姿を見せた女は俺たちに気づいていないようで、俺たちの横を駆け抜けていく。


 「おい!! 何かあったのか?」


 俺は声を張り上げて女に問いかける。


 「えっ!?」


 歩みを止めた女は、俺たちを目の当たりにして絶句している。


 女の前まで移動した俺はさらに続ける。


 「慌てた様子だがどうしたんだ?」


 「あ、あんたも日本人よね?」


 女は俺を上から下まで見てから言った。


 まぁ、日本人ならありふれた俺の格好を見て同郷だと思うだろうし、日本語で話してる時点で確定なんだがな。


 彼女の容姿は金髪のミディアムヘアーで、露出度の高い服を着ているからギャルぽい感じだ。しかし、青い瞳から発せられる雰囲気から、冷たい感じの印象を受ける美人でもある。


 「まぁな。それでどうしたんだ?」


 「……逃げてる途中よ」


 女は心底言いにくそうに答えた。


 「何からだ?」


 「ぶ、豚鼻の黒亜人よ。私は弱いから仲間に逃げろって言われたの」


 豚鼻ってことはオークだろうな? 確かレッサー・オークのステータスの値は30ぐらいだったはずだ。無論、レベル1だったらの話だが。要するに、彼女の仲間も戦闘職ではない可能性が濃厚だ。


 「どこで戦っている? あんたが逃げてきた方角で合っているか?」


 「た、戦うつもりなの!?」


 女は面食らったような顔をした。


 「状況にもよるがそのつもりだ。で、合っているのか?」


 「う、うん」


 「俺は先に行く。レシアは後からゆっくり来てくれ。俺が劣勢だったら迷うことなく逃げるんだ」


 マークⅠをレシアの肩にのせた俺は、女が走って来た方向へと駆け出した。


 勝てそうにない戦いで弱い奴を逃がすっていう判断は、なかなかできるものじゃない。できることなら助けたい。


 俺は一直線に進むために、邪魔な木々を槍で斬り倒しながら進んでいると、開けた場所に出た。


 そこには、鉄の装備で身を包んだ三メートルほどある豚鼻の黒亜人が、巨大な斧を振り上げて、へたり込んでいる黒髪の男に止めを刺そうしている瞬間だった。


 「ポイズン!!」


 間に合わないと瞬間的に判断した俺は、走りながらポイズンの魔法を唱え、緑色の風が豚鼻の体を突き抜ける。


 豚鼻は体を硬直させてからすぐに、苦しげに奇声を上げた。


 なんとか間に合ったが、でかすぎるだろ。


 通常種なら確かステータスの値は80ほどで、全長も二メートルほどのはずだ。となると、上位種になるが、だからといって俺のやることに変わりはない。


 矢のごとく突進した俺は、全力で豚鼻の腹に槍を突き刺すと同時に声を張り上げた。


 「おい!! 俺がしばらく時間を稼ぐ!! あんたは下がって態勢を整えろ!!」


 怒りの形相の豚鼻は俺に目掛けて斧を振り下ろすが、俺は紙一重でなんとか斧を躱して距離を取る。


 マジかよ!? 俺の渾身の一撃で奴の体を貫けなかった……どんだけ守備力が高いんだよ。やっぱり、上位種なのか? こうなると物理にあまり期待はできないな。


 「ポイズン!!」


 俺はポイズンの魔法を唱え、緑色の風が再び奴の体を突き抜ける。


 ポイズンの重ね掛けに効果があるのか分からないが、今は時間を稼ぐしかない。


 さらに毒をくらった豚鼻は、耳をつんざくような奇声を上げて、俺に目掛けて突っ込んでくる。


 あの様子だと重ね掛けに効果はあるようだな。


 俺は思わず黒髪の男を一瞥すると、黒髪の男はほとんど動いていなかった。


 何でだよ!? 何やってんだ?


 俺に肉薄した豚鼻は狂ったように斧を振るうが、俺は斧を躱しながら槍で応戦する。


 こいつの素早さは俺より速いが、おそらく毒と怒りで攻撃が雑で単調だ。一撃では奴の体を貫けないが、俺が腹を集中的に攻撃していると、ついに槍が奴の体を貫いた。


 その瞬間、豚鼻の口から絶叫が迸る。


 俺は豚鼻から大きく距離を取り、黒髪の男に視線を転じる。


 なるほどな。黒髪の男は腹を斬り裂かれて、はらわたが飛び出しているから後退できなかったのか。


 「諦めるなっ!! 意識を保て!! 俺の仲間に【司祭】がいるから、この場を乗り切ればお前は必ず助かるぞ!!」


 俺の言葉が届いたのか、男はゆっくりとだが後退し始める。


 「ポイズン!!」


 俺はポイズンの魔法を唱え、緑色の風が豚鼻の体を突き抜けて、豚鼻は地面をのたうち回る。


 いける!! まさかポイズンの魔法の重ね掛けが、こんなにも有効だとは知らなかった。


 俺が即座に豚鼻との距離を詰めると、豚鼻が猛攻を仕掛けてくる。


 最後の足掻きか……だが俺に慢心も焦りもない。俺は冷静に豚鼻の攻撃を躱しながら、槍の攻撃を豚鼻の首に集中させる。


 やはり、槍は最強だな。これが剣での戦いなら、俺が損傷する可能性は高いからな。


 俺が淡々と執拗に豚鼻の首を攻撃し続けていると、ついに豚鼻の首が地面に転がり、豚鼻は仰向けに倒れた。


 俺は倒れた豚鼻をしばらく見下ろしていたが、豚鼻に動く気配はない。


 まぁ、さすがに首がなくなると死ぬとは思うが、ここは異世界。どんな特殊能力を持っているか分からないから慎重にもなる。


 踵を返した俺は黒髪の男の傍に移動する。


 「豚鼻は倒した。気を強く持て。今から俺の仲間を連れてくるからな」


 「す、すまないが……俺の近くに赤い髪の女性がいるはずなんだ。捜してくれないか……」


 「分かった」


 一瞬、ギャルのことかと思ったが、彼女は金髪だった。どうやらこいつらは三人組だったようだ。


 俺は周辺を見渡したが、豚鼻の死体の他には、レッサー・オークたちの死体しかなかった。


 女はどこなんだ? ……森の中に逃げたのか?


 俺が黒髪の男の後方の森に入ってみると、赤いローブを着ている女が地面に突っ伏していた。


 女の口に手を当てると息があり、生きているようだが、体からの出血が多く、地面は赤く染まっている。


 このままでは男も女ももたないかもしれない……俺が二人を抱えてレシアの元まで行くしかないな。


 意を決した俺は女を背中に担いで黒髪の男の元に急行すると、そこにはレシアの姿があり、彼女が黒髪の男の傷を魔法で癒していた。


 「助かったぜレシア。もう一人いるから頼む」


 俺は赤髪の女をレシアの前に寝かせてから、服を脱がすだろうと考えて、その場を離れて豚鼻の死体の元に歩いていく。


 〈ふふふっ、マスター!! テツのオノとテツのヨロイとテツのクツがあるよ〉


 マークⅠは嬉しそうに豚鼻から装備を剝がしていて、マークⅠの周りには、レッサー・オークの死体から回収した鉄の斧が置かれている。


 「鉄の鎧と鉄の靴はサイズがでかすぎるからいらないんじゃないか?」


 まぁ、鉄の斧もレッサー・オークのと比べて、三倍以上の大きさがあるが……


 〈なにいってるの!! い~や~だ~よっ!! ぜったいいや!! カワのヨロイとクツはあきらめたんだから、これはぜったいにもってかえる!!〉


 マークⅠに引く気はなさそうだ。


 「くくくっ、冗談だ。鉄は加工して、何かに使えるかもしれないからな」


 〈なんだ、じょうだんか。それならあんしんだね〉


 へぇ、手に入れたアイテムを加工するのはありなのか。こいつにとっては手に入れたアイテムを、持って帰れればいいだけなのかもしれんな。


 〈う~ん、このヨロイけっこうおもい……〉


 マークⅠは鉄の鎧を抱えてふらふらしている。


 だろうな。分厚い鉄で作られている上にでかいからな。これを持って帰るのは骨が折れそうだ。先に台車を取りに行ったほうがよさそうだ。


 俺は来た方角の森に視線を向けると、そこには台車が置かれていた。


 「ほう、さすがだな……」


 そう呟いた俺はあたふたしているマークⅠから片手で鉄の鎧を掴み、もう片方の手で巨大な鉄の斧を掴んで、台車に向かって歩き出す。


 〈ありがとう。マスターはちからもちだね〉


 マークⅠは鉄の靴を抱えて俺についてくる。


 俺が台車に斧と鎧を積み込むと、マークⅠは靴を地面に置いて、残りの武器を取りに戻る。


 全てのアイテムを台車に積み込んだところで、レシアが俺の元にやってきた。


 「お二人とも命に別状はありませんが、意識を失ったままです」


 「さすがだな、ご苦労さん」


 あのレベルの傷が治るとは、さすが異世界だぜ。


 「い、いえ、すごいのはロストさんです。よくあんな大きなオークに勝てましたね」


 レシアは羨望の眼差しを俺に向けている。


 「まぁ、ぎりぎりだったがな。だがポイズンの魔法の重ね掛けが有効なことが分かったのは収穫だった」


 俺たちは黒髪の男と赤髪の女を台車に乗せて、俺の小屋に帰還したのだった。

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本日、もう一話投稿する予定です。


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