第1話 プロローグ 三人称神視点
第一話のプロローグは三人称神視点で書いていますが、第二話からは主人公の一人称視点で話は進みます。
ストックはあるので、しばらくは毎日更新するので、よろしくお願いします。
ある時を境に国内で行方不明者が続出しており、その原因が得体の知れない生物だということに、誰もが気づいていなかった。
最初に近畿地方の動物園で発見された得体の知れない生物は、鼠のような姿で全長が60センチメートルほどもあった。
だが、駆けつけた警察官は、その大きさよりも強さに驚きを禁じ得なかった。
その得体の知れない生物は獅子を捕食しており、拳銃で致命傷になり得るダメージを与えることができなかったからである。
これにより、軍隊が出動する事態に陥り、重火器によって得体の知れない生物は倒されたのだ。
軍は得体の知れない生物の死体を研究機関に送ったが、死体は数日で跡形もなく消え去った。
そのため、報道番組に出演した生物学者が地球外生命体だと認定し、日本中に激震が駆け抜けた。
情報番組ではこの地球外生命体のことを“最強の鼠”と評しており、遭遇しても絶対に近づくなと警鐘を鳴らしていたが、一部の狂った者たちが「最強の鼠を捜せ」と。躍起になって国中を捜索したが発見には至らなかった。
それから一か月が経過し、最強の鼠の記憶が薄れだした頃に、またもや近畿地方の動物園で地球外生命体が発見される。
しかし、鼠のような姿ではなく、蜘蛛のような姿をしており、この蜘蛛は熊を捕食していたのだ。
即座に動物園は軍隊によって包囲されて、政府の指示により、この蜘蛛は監視対象に置かれることになる。
政府は対外的には地球外生命体とのコンタクトを取るためだと発信しているが、実際は彼らの背後にいるかもしれない知的生命体の存在を恐れたのである。
蜘蛛は動物園から出ることはなく、大型の猛獣を淡々と食らっており、その様子をモニター越しに観察していた生物学者は深刻な表情を浮かべていた。
彼にはこの星の戦力を調査している尖兵ではないのかと、思えてならなかったのだ。
「それにしてもオレンジバブーンそのものだ……」
オレンジバブーンとはアフリカに生息するタランチュラの一種で、脚を伸ばした全長は15センチメートルほどにもなり、全身が橙色の毛に覆われて綺麗なのでペットとしても人気がある。性格は獰猛で、瞬時に移動することもあるのでとても素早く、アフリカではオレンジの噛む奴というあだ名まであるほどだ。
しかし、生物学者が見ている蜘蛛の全長は、脚の長さを含めると、二メートルを超える化け物なのだ。
情報番組ではこの蜘蛛ことを連日放送しており、この蜘蛛は動物園で動物を捕食しているものの、人に危害を加えていないので、国民は楽観視している傾向にあり、モフモフオレンジと名付けられて人気があった。
モフモフオレンジが動物園に出現してから一週間が経過し、経過観察から接触にフェーズが移行して、軍の特殊部隊が行動を開始する。
彼らは設置型の大盾の後ろに身を隠しながら、モフモフオレンジとの距離を慎重に詰めていく。
檻の外に出ているモフモフオレンジは、いたるところに糸を吐いて巣作りに励んでおり、隊員たちはモフモフオレンジに三メートルほどまで接近したところで停止した。
緊張した面持ちの隊員たちはモフモフオレンジの動向を注視しているが、モフモフオレンジは気にした様子もなく糸を吐いており、隊員たちの口から安堵の溜息が漏れる。
隊員たちはコミュニケーションを図ろうとモフモフオレンジに話し掛けるが、モフモフオレンジは全く反応しなかった。
その様子をモニターで観察していた生物学者が、無線で「彼に自我意識はない」と隊員たちの隊長に告げる。
「了解した。次のフェーズに移行する」
隊長が無線で後方部隊に指示を出すと、隊員たちの元に大きな箱が二つ届けられた。
隊員が箱の蓋を開けると片方の箱の中には動物の肉、もう片方には果物が入れられており、隊員たちが慎重にモフモフオレンジの前へと運ぶ。
モフモフオレンジは躊躇うことなく肉に食いついて瞬時に平らげたが、果物には見向きもしなかった。
「最終フェーズに移行する」
隊長の言葉に、隊員の一人が神妙な表情で頷いた。
隊長から大盾を受け取った隊員は大盾に身を隠しながら、注意深くモフモフオレンジに接近していく。
隊員がモフモフオレンジの目の前まで到達しても、モフモフオレンジに変化はなく、隊員は意を決して手を伸ばしてモフモフオレンジに触れた。
その瞬間、モフモフオレンジは前脚を横なぎに振るい、前脚が直撃した大盾は一撃で拉げて、隊員はトラックに跳ね飛ばされたように弾け飛んで地面を転がった。
「分かっていたことだが目の当たりにすると凄まじいな……」
隊長はゴクリと息を呑む。
即座に待機していた救急救命士たちが横たわる隊員の傍に駆けつけて、救急救命処置を行ったことで隊員は一命を取り留めた。
彼が死なずに済んだ訳は、大盾に守られたこともあるが、防弾チョッキの下に鋼の鎖帷子を着込んでいたからであり、それらがなければ彼は肉片に変わっていただろう。
そして、この模様はテレビ中継されており、モフモフオレンジに触れなければ安全だということが周知の事実となった。
そのことからモフモフオレンジが暮らす動物園に、見物客が押し寄せる事態になったが、動物園の全ての動物を失って途方に暮れていた動物園経営者には、まさに天の助けだった。
モフモフオレンジの人気はパンダに迫る勢いだったが、一か月が経過した頃、近畿圏内の全ての動物園に様々な地球外生命体が姿を現したのだ。
しかも、出現した地球外生命体は複数で動物園内で争いが生じており、それはモフモフオレンジが暮らす動物園も例外ではなかった。
彼が遭遇した地球外生命体は蟷螂のような姿だった。
対峙した両者は即座に戦闘になり、蟷螂が大鎌を振るって風の刃を放ったが、モフモフオレンジは横に跳躍して風の刃を難なく躱し、瞬時に蟷螂に肉薄して前脚の連撃を繰り出した。
体中が穴だらけになった蟷螂は、血飛沫を上げて力尽きた。
このような戦いが近畿地方の全ての動物園で勃発しており、軍は動物園を包囲して事の成り行きを静観していたが、どちらかの地球外生命体が戦いに敗れると、数日以内に新たな地球外生命体が出現し、熾烈な生存競争が繰り返されていた。
軍はモフモフオレンジと同様に、次々に出現する地球外生命体たちも動物園から出ることがないので、触らなければ安全だと思い込んでおり、軍の隊員が生き残った地球外生命体に、生肉を提供しようとして殺害される事件が発生した。
これにより、国民も地球外生命体に触らなければ安全だと思い込んでいたので、地球外生命体に対して国民に不信感が芽生えた瞬間だった。
だが、なぜかモフモフオレンジだけは依然として変わらずに、軍の隊員や見物客が近づいても攻撃することなく暮らしていたので、モフモフオレンジの人気はパンダを上回るほど上昇したのである。
それから、三年の月日が流れた。
動物園で暮らすモフモフオレンジは未だ健在で、その全長は六メートルを超える巨体にまで育っており、最早、無敵の強さを誇っていた。
他の動物園の状況は様々で、未だ一対一の戦いを継続している場合や、種族が異なる3匹以上の地球外生命体が争っている場合や、勝ち残った地球外生命体の種族が群れを形成している場合などがあり、数が多い種族は100匹を超えているので国民たちの心に暗い影を落としていた。
そんな状況の中、日本を震撼させる事件が発生する。
日本国の首相が首相官邸で、何者かに暗殺されたのである。
官房長官は刑事と一緒に、首相官邸に設置されている防犯カメラの映像を確認し、彼らは絶句した。
映像には、背に蝙蝠のような羽が生えた黒い肌の人型の生物が、首相のボディガード諸共、首相を殺害するシーンが映っていたからである。
「とうとう危惧していた知的生命体が現れたのだな……」
官房長官は苦悩の表情を浮かべて頭を抱える。
彼は速やかに会見を開き、知的生命体が首相を殺害したことを発表し、今後、首相になる者は確実に知的生命体の標的になることを付け加えたのだった。
この発言に野党は本当なのかと懐疑的だったが、翌日、官房長官が首相官邸で死体となって発見されたことにより、首相や大臣に立候補する政治家はいなくなり、日本は無政府状態に陥ったのだ。
これを皮切りに、地球外生命体たちが一斉に動物園から外に出て国民に襲い掛かり、近畿地方は地獄絵図と化す。
この状況に憤慨した軍の陸将が、独断で軍を動かして近畿地方に進軍する。
開戦当初は軍が有利に戦闘を進めていたが、それは一メートルほどの大きさの地球外生命体に対してのみだった。
そもそも、この一メートルほどの個体ですら拳銃による攻撃が効かず、その素早さはトップアスリートの瞬間最高速度を軽く超えてくるのである。
つまり、彼らが戦闘状態になると、時速40キロメートル以上の速度で平然と動けるのだ。
しかも、これは一番弱いとされる鼠のような地球外生命体の数値であり、体の大きさが二メートルを超える地球外生命体たちには重火器すら効かず、戦車すら破壊するのである。
これにより、軍は防戦一方になり、近畿地方からの撤退を余儀なくされた。
だが、陸軍が近畿地方から撤退したことにより、空軍が近畿地方の動物園に対して空爆を行い、劇的な戦果を上げる。
国民は空軍を称賛したが、数時間後には近畿地方の動物園に、新たな地球外生命体たちが出現する。
再び空軍が近畿地方の動物園に空爆を行って地球外生命体たちを殲滅し、一方的な戦いが繰り返されていたが、高高度を飛行する爆撃機が帰還しない事態が立て続けに発生したのだ。
飛行可能な蜻蛉のような地球外生命体や、鷲のような地球外生命体が出現し、爆撃機を墜落させたのである。
これに対して空将は、多数の戦闘機に爆撃機を護らせる作戦を講じることにより、地球外生命体を撃退した。
しかし、それも長くは続かなかった。
体の大きな個体たちが出現し始めたからである。
地球外生命体は爆撃によって変わり果てた動物園から無尽蔵に出現し、空軍は徐々に数を減らされて、日本から空軍が失われる事態に陥った。
そのため、国民の誰もが日本は滅ぶと予感した。
その時である。
彼らの脳裏に声が届いたのだ。
「聴こえてるかい? どうやら君たちは戦い方を間違えたようだね」
この脳裏に響く声に、国民たちは驚き戸惑って近くにいる人に、この声が聴こえているのか確認して、幻聴ではないことを知る。
「君たちが戦っている相手はこっちでは魔物と言われてる存在なんだよ。まぁ、君たちがどう戦うのか静観してたんだけど、さすがに上位種が出現したら勝ち目はないと思って干渉したんだよね。つまり、こっちの世界に君たちが来て力をつける。で、帰還して魔物と戦うっていう提案なんだよ。僕ちゃんの手が空いてればいいんだけど、君たちの状況よりも悪い星が多くて手が空いてないんだよね」
「プルが行くデス!!」
「えっ? う~ん……世界の壁を越えるにはプルは強すぎるんだよ。だから向こうに行くためには弱くなるけどいいのかい?」
「それでも行くデス!!」
「仕方ないね……そっちにプルっていうピンクのスライムが行くからよろしく頼むよ。日にちは分からないけど時間は昼頃になると思うから空を気にしておいてね。あと、こっちの世界に渡るには命のリスクがあるから、それを踏まえた上でよく考えてほしい。で、こっちに来る決断をした人は、こっちに来たいと強く念じてほしい。その時に詳しい説明をするよ。じゃあね」
この言葉を最後に、国民たちの脳裏に声は聴こえなくなり、国民たちは放心状態に陥ったのだった。
これは、後に「厄災」と呼ばれるようになる、得体の知れない侵略の記録である。
そして、絶望の果てに異世界へと渡り、全てを覆す力を持って帰還する、一人の男の物語――。
プロローグ、お読みいただきありがとうございます。
次の第二話から主人公、ロストの一人称視点で話は進みます。
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本日はあと何話か更新する予定です。