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家族にも婚約者にも捨てられ悪役令嬢と蔑まれた私が、隣国の皇太子に拾われたら――溺愛されつつ家族に代わって華麗に復讐してくれて、気づけば次期王妃になっていました

作者: 結城斎太郎


「リディア、あんたは黙ってそこに立ってなさい。見苦しい顔を見せないで」


そう吐き捨てたのは、姉のクラリスだった。ハイスペックな才媛である姉は、容姿も頭脳も完璧で、常に両親の寵愛を一身に受けていた。一方、リディアは幼少の頃から使用人以下の扱いを受けてきた。愛された記憶など一つもない。


お世辞にも派手とは言えない顔立ち、魔力も才覚も人並み以下。ドレスすら姉のお下がりだった。


「どうして私が生まれたんだろう」


それが、リディアの毎日の口癖だった。


2.婚約破棄という宣告


舞踏会の夜、彼女に追い討ちをかけるように悲劇が起こった。


「リディア=エルバート。貴女との婚約は破棄させていただきます。私はクラリスと結婚する」


人々の前で、堂々とそう宣言したのは婚約者のリオン侯爵令息だった。リディアは何も言えなかった。否、声が出なかった。


姉と手を取り合って笑う二人を見ても、怒りも涙も湧かなかった。ただ、もうすべてがどうでもよかった。


「……逃げよう」


気がつけば夜の森へと足を運び、ドレスの裾を引きずりながら、どこまでも歩いた。


誰も自分を探しはしない。だから、どこまでも遠くへ。


そして、――彼女は倒れた。


3.拾われた命


「おい、しっかりしろ……!」


目を開けた時、見慣れぬ天井があった。


豪奢だがどこか温かみのある部屋。リディアは目をぱちぱちと瞬かせた。隣には銀髪の美青年が座っている。


「……ここは」


「俺の離宮だ。君は森で倒れていた。危うく命を落とすところだった」


彼の名はセシル=アルステッド。隣国リオネールの第一皇太子。


まさか、そんな人物が森で倒れた自分を拾ったなどと信じがたかった。けれど、彼の目は真剣で、温かい。


「しばらくはここで休むといい。君が望むまで、何も聞かない」


その言葉に、リディアは涙をこぼした。


こんなにも優しい言葉を、人生で初めてかけられた。


4.求愛と拒絶


回復して数日後。セシルは言った。


「リディア。俺は君に心を奪われた。――君を、俺の妃に迎えたい」


驚きと戸惑い。リディアは即座に拒否した。


「……申し訳ありません。私は、そんな価値のある人間ではありません」


「価値がない?」セシルは眉をひそめた。「君は誰よりも美しく、心優しく、誇り高い。――君をそう思えなかった人間たちの目が腐っていただけだ」


彼の言葉は、リディアの心を静かに揺らした。


だが、彼女の中の傷は、そう簡単には癒えない。


それでもセシルは諦めず、静かに寄り添い続けた。


「時間が必要なら、いくらでも待つ。君が自分自身を取り戻すまで、俺が傍にいる」


彼の真摯な姿に、リディアは心のどこかで小さく希望の灯を見た。


5.復讐の始まり


やがて、セシルはリディアの過去を知る。


「……許せんな。貴族の名を汚すにもほどがある」


彼は静かに怒った。


そして動いた。公的な手段を使い、リディアの両親に監査を入れ、使途不明金と虐待の証拠を明るみに出した。エルバート家は爵位剥奪の危機に陥る。


元婚約者のリオンには、過去の裏金工作と不正な取り引きの証拠を突きつけ、彼の家の経済的基盤を徹底的に破壊した。


姉クラリスには――セシルの関係者である新聞社が暴行の証言を集め、社交界での信用をズタズタに。


だが、セシルは決して直接手を下さない。


「俺は“君に代わって”復讐しているだけ。君の手は、何も汚す必要はない」


リディアはその言葉に、初めて誰かに“守られている”実感を得た。



---




「父と母は、爵位を剥奪されたそうね」


リディアは窓辺で静かに呟いた。セシルが行った“代わりの復讐”は、貴族社会を揺るがすほどに鮮やかだった。


家名を誇っていたエルバート家は、今や没落貴族の烙印を押され、領地も館も没収された。父は追放、母は社交界から消え、姉クラリスは使用人に暴力をふるった過去が暴露され、社交界で完全に孤立。元婚約者のリオンは不正の数々が明るみに出て爵位を剥奪され、今はどこかへ雲隠れしている。


「リディア、君の目には彼らがどう映る?」


問いかけるセシルに、リディアはしばらく黙っていたが、やがてぽつりと口を開いた。


「哀れね。でも……ほんの少し、胸が軽くなったの。自分の存在が無意味ではなかったって、そう思えたから」


セシルは頷いた。


「君は間違ってなどいない。君を蔑んだ者たちが、愚かだったんだ」


その言葉に、リディアの胸の奥が、じんわりと温かくなるのを感じた。


7.自分を取り戻すということ


日々の生活の中で、リディアは少しずつ変わっていった。


髪を整え、姿勢を正し、セシルが用意してくれた新しいドレスに袖を通す。最初は戸惑いばかりだったが、鏡に映る自分を見て、少しずつ自信が芽生えていく。


「……これが、私?」


生まれて初めて、自分の姿を美しいと思えた。


そんなリディアを見て、セシルは穏やかに微笑んだ。


「リディアは元から美しかった。けれど、今の君は自分を知って、自分で立っている。それが何より誇らしい」


リディアはその言葉に、涙をこらえきれなかった。


「私、ようやく、私になれた気がします」


過去に傷つき、歪められていた自分を捨て、新たな一歩を踏み出す――それが、彼女の“再生”だった。


8.プロポーズ


ある日、セシルは正式に申し出た。


「リディア=エルバート。君を、リオネールの次期王妃として迎えたい」


美しい夕焼けの中、ひざまずくセシルの姿は、まるで絵画のようだった。


リディアはしばらく沈黙した。そして、深く息を吸い込んで言った。


「……はい。私でよければ、どうかあなたの隣に立たせてください」


涙をにじませながら答えたその言葉に、セシルは心から安堵したように微笑み、そっと彼女の手を取った。


「ありがとう、リディア。君が選んでくれて、誇りに思う」


その晩、宮中では内々の婚約発表が行われ、翌週には王国全土へと知らせが広まった。


「虐げられた貴族令嬢が、次期王妃に」


かつてリディアを侮った者たちは、驚きと恐れの眼差しで噂話を囁きあった。


だが、リディアはもう、そんなことに怯えることはなかった。


9.戴冠を前に


王宮では、婚約者としての教養や外交、儀礼の訓練が始まった。リディアはそれらを怠らず、誠実に向き合った。


「私は、ただ皇太子妃になりたいわけじゃない。セシル様の隣に立つに相応しい人になりたいの」


その覚悟はセシルにも伝わり、彼はますますリディアを誇りに思うようになった。


一方で、ある日、王妃陛下がリディアを私室に呼び寄せた。


「貴女の評判は知っています。けれど、私の目には、強くて聡明な女性に映るわ。――息子が選んだ理由がよく分かる」


リディアは、はらはらと涙をこぼした。


この国では、彼女の価値を見てくれる人がいる。過去とは違う世界が、ここにあるのだと。


10.婚約式と、始まり


そして迎えた婚約式。宮殿中が輝くように飾られ、各国の貴族や使節が集うなか、リディアは純白のドレスに身を包み、玉座の横へと歩んだ。


セシルが差し出す手を取り、その指に美しい青の宝石をはめられたとき、宮廷中から拍手が湧き起こった。


「――リディア=エルバート。いや、今やリディア=アルステッド。君は、俺の誇りであり、未来だ」


セシルの宣言に、リディアは堂々と微笑んだ。


「私は、もう過去には縛られません。今、あなたとともに未来を歩きます」


かつて“悪役令嬢”と蔑まれた少女は、いまや王国の希望となった。



---


〜エピローグ〜


月夜のバルコニー。セシルとリディアは並んで空を見上げていた。


「今でも時々、夢を見るの。あの冷たい部屋で泣いている私を」


「だが、今の君はその夢を過去に変えられる。君はもう、未来しか見ていない」


セシルの言葉に、リディアはそっと微笑んだ。


――そう、これは私の物語。

もう誰にも奪わせはしない。


そして、彼女はその手に、確かな幸福を掴んだのだった。



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