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42 魔力を測ろう!

 魔法大学で行われた管楽儀式魔法七祭具の機能テストの結果は、まずまずだった。

 詠唱不可音1種を含む魔法(夜の魔女の魔法)を発動させる事はできた一方で、たった一度の使用で祭具に亀裂ができてしまったそうだ。使えてあと一回か二回か。

 しかも管楽儀式魔法七祭具のグレムリンは球体じゃないし、幾何学的形状でもないので、魔法威力増幅倍率は0.8倍になってしまっていた。


 二割の威力ダウンを差し引いても、詠唱不可音の一つを人類が克服したという事実は極めて大きい。異常振動で一発自己破壊より遥かに良い結果だし。

 更なる発展と安定化を目指し現在は初回実験で得られた貴重なデータを慎重に分析中だ。

 今後は空間幾何学や音響物理学に詳しい識者を募集し、形状と効果の関連性をより詳しく洗い出す地道な作業から再出発する予定との事。

 研究を進めるにはかなり時間がかかりそう。まあでもそんなものだ。何事も。大学の教授陣と学生諸氏には頑張って欲しい。

 そして研究結果だけ書類で教えてくれ。待ってるから。


 一方その頃俺はというと、黒色グレムリンの謎を自分なりに考えていた。

 炭こたつでぬくぬくして、川魚の皮煎餅をつまみに自家製のどぶろくを飲みながら(酒税法自然消滅万歳!)色々考えた結果、構造色になっていたのでは? という仮説を立てられた。

 黒色グレムリンの黒色が構造色だったとすれば、なぜ塵になっていたかは分からないが、異質な発色の理由は説明できる。


 構造色とは、その名の通り構造が作る色だ。化学的な発色色素ではなく、物理的な構造でも色は出る。

 例えばコンパクトディスク(CD)は裏返すと見る角度によって虹色に色付いて見えるが、これは構造色に由来する。CDにデータを記録するため彫られた微細な凸凹が光を屈折させ、虹色染料無しで虹色に見せているのだ。

 自然界にも構造色はある。クジャクやハチドリの鮮やかな色は、色素ではなく物理構造による光の屈折が生み出している。ブルーベリーやモルフォ蝶の青色もそう。というか、自然界の生物の青色は99.9%構造色だ。だから「幸せの青い鳥」とか「奇跡の青バラ」なんていう概念があるわけで。

 物理学の妙にも思える構造色は、生き物にとっては珍しくもない装備だ。


 という事は。

 ダイダラボッチの黒色グレムリンも、構造色だった可能性がある。

 ダイダラボッチも魔物に変異する前は動物だったはず。何かしらの構造色を持っていて、それがグレムリンに現れたとしてもおかしくない。

 つまり、ダイダラボッチのグレムリンは全て赤銅色だった。そのうち一つの一番小さなグレムリンに細かい物理構造の溝ができていて、光の屈折と吸収で黒色に見えていただけ。

 これが俺の仮説だ。

 塵化の説明はできないが、色については納得がいく。


 俺は仮説を検証するため、グレムリンに構造色を彫ってみる事にした。

 黒色は光を一切反射しない色だから、とりあえず適当なグレムリンの表面に光を吸収する物理構造を掘り込んでいく。ピッタリ500ナノメートル単位で、規則的に。

 鉄鋼羊の作業手袋は使い心地がよく、これだけ繊細な彫りをしていても指の動きを邪魔しない。俺は軽々と、とまでは行かなかったが、1日かけて1cmの長さの黒色構造色の溝をグレムリンに刻んだ。


 シパシパする目を擦りながら改めて構造色グレムリンを見る。

 うむ、確かに黒色になっている。黒色塗料なんて一切使っていないのに。これぞ構造色。理屈は分かっていても不思議だ。

 俺は一度作業手袋を外し、構造色をつついて塵になったりしないかチェックしたのだが、そこで奇妙な事が起きた。


 黒色構造色を指先でつついた瞬間、一瞬だけ黒が白に変わったのだ。錯覚ではない。確かに見た。

 今度はつつくだけではなく、べたっと触ってみる。すると、黒色構造色はサッと白色に変わった。

 そして指を離すと再びサッと黒色に戻る。

 おお?

 なんだこのオモシロ現象。


 うーん。これは人の接触に反応しているのか……?

 いや違うな。温度か? 魔力か?


 氷で冷やした指で触ってみたり、湯たんぽで温めた指で触ってみたりしたが、どうやら温度は関係無いらしいと分かる。

 それと素肌で触らないとダメだ。手袋越しでは反応しない。素肌で、というか肉体を直接触れさせれば、肘でも頬でも舌でも黒から白への変色反応を示した。


 魔力に反応してるっぽくないか? これ。

 生命力とか寿命とかに反応してる可能性もあるけど、今までグレムリン加工によって発揮されてきた様々な効果は、全て魔力や魔法がらみだ。今回も魔力・魔法がらみと考えていいだろう。


 反射炉に行って朝靄の中で微睡んでいる三匹の火蜥蜴に構造色グレムリンを押し付けてみても、押し付けている間だけ黒から白に変色する。変色反応に個人差(種族差)は無いようだ。

 一人でできる検証はそこで止まってしまったので、俺は魔力の専門家を召集した。

 もちろん、ヒヨリだ。


 早朝に叩き起こされ迷いの霧を割って現れたヒヨリは不機嫌そうだったが、ブツブツ言いながらも構造色グレムリンの検証に協力してくれた。


「ふぅん。確かに色が変わるな」


 構造色グレムリンに指を当てたヒヨリは頷いて言う。俺は勢い込んで聞いた。


「なあ、この変色って魔力関係? 固有色とは関係無さそうなんだけど」

「待て。調べる」


 ヒヨリは短く言って動かなくなる。俺には分からないが、魔力コントロールでなんかしているのだろう。

 朝っぱらから呼びつけてもお願い聞いてくれるヒヨリはやっぱ親友だな!

 でも俺も真夜中に急に「話を聞いて欲しい」とか言って魔法大学非常勤講師の職を受けるべきか受けざるべきかのお悩み相談に付き合わされたりするからお相子だ。ここは似たもの同士とさせていただこう。


 しばらく構造色グレムリンに指をあてたまま彫像のように動かなかったヒヨリだが、不意に仮面を外しグレムリンに鼻先が触れるぐらい顔を近づけじぃーっと視た。

 その状態で少し間を置くと、今度は構造色グレムリンがすごいスピードで白黒白黒と切り替わり始める。

 なんかやってるぅ! なにやってるのかわからーん!


 しかし俺は「待て」ができる伝説的魔法杖職人なので、ヒヨリが調べ終わるまで全ての質問を飲み込み大人しく待つ。

 それからさらに10分ぐらい経ってから、ヒヨリは構造色グレムリンから顔を離し仮面をつけなおした。



「だいたい分かった。このグレムリンは魔力保有量に反応している」

「ほう。詳しく」


 魔力関係の何かだという事は俺もわかっていた。

 しかし、魔力保有量とな?

 魔力計測器になってるって事?


「これには私の現在の魔力残量が現れている。見ていろ…………ほら。魔力を絞って圧力を下げたら、つまり魔力切れの偽装をしたら目盛りが下がっただろう?」

「おおーっ」


 ヒヨリがやったらしい魔力コントロールは俺にはサッパリ分からないが、魔力コントロールの結果は目で見る事ができた。

 ヒヨリは構造色グレムリンの端に指をあてているのだが、黒いグレムリンが音量ゲージを上げるように指の接触点から白く染まっていったり、黒く戻っていったりしている。

 俺の目には構造色を出すために刻んだ500ナノメートル間隔の横線が、目盛り線のような役割を果たしているのがはっきり見えた。


 ヒヨリが「魔力を上げる」といえば黒色構造色の目盛りが白く染まっていき、「魔力を下げる」といえば白く染まった目盛りが黒に戻っていく。

 原理も、見た目もわかりやすい。

 グレムリンに刻んだ500ナノメートルの構造色横線集合が魔力残量ゲージになってる!


「魔力残量と目盛りは正比例してる。ほら、接触する魔力を二倍にしたら変色幅が二倍になった」

「これ、構造色グレムリンが魔力残量ゲージになってるって理解で合ってるか?」

「そうだな。魔女か魔法使いならこうやっていくらでも目盛りを変えられるが、魔力コントロールができない人間の正確な魔力残量チェックに使えるのは間違いない」

「マジか。この機能ずっと待ってた……!」


 激熱大勝利演出を幻視する。

 俺は感動に打ち震えた。


 今まで、魔力の定量測定をできた試しはない。

 魔女の感覚頼りで「お前は魔力が多い」とか、射撃魔法基幹呪文「撃て(ア゛ー)」を一度だけ撃てる魔力量だから君は魔力少ないね、とか、そういう評価基準で魔力を測るしかなかった。

 ところが。

 この構造色グレムリンは目盛りで魔力保有量、魔力残量を目視できる。

 魔力の物差しを手に入れたのだ。


 いうなれば、今まで人類は「親指と人差し指を広げたぐらいの長さ」という曖昧でフワフワした表現に頼って魔法を研究していたようなものだ。

 しかし構造色グレムリンを物差しとして使えば「188.2mmの長さ」というような具体的な数値を使って研究できる。

 研究精度も研究の幅も飛躍的に跳ね上がる。


 革命。これは革命……!

 エラいこっちゃ。ダイダラボッチの黒色グレムリンの謎を解明するつもりが、うっかりとんでもない物を作ってしまった。


「大利、喜ぶのはいいんだがこのグレムリンでは私の魔力は測りきれない。目盛りをオーバーしてしまう。というかお前の魔力ですら目盛りオーバーだろう?」

「任せろ任せろ。機能と理屈が分かればこっちのもんだ。すぐ、すぐ改良できるから待ってろ!」


 もう脳内の閃き回路がビッカビカだ。

 俺は全速力でヒヨリの莫大な魔力を計測できる構造色グレムリンの作成に取り掛かった。


 まずは軽い実証実験から。

 500nm幅の横線で黒色構造色を作ったグレムリンは、魔力感知表示能力が敏感過ぎて俺の魔力ですらオーバーフローを起こした。

 そこで700nm、600nm、400nm、300nm、200nmのそれぞれの幅の横線でも構造色を作ってみる。

 すると、横線の幅が短くなるほど魔力感知表示能力が鈍感になると分かった。

 つまり200nm幅の横線で構造色を刻んだグレムリンなら、魔女の桁外れの保有魔力すら精密に測定できてしまうのだ。


 俺は融解再凝固グレムリンでも天然グレムリンと同じ魔力保有量表示機能が働く事を確認し(この実験をしているあたりで暇を持て余したヒヨリは家に帰った)、4本の20cmの長さのグレムリン棒を鋳造した。

 そして、それぞれの棒に500nm、400nm、300nm、200nm幅の構造色横線を刻み込んでいく。


 流石の俺もナノメートル単位の加工には手こずる。四本の棒全てに4通りの構造色をつけ終わるまでに、毎日10時間労働したのに50日もかかってしまった。途中で慣れてきて加速したのにコレである。今までで最大の工数をかけた仕事になった。


 だが、おかげで全ての人、魔女、魔法使い、魔物の魔力量を精密計測できるようになった。

 俺の魔力も、火蜥蜴の魔力も。あの青の魔女のクソデカ魔力ですら測れてしまう。


 俺は新世界を切り開く新単位系の基準標本となるべき偉大な四本の構造色グレムリンを東京魔法大学に送り付けた。

 ガハハ! 恐れおののき腰を抜かすがいい。

 間違いなく俺以外の誰にも作れないスーパーオーバーテクノロジーだ。

 国宝指定してもいいぞ! 

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この小説、書籍化します!!
特装版制作&宣伝販促プロジェクトが動いています↓
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― 新着の感想 ―
人力T○MCは草
主人公の器用さが限界突破してるww目もかなりよさそう ダイダラくん体内にこんなのを仕込むことで魔力感知うまかったとかなんだろうかねぇ それで罠をくらいながら解析して時間魔法を編み出したとかか?それだと…
精密機械の擬人化か…?
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