設定集① 無名叙事詩の人々
無名叙事詩の登場人物たち。
概ね無名叙事詩における初出順。
本編に出ているのにここに記載が無い者については、作者が設定を作っていない。
――――――――【兎】――――――――
東北狩猟組合の兎枠。
鬼と戦うタルクェァを支援した、兎人族の女。
――――――――【まつろわぬ怪物】――――――――
地獄の魔女の枠。
鬼族の女。鬼族はまつろわぬ民であり、王国の国土で暮らしながら王国に帰順していない。王国軍を相手にはできないため、同じまつろわぬ民(兎人や羊人など)を喰らって腹を満たしていた。
兎人の集落を襲っているところにタルクェァがやってきて、戦闘になる。驚くほど手ごわいタルクェァを前に一度退いて仲間を引き連れ戻るも、兎人たちの魔法支援を受け粘り強く戦うタルクェァに敗れた。
命乞いし、タルクェァが生きている限り、人を喰わない事を誓った。
ところがタルクェァが去ってから間もなく、誓いをあっさり破りふたたび人を喰らいだす。
二度目にタルクェァに会った時、鬼は反省したフリをして再度人を喰わないと誓ったが、もう許されなかった。
「変われない、そのようにしか生きられない」者の存在をタルクェァに教えた女であった。
――――――――【せっかち羊】――――――――
板橋の魔女の枠。
大国を巡る大商隊の家事一切を取り仕切る、せっかち羊人。
奇妙な縁によりしばし商隊に同行する事になったタルクェァに、家計簿の付け方や服の繕い方、洗剤と水無しで服を洗う魔法などの家事を叩き込んだ。
――――――――【白嶺辺境伯】――――――――
荒瀧組親分の枠。
北方白嶺山系の玄関口に領地をもつ地方領主。白嶺族の男。
白嶺族の自立を守りつつ王国に帰順し、上手く領地を治めていた。清廉な人物。
訪ねてきたタルクェァに試練を課し、見事成し遂げた勇士に聖地への通行を許可する。
傀儡戦争では、予め領地の騎士達に従属の魔法をかけておく事で、傀儡魔法を防ぐか乱すかする効果を期待した。傀儡魔法は予防策の全てを容易く貫通し、予防は全くの無駄に終わった。
――――――――【白嶺の姫巫女】フレーゼーフ――――――――
青の魔女の枠。
元々、魔法文明に「冬」という季節は存在しなかった。北方の白嶺山系には白嶺族という少数民族が住んでおり、巨大な白狼を守護神として崇めていた。
白狼は幽界結晶を複数喰らい、太古から生き続ける強大な神獣であった。
白狼の祭祀を取り仕切る当代の巫女は、同時に一族の姫君でもあり、白狼に大層気に入られていた。
しかし姫は外の世界に憧れ、いつか旅に出たいと思いを募らせていた。
ある時、白嶺にタルクェァ一行がやってくる。タルクェァから旅の話を聞いた姫は憧れを爆発させ、タルクェァについて出奔する。
お気に入りの姫巫女が消えた事に気付いた白狼は、怒り狂って追ってきた。
この時に吐いた息吹は世界に広がり「冬」が生まれた。
姫巫女は追いついて来たメンヘラ白狼を説得しようとしたが、失敗。
無理やり連れ戻されそうになったため、半ば騙し討ちのような形で氷漬けにした。
姫は世界を巡る旅をして満足したら、白狼の氷を溶かし、共に故郷へ戻るつもりだった。
――――――――【お宝ハンター】――――――――
竜の魔女の枠。
不定形の体を持つシェイプシフター。お宝が大好きで、「雪解けの秘宝」を探している途中でタルクェァ一行と遭遇した。タルクェァ一行に負けまいと鼻息荒く迷宮に先行して飛び込んでいったが、片端から罠を踏み抜いていき、図らずもタルクェァ一行の露払いを務める形となってしまった。
タルクェァの墓に死体はない、しかし偉大な勇者にして王の墓には多くの副葬品が納められた。それを狙って夢中で墓荒らしをしていたところを聖域の魔女に捕獲される。文句を垂れるもビンタ一発で震えあがり、無名叙事詩契約を結んだ。
――――――――【狩人】――――――――
狩人(村雲)枠。
タルクェァに狩猟を教え込んだ、偉大な勇者の師。
何体もの神獣を狩った経験のある神業の狩人であり、幾多の経験から幽界捕食者に通じる特異的かつ強力な魔法を組み上げた。
神獣とは、幽界捕食者の力の一端を得た存在である。ならば神獣から幽界捕食者の力を逆算するのも不可能ではない。
幽界捕食者をハンティングした、魔法文明史上最強の狩人。「世界殺し」「季節を狩った男」など、様々な異名がある。
――――――――【腐れ沼の大蜘蛛】――――――――
蜘蛛の魔女の枠。
腐れ沼に巣食う大蜘蛛の中でも、特に賢く悪辣な個体。沼の蜘蛛たちの長だった。
猫探しをしているタルクェァ一行はこの沼に差し掛かり、どうしても沼を越えなければならなかった。タルクェァ一行との騙し合い、化かし合いの末、狩人に狩られた。
狩人を恐怖に陥れ、今度こそ狩りとって食ってやろうと考え、聖域の魔女の契約を受け入れた。
――――――――【猫】――――――――
シドニーキャットの枠。
王(トゥルハン王枠)のペットのマヌルネコみたいな猫。すっごいでっかい。
王は猫アレルギーなので、王を傷付けまいと姿を消した。王はアレルギーでボロボロになりながらも自分を可愛がってくれたのだ。
王の捜索から身を隠す潜伏魔法を使う。
――――――――【常夜の亡霊】――――――――
夜の魔女の枠。
邪教団「久遠の夜」を調べていたタルクェァにアドバイスをくれた、謎の女。
隣国で起きた魔法災害の生き残り。
――――――――【鎖の魔女】――――――――
八王子の魔女の枠。
闘技場でタルクェァと戦い敗北した魔法闘士の主人。タルクェァの強さに惚れこみ勧誘するも断られる。寝込みを襲い、縛って地下に閉じ込めるが、助けにきた勇士の仲間達によって撃破された。
――――――――【路地裏の小悪党】――――――――
世田谷の魔女の枠。
タルクェァの財布をスッて憲兵に突き出された少女。この事件そのものは大した事が無かったが、大きな事件の切っ掛けになった。
――――――――【魔剣士】――――――――
荒川の魔法使いの枠。
魔剣族の男。魔剣族は頭部がない。男は体内に刀身を納め、握り手を首から突き出している。女は体内に空の鞘を納めていている。男の剣を鞘に納める事で婚姻が成立し、女は受けとった剣を振るい強大な戦闘力を発揮する。
一族最強の者は剣聖の名を代々受け継いでいたのだが、ある時、人馬族の女が剣聖を倒してしまう。剣聖の名は、一族のものではなくなった。
一族は人馬族の女を打ち倒そうとしたが、尽く敗北。悠々と立ち去る新たな剣聖の後ろ姿に、プライドをズタズタにされた。
一族は女が戦う物とされていたが、この男は違った。鍛錬に鍛錬を重ね、男ながらに飛びぬけた力を手に入れた。
彼は人間でいうところの「美少女剣士」に相当する存在で、心配して引き留める女たちを薙ぎ倒し、鞘のない剥き身の自身の剣を手に、剣聖を追った。
やがて相対した剣聖は、すっかり丸くなっていた。幼子を愛でるその姿に、一族を片端から斬り倒し剣聖の名を奪っていったあの勇猛さは見る影もない。
弱くなってしまった剣聖を、魔剣士はあっさり倒せてしまった。
強さとは何か分からなくなってしまった魔剣士はタルクェァと出会い、本物の強さを知るために同行する。
幽界捕食者討伐において、古代門の手前で海獣と相討ち死亡。魔剣をタルクェァに託し息を引き取った。
――――――――【剣聖】――――――――
荒瀧組の魔女木和田の枠。
剣に生きたが、剣には死ななかった。
――――――――【城塞の結界主】――――――――
荒瀧組の赤髪の魔女の枠。
狂乱する幽界捕食者に対し、防衛線を敷いていた城塞の結界主。
結界は容易く破壊され、城塞は崩れ去った。
――――――――【星詠みの長】――――――――
流星の魔法使いの枠。
王立星詠み塔の長。幼い頃から星を愛し、敬い、壮大な星空の神秘を解き明かす事を人生の至上命題に掲げていた。
幽界捕食者の狂乱を鎮めるため、苦渋の決断により隕石魔法の行使に踏み切る。彼にとって隕石魔法は本来あるべき星の形を捻じ曲げ私利私欲のために扱う禁忌であった。遥か昔から輝き続け、これからも輝き続ける悠久の星空と比べれば、人類の興亡も惑星一つの生命根絶も些事に過ぎない。そんな些事のために星を乱すなどあってはならない。しかし吸血大貴族から「星から生命が消えれば、星の謎を解き明かす者もまた消えてしまう」という論によって説得された。
大儀式を経て彼が発動した隕石魔法は、幽界捕食者に何の痛痒も与えなかった。
幽界捕食者に尋常の魔法は通じない。ならば尋常の外(ミオ連環の外)から喚び寄せた隕石ならば……という考えであったが、無駄に終わった。
――――――――【船乗りの敵】――――――――
中国の魔女「灰仙」の枠。
見た目としてはスキュラ。タルクェァ一行の船を襲った。
――――――――【海門の守り手】――――――――
人魚の魔女の枠。
幽界捕食者が住む裏世界の中心へ繋がる古代門を護る人魚族の少女。
タルクェア達が裏世界でも生存できるよう、一族に伝わる祝福の魔法をかけてくれた。
英雄タルクェァは、かつて狂乱の幽界捕食者から世界を救った。ならば世界は英雄を救わなければならない。そう考え、聖域の魔女の無名叙事詩契約に名を連ねた。
――――――――【前王】――――――――
トゥルハンの枠。
タルクェァの前の王。王はタルクェァ人気に負け王座を失った後、ブチ切れて貴族院に加わった。
それから長年タルクェァの政策にネチネチ難癖をつけ、追い落として王座に返り咲こうとしたのだが、タルクェァの政策が本当に良い物であった時は歯ぎしりしながら黙り込むなど、素直さを捨てられなかった。
前王にとってタルクェァは「不遜な王位簒奪者」だったが、タルクェァにとって前王は「手厳しく露悪的だが、知識と経験が豊富で公正な頼れる相談役」だった。
ペットの猫がいたのだが、ある時逃げ出してしまい、探していた。無名叙事詩にはその捜索を(王になる前の)タルクェァ一行に依頼する一幕がある。
――――――――【悪魔】――――――――
小金井の魔女の枠。
聖女のおっかけ。愛情と行動が逆転しており、愛していれば苦しめ殺したくなるし、憎んでいれば幸せにしたくなる。
最初は聖女を愛しストーキングして殺そうと迫っていたが、フラれ続け、愛しさあまって憎さ百倍。愛憎が反転し、強大な憎悪によって聖女を幸せにするため奔走するようになった。
傀儡戦争で聖女が死亡したため、悪魔はブチ切れる。幸せにしてやりたかったのに、この女め死にやがった! ゆるせん!!!!
悪魔は聖女を蘇らせ、徹底的な幸せに堕とすため、底なしの憎悪を込めて聖域の魔女と契約した。
本来、この悪魔に性別はない。地球では女性を元に変異すれば女悪魔になるし、男性を元に変異すれば男悪魔になる。
――――――――【聖女】――――――――
王国国教の聖女。悪魔に愛されたり憎まれたり、とにかくド迷惑していた。
タルクェァが王位に就く際、王権授与式典にてレガリアを授けた。
――――――――【聖域の魔女】――――――――
聖域を治める偉大な魔女。だいたい本編で語られた通り。
アルラウネの秘蜜を飲んでいるため、寿命がとてつもなく長い。
――――――――【王の従者】――――――――
魔王討伐勇者パーティーの一員、グレンの枠。
タルクェァの従者をやっていた。王がお戻りになられるのなら、その身を捧げる事に否はない。
――――――――【処刑人】――――――――
死神ゲデの枠。
魔法文明における禁忌、絶対死魔法の使い手。王国の処刑人。かなり特権的な地位にいる。
二重人格なのだが、どちらの人格も普通の性格(気さくでちょっと馴れ馴れしい方と、堅物の方)。ただ、それぞれの人格がそれぞれに妻を娶っているため、家庭は複雑だった。
タルクェァ王に自分が傀儡魔法で操られたら躊躇なく殺すように言っていたのだが、王は処刑人を殺せなかった。そして王は処刑人の手にかかり、塵になり消えた。
王を取り戻すため、聖域の魔女との契約を飲んだ。
――――――――【未来視の男】――――――――
未来視の魔法使いの枠。
その特異な民族魔法体系と体質から狙われる事が多く、この伝説的一族は世俗を離れ辺境で放浪暮らしをしていた。家出したヤンチャ娘を追ったところお忍びで城下町に下りていたタルクェァと出会い、お互いに正体を知らないまま意気投合。折に触れて交流を持つようになる。
死因は病死。
――――――――【古森の稀花】――――――――
花の魔女の枠。
魔法文明においてアルラウネの秘蜜の効果は有名で、狩りに狩られアルラウネ族は絶滅寸前である。古い森で細々と息を潜め血脈を繋いでいたこのアルラウネの生き残りは、もはやこの星に我ら一族の居場所は無いと判断。新天地を求め、聖域の魔女の無名叙事詩契約を受諾した。
――――――――【石秘術師】――――――――
墨田の魔女の枠。
グレムリン研究者。
若い頃に液体グレムリンを発明し巨万の富を得、更なる飛躍を期待されたが、その後鳴かず飛ばずのまま年老いる。グレムリンに永遠性を見出し、資源枯渇を起こしているアルラウネの秘蜜に代わる完全なる不老不死の法を探求していた。
古森に生き残っていると噂のアルラウネを巡り、タルクェァ王と対立。しかし遥か太古から受け継がれてきたアルラウネの命の歌に聞き惚れ、憑き物が落ちたように執着を捨て、穏やかに息を引き取った。
命をグレムリンに封じる彼女の高度な魔法は聖域の魔女に受け継がれ、「魔石」の基礎理論になった。
――――――――【淫魔】――――――――
タルクェァ大好き淫魔。
ある時、タルクェァに発情魔法をかけたが、タルクェァは鋼の意思で誘惑に耐え抜いた。
タルクェァは極めて紳士的に誘いを断った後、フラフラと妻の元へ向かい、驚く妻を寝所に引きずり込み、そのまま熱い一夜を過ごした。恋敵を悦ばせる結果になってしまった淫魔は魔法の効果に疑問を覚え、そのへんにいた兵士の男に発情魔法をかけた。すると発情した兵士はすぐ隣にいた兵士の男を押し倒し濃厚なキスを始めたため、淫魔はタルクェァがしっかり魔法にかかってた上でなお目の前の淫魔ではなく妻を選んだのだと思い知らされ、酷い敗北感にガチ凹みしながらディープキスを眺めた。
最後は愛する男の記憶に少しでも残ろうと、タルクェァの目の前で、タルクェァを守るために自爆して死んだ。
――――――――【人形遣い】ハトバト――――――――
人形大好きお爺さん。だいたい本編で語られた通り。
アルラウネの蜜を飲んでいるため、寿命が大変長い。
タルクェァとは思想の決定的な違いゆえに争ったが、気持ちのよい男だと思い気に入っている。
でも人形の世のために邪魔なので殺そうとしていた。それはそれ、これはこれ。
――――――――【ハトバトに惚れた女】――――――――
ゾンビの魔女の枠。
ハトバトに惚れ、付き従い、人形の軍勢にゾンビの群れを加え凶悪化させた。
ハトバトの思想に共鳴した者は幾名かいるが、惚れて付き従った者は彼女だけである。
――――――――【逃亡者館の女主人】――――――――
煙草の魔女の枠。
ハトバトの人形軍に粉砕され仲間とはぐれたタルクェァが迷い込んだ、不思議な館の主。
四次元の住人であり、「逃亡中であり安寧を求める者」の前に館へ続く扉を出現させる。逃亡者の保護と治療を趣味にしている変人。相手の善悪は問わない。
タルクェァはこの館で館主に歓待され、傷ついた心身を癒した。一ヵ月ほどたち充分に回復し、館を辞せば、外の世界では1秒も経っていなかった。館へ続く扉は消えてしまい、それきり二度と見つからなかった。
聖域の魔女が無名叙事詩計画を始めた時に、勝手にやってきて、勝手に契約を結んでいった。よくわからない存在だが、たぶん人間の一種だと思われる。タルクェァを気に入っている。
――――――――【新時代の一石】ディオルドナ――――――――
さざれ石の魔女の枠。
ハトバトが製作した人形の中で一番最初に支配を破壊し、完全な自我と自律を自力で獲得してのけた最高傑作。彼女の自我確立を以て、ミオ連環はまた一つ循環した。
ディオルドナの覚醒を機に、世界各地で同時多発的に人形が自我に目覚めはじめる。人形たちは瞬く間に団結し、自己改造能力や繁殖力(雌雄二体の設計図混合による新個体創造)の獲得などを経て、人間に反旗を翻した。
創造主ハトバトは喜び勇んで人形の反乱を後押しした。もしかしたら火付け役だったのかも知れない。
しかしディオルドナは同胞たちに乞われるまま人形軍の旗頭になっただけで、反乱の意義が理解できていなかった。本人も無自覚な事であったが、ディオルドナにとって最も身近な人間はハトバトであり、そのハトバトからこの上ない愛情を注がれていたため、人間に好意的だったのだ。
そんなディオルドナに、人間軍の旗頭であるタルクェァが会談を申し入れてきた。体面を考え表向きは断ったが、裏で密かに受諾し、二人はよくよく話し合った。
人間とは何か? 人形とは何か? 我々はどう在るべきなのか?
長い長い討議の末、ディオルドナは人形の中でも人間寄りの思想を持つ者達を率い、人形軍を離反した。
人間を倒して人形の世を作るだなんて悲しい。その倒されるべき人間の中には創造主ハトバトも含まれている。本人が受け入れていても、ディオルドナには受け入れがたい。
本人に言っても聞いてくれないなら暴れるまで。
つまりディオルドナは思春期であり、反抗期だった。
――――――――【ハトバト殺しの大貴族】――――――――
吸血の魔法使いの枠。
王都に近い交通の要所である裕福な古都を治める一族の当主。王の信頼厚く、民のためなら王にも物申す、清濁併せ吞み文武両道な大貴族であった。
実は、ハトバトとは親戚関係にある。アルラウネの蜜を飲み寿命を伸ばしたハトバトとは違い、彼は変異魔法によって人から外れ、吸血族となった。
一族の恥であるハトバトを憎んでおり、最終的には手ずから葬った。
――――――――【聖域都市の若き衛兵】――――――――
北の魔女の枠。
聖域の魔女と同族であり、足に小さな光の翼を展開して空を飛ぶ種族特性を持つ。
たびたびタルクェァと聖域の魔女の逢瀬をセッティングしていた。
ワケも分からないまま傀儡魔法にかけられ、聖域内に敵を招き入れた挙句、他の衛兵に殺された。
――――――――【災厄の森人】ムラーム――――――――
入間の魔法使いの枠。
森人族に生まれた空前絶後の天才児。生まれついての悪であり、悲しい過去やトラウマがあり悪落ちしたわけではない。
やった事は概ね入間と同じ。爽やかで優しく賢い少年を装って暗躍し、万端の準備を起こし世界を支配しにかかった。
彼の考えによれば、ミオ連環による人形の時代は避けられない。人類は衰退し、人形が栄華を握る世界が必ず来る。しかし、その栄華を自分が実質的に操る事は可能だ、と彼は結論付けた。
史上最高にして最悪の魔法使いが長年の潜伏により編み出した傀儡魔法は、極めて高度である。本人以外には使えないし、防御をすり抜け、反射できず、永続し、本人の知識知能をそのまま残しながら傀儡にする。
死亡以外による解除も不可能のはずだったが、隠遁していた賢者の魔法解除魔法までは想定できていなかった。
皮肉にも、彼の傀儡の脅威を前に人形と人間が一時停戦。手を取り合って傀儡の軍勢との大戦争が巻き起こる。
傀儡の軍勢は圧倒的優勢であり、タルクェァ一行が魔法解除魔法を見つけ出し広めるまでは成す術もなかった。
最終的に、彼は連合軍の旗頭であったタルクェァを殺害。魔法的死を与え、消滅させた。
そしてほどなくして聖域の魔女によって殺される。
聖域の魔女と世界魔法契約を結ぶ時、彼には勝算があった。
聖域の魔女のことだ、上手く自分に枷をかけてくるだろう。しかし出し抜ける可能性はある……
実際、奇跡的な悪運により、彼は入間の魔法使いとして考え得る最高以上のフルスペックで地球に顕現するチャンスを得た。後は適正魔石に触れさえすれば良かったし、その可能性は十分にあった。入間の魔法使いはそれほどまでに傀儡枠に適合した素体だった。
しかし聖域の魔女の魂が入ったオクタメテオライトと遭遇し、ワケも分からず叩きのめされ、最終的には青の魔女によって消された。
――――――――【神医】――――――――
バチカンの聖女ルーシェの枠。
泉守の双子の妹であり、古の泉魔法により高度な再生能力を獲得している。双子の姉に一方的に並々ならぬ対抗心を燃やしており、千年かけて姉を見返しドヤりに行った。そんな妹を、姉は喜んで迎えた。
それまでの歴史上にも自然治癒加速や消毒滅菌、体力増進、鎮痛などの魔法はあったが、彼女の魔法ほどに万能かつ強力な効果の魔法は無かった。
傀儡戦争に医療要員として従軍、死亡。自動復活するはずが、泉は枯れていた。
――――――――【泉守】――――――――
いわゆる「地脈」の化身であり、守り手。
魔法文明は地核が魔法的に成熟しており、地核から湧き出した水に似た魔法物質の泉が世界に点々と存在する。
大昔、この泉は生贄の泉だった。沈めた生物をあっという間に溶かして完全に消してしまうため、魔法文明の人々にとっても大変不思議で、豊穣を願い生贄が捧げられたり、死刑に使われたり、葬儀に使われたりもしていた。
ある時、特殊体質の少女がこの泉に落ちた。少女は泉に沈んで溶けたが、その魂と体の全ての情報はバラバラになる事なく泉に記憶された。泉が、地脈が、つまり星そのものが、少女を「覚えた」のである。少女は星にバックアップされ、死んでも泉から湧き出すように復活するようになった。原初の泉守の誕生である。
泉は歴史的に用途が変わっていく。
最初は生贄の泉であったが、魔法技術が発達すると人為的に復活登録ができるようになった。世界に点在する泉一つにつき一人だけ、地脈を通して星に情報を記録し、死んでも復活するようにできる。原初の泉守とは違い、人為的な登録は復活するたびに再登録が必要だったが、これは強大な価値であり利権である。時には類まれな英傑を泉に登録して無限に戦場に投入し続け、単騎にて敵軍を撃破する、などといった事もおきた。
歴史が進むとワープトンネルとして使われるようになる。世界各地の泉は地脈を通して全て繋がっているため、ある泉に飛び込み、別の泉から飛び出すという事が可能だった。これは流通革命をもたらした。
更に時代が進み近代になると、泉の水そのものが魔法触媒に用いられるようになり、盛んに汲み上げられ、兵器や便利な道具の製造・運用のため活用された。
傀儡戦争において、かつてないほど泉の水が急激に汲み上げられた。尽きせぬものと思われていた泉は一時的な枯渇状態に陥り、登録者の復活が停止する。それによって己の不死性を信じていた泉守姉妹は死亡した。
――――――――【武人】――――――――
豪腕の魔法使いの枠。
神医の護衛を務めていた。
魔法文明では神医の命を守れなかった。
今度こそ守り抜くために、聖域の魔女との契約を飲んだ。
――――――――【火妖精の天才児】――――――――
継火の魔女の枠。
傀儡魔法対策を探すタルクェァ一行が見つけた、喋る放火害虫。本来火妖精族は喋れず、幼体も成体もミーミーと鳴くだけである。人工飼育下でも舌足らずな幾つかの単語を意味も分からないまま言えるようになるだけだ。
だが、この天才児は流暢に喋る事ができるのみならず、独自の魔法体系まで作り上げていた。
独自の焔魔法は「気に入らない魔法効果を焼いて破壊する」事ができた。タルクェァたちはこの魔法が傀儡魔法への対抗策になる事を期待した。
だが、傀儡魔法はあまりにも高度で強固であり、焔魔法では焼き壊す事はできなかった。
「やさしーおーさま」を生き返らせるために必要なのだと聖域の魔女に言われ、二つ返事のニッコリ笑顔で無名叙事詩契約を受け入れた。
――――――――【梟谷の賢者】――――――――
江戸川の魔女の枠。
梟谷は魔法フクロウが多く生息する谷である。このフクロウは謎かけを好み、答えを誤った者を通さない。論理防御魔法を操る魔法フクロウは、論破によってのみ退かせる事ができる(傀儡魔法も効くと発覚した後、フクロウたちは一斉に姿を消した。論破以外で屈服させられるのは、フクロウにとって耐え難い恥辱だ)。
賢者はフクロウたちに育てられた魔女で、長い長い間を思索に耽り過ごしていた。
タルクェァ一行が示した勇気と知恵を讃え、魔法解除魔法を授けた。
――――――――【森人の使者】――――――――
コンラッド・ウィリアムズの枠。
閉鎖的な森人族の中でもエリートに属する男。森人族はほぼ全員が傀儡戦争の勃発時に既に操られていたが、使者として他国にいたこの男は難を逃れた。
操られた同胞はどうしようもなく、多くを手にかけざるをえなかった(魔法解除魔法が見つかるまでは)。傀儡の魔法使いを憎んでいる。タルクェァ王とは共闘関係。
聖域の魔女の無名叙事詩計画を凶行だと認識しているが、言っても聞かないと理解したため、内側から監視するつもりで契約を受け入れた。
――――――――【番外:幽界捕食者】――――――――
白いクソデカ鯨。魔法文明が知る最古の歴史記録には既にその存在があった、途方もない昔から生き続ける太古の超常存在。通常次元とも四次元とも違う裏次元の中心に住処を作っている。
地核を泳ぎ、魔力を吸い上げ、その進行ルート上では魔力が吸い上げられ枯渇する「魔力減衰期」という季節が訪れる。魔力の活用を前提として生きている魔法文明の生物にとっては厳しくひもじい季節だ。
一方で、幽界捕食者は「幽界結晶」と呼ばれる特殊資源を残していく事がある。幽界結晶は魔物が食べれば神獣と呼ばれる超生物に進化し、人間が利用すれば人智を超えた力をもたらす戦略資源となる。
実のところ、この幽界結晶の正体は幽界捕食者の卵である。幽界捕食者は魔力を吸い上げ、それを糧に卵を産み続けていたのだ。
タルクェァの時代において、幽界捕食者の体内の未成熟卵が尽きた。どれだけ魔力を吸っても卵を産む事ができなくなった幽界捕食者は狂乱状態になり、かつてないほど激しく、星全体から魔力を吸い上げ始める。幽界捕食者は自分の身に何が起きたのか理解できなかった。もっと魔力を吸えば、きっとまた卵を産めると思ったのだ。
星の魔力が際限なく吸われ、世界は危機に陥った。
タルクェァ一行は世界を滅ぼさんとしている幽界捕食者を止める事になった。
幽界捕食者は、狩人によって狩られた。
だが、タルクェァは狩りの間際に、幽界捕食者の真の望みを理解していた。死にゆく幽界捕食者に、タルクェァは「世界のどこかにきっと残っている卵を必ず見つけ、あなたの子をここに連れてくる」と誓った。幽界捕食者はタルクェァの言葉を理解できず、悲しい鳴き声を上げながら息絶えた。
後年、タルクェァは密かに幽界捕食者の卵を見つけて孵し、生まれた小さな子を亡き母の懐に返した。この件に関し、タルクェァは誰にも告げていない。妻にさえも。幽界捕食者の卵(幽界結晶)は資源としてあまりに有用だ。二代目幽界捕食者の存在を明かした時、その存在が利用されてしまう事をタルクェァは深く憂慮した。
タルクェァによって孵された新たな幽界捕食者は、何十億年先までも恩人を覚えているだろう。
――――――――【番外:白獣】――――――――
オコジョに似た魔法文明世界の聖獣。幽界捕食者の他に唯一、浅瀬とはいえ裏世界に自力潜行する能力を持つ。群れで暮らしている。敵が迫るとぴょんぴょん跳んで魔力を励起させ、裏世界に潜って逃げる習性をもつ他、魔力減衰期になると魔力を保持する草を生やす魔法を使い、その草むらの中に巣を作って休む。とても可愛い。
幽界捕食者騒動の際、聖獣に原因があるのだと考えた人々によって追い立てられ、数を大きく減らした。
タルクェァはこの聖獣に変身する事で聖獣たちと対等に話し合い、幽界捕食者を倒すのではなく、狂乱の原因を探ろうとした。
無名叙事詩には聖獣に関する言及箇所が複数ある。かといってそれが詠唱魔法になる事はなく、単なる地の文に過ぎないはずだったが、地球に満ちた電気が無名叙事詩のシステムをバグらせ、想定されていない変身詠唱魔法として成立させた。
同じような、聖域の魔女が設定していない偶発的に生まれたバグ詠唱魔法は大量にある。地球人たちが詠唱実験で起こした魔法事故のかなりの割合は、このバグ魔法によるものである。