117 怪盗オコジョ団
俺と一緒に倉庫の扉に耳を押しつけていたモクタンは、目をキラキラさせ鼻から火の粉を漏らし言った。
「泥棒いる。警察!」
「そうだな。警備の人か誰かに通報して――――」
「ミッ! ピピピーッ! 御用だ! 御用だ! 御用だーっ!」
興奮して言うが早いか、モクタンは指先からバーナーのように火を出しドアノブの周りを焼き切ると、ドカンと勢いよく扉を開け中に飛び込んでいった。
ウワーッ!?
警察ごっこ始まっちゃった!
高熱体温のモクタンは温度調節がすっかり安定して、紙を焦がさず持てるようになっている。最近俺の書斎に出入りするようになったモクタンがハマっているであろう警察漫画に、心当たりがあった。
まったく、子供はすーぐ漫画に影響されやがるぜ。
モクタンに続いて倉庫の中に入ると、そこには三匹のオコジョがいた。
倉庫の中は倉庫というより金庫室に近く、壁にズラリと埋め込まれた引き出しにはナンバーが振られている。中央にある簡素なテーブルの上には金貨が詰まった箱が積み上げられ、そのうちの一つにまず一匹のオコジョが刺さっていた。
どうやら金貨の海にダイブしたらしい。でっぷり太った冬毛のオコジョの上半身が金貨が詰まった箱に埋まり、逆立ちする形で下半身を突き出しジタバタしている。
テーブルの箱のてっぺんに陣取り、小さな眼鏡をちょこんとかけた小柄なオコジョは、小さなおててに持っていた目録らしき紙を取り落とし唖然としている。
ひらひらと床に落ちていく紙を目で追えば、床では細身のスラリとした痩せっぽちのオコジョが大粒の宝石を口に咥えたまま、びっくりして尻尾の毛を逆立たせている。
「ミミミ、確保確保! 君たちには黙秘権がある! 珍妙にお縄につけーっ!」
「神妙な」
威勢よく犯行現場に突入したモクタンは元気いっぱいで口上を叫び、太っちょオコジョを金貨の箱から引っこ抜き確保する。
戦利品を掲げるようにジタバタもがく太っちょオコジョを振り回すモクタンに、ハッと我に返った残り二匹が叫んだ。
「うわーっ!? オデっちを放せー!」
「やめろーっ! オデっちは高所恐怖症なんだぞっ!」
眼鏡オコジョと痩せっぽちオコジョがモクタンの足元に駆け寄り、全力で攻撃して仲間を助けようとする。
しかし、決死の前脚てしてし攻撃は攻撃速度100、威力0だった。
可愛らしい小さな前脚でてしてし攻撃されたモクタンはくすぐったそうに身をよじり、眼鏡オコジョを掴み上げる。両手にオコジョだ。
「ぎゃあああっ!? もうダメだーッ! 逃げてアッちゃん、君だけでも!」
「オデデデデデ……!」
眼鏡オコジョはモクタンの手のひらの中で必死にもがき、太っちょオコジョはガクガク震え呂律が回っていない。
「くそーっ! 二人を離せよ! バカ! 燃えやがってこのバカ! もうちょっとだったのに! なんなんだよお前はーっ!」
最後の一匹、痩せっぽちオコジョが床で跳びはねまくり、モクタンに敵意剥き出しで威嚇をする。
なんだこいつら? 泥棒なのに可愛いぞ。思わず許してやりたくなる愛嬌がある。
しかし三匹のオコジョにほっこりしているのは俺だけらしく、モクタンは容赦なく口から火を吹いて最後の一匹を攻撃した。
瘦せ型オコジョは俊敏に避けようとするが避けきれず、尻尾の先っぽに火がついてしまい悲鳴をあげた。
「うわああっ!? アッシの尻尾が、尻尾に火がっ!」
「確保!」
床をゴロゴロ転がって消火しようとするオコジョをモクタンは足の指先で器用に掴み上げ、放り投げ、口でキャッチして捕まえた。
「ギャッ!」
「ひーっ! アッちゃんを食べる気か!? ボクたちは美味しくないぞ!」
「オ、オデ、オデ、脂身ばっかり。食べたら健康に悪いど! コデステドールだど!」
「コレステロールな」
見事に三匹の泥棒を制圧したモクタンは自慢げで、口をモゴモゴさせ俺に何か言おうとしてくる。咥えられている痩せオコジョは軽く噛まれて絶望的にぐったりしてしまった。
「よしよし。モクタン、よくやった。偉いぞ」
「もががが」
頭を撫でて顎をくすぐってやると、モクタンは嬉しそうにフンフン鼻息を出し火の粉を漏らした。可愛い。倉庫内の可愛い密度が急上昇中だ。
モクタンが捕まえた三匹のオコジョを改めて見てみると、教授とはけっこう違いが多かった。
「ボッくん」と呼ばれていた眼鏡オコジョは、利発なキリッとした顔立ちをしていて小柄。
「アッちゃん」と呼ばれていたオコジョは痩せていてヒョロ長く、一番コソ泥っぽい子悪党みたいな顔だ。
「オデっち」は皮下脂肪たっぷりのずんぐり体型で、指先でつつくとプニプニしていた。
ふーむ。オコジョにも個性があるんだな。面白い。
このままオークションの警備員に突き出してやってもいいのだが、お互いの名前を呼び励まし合っている三匹を見ていると仏心がでてきてしまう。性根の腐ったカスにはどうにも見えない。
そもそも、彼らは声からしてまだ少年っぽい。
オコジョ変身魔法が使えるという事は、かなり豊富な魔力に恵まれているはずだ。
そんな前途ある若者が、なぜ雁首揃えてオークション会場に忍び込み、盗みを働こうとしていたのか? わざわざオコジョの姿に変身して。
興味を惹かれた俺は、一番賢そうで話しやすそうな眼鏡オコジョの首元を指先でくすぐりながら尋ねた。
「なあ、お前らなんで泥棒なんてやろうとしたんだ? こんな厳重警備のオークションで。理由を教えてくれよ。正直に答えれば見逃してやらんでもない」
「答える義理なんてあるわけ…………あひゃう……お゛お゛っ……はぁ、はぁ、なにこのオジサン!? 手つきエグい……!」
「え゛。ボッくんがあんなあられもない顔を!?」
「オデ、ボッくんのあんな顔見るの初めてだど……!」
眼鏡オコジョのボッくんを撫でさすりヨシヨシしてやれば、あっという間に脱力し溶けていく。その様子を間近で見たアッちゃんとオデっちは戦慄し震えあがった。
ガハハハハ! 俺の器用さにオコジョが勝てると思うなよ! 快楽尋問に屈するがいい。
「はひぃ……」
「もう一度聞くぞ。なんで泥棒に入ったんだ」
「あっ、本当は杖を狙ったんですけど」
蕩けた顔で抵抗の意思を溶け落としゲロりはじめた仲間の姿に、アッちゃんとオデっちは怯えた。丸耳をぺたんと畳んで体を縮め、俺の指先が凶器であるかのように恐ろしそうに震えた。
ふん、ガキが。大人に逆らうとこうだぞ。
ボッくんの供述によると、最初は0933の杖を狙う予定だったらしい。
三匹は裏社会に所属していて、今度のオークションに0933の杖が出品されるという噂を聞きつけた。表ルートで高値がつく0933杖だが、裏ルートでもすごい値がつく(偽物含む)。手に入れば大きなシノギになる。
しかし、三匹の上司はオークションには手を出すな、と申しつけてきた。
そんな事より学校に行け、勉強しろ、普通の友達を作れ、と口うるさい。
三匹は上司に反発した。
三匹にとって、0933杖は単なる高級品というだけではない。
心躍るアーティファクトなのだ。
大昔の遺物なのに、最新型の杖よりスゴい。これはスゴい。そんな杖、他に無い。
その0933が現代に甦り作り上げた最初の杖とくれば、絶対欲しい!
だんだん語りに熱が入っていくボッくんに、なんだかこそばゆい気分になってきた。
少年たちにとって、0933杖は強くてカッコイイ恐竜みたいな位置づけらしい。
話していたのはボッくんなのに、杖の話題になるとアッちゃんやオデっちも捕まえられているのを忘れて口を挟み始める。
0933の大学供給型は数が多いのに全部微妙にデザインが違って頑張って区別方法を暗記したとか。変形機能ついてる杖が一番カッコイイとか。クリスマスに手に入れた三匹お揃いの0933杖の木製模型を今でも大切にしているとか。
聞けば聞くほど口角が上がってしまう。
そうかそうか。
君たちはそんなに俺の杖が好きなのか。
俺の杖の大ファンなのか。
「生意気なガキどもめ。飴玉をやろう。でもここは倉庫だろ? 俺っ……0933の杖が保管されてるのはここじゃない。なんでこっちに盗みに入ったんだ」
元々貴賓室のテーブルに置いてあった飴玉を三匹の口に押し込んで聞くと、三匹はしょぼんとヒゲを垂れ下げた。
「出品待機室は警備が厳重過ぎたんだよ。会場に忍び込むとこまでは上手くいったんだけど、ピリピリした警備員がいっぱいだったし、隙も無かったし。
でもボクは閃いたワケ。ここにこんなに警備員が集まってるなら、倉庫は空いてるんじゃない? ってさ。高峯文化会館は美術展覧会とか個展とかよく開かれるし、色々レアな物がオークションとは別で保管されてるはず。現金の蓄えもきっとある。
そしたら未来視! やっぱりお宝ザクザクだった。0933杖は無理だったけど、お土産持って帰ればいいかーって話し合ってたら……」
「もがががが」
モクタンが胸を張ってモゴモゴ言い、口に咥えられっぱなしのアッちゃんは居心地悪そうにモジモジした。
なるほどね。経緯は大体把握した。
つまり、この三匹のオコジョは俺の杖が好き過ぎるファンボーイって事だな?
可愛いじゃねぇか。オコジョは可愛いが、好みも可愛い。お前ら、良いセンスしてるよマジで。
でも泥棒か……
うーん。それはちょっと良くない。
泥棒したくなるぐらい0933最新型杖金科玉杖を欲しいと思ってくれたのは本当に嬉しいが。
結果的に盗みは阻止できたわけだけど、現行犯逮捕でもあるわけだし。
「微妙な問題だな。お前ら何歳?」
「ボクは十二ですけど」
「オデも」
「アッシは十一。学年は一緒だけどな」
小学生か。じゃあ未成年犯罪?
こいつらは裏社会のキッズって話だけど、警察に突き出したらどういう扱いになるんだろうか? 現代の法律がどうなっているのかよく知らない。
この三匹のオコジョは可愛いし、俺の杖のディープなファンだし。
甘く見て見逃がしてやりたいけど、ここで見逃したら再犯しそうな気もする。
判断に困って考え込んでいると、アッちゃんがモクタンに食べられたまま前脚をすり合わせ、器用に揉み手しながら下手に出てきた。
「へへへ。なあなあオジさん、見逃してくれよ。まだ何も盗んでねぇんだし。この燃えてる姉ちゃんにアッシらを放すように言ってやってくだせぇよ。な、このとー………!!?」
言葉の途中でアッちゃんは目を見開き固まった。
何かびっくりしている、というか、俺の背後を見ている?
何をそんな驚いているのかと振り返ると、そこにはキュアノスを持ったヒヨリが不審そうに眉をひそめ立っていた。
そういえば10分経って戻らなかったら迎えに来るとか言ってたな? 忘れてた。
「これはなんだ? どういう状況だ」
状況的には、倉庫の扉の取っ手が焼き切って開かれ、倉庫の中でモクタンが三匹のオコジョを捕獲していて、俺がその横でオコジョに尋問をしている、という形になる。
そりゃあ一見して何がどうなっているのか分かるはずもない。
ヒヨリの当然の疑問に俺が答えるその前に、三匹のオコジョが一斉に黄色い声を上げた。
「ぎゃー! キュアノス! 青の魔女! 本物だあああああっ!」
「オデ、オデ、青の魔女のキュアノス初めてナマで見たんだな! すごいど! 風格ありまくりだど! こ、興奮するんだな!」
「サインくださぁい! ボク、ファンです! 生まれた時から!」
「あっズリぃぞボッくん! じゃあアッシは前世からファンです!」
アイドルを目の前にしたファンのように興奮するオコジョ達を見て、ヒヨリは呆気にとられたが、曖昧に微笑んだ。
「あ、ああ。ありがとう……大利、ちょっと。このオコジョ達はなんだ? 私の厄介オタクか? 声からして子供っぽいが」
部屋の隅に俺を引っ張っていき、小声で聞いてくるヒヨリに、ヒソヒソ事情を説明する。
三匹のオコジョの事情について話を聞いたヒヨリは、大きな溜息を吐いた。
「お前は数分目を離しただけで面倒事に巻き込まれるな。
私としてはどうでもいい話だ。くだらん。知らん奴が知らん奴の物を盗もうとしていたところで、知らん、以外の感想は無い。私は警備員でも警察でもない。
強いて言えば、犯行現場に居合わせ捕まえたからには警備に突き出すのが正着ではある、が、大利の気持ち一つだろう。そもそも、コイツらはお前の杖を盗みに来たんだろう? 途中で挫けたという話だが」
「あー……そうか。俺は被害に遭いかけたのか」
腕組みをして、考える。
俺の気持ち一つか。ヒヨリがそういうなら、そうなのだろう。
もしもこのオコジョ達がなんとか警備を突破していたら、金科玉杖は盗まれていた。かなりシャレにならない。
でも未遂で終わった話だし。
でもあんまり反省していなさそうだし。
でも俺のファンだし。
うーーーーーーーん? 判断に困る。
頭から湯気が出そうなぐらい考えに考えた末、俺は諦めてヒヨリに丸投げした。
「ヒヨリ」
「ん」
「俺のファンは大切にしたい。でも、ここで無罪放免にしたら竜の魔女みたいなカスな大人になりかねん」
「もっともだ」
「反省して、もう盗みはしない、と誓うなら、見逃してやりたい。でもやり方が思いつかない」
「なるほど。要するに更生させたいんだな?」
「そう。できるか?」
「任せろ。モクタン! 放してやれ。子供たち! サインを書いてやる。こっちに来い」
頼れるヒヨリはテキパキと指示を出し、大興奮で足元に駆けよって来た三匹のオコジョに、オークションのパンフレットを破り作った紙の切れ端を渡してやる。
「名前は?」
「ボッくんでお願いします!」
「オデ、オデっち」
「アッシは本名……いや、やっぱしアッちゃんでお願いしやす!」
「よし。名前入りサインを書いてやる。が、取引だ。もう二度と悪さをしないと誓え」
「え?」と、三匹は口を揃えた。顔を見合わせ、困り顔をする。
「……うーん。分かりました。ボクたち、泥棒はやめます」
「泥棒だけじゃない。誘拐だの、当たり屋だの、悪さは全部やめろ。悪い大人にはなるな」
明らかに竜の魔女を思い描きながら言ったのであろうヒヨリの言葉に、三匹は文句たらたらだった。
「え~? でもなー。アッシらはオヤジさんの悪いカネで育ってきたんですぜ? それを悪い事みてーに言うのやめてくれますぅ?」
「オデ、良い大人に助けてもらったことなんて一回も無いど。ご飯くれるのはいっつも借金取りのお兄さんだったど」
「必要悪ってやつですよ。ボクたちはね」
なんか社会の闇が窺える事を言いながら開き直った三匹の手から、ヒヨリが無言で紙を取り上げようとすると、闇系オコジョキッズは慌てた。
「わあっ! いやだ! サインは欲しい!」
「でもオデ、青の魔女はいっぱいぶっ殺しまくったって聞いてるど」
「固い事言わないで下さいよ。悪い事の何が悪いんです? カッコイイじゃないですか」
「悪い事は悪いから悪いんだ。いいか? まずは良い人になろうと生きてみろ。頑張ってみろ。どうしても悪い事をしなければならない時が来たら、その時は仕方ないが。長く生きれば愛する人を己の手で殺さなければならない時もある」
ヒヨリの重々しい言葉の圧に、生意気を言っていたオコジョ達も言葉を噤んだ。
それな。実際に俺を入間ごと殺った女の言葉はガキどもを黙らせるパワーに満ち溢れている。
「まずは善い生き方を知る事だ。悪の道に落ちるのはいつでもできる。だから悪さをやめて、良い大人になる努力をしてみろ」
「……うーん。よくわかんねーけど、青の魔女ほどの人が言うなら」
「……悪に走るならまず敵を知れって事ですかね」
「……青の魔女、オヤジさんみたいな事言ってるど」
三匹三様の反応だったが、三匹とも渋々条件を飲み、もう悪さはしない、という誓いを立てた。
ヒヨリはそれ以上小言を言わず、三匹が差し出した紙片にサインをしてあげた。ひしっと紙片を抱きしめた三匹は嬉しそうに跳びはね始める。
生意気なオコジョたちだけど、本当に可愛い。もう悪さするんじゃねーぞ! いつか立派な大人になって、俺の杖をちゃんと自分で稼いだ金で買えるようになれ。
「満足したか? なら、まっすぐ家に帰れ。どうやって忍び込んできたか知らんが」
「ミミミ? 泥棒、逃がしちゃうの? 泥棒なのに」
「おっと正論パンチ。これは大人の汚さだよモクタン。でも細かい事言い出せばモクタンだって扉の取っ手ぶっ壊してるからな。器物破損かなんかだ」
ちょっと不満そうなモクタンを宥めていると、オコジョ達はぴょんぴょん跳びはねながら倉庫の隅っこに移動していった。
「おい、扉はこっちだぞ」
「あ、大丈夫っす。アッシら裏を渡って帰るんで」
「は?」
よく分からない事を言ったアッちゃんが、まず部屋の隅の角にぬるりと吸い込まれ消失する。
続いて、ボッくんが青の魔女のサイン入り紙片をかけがえのない宝物のようにひしと握ったまま、部屋の隅にぬるっと吸い込まれ姿を消す。
最後にオデっちが太った体を部屋の隅の角にねじ込み、これまた吸い込まれて消え去った。
「……は?」
目の前で平然と起きた異常事態に目を疑う。
三匹が消えた部屋の隅を触るが、固い床と壁があるのみ。
三匹が隠れたり通ったりできる隙間は存在しない。
オコジョたちは詠唱をしていなかった。
魔道具も身に着けていなかった。
それなのに、魔法のように消えた。
ヒヨリを見ると、ヒヨリもポカンとしている。
そうだよな? おかしいよな? なんかしれーっと消えていったけど。
「あいつら何をしたんだ……?」
「ミミミ、消えちゃった!」
「二人に分からんなら俺にも分からん。狐に化かされた気分だ。いやオコジョだけど」
しばらく呆気に取られていた俺達だったが、別に待っていて三匹が戻って来るわけでもないので、首を捻りながら連れ立って貴賓室に戻った。
妙な魔法を使うオコジョたちだった。生意気なガキどもだが、厳重警備の大富豪専用オークションに忍び込むだけの特殊能力はちゃんと持っていたらしい。油断ならねぇな。
まあ、いい。後で奴らよりずっと昔からオコジョをやっている大日向教授に聞けばなんか分かるだろうし。たぶん。
なにはともあれ今はオークションだ。思いがけずけっこう長い離席になってしまったが、金科玉杖の競りには充分間に合う。
怪盗オコジョ団に狙われた0933最新杖、金科玉杖に一体どれほどの値段がついてしまうのか? 貴賓室から高みの見物をさせてもらおう。