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01 そして文明は滅んだ

 ネットオークションの良いところは、誰とも顔を合わせず金を稼げる事だ。

 一人でいるのが好きな俺のような人間には重宝する。


 社会人になってから色々な職を転々としたが、人と顔を合わせたり喋ったりする事に耐えられず、ストレスで体調を崩し、俺は奥多摩の借家に引きこもりネットオークションで生計を立てるようになった。

 小さな畑、井戸、配達サービス(置き配)、そしてネットオークションがあれば一年中誰とも顔を合わせず生きていける。


 最初は修理からの再出品で稼いだ。

 昔から手先の器用さにだけは自信があったから、壊れたアンティークの時計や古い絡繰り人形、鍵が無くなり錆びついた金庫などを安く買い、修理し塗装し直して再出品すると、ギリギリ生きていける程度の稼ぎになった。

 だが競合相手はどこにでもいるもので、同じような事をしている誰かに目星をつけていた商品を先に買われてしまう事は多かったし、そもそも手頃な商品がいつでも安定して出品されているわけではない。


 他人の出品に頼って稼ぐのは安定しない。

 だから、俺は自分が一次生産者になる事にした。

 故障品を買って修理して出品するのではなく、オリジナルの商品をイチから作って、それを出品するのだ。


 寄木細工の秘密箱やスノードーム、造花や模型など色々作りはしたが、一番安定して高く売れたのは人気アニメの模造武器だった。

 アニメにはよく魔法の剣や不思議な杖が出てきて、公式がその手のアイテムを発売する。

 が、いかにもオモチャ然とした安っぽい質感だったり、限定生産で販売数が少なかったり、高すぎたり、注文してから商品が届くまで何カ月もかかったりする。

 そこで俺は毎週今期の人気アニメをチェックし、放映されているアニメの中に登場した「作れそうで、売れそうな武器」をピックアップ。早ければアニメに武器が登場したその週のうちに再現アイテムを製作し売りに出した。


 最初はあまり売れなかったが、アニメ人気に助けられすぐに即決価格で落札されるようになった。優良出品者として認知されてきたのも大きい。

 複雑な変形機構を再現したり、武器使用キャラクターのイメージ香水を自作して匂いをつけたり、塗料の発色や素材の質感、耐久性にまで拘ったりしたのが功を奏し、「本格リアル派」と銘打った商品は馬鹿ウケした。


 俺の懐は潤い、工作器具を買い揃え、素材代を十二分に賄い貯蓄すらできるようになった。廃車置き場に忍び込んで素材を集めずとも、素材を通販で買ったり、山の一角の土地を買い木を伐り出したりして揃えられるようになった。

 趣味と実益を兼ね、しかも誰とも会わずに済む最高の仕事だ。


 もちろん、問題もあった。

 例えば「アニメ公式の許可をとって販売しているのか?」というコメントにはグゥの音も出ない。公式に訴えられるのが怖すぎて公式グッズを一通り買い揃え神棚に飾るのは習慣化した。

 転売も問題だった。俺が出品した商品をすぐに落札し、高値で転売しやがる。腹が立つが、俺も公式に無許可でグッズ販売をしている手前、強く出れないのが忌々しい。


 公式に許可を取ったり、グッズ販売提携の打診をする手はもちろん考えたが、俺は自他ともに認める社会不適合者。公式とやりとりをするその労力や交流を想像するだけで胃が痛くなり吐きそうになる。

 人と会わず話さず生きていくためにネットオークションを始めたのに、人と会って話すアクションを起こすなんて本末転倒だ。


 そうして問題を抱えつつも充実した山奥生活を送っていた俺だが、ある日、裏庭で隕石を拾った。小さなクレーターの中に落ちていた隕石はまだ少し熱を帯びていて、それが昨晩の流星群のものだろうという事を推測させた。


 俺は大喜びで隕石を拾い、早速図面を引いた。

 稼ぐための仕事だったファンタジー武器製作は腕が上がるにつれ楽しみが増え、ライフワークになっていた。隕石から鍛え上げた魔法武器……こんなにロマン溢れる物はない。

 杖にしてもいい、剣にしてもいい。銃にするのは奇をてらいすぎか?


 隕石をつぶさに調べると、金属と岩石の混合成分でできた外殻の中心に宝石のような透き通った結晶質を内包している事が分かった。

 慎重に削り出せば、握りこぶしサイズの宝石の原石が現れる。


 アニメに登場する武器には宝石(作中では魔石とかスピリットジェムとか呼ばれる事が多い)を使った物があるから、俺も少しは宝石知識がある。

 が、宝石辞典と照らし合わせても該当する宝石が見つからない。

 偏光板や分光器、ルーペを持ち出して鑑定するが、やはり正体が掴めない。それどころか鑑定の過程で硬度が異常値を示している事が発覚する。

 隕石から掘り出した宝石は、ダイヤモンドより硬かった。

 幻のモース硬度11だ。


 そんな事が有り得るのか? とネットで調べようとしたところで、俺は再び異常に気付く。

 ネットが繋がらなかった。

 日が落ちて暗くなってきたので電気をつけようとするが、つかない。電気も止まっている。


 不安よりも不審が勝つ。

 電波基地局がダウンした上に、電気が止まった?

 麓で何か災害が起きたのだろうか。台風らしい風雨は無いし、地震の揺れも感じなかったが……


 少し不思議だったが、まあ、慌てるほどの事もない。

 日本の災害復旧速度は早い。早ければ明日には、遅くても数週間で復活するだろう。

 山奥で引きこもり生活をする都合上、食料備蓄は豊富にしている。ネットオークションが使えないのは痛いが、数週間出品ができないだけで干上がるほど金に困ってはいない。


 俺は災害用懐中電灯の灯りで宝石の調査を続けようとしたが、懐中電灯もつかなかった。

 まあ、借家備え付けの俺より年上そうな懐中電灯だ。自然放電で電池の寿命が尽きたのだろう。替えの電池を買っておけばよかった。

 仕方なく売りに出す予定だったアロマキャンドルにマッチで火をつけ、灯りを確保する。

 電気もネットも無いのは不便だが、数日の辛抱だ。

 この宇宙からやってきた驚くべき宝石について調べながら、ゆっくり復旧を待とうじゃないか。







 七日かけて、俺は隕石産の宝石を調べ、加工した。

 発見地である奥多摩から名を取り「オクタメテオライト」と名付けたこの宝石のモース硬度は11。屈折率1.55、比重7.7、重量2300g。色彩は紺鼠。

 つまりダイヤモンドより硬く、水晶のように煌めき、鉄と同じぐらい重く、黒い、握りこぶし大の宝石だ。


 俺はこのオクタメテオライトを慎重に慎重を重ね球形に削り出し、磨き上げた。

 硬度が高い鉱物は傷つきにくいが、強度が低く割れやすい。引っ掻きには強いが、ハンマーでぶっ叩くような衝撃には弱いのだ。そこでまずタガネと彫刻刀で原石を球形に削り出す。そして得られた薄片を粉砕しすり潰しより分けて微細な粉末を得る。最後に粉末を研磨剤として使って磨き上げれば、ツヤツヤと輝く美しい球体宝石の完成だ。

 宝石のカッティングには色々種類があるが、原石の形状と性質から球体に仕上げるのがベストだと判断した。


 出来上がった美麗な宝石にうっとりと見惚れる。

 隕石から削り出した巨大な宝石というロマン溢れる神秘的経歴もさる事ながら、こうして見ていると吸い込まれるような不思議な魅力がある。ずっと見ていてもなぜか飽きる事がない。

 仕事柄、色々と宝石は扱ってきた。しかしこれほど心揺さぶる一品には出会った事がない。

 古今、著名な宝石を巡って血生臭い陰謀が巡らされてきた理由が分かった気がする……


 一息ついてたっぷり数時間ぼーっと宝石を色々な角度から鑑賞してから、ふと今の状況を思い出す。

 研磨加工に夢中になっていたが、そういえば七日経ってもまだ電気とネットが止まったままだ。なんなら数日前から水道も止まっていて、今は裏庭の古井戸に水源を頼っている有様。


 米はたっぷり買い置きしてある。裏庭で野菜も採れる。山で薪を拾えば、ガスが止まっても埃を被った暖炉に火をつけられる。

 だからまだまだ一カ月は困らない。

 しかし流石に気になってくる。


 七日経ってまだ電気とネットが復旧しないという事は、かなりの大災害が起きたらしい。

 たぶん、都心の方では流石に復旧が進んでいるのだろうけど、東京都に属しながら辺境と呼ばれるこの山間地奥多摩まで復旧の手が伸びるのはもう少し先になるのだろう。

 現状どうなっているのか気になる。局所的地震? 竜巻? まさかテロやミサイル落下じゃあるまいな。


 現状が気になる、気になるが、状況把握のために家の外に出るのは億劫だった。

 新聞を買うには店の店員さんと会って会計するという恐怖体験が強いられるし、街に出て人を捕まえて話を聞くなんて拷問に等しい。

 俺は誰にも会いたくないし、話したくもないのだ。


 まあ、心配も不安もあるが、そう深刻になる事はあるまい。

 電気とネットが止まってまだ七日だ。

 いくら災害大国日本とはいえ、七日で山奥の僻地まで完全復旧してくれというのは高望みが過ぎる。

 慌てず騒がず、のんびり待っていればいい。

 日本の行政はなんだかんだ優秀だ。良い子にして大人しく待っていれば、必ず元通りの生活を送れるようにしてくれるだろう。別に追い詰められた生活送らされてるわけでもないしね。

 この美しい宝石、オクタメテオライトでファンタジーとロマン溢れる趣味武器を作って飾りつけながら、ゆっくり復旧を待とうじゃないか。








 それから更に七日が経ち、オクタメテオライトを両手で掲げ持った俺は家の壁にできた亀裂を見て唖然としていた。

 なんか今、オクタメテオライトからビームっぽいのが出て壁に直撃した気がするぞ……?


 切っ掛けはオクタメテオライトの性質調査だった。

 未だ電気が止まりネットは繋がらず、類似の宝石の存在について調べる事ができないので、俺は家にある物を使って独自研究をしていた。

 何か目的があって調べているわけではない。素人なりに研究者ごっこが面白かったのだ。引きこもり御用達の暇つぶし道具であるインターネットが封じられてるせいで暇だし。


 調査の一環として、俺はオクタメテオライトの固有振動数を調べていた。

 固有振動数とは、読んでそのまま物体固有の振動数の事だ。

 いわゆる「共振」現象に密接に関わっていて、例えばワイングラスの固有振動数と同じ音を浴びせれば触らず音だけでワイングラスを粉砕できる。

 そこまでいかなくても、爆音で音楽を聞いている時、食器やテーブル、窓ガラスがビリビリ震えるのを感じる事がある。それも食器やテーブルの固有振動数と音楽の音の波長が偶然ピッタリ合致した事によって引き起こされる共振だ。

 俺はありあわせの道具を使って実験計算実証して、オクタメテオライトの固有振動数を特定した。


 我ながら無邪気なもので、俺は歌声のようにオクタメテオライトの固有振動数と合致する音を出し、オクタメテオライトに触って「おー、ビリビリしてるビリビリしてる。おもしれー!」とはしゃいでいたのだが。


 声に合わせて振動していたオクタメテオライトが少しずつ唸るように共振を強め、割れたら困るしそろそろ止めるかと思った次の瞬間、白いビームのようなものを発射して家の壁を撃ったのだ。

 衝撃で壁には亀裂が走り、パラパラと埃が落ちてくる。


 両手で掲げ持っていたオクタメテオライトをまじまじと見る。

 お前、今、ビーム撃ったか?


 俺はオクタメテオライトを魔法杖の先端に取り付け、魔法使いごっこをするつもりだった。

 そのために魔除け効果で名高いエンジュの木の木材を削り出し、オリジナルの魔法紋様を丁寧に彫刻し、宝石と柄の接合部と保護材のレジンと金属線を弄り回している。この七日で全ての部品ができたので、組み立ての前に共振で遊んでいたのだ。

 もちろん全てはごっこ遊びだ。魔法杖は本物っぽくリアルに作っているが、実際に魔法なんて使えるわけがない。魔法というフィクションに没入感というアクセントを加えて楽しむための仮装道具に過ぎない。


 そのはずだったのに。


 俺は裏庭に出て、恐る恐るオクタメテオライトの固有振動数で歌った。

 すると、再び白いビームのようなものが出て、山の木々の間を貫き遠くへ消えていった。


 ええっ!?

 マジじゃん!?

 魔法が出ましたけど!?

 す、すげぇーッ!


 俺ははしゃぎまわり、夢中になって決めポーズをしながら魔法を撃ちまくった。

 部品を組み立て、木製の杖の柄に宝石を頂き金属で補強した古式ゆかしいオールドスタイルの魔法杖を仕上げてからは更にテンション爆上がり。

 アニメで観たあのセリフ、漫画にあったあの格好、カッコイイ魔法使いたちを真似しながら魔法ビームを撃つのは楽し過ぎた。童心に帰ったようだ。


 しかし楽しみは永遠には続かない。

 魔法を乱発していると、次第に疲れてきた。

 普通の疲れとは違う。まるでプールの中にいるような、いや、無重力空間にいるような、エレベーターの浮遊感のような、ふわふわと体が浮く居心地の悪い感覚が強まり、調子が悪くなってくる。

 はしゃぎ過ぎた疲れか、と思ったが、ひょっとして魔力切れ的なものか? と思い直す。


 魔法には魔力消費が必要、というのはよくある話だ。

 剣を振り回せば体力を使うし、頭を使えば気疲れする。

 魔法を使う場合も何かしらのリソースを……魔力とでも呼ぶべきものを消費するのだろう。

 俺はきっと今、魔力を消費し疲れているのだ。


 面白くなってきやがった!

 いや、今までも十分面白かったが、宇宙から落ちてきたファンタジーには流石にテンションが上がる。

 決めたぞ、この魔法の杖は俺の宝物にする! 絶対に売らないぞ。どんなに生活に困っても手放すものか。


 ……ああ、生活に困るといえば。


 俺はふと現状を思い出し、冷静になった。

 電気とネットが止まってから十四日が経っている。

 水道はとっくに止まっていて、先日ガスも止まった。インフラが全て停止した形になる。

 幸い、食料の蓄えはまだまだあるし、古井戸から水を汲めるし、山から薪を集めれば火にも困らない。


 だが、いくら都心から離れた山奥とはいえ復旧までこんなにかかるものだろうか?

 東日本大震災とか能登半島地震の復旧ってどれぐらいかかったっけ?

 うーん、何か引っかかる。

 実はとっくに復旧作業が終わっていて、俺の家だけ何かの手違いで忘れられているとか?

 いやいや、そんな村八分にされるいわれは無いぞ。そりゃあ、俺の社交性は壊滅しているが、税金はしっかり納めている。国にピンポイントで無視されるなんて、まさかそんな。


 不安になるが、役所に直談判に行くのも億劫だ。

 俺は筋金入りの出不精だぞ。ナメるな。

 まあ、まだ焦る事も無いだろう。案外明日あたり、サクッと全部当たり前の顔して復旧するかも知れない。

 丸一年放置されているわけでもないんだ。まだ十四日。被災範囲が広ければ、山奥で住民もロクにいない僻地が後回しになるのも仕方ないさ。


 落ち着いていこう。

 この不思議な魔法の石を調べながら、ゆっくり復旧を待とうじゃないか。








 また七日が経った。

 外に出たく無いし誰とも話したくないが、外の情報は欲しい。

 そんなワガママを叶えてくれる夢のアイテム「ラジオ」がジャンクボックスに眠っている事を思い出した俺は、図らずも今起きている災害の原因を知る鍵を得た。


 安く落札したジャンク品の山に埋もれていたラジオは当然壊れていて、動かない。

 俺は修理のために分解したのだが、そこで奇妙なものを見つけた。

 ラジオのコンデンサを、水晶のような乳白色の結晶が覆っていたのだ。


 妙な事もあるものだ、とピンセットで結晶を除去しようとして、更に妙な事に気付く。

 乳白色の結晶はコンデンサの表面に張り付いているのではなく、まるで内側を突き破って育ったようにこびりついていた。根を張るように水晶の糸がコンデンサ内部を蹂躙し、完全に壊れてしまっている。


 一体どうすればこんな壊れ方をするのだろう?

 不思議に思った俺は考え込み、一つの仮説を閃いた。

 他のジャンク品を分解して電源部を調べ、懐中電灯の電池も取りだし分解する。パソコンも冷蔵庫も分解する。


 果たして、俺の予想は当たっていた。

 調べた全ての電気製品は、電源部分と通電部分から生えた水晶によって内部が破壊されていたのだ。


 これが俺の家の中でだけ起きた怪奇現象だとは思えない。

 俺は勇気を出して外出して、徒歩十分の距離にある雑貨屋の公衆電話に向かう。

 雑貨屋にシャッターが下りている事に安心しつつ、周りの目を気にしながらこっそり公衆電話を分解すると、やはり電気系統が水晶にヤられていた。


 他も同じだ。

 街灯も、自動販売機も、乗り捨てられていた軽トラも、全て! 電気系統が水晶に浸食され壊れていた。


 今まで安穏と過ごしていた日常が急にホラーに侵されたように、背筋が寒くなる。

 恐らく、この現象は奥多摩だけに収まらない。奥多摩だけで起きている現象なら、とっくに救助隊が来ているはずだから。

 そうなっていないという事は、もっと大規模でコレ(、、)が起きていて、救助ができないほどの大混乱が巻き起こっているという事になる。

 日本全土か。

 もしかしたら、世界規模か。


 電気機器を謎の水晶の侵食によって破壊された人類は弱い。

 インフラが止まり、通信も止まり、連携が絶たれ。

 病院では診察機器やカルテ管理のためのパソコンが止まっただろう。薬や輸血用血液を保存する冷蔵庫が止まったなら、治療もままならない。

 信号が止まれば交通が麻痺する。そもそも車が動かない。

 農業用のトラクターやスプリンクラーが止まれば食料生産も壊滅的被害を受け、船が止まれば漁業も止まる。

 飛行機は墜落しただろう。原発は爆発したかも知れない。


 電気が失われれば、何もかもが失われるのだ。


 愕然とする俺の頬を、ぽつぽつと降り出した雨が打つ。

 次第に強まる雨足に、雑貨屋の軒先に避難する。

 雨音は激しく、それ以外何も聞こえない。

 今更、俺は山間にぽつぽつ建っている民家の全てに人気がない事に気付いた。

 住人たちはとっくにどこかへ避難していたのだ。


 黒々とした暗雲が空に立ち込め、やがて雹が降ってくる。

 いや……

 ……これは、雹ではない。


 足元に泥を跳ねながら転がってきた小さな乳白色の水晶を見て、俺は絶句した。

 雷とは、雲の中で起きる大規模な静電気だ。

 静電気。

 電気。

 この水晶は、電気を喰って育つ。


 この変わってしまった世界の雨雲は、もはや雷を落とさない。

 代わりに水晶を落とすようになったのだ。

 人類が謳歌する地上だけでなく、空にまで水晶が蔓延っているのならば、この現象は世界中に広がっているに違いない。


 もうおしまいだ。


 俺が引きこもって呑気にしている間に、人類文明は崩壊していた。


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特装版制作&宣伝販促プロジェクトが動いています↓
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― 新着の感想 ―
久々になろう読んでるけど、おもしれー作品あんじゃん
三週間送れて気がつくの引きこもり極めすぎやろ
ハガネさんのファンですけどやっぱり面白いですね?ガンバ!
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