第一王子と御子の男子高校生
歓迎パーティーが中盤になる頃。
王族の人たちは、一旦休憩、ということで奥へと行ってしまった。
もちろんアレクシスさんも護衛なので、一緒にいなくなっている。
御子様こと結崎 恵斗くんは、第一王子のことをずっと見つめていたから
なんだかソワソワしている。
「恵斗くん、第一王子が気になる?」
「えっ、あの……は、はい……でも、僕なんかが合いに行くのはどうなのかと思って……」
「元々は、恵斗くんを歓迎するパーティーで主役なんだよ?気になるのなら、近くに宰相さんがいるし、聞いてみようか?」
アタフタと困惑する彼と共に、近くにいた宰相さんのところへと向かう。
こちらに気づいたらしい宰相さんは笑顔で対応してくれた。
さっそく御子として、活躍中らしいので恵斗くんには好意的のようだ。
第一王子に面会したい旨を話すと、快諾して貰えた。
なんでも第一王子も、恵斗くんに会いたがっていたらしい。
「え、えぇ……ど、どうして僕に……?」
「ふふふ、それは殿下にお伺い下さい。騎士団長、ご案内をお願いできますか?」
「承知しました。では、御子様、ユータ殿、殿下の休憩室までご案内します」
先程まで話していた騎士団長に、案内して貰えることになった。
長い廊下を進むと、途中の部屋に辿り着いた。
どうやら今、話し中のようで何か盛り上がっている。
「おや……アレクシスと殿下が談笑されているな……?」
「さ、さすがにご迷惑では……」
「いえ、いい機会です。ちょっと盗み聞きしてしまいましょう」
「騎士団長が何をおっしゃるんですか……盗み聞きなんて……」
「第一王子が内心どう思っているのか、先に知っておくと心構えも違うでしょうよ。こちらから聞こえるので……」
そう言われて案内されたのは、隣の小部屋。
おそらくここは衣裳部屋だ。そこそこ暖かく、きちんと椅子もテーブルもある。
しかし、第一王子とアレクシスさんの声が全部聞こえるくらいに壁が薄い。
そこに案内して貰った後、騎士団長はさっさと戻って行ってしまった。
「それにしても、御子様は本当に素晴らしいお方のようですね」
「本当にそうなんだよー!あんなに守りたくなるくらい可愛いのに、しっかりと浄化してくれるんだからさぁ!」
「ヴァルハルト殿下、素面が出ていますよ」
「いいだろ、別に。ここにいるのは、アレクシスくらいだし?」
あんなに凛々しく、本当に王子様、という感じの第一王子だけど素面はだいぶ軽い。
第一印象のアレクシスさんに大変よく似ている。類は友を呼ぶと言うけど、まさしくその通りだ。
「それで、殿下はどうして御子様とお話しようとされないのですか?」
「何度も交渉したさ!でも、神殿の連中が御子様はお忙しいので……って言い訳して逢わせてくれないんだよ……神官の頑固頭め……」
「神殿側から居なくなると困るからでしょうね」
「俺もそれはわかるよ。わかってはいるけど!あんなに愛らしい人を独占するなんて酷いぞ!」
ぷんぷんと怒っている第一王子に対して、本音を聞いている御子本人は顔を真っ赤にしている。
想像以上に好意的で、だいぶ戸惑っているのがわかる。
「先程から御子様のことを可愛いとか、愛らしいとおっしゃっていますが……結婚を考えられているのですか?」
「もちろんそうだ。今まで散々見目麗しい令嬢たちに囲まれてきたが、それを一掃するように御子様に心を奪われたからな」
「べた惚れじゃないですか。手紙や贈り物もされていたのに、何故あちらは無反応なのでしょうね」
「神官共がもみ消している可能性が高い。奪われないようにするために、必死なのだろう」
勢いよく恵斗くんを見るけど、首を全力で横に振っている。
どうやら第一王子の認識は合っているようだ。
随分と卑怯な手を使う神殿だな、とげんなりしていると誰かが部屋に入ってきたようだった。
声の感じからすると、執事長のようだ。
「ヴァルハルト殿下、アレクシス様、ご歓談中失礼致します。御子様が殿下にお会いしたいとのお達しがありました」
「本当か?!あれ?でも、御子様はまだいらっしゃっていないが……?」
「ふふ、アレクシス様。御子様とユータ様を、お迎えに行っていただけますか?お隣の衣裳部屋にいらっしゃいます」
二人が同時に、ガタガタと動くのがわかった。
バタバタとこちらに走ってくるのがわかる。間違いなくアレクシスさんだ。
勢いよく扉が開くと、アレクシスさんはただでさえ大きな目をさらに見開いている。
ビックリした猫ちゃんだな、とか思ったりしたけど俺と恵斗くん二人で怯えてしまった。
「あ、申し訳ありません!こちらにいらっしゃるとは思わず……!あの、どうして二人とも顔が真っ青で……?」
「あ、ああああの、不敬とかになったり、しませんか……?」
「え?あぁ、殿下のことですか?大丈夫ですよ、この程度のことで殿下は怒ったりしませんから」
俺も含めて、同時に手を差し伸べられておずおずと部屋を出る。
それから第一王子のお部屋の入口に立つと、何故か第一王子が駆け寄ってきた。
恵斗くんを守るように俺が前に居たのでとても驚いたが、直前でアレクシスさんが頭を掴んで止めてくれている。
第一王子の頭を掴む護衛騎士は聞いたことがないや。
「なんで!頭を!掴むんだ、アレクシスッ!」
「愛しい人に逢えたことが嬉しいのはわかりますが、いきなり抱き締めようとしないで下さい。怯えていますから」
その言葉でようやく落ち着いたらしい第一王子が、パーティー会場で見せた仮面を付けてもてなしてくれた。
思わず俺と恵斗くんは揃って笑ってしまった。第一王子は、なんともギャップの激しい人だ。
「申し訳ない、嬉しさのあまりに理性が吹っ飛んでしまった……お会いできて嬉しいよ。御子様、ユータ殿」
「あの、隣で盗み聞きしちゃって、ごめんなさい……!」
「ははは、素直でいい子だな御子様は。大丈夫だよ、あの会話は全て本音だからね。な、アレクシス?」
「それはそうなのですが……ヴァルハルト殿下、先に自己紹介をした方が良いのでは?」
そう言われて、自己紹介のことを忘れていたようで改めて王子としての礼を見せてくれた。
やっぱり所作が凄い綺麗な人だ。
「御子様とは二度目となりますが、改めまして自己紹介を致します。イースト王国の第一王子、ヴァルハルト・Z・イースト、と申します」
「私とは初対面となるかと存じます。王族護衛騎士のアレクシス・R・イーストフェン、と申します」
どちらも礼がとても綺麗だ。貴族の人たちってこんなに優雅に動けるのがすごい。
「なんだろう……久しぶりにアレクシスさんのフルネームを聞いた気がする」
「そうだろうね。日頃は、名前しか言われないから」
「そういえば、悠太さんはこちらの騎士さんのお世話係なんでしたっけ……?」
「そうそう。今はアレクシスさんのお家のハウスキーパーだよ」
ハウスキーパー、という言葉自体聞いたことがないはずなのに第一王子とアレクシスさんはあっさりと受け入れている。
それをどこか疑問に思いながらも、話が進んでいく。
「アレクシスはいいよなぁ……ユータ殿と毎日いちゃついているんだろう?」
「語弊のある言い方はおやめください、ヴァルハルト殿下。ユータとはそういう関係ではありません」
「そうなのか?その割には、ユータ殿に懐いているじゃないか。日頃は誰にも懐かないのにさ」
「懐く懐かないの問題ではありません。その……ユータに心を許しているのは確かですが……」
「ほらー!やっぱり、そうじゃないか!」
恋愛話で盛り上がる男子高校生を見ているような光景だ。
なんだか若々しい会話についていけず、遠い目をしていると第一王子が立ち上がった。
そしてすぐに、恵斗くんの傍に跪いている。
「不躾で申し訳ないとは思うが、もっと話がしたいんだ。御子様、私についてきてくれますか?」
「え?え?あの……ついてくる……?」
「私の私室で、あなたのことをもっと知りたいんだ。ダメだろうか?」
「うう……わ、わかりました……あの、僕のことは恵斗と……呼んで、下さい」
「承知した、ケイト様。と、いうわけでアレクシス!ユータ殿とここでゆっくりしていてくれ!」
「パーティーはどうされるのですか……?」
「もちろん、早退させて貰うさ。もう第一王子である俺がいる必要もないからな!」
「わかりました。くれぐれも!御子様を怖がらせないように、お願いいたしますよ」
「お前は俺の母親か?もちろんだ。ようやく愛しい人とゆっくりできるのだからな!」
なんだか騒がしい第一王子に連れられて、恵斗くんはこの部屋を後にした。
随分と押しの強い人だ。押されるのに弱い恵斗くんはあっという間に陥落しそうな予感がする。
なんとなく、両手を合わせて拝んでおいた。