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ネコチャン騎士様と愛馬のゲール(兄)

夕食後には、騎士として出勤するアレクシスさんのために昼以上に腹持ちしそうな副菜を作り上げてみた。

日本人からすると「ダイエット食か?」と思われるかもしれないけど、これが限界だった。

野菜とキノコ、さらに鶏のササミをふんだんに使って大盛りの野菜炒め。

正直なところ、俺自身にそこまで料理のバリエーションはないためこんな感じになってしまう。


「すごい、大盛りで美味しい!ユータって料理上手だねぇ」

「そこまで料理上手というわけでは……一人暮らしをしていた期間があったので、必要に迫られてやっていただけです」

「んむんむ、夜間警護も頑張れそう……!はふ、ユータはいいお嫁さんになれるねぇ」

「え?!いやいや、男で嫁なんて……」

「性別のことを気にするの?この国は、同性であっても異性であっても結婚は自由なんだよぉ」


アレクシスさんから簡単にこの国の説明と、法律のことを教えて貰えた。

なんて懐の深い国なんだろう。

俺のいた国では、同性婚は反対されまくっていてパートナー制度はあっても正式に夫婦と認められる様子はなかった。

単純に日本が頭の固くて古い思考なのだとは思うけど、この国の柔軟性の高さには恐れ入る。

逆に日本に見習って欲しいまである。無理だろうけど。


「ふふ、ユータって考えている時に表情がコロコロ変わっていて面白いねぇ」

「えっ、そんなに百面相を……?」

「ユータにお世話されていた猫ちゃん、きっと幸せだっただろうなぁ……」


美形のとろんと惚けた表情は罪だ。そんな甘い顔で、お世話をしていた子猫を羨ましがっているのは絵になる。

確実に女性だったら、一撃で倒れている。美形って怖い。

あまりにも眩しすぎて両手で顔を覆っていたら、苦笑しながら心配されてしまった。

しかし、俺が猫カフェの店員だと話しただろうか。ふと、不思議に思って見つめているとニッコリ微笑まれた。

今度は外用の作り笑顔だ。


「どうして、ユータが猫と関わっていたのが分かるか不思議?」

「はい……って、心を読んだ……?!」


的確な質問に、驚いているとアレクシスさんは無邪気に笑い声をあげた。

そっと俺の下の方を指さすと答えをくれた。


「ユータの顔に書いてあるんだって。そのエプロンに付いているネコチャン模様を見て、かな。猫のお世話が好きなんだって判断したの」

「なるほど……これ、猫カフェの店員用のエプロンなんですよね……」

「猫カフェ?普通の喫茶店に猫がいるの?」

「そうです。俺が居たところはほとんど子猫ばかりで。猫が自由に行動する様子を見ながら、お茶をするんですよ」

「へぇ、楽しそう……ふふ、そんな子たちに嫉妬していたのかぁ……」

「え?」

「ううん、なんでもなーい。はー、お腹いっぱい!僕は騎士服に着替えるねぇ」


はぐらかされてしまったが、俺の予想は当たっていたような気がする。

子猫に嫉妬する大きな猫。成猫にたまにいるにはいるが、アレクシスさんのように腹の底が見えない人はどうにも謎だ。

雇い主であり、可愛い猫。これはもっと仲良くなって、甘え方を覚えて貰う必要がありそうだ。

そんなことを考えながら、洗い物を済ませて紅茶を飲んでいると最初に合った時に着ていた騎士服姿になっている。


「そういえば、ユータも一緒に行く?御子様と知り合いなんでしょう?」

「はい、お店の常連さんです。でも、パーティーに着て行くような洋服は持っていなくて……それに招待されていませんし」

「大丈夫だよ。王城で手配してもらうから。それに、ユータが一緒だと僕も心強いからねぇ」

「ぷは、ハウスキーパーが一緒で心強いってなんですか」


意外な台詞に思わず吹き出してしまった。

なんだかお茶目な人だな、アレクシスさんって。


「ほらここに、雇い主であって大きな猫がお仕事に行くんだよ?お世話してくれる人がいると猫もほっとするんじゃない?」

「確かにそうかも。あ、エプロンは脱いで行きますね。そういえば、家の鍵は?」

「魔法で施錠できるから大丈夫だよぉ、ほら行こう!」


エプロンを椅子にかけ、そのまま家を出るとあっという間に鍵がかかる音がした。

アレクシスさんが口笛を吹くと、馬がこちらにやってきた。

乗り慣れていないだろうから、という配慮で前に乗せて貰って出発した。

全速力で走るわけではなく、比較的ゆっくりなペースで馬に乗せられている。

街中というのもあるためだろう。王城の馬屋に到着すると、馬屋番の人に従って馬は大人しく入っていく。


「わぁ、馬ってすごく賢くていい子なんですね……!」

「ふふ、接し方を間違えると大変危険ではあるよ。でも、この子は長年一緒に戦ってきた仲だから、理解してくれるんだ」


ね、とアレクシスさんが声をかけると、鼻を鳴らしていた。肯定の意味らしい。

愛馬を預けて、王城を進みながら馬のことを色々と聞くことができた。

元々は北部国境を守る辺境伯領で産まれた軍馬で、男の子。名前はゲール、と言う。

仔馬の頃から仲が良く、アレクシスさんのことを兄弟だと思っているらしい。

小さい頃は何をするかわからないアレクシスさんが危ない目に遭いそうになったら、ゲールが助け出してくれるそうだ。お兄ちゃんじゃないか、それ。


「あれ?アレクシスさんって、辺境伯の人なんですか?」

「うん、元々は辺境伯の爵位を継ぐはずだったんだけど……事情があって、王都に来たんだぁ」


表情はニコニコしているけど、どこか複雑そうな声色を含んでいる。

けれど、これ以上の詮索は望んでいないのだろう。王城の控室に到着すると、一斉にメイドさんたちに取り囲まれて、あっという間にお着換えをされてしまった。

一般人に王城での扱いは慣れないせいで、大騒ぎをしてしまったが無事になんとかなった。

待っていてくれたアレクシスさんの所に行くと、何故か跪かれた。

それから、真剣な表情で俺の片手を取り、手の甲に口づけをしている。

こういうのも変だけど、騎士だ。騎士の礼だと思うコレ。


「ふふ、綺麗だよユータ。あれ?どうしたの、顔を真っ赤にさせて」

「ふぁあああ……騎士だぁ……!」

「はぁーい、騎士でーす。慣れないことをされたからかな?ごめんね。さぁ、私にエスコートをさせて頂けますか?」

「あわわわ……わ、わかりっ、ましたァ!お願いしますぅ!」

「力む必要ないのになぁ……あはは」


完全に揶揄われているけど、これは仕方がない。

日本人にこういったことはされる風習がないからだ。

いつもの緩やかな感じとは違う厳かで豪華な歓迎パーティー会場へと足を進めた。

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