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殲滅後のアレクシス帰還と泡風呂遊び

13話目の後半から、この話まで第三者視点だとお考え下さい。

ふと、アレクシスは帰る前にやることを思い出した。

一度仕舞った核を取り出すと、地面に落とした瞬間刃先を突きつけ破壊した。

これで二度と、邪神が復活することもないだろう。

封印の袋に残骸である影邪神の核を仕舞いこみ、ゲールと共に屋敷までたどり着くとそこには父が居た。

朝日は昇り始めた頃なのに、随分と早起きだとどこか遠くに考えながら近くでゲールから降りる。

父は何か言いたげだが、驚いて言葉が出ない様子。


「……父上、只今戻りました」

「あ、あぁ……よく戻った。ひとまず……中へ入りなさい」

「はい。ゲール、馬房へはひとりで行ける?……そう、お疲れ様」


ゲールとは、脳内ではあるけど簡単な会話ができる。

彼は酷くこちらを心配そうにしていた。弟がこんな有様だから、仕方がないのだろう。

それでも、一人で行ける、と答えるとそちらへ向かって進んでいった。

心配性な兄だ。

他人事のように思いながら、アレクシスは屋敷の中へと入る。

そこには待っていたと言わんばかりに、執事長とメイド長の二人が立ち尽くしていた。


「あ、アレクシス、様……おかえりなさいませ」

「……あぁ」


ようやく言葉を出したのは、執事長の方。メイド長の方は、酷く怯えた様子だ。

短くそう反応した頃、こちらに向かって誰かが走ってくる。

視線をそちらに向けると、そこにいたのは寝起きのユータだった。

隣に居ないから心配になったのだろう。

無言でじっと見つめていると、ユータの方が近寄って話しかけてきた。


「アレクシスさんッ!どこ行っていたんですか!隣に居なくてびっくりしましたよ!?」

「……すまない」

「……あれ……?なんだかいつもと違うような……って、血みどろじゃないですか!お風呂に入らないと!」


一方的にぎゃんぎゃんと怒るその姿は、母を思い出す。

少し無茶をすると、目に涙を浮かべながら怒っていた優しい母。

そんな母に、ユータは似ている。いけない、心配させてしまって泣きそうな顔をしている。

彼を、悲しませてはいけない。

そう思った瞬間に、カチリ、とアレクシスの中が切り替わった。


「そうだねぇ……あ、おはよう。ユータ」

「え?あ、おはようございます……」


ユータが不思議そうにアレクシスを見つめた後、手元に視線が動いている。

その視線の先を追うと、宝槍を出したままだった。

慌てて宝槍の石突を心臓部分に当てると、体内へと納まっていく。

これで武器は大丈夫だ。その光景を見ていたユータはぽかんとした表情のまま、アレクシスの心臓部をペタペタと触れている。


「え、え?今、槍がアレクシスさんの中に入っていきませんでした?なんですかこれ」

「体内に収納できる特別な武器なんだよぉ」

「わぁ、ものすごくファンタジー……あぁ、じゃなくて!ほら!お風呂行きましょう!お風呂ッ!」

「はぁーい」


のんびりとした返事をしながら、ユータに引っ張られて昨日一緒にいたお部屋に連れていかれた。

鎧と洋服を脱ぐよう言われて、ちゃんと脱いだらいきなりお湯をぶっかけられた。

洗い場のところで、ユータが甲斐甲斐しく身体と頭を洗ってくれている。


「ユータ、前は洗ってくれないの?」

「前は、その……自分で、お願いします……!」

「うん、わかっんぶぁっ」


ユータから身体を洗うスポンジを受け取ると、アレクシスの頭上から容赦なくお湯がかかる。

汚れたであろう前の部分を綺麗に洗うと、お湯が張ってあるバスタブへとぐいぐい押されて入ることになった。

バスタブの中は、泡風呂になっているようだ。

滅多にこんなお風呂にしないんだけど、たぶん姉のキャサリンが指示したんだろう。

もこもこの中で遊んでいるアレクシスを見て、ユータはどこか嬉しそうにしている。

ふと、アレクシスは悪いことを思いついた顔になる。


「ユータぁ」

「え、なん……んぶぁ!!」


アレクシスはユータの腕を掴んで、勢いよく引っ張り込んだ。

顔面から泡風呂に突っ込んじゃったので、慌てて顔を出させる。いつの間にか、ユータのメガネは洗い場に吹っ飛んでいた。


「ちょ、ちょっと!アレクシスさん、危ないでしょう?!」

「あはは、ごめんねぇ。僕だけ入るのは寂しいからつい」

「つい、じゃないでしょ……もー……悪い猫ちゃんは、こうだッ!」

「ひゃわっ、んははははは!!」


泡風呂の中で互いの脇を擽り合う大人の男たち。

外から見れば、何してんだこいつら、と思われるかもしれない。

それでも、ユータはアレクシスの笑顔を見て安心すると同時に笑顔になる。

しばらくの間、泡風呂で遊んでいるとさすがに様子を見に来たメイド長から怒られてしまった。

指がふやけてしまったので、長風呂しすぎたようだ。

身体を新しいお湯でお互い洗い流すと、新しい洋服が準備されていた。

ユータは下着もずぶ濡れになってしまったので、それも当然のように用意されていた。


「はぁ、全くアレクシス坊ちゃんは……けれど、これもユータ様のおかげですわね」

「ごめんなさぁい。ふふ……そうだよねぇ」

「……?ここに来る前にからそんな話をされていたんですけど、どういう……?」

「アレクシス様、ユータ様、前領主レイナルド様と現領主キャサリン様が食堂にてお待ちです」


ユータの質問を遮るように、執事長が呼びに来た。

きちんと洋服を着替えると、足早に領主家族用の食堂へと向かう。

部屋に入ると、一番奥に父。その右横に姉。指示された位置だと、アレクシスは左横。

ユータは、アレクシスの横へと通されていた。


「まずは、ユータ殿。ようこそ、北部辺境伯領イーストフェンへ。私は、前領主のレイナルドと申します」

「改めまして、私は現領主のキャサリンです」

「は、初めまして……!アレクシスさんのハウスキーパーをしているユータです」

「この度は、我が領地にて騒動に巻き込んでしまい大変申し訳なかった。父として謝罪します」

「えっ、いえ!大丈夫ですから!その、もう解決したご様子ですし……?」


威厳溢れるおじ様に頭を下げられて、アタフタしながらユータはアレクシスへと視線を向ける。

アレクシスはただ、ニッコリ微笑むだけで何を考えているのかはわからない。


「はい、その通りです。先程、アレクシスが単騎で元凶を殲滅。その証拠となる黒結晶も確認しました」

「黒結晶……?」

「その黒結晶は、邪神の心臓とも言える部位。それを破壊した残骸を持ち帰っているため、此度の騒動は収束した次第です」

「よ、良かったぁ……ひとりで討伐できるってすごいですね、アレクシスさん」

「そうなの?僕、その間の記憶が曖昧なんだよねぇ」


微妙に食い違いを感じながらも、前領主である父親の話は続く。


「それで、ユータ殿。あなたに頼みたいことがございます」

「え、頼みたいこと、ですか?」

「どうか、アレクシスの伴侶になって頂けないだろうか?」

「…………はい?」

「父様、ユータとはまだ出会ってそれほど経過していないんだ。性急すぎると思うんだけど?」

「わかっている。だが……このまま相手がいなければ、お前は……!」


急に伴侶になれと言われて驚いたユータに対して、アレクシスは父親に食って掛かっている。

感情のままに反論しようとするアレクシスを宥めて、ユータは一呼吸置く。


「……すみません、先程アレクシスさんがおっしゃった通りで俺たちはそれほど出会って間もないんです。なので、考える時間を下さい」

「ユータ……ごめん……」

「アレクシスさんが悪いわけじゃないよ。事情があるんでしょう?」

「……うん……父様、後は二人で話をさせて下さい。ユータ、部屋に戻ろう」

「え?!あれ、朝ごはんは?!」

「お部屋に届けさせるから大丈夫。それでは、失礼します」


父親の制止の声を聞き流したアレクシスは、ユータを連れて食堂を出た。

それから、また部屋へと戻る。ちょうど同時に、朝食も運ばれてきた。

アレクシス自身のことは説明することが多いので、まずは一緒に朝ごはんを食べることにしたのだった。

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