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親友を救いに異世界に行った話  作者: 祭
統括天
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全知の天使

 ―ゼクスピア城 玉座の間

 「桜さん・・・!」

 「フィーネ!」

 私達は大きくハイタッチをした。


 フィーネ曰く、統括天は限界だったらしい。

 自ら真体を傷つけ、再生にも随分時間がかかるようになっていたそうだ。だからこそ万全な策を練って、あくまで私を騙す目的でフィーネに私と接触させた。だから、フィーネが二重スパイのように統括天を裏切る選択をすることは予想外だったのだろう。


 「ありがとうございます。信じてくれて」

 「当たり前でしょ? 友達だもん」

 玉座の前でフィーネは首に巻いていたマフラーを解いた。それはフィーネの真体、命そのもの。フィーネはその心臓に等しいマフラーを私の前に出した。


 「あとはこれを桜さんの手で壊してください」

 「うん・・・・・・」

 白ローブと交わした約束は、全ての堕天使の抹消。それと引き換えに莉里の運命を変えること。フィーネがどんなに優しくても、友達であっても、堕天使である以上避けられない。


 

 「・・・やっぱり、もう少しあとにしない?」

 「え?」

 

 ・・・そう、どれほど頭で分かっていても、躊躇わずにはいられなかった。


 「もう少しさ、一緒に話しを・・・」

 「駄目ですよ、桜さん。約束したじゃないですか。私は堕天使です。この運命は避けられなかったんですよ」

 フィーネはそう微笑みながら私の右手を握った。


 「それに私はこの地に未練はありません。桜さんが今、私にとどめを刺すこと躊躇してくれることすら、私にとっては身に余るほどの幸せなんです」

 「フィーネ・・・・・・」

 屈託のない笑顔は余計に私の決心に迷いを生じさせる。でも、これ以上一緒に時を過ごせば本当に決断できなくなってしまう気もしていた。


 「ごめん・・・・・・。そうだよね、私も強くならないとだよね」

 私の刀を握る手に力が籠もる。


 「桜さん」

 「ん?」

 前でマフラーを掲げたフィーネは目を細めて笑った。


 「私に心を教えてくれて、ありがとうございました!」

 

 視界が滲む。本当に、ここまで来てこんな気持ちになるなんて・・・

 フィーネがいなかったらきっと私はまだ一人で闘っていただろう。孤独なまま桐香と恵の死に全ての責任を押しつけて。理由は違ったかもしれないけど、私はフィーネに出会えたことを本当に幸運だと思う。だから、寂しいけど私は覚悟を決めた。


 「私の方こそ、一緒にいてくれてありが・・・・・・!!」

 

 そう言おうとして顔を上げたとき、フィーネの背後に影が落ちた。


 「フィーネっ!!」

 「・・・!?」

 その影は風を切る鈍い音と共に巨大な何かを落とした。

 私は必死にフィーネに飛びつき、なんとか避けることができた。



 「・・・なんで生きてるの、統括天(アルファドミナ)!」

 「あぁ・・・、想定外だ。偽騙天(エイプリル)の分際で、統括天たる私を嵌めたつもりか?」

 その影は他でもない統括天だった。確かに消える過程は見ていない。でも確かに頭ごと黒曜石は砕いたはずだ。


 「負けたくないと言っただろ、桜。私は弱点を提示したまま闘うなど、そんな馬鹿な真似はしない」

 「はぁ!?」


 ゆっくりと腰を上げる統括天の手には巨大な大剣が握られている。ただ、それは戦闘のための剣ではなく、おそらく装飾品として玉座の傍らに飾られていたものだ。人が扱うような設計はされていないため刀身と束のバランスは悪く、刃はない。しかし、それでも統括天が振り下ろした床は抉れ、その重量だけでも相当な破壊力があることがうかがえる。


 「フィーネ、どういうこと!? 統括天の真体は黒曜石だよね!?」

 私は慌ててフィーネに振り向く。

 「落ち着いてください! それは間違いありませんし、我々天使は完全に真体を手放した状態では身体を動かすことはできません!」

 「じゃあ何で・・・」

 「おそらく統括天の位階と権能にあります! 神に近い位階と世界を監視する権能、そのおかげで私達よりも真体が身体を制御できる範囲が広くなっているんだと思います」

 「え!?」

 咄嗟に賜物”封獄(トッド・ズィーゲル)”を構えたフィーネは早口でそう考察した。


 「でも! 統括天だって真体を完全に隔離することはできません! 十中八九この部屋の中に統括天の真体はあるはずです!」

 「隠してるってこと!?」

 この部屋の中、と言っても体育館の半分くらいの広さのあるここじゃ探すのも簡単じゃない。


 「それなら・・・」

 「桜さんはなんとか真体を探してくれませんか!? 私はその間統括天を止めますので!」

 「え、大丈夫なの!?」

 「お任せください!」

 そう言ってフィーネはマフラーを巻き直し、真っ直ぐ統括天の方に向かった。


 もうこうなったら本気で探し出すしかない。


 どこだ・・・。カーペットの下、飾られている鎧の中・・・。天井になんて隠されたら私じゃ届かない。


 私の刀、賜物”裁葬(トッド・ツォイーゲル)”は適当に振っても堕天使を斬れるらしい。でもあくまで視界に入っている場合だけ。現状じゃ多分統括天の身体の方に影響して終わりだ・・・。



 「お姉様。・・・いえ、統括天。あなたの理想は間違っています。こんなことして地上の人間を苦しめたって何にもなりません!」

 「人間に毒されやがって・・・、己の権能を忘れたか?」

 統括天は2対の翼を羽ばたかせ、フィーネとの間合いを詰める。


 「堕天した者の末路は教えたはずだ! 邪魔をするなら例えお前でも容赦はしない!」

 振りかざされた白刃は無駄なくフィーネの首を狙う。フィーネは間一髪でそれを受け止めた。


 「裏切り者が! 身の程を弁えろっ!!」

 「私は・・・、桜さんのおかげで心を知りました。あなただって・・・、天使は皆それを欲していたはずです・・・!」

 「戯言だ」

 「・・・!」


 天使が地上で錬成する身体の能力はその権能や位階に依存する。故に統括天と偽騙天の身体能力には雲泥の差があった。


 「・・・っか、は!」

 一瞬にして頭上に移動した統括天が放った一閃は、フィーネの身体を床にめり込ませた。


 「フィーネっ!!」


 巨大な破壊音に気づいた私はすぐにフィーネの元に向かい、統括天は一時的に距離を取る。


 「フィーネ無事!?」

 「はい、真体は傷ついていませんので・・・」

 フィーネは割れた顔を再生させながら起き上がった。


 「すいません、次は油断しませんので・・・」

 「待って、やっぱり作戦を変えよう」

 「え?」


 「まずは2人で統括天の動きを封じる。あの再生速度なら身体を損傷してからすぐに動き出すこともできそうにないし、フィーネのその賜物なら止めることはそう難しくないはず」

 「ごめんなさい・・・・・・」

 「謝らないで。2人で闘おう」

 私は申し訳なさそうにそう呟いたフィーネの背中を軽く叩いた。


 「だからフィーネ、私に合わせてくれる?」

 「はい。もちろんです」

 私は1歩手前に出て刀を抜く。

 天使は超人的な身体能力を誇る。それはフィーネも例外ではなく、私の動きにだって初見で合わせられるはずだ。


 「お前の剣術は全て見てきた。その弱点もな」

 「そ・・・・・・」

 統括天はそんな私とフィーネのやりとりを静観していた。

 帝国流極剣術は究極の初見殺し。初手を全力で防御に振れば簡単に反撃できるからだ。


 私は踏み込み、いつものように刀を振るう。


 知っていれば攻略可能。それほどに明確な弱点がある。でも、今の私にはその弱点を克服する術がある。


 

 「帝国流極剣術 ”黒残雪・天墜”」

 

 

 「・・・!」

 

 私は間合いの遙か手前で刀を振った。その瞬間統括天の首は宙を舞い、身体の動きが止まった。


 攻撃に全てのリソースを割くことで圧倒的殺傷力を発揮するこの剣術ではカウンターに対抗する術はない。ただ、反撃できない位置から同じことができるならばそれは不可避かつ反撃不能の剣となる。賜物”裁葬”の権能はその幻想を現実のものとした。


 「フィーネ! 今!」

 「はいっ!」

 その隙を逃すまいとフィーネは首から上が再生しきっていない身体に槍を刺す。その権能により統括天の身体は完全に自由を失った。


 「もう一発・・・、帝国流極剣術 ”紅孔鱗(ノインレーゲン)”!」

 一対多を想定したその技は統括天の四肢を斬り、無数の傷跡がつくった。


 「今だ、行こうフィーネ!」

 転がった生首はギロリと私を睨む。でも再生に時間がかかるのは間違いない。私達は急いで部屋の中の探索を始めた。


 「フィーネは上をお願い!」

 「はい!!」

 2手に別れて統括天の真体を探す。統括天が再生するまで繰り返すしかないけど、正直体力的にすぐに見つかってくれると嬉しい・・・。



 「・・・何故裏切った、偽騙天・・・。存在が抹消されれば二度と天使にはならない。この力は戻らない・・・」

 


 壁際に並ぶ甲冑を虱潰しに探す。されど真体らしき黒曜石はない。



 「私は統括天だ・・・。知らぬものなどない。できぬことなどない。我こそは全知全能の統括天だ・・・!」



 まだフィーネも何かを見つけた様子はない。本当に、どこに隠したの・・・?


 「私は全てを見てきた。この世界の全てを・・・・・・。・・・ルディアス帝国流極剣術――」

 「真体はどこに・・・・・・、え・・・!?」

 ふと振り返れば統括天の身体はほとんど再生している。それにあの構え・・・。


 「”黒残雪(シュヴァルナーデル)”!!」

 「!!?」


 一瞬にして統括天の姿は目の前に現れる。速度だけならおそらくギルバート以上・・・!


 「あぶっ・・・!」

 私はギリギリで統括天の大剣を受け止める。だが、その力は予想以上だった。


 「軽い!」

 「まずい・・・」

 不意打ちを食らった私は踏みとどまることができないまま壁際に吹き飛ばされた。


 「桜さん!」

 「賜物は厄介だ。だが、お前のそれは距離を詰めればそう恐ろしい物ではない」

 統括天の背後にフィーネが降りてくるもそれに一瞥もくれずに統括天は再度大剣を軽々と構えた。


 「お前の剣ならここに来るまで何度も見てきた」

 「・・・見様見真似で会得されたら、私の立つ瀬がないっての!!」

 迫る統括天を回避してもう一度距離を取る余裕はない。挑発に乗るようで癪だけど、私は統括天に向かって直接刀を走らせた。


 「お前がどれほど天上の力を得たとしても、私はその天上の上に立つ者だ!」

 「関係ない、私は絶対に莉里を救う!」

 目の前の敵を殺すことに特化した剣同士の衝突は、火花を散らすほどに激しいものだった。


 「「帝国流極剣術 "銀辟易(ドゥーナヴァイス)”!!」


 付け焼き刃の剣術と不死の身体、そして不滅の賜物。

 人智を超えたその舞台では一撃必殺を謳う剣術にもかかわらず、決着はつかなかった。


 「桜さんから、離れてください!」

 「・・・鬱陶しい」

 

 ようやく追いついたフィーネは統括天の背中に槍を突くも、統括天は瞬時に飛び立ち、直撃を防いだ。


 「ナイス、フィーネ!」

 でもそれは私にとっては好都合。距離ができれば私に分がある。


 「天墜っ!」

 「っ・・・、鬱陶しい!」

 翼を斬り落とされて尚、統括天は速度を落とさずにもう一度私に迫る。相変わらずの意味不明なスピードだ。流石に目で追いきれない。私は上段に振り上げられた大剣の直撃をなんとか防ぐだけで精一杯だった。


 「お前も人間だ! 下等生物が図に乗るな!」

 刀越しに統括天の鬼のような形相が浮かぶ。


 「フィーネから聞いたけど、再生するからって痛みがないわけじゃないんでしょ? 特に真体を傷つけられたときは酷い苦痛を伴うって。どういう気持ちで私達の前で笑ってたの?」

 バーリングの教会にいた頃のクレアさんの表情が脳裏に浮かぶ。優しい笑みを浮かべ、私達を助けてくれる天使のような人。

 ・・・まさか本当に天使だったなんて思わなかった。


 「理由はどうあれ、あなたには何度か助けられた。でも、同時に桐香と恵を殺された。私は決してあなたを許しはしない」

 「ああ、全くもって同意だ。私とてお前を生かす道理はない」

 私は統括天の剣を弾き、数歩後退する。統括天はその隙を逃さなかったが、その一瞬はフィーネが追いつく間を与えた。


 「まずはお前からだ、深並桜ぁ!!」

 「させません!」

 

 統括天の背後のフィーネとアイコンタクトを取った私は致命傷を避けることに徹し、フィーネは今度こそその槍で統括天の胸を貫いた。


 「やっ・・・、え!?」

 

 手から大剣を溢し、動きを封じたかに見えた統括天だったが、その左手はフィーネの顔を掴んだ。


 「なっ!」

 「私は・・・、自由の身だ・・・。今更封獄天如きの権能で私の自由は奪えやしない・・・!」

 「お前・・・!」

 動きは確かに鈍くなっている。完全に効果が無いわけではない。私はすかさず刀を統括天の首に向けて振るったが、統括天はその刃を素手で掴んだ。


 「まずはお前と言っただろう、深並桜・・・!」

 血走った眼で私を睨んだ統括天は手を離して翼を広げ、跳躍した。


 「・・・!? 何!?」

 突然力が抜けた私は一瞬体勢を崩した。

 

 それが狙いだったのだろう。その瞬間統括天は再度眼前に姿を現す。


 「例え天上の刺客だとしても、人間を殺すことは簡単だ」

 「!!」

 統括天は左手で私の刀を握る右腕を、右手で首を掴み、高速で飛行する。


 「離せ・・・!」

 「あぁ」

 そうして勢いよく大きな窓ガラスを突き破った時、()()()()()()()()()()

 

 「・・・・・・桜さん!」

 「え・・・、・・・まずっ・・・・・・!」


 ほんの僅かに気が緩んでいたのかもしれない。余計なことが頭を過ぎってしまったこともあるだろう。気づけば私は学校の屋上など優に超える高さから落下していた。







お読み頂き、ありがとうございます。

次回は5/25投稿予定です。お楽しみに。

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