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親友を救いに異世界に行った話  作者: 祭
統括天
63/70

廃都

 その日、私とフィーネはそのままルカさんの家に泊めてもらうことになった。

 「懐かしい・・・、1年前は3人ここで寝てたんだよね・・・・・・」

 私は前にも泊めさせて貰った部屋のベッドに触れた。


 アインスで私は初めて堕天使という存在を見た。

 それはそれは恐ろしい。まさに化け物という表現がぴったりの存在だった。


 でも私達はそれを乗り切った。


 そして私は今、ここまで来た。


 「もう少しだけ待ってて、莉里」


 私は荷物をベッドの上に置き、お店の方に戻った。


 +++

 

 「さてと、桜はこの後どこに行くの?」

 日も暮れ、店終いをしたルカさんと私達は食卓を囲んでいた。


 「・・・その前に、どうしてルークさんもいるんですか・・・?」

 「いや桜が帰って来てるって聞いてさ~。あ、フィーネちゃんもね」

 「はい。その節はお世話になりました!」

 フィーネは明るく挨拶を交わす。

 ちょうど4人が座れるようになっている木製の机には私とフィーネ、そしてその向かい側にルカさんとルークさんが座っていた。


 「まあ、桜は知ってると思うけど、今この家にいるのはルカだけだからさ、寂しいかと思ってたまに来てるんだよ」

 「お、おい、誰がいつ寂しいとか言ったんだよ!」

 「でも、いつもすぐ入れてくれるじゃん」

 「そりゃ、追い返す理由もないし・・・・・・」

 ルカさんは頬を赤らめている。

 「ルカさんはまだそこかー・・・。」

 目の前で繰り広げられる光景に、無意識に表情が緩んでしまう。


 「そんなことより! 桜はこれからどこに行くか決まってるの? バーリングはもう人が住めるような状況じゃないはずだけど」

 ルカさんは唐突にフォークを私に向ける。


 「次の目的地は決まってます。そして、そこでの闘いが終わったら私はカブラルを去ります」

 「・・・そうなのか。それで、その目的地って?」

 「ゼクスピアです」

 「・・・え? ゼクスピア!?」

 ルカさんは口に運びかけた野菜を直前で止めて聞き返す。


 「ゼクスピアって、あの!?」

 「元ルディアス帝国の首都だったゼクスピアです」

 「はぁ!? 何考えてんの!?」

 ルカさんはフォークを置き、身を乗り出した。


 「桜、わかってる? あそこは誰も住んでないゴーストタウンだよ? 建物はいつ崩れるかわかんないようなものだらけだろうし、野生動物だっている。それに、あの土地は天候も安定しない、行くだけで危険な場所なの。そこに一体何の用事があるってのよ」

 「わかってます。でも、そこにいるんですよ、堕天使が」

 「はぁ、嘘でしょ・・・・・・」

 ルカさんはため息を吐き、ゆっくりと椅子に座り直した。

 前に私があんなことを言った手前、堕天使の存在に関して直接疑いを口にできないのだろう。


 「止めやしないけど・・・、じゃあせめて移動手段は私が用意するよ。それくらいはさせて」

 「いいんですか?」

 「当たり前だろ? 桜が頑張ってんだ。私だって全力でサポートしたい」

 「ルカさん・・・、ありがとうございます!」

 ルカさんは仕方ないと、そう言ってくれた。素直にこれ以上心強いサポートはないと思う。


 「じゃあ僕も・・・、と言いたいところだけど、正直何も役立てそうな物は渡せないんだよねぇ」

 ルークさんはちょっと申し訳なさそうに頭を掻いた。


 「そういえばルークさんってなんの仕事してるんですか?」

 「・・・あれ? 言ってなかったっけ? 学生だよ、内戦中は休学してたけど。」

 「え・・・?」

 少し驚いた。歳は私とほとんど同じだけど、カブラルでのこの年齢の学生は日本の大学くらいのレベルの学生ということは聞いていた。それも、前に聞いた話ではアインスの大学に進学できるのは一部の優秀な人間だけだと。


 「あぁ、桜の言いたいことは分かる。でも実際こいつ、頭は良いんだよ。意外にもな」

 「えぇ・・・・・・」

 「え~? 意外でもないでしょ」

 馬鹿・・・、とまでは言わないけど、正直ルークさんが賢そうには見えない・・・。

 でも、よくよく考えたら内乱の時に中立組織の副リーダーをしていたのだから、それなりの人望と才覚があったのだろうと、妙に納得してしまった。


 「さて、それじゃ、今日はいっぱい食べて英気養いな!」

 「はい。ありがとうございます。頂きます!」

 私はルカさんの言葉に甘えて香ばしい匂いの香る料理を楽しむ。ルカさんの料理は初めて食べたけど、とても家庭的で安心する味だった。


 「・・・これならルークさんも安心か」

 「ん? 何か言った?」

 「いや、何も!」

 私はそんな下世話な妄想をしながらルカさんの料理を頬張った。


 


 「それじゃあね、桜」

 「はい。ルークさんも元気でいてくださいね」

 夕食を食べ、一通り談笑した後、ルークさんは帰宅した。

 

 「私は少し店の方片付けるから、2人はシャワーでも浴びてきて」

 「ありがとうございます」

 そこで私とフィーネは店の奥、居住スペースの方に戻った。



 「・・・桜さん」

 「何?」

 店から廊下に出たとき、不意にフィーネが足を止める。

 

 「少し、お話し良いですか?」

 「・・・どうしたの? そんなに改まって」

 「大事なお話です」

 「・・・?」

 さっきまで一緒に談笑していたフィーネは珍しく真剣な表情をしていた。

 少し戸惑いつつ、特に断る理由もないと私達はシャワーの前に一度寝室へと戻った。


 +++


 「本当に行っちゃうんだな、桜・・・」

 翌日、私達がルカさんのお店を出ると外には馬車、そして何も渡す物はないと言っていたルークさんだったけど、ランタンや保存食を届けてくれていた。


 「ルカさん、私はルカさんに会ったこと、忘れません。遠いカブラルという国でお姉ちゃんができたって、誇らしく思います」

 「・・・おい、なんで今更そんなこと言うんだよ・・・・・・」

 ルカさんはそう言って後を向いてしまった。


 「まったく・・・、私も忘れないから! 桜と、桐香と恵に会ったこと。絶対に」

 ルカさんは短めのポニーテールを揺らして振り返る。


 「安っぽい言葉かもしれないけど、頑張れよ!」

 ルカさんは私の前に手を伸ばす。


 「はい! 頑張ります!!」

 私はその手を取り、固く結んだ。


 「フィーネちゃんも、桜のこと頼んだよ」

 「お任せください!」

 フィーネは兵士のようにビシッと敬礼をした。


 「よし! 行ってこい!!」

 「いってきます!!」

 私達は力強く手を振る。


 最後の堕天使と闘ったら、私は日本に戻る。どんな結末を辿ってもおそらく私がここに戻ってくることはない。

 悲しくないと言ったら嘘になる。でも、確かに私はここに居た。桐香も恵もルカさんも、全て私の思い出の中にいる。


 「・・・・・・うん、大丈夫」

 私は小さく呟いた。


 あとは最後まで進むだけ。


 +++


 少し名残惜しいのと、人のいないゼクスピアなら堕天使による被害も特にないだろうと、私たちはゆっくり進み、ツヴァルスフィアに着いた頃にはアインスを出発してから3日半が経っていた。


 「・・・え!? 桜さん・・・?」

 「お久しぶりです」

 

 村の入り口に差し掛かったとき、フランカさんが馬車馬の手入れをしていた。かつて私達に奉燐天(ディストール)の情報を伝えてくれた人物だ。

 ゼクスピアに行くだけならわざわざ良い思い出のないツヴァルスフィアを通る必要はない。でも、一度通ったことがあること、そして奉燐天が拠点とし、昔はルディアス帝国の公爵家が住んでいた屋敷を目印にできることはあの森を通る上で安全だろうということで、私達は結局ツヴァルスフィアを通ることにしてた。


 「どうしてまたこの村に・・・・・・?」

 「少し通るだけです。滞在はしません」

 「通るって・・・? ここはカブラルの北端ですよ? この村を通って行く所なんて・・・」

 「ゼクスピアです。あの森を通って行かせてください」

 「え!? なんで・・・」

 「昔のあなたと同じです。フランカさんは村の仲間を助けるためにバーリングにやってきた。私も仲間を、親友を助けるためにゼクスピアに行くだけです」

 「・・・・・・」

 

 フランカさんは唖然としていた。当然だろう。常識的に考えて、過去の遺物である廃都に誰がいるというのだろうか。

 でも、フランカさんはそれ以上言及してくることはなかった。


 「それで、もし良かったらこの馬を貰ってくれませんか?」

 「え? 寧ろ良いんですか? 帰りは?」

 「帰りはいりません。ゼクスピアに行ったらもうここには戻ってきませんので」

 「は、はぁ・・・」

 この馬はルカさんから貰い(おそらく国のだろうけど)、好きにして良いと言われた。でも、帰らないことを分かっていながらゼクスピアにおいてくるのも可哀想なので、馬車に詳しいフランカさんにあげようと思っていた。


 「では」

 「あ、あの! お気を付けて・・・」

 「・・・はい」

 終始困惑してたフランカさんだったが、真っ直ぐ森に向かって歩いて行く私達に、最後はそう告げた。



 森の中は相変わらず深い霧に包まれ、数分進めば昼間であっても視界の確保が難しいくらいになった。

 前に桐香がやっていたように、同じ道を通ってしまってもすぐに気づけるように印を付けながら、ルークさんに貰ったランタンの光を頼りに歩を進める。


 1年前の記憶を頼りにゆっくり歩き、やがて時間も方向も曖昧になってきた頃に例の屋敷が姿を現した。もともと幽霊屋敷という表現がぴったりな不気味な佇まいは、カイルさんの話を聞いたせいか一層気味が悪かった。


 そこからさらに数時間、いや、正直言って時間間隔なんてとっくに無くなってきた頃、立ち込めていた霧が晴れる。

 


 視界が開けて最初に見た街の印象は、時が止まった国、だった。

 重い雲に覆われた薄暗い世界は昼か夜かも分からなくなりそうで、蔦が絡みつく廃墟はもはや瓦礫と呼ぶに相応しかった。


 「ここが、ゼクスピア・・・・・・」


 森を離れるごとに増えていく異様な光景に私は息を呑んだ。

 廃墟と言えば不良とか浮浪者がいたりするものだが、その気配すらない。ふと前方に目を向ければ小高い丘に遠目でも禍々しい雰囲気を纏う古城の存在が分かる。


 ゼクスピア城。かつてカイルさんが生まれ育ち、捨てた城。


 私から見れば、あの場所がこの世界の果てだ。


 +++


 城の壁はひびだらけで、室内でも苔や植物が生えている。かび臭く、冷たい空気が立ち込める城は紛れもなく廃墟だった。


 急に堕天使に襲われることよりも天井の崩落が心配になるほど古びた廊下を歩き、私達は一際荘厳な扉の前で足を止めた。


 「ふぅー・・・・・・」

 

 玉座の間。

 かつてルディアス帝がいた場所らしい。

 私は緊張を解くようにすぅーっと深呼吸をする。


 「桜さん」

 「・・・ん?」

 その様子を見ていた隣のフィーネが声をかけてきた。


 「何があっても私は桜さんの味方です」

 「・・・わかってるよ」

 私はその言葉に背中を押されるように扉をゆっくり引いた。



 ボロボロのステンドグラスが光を透過し、私は目を細めた。

 案の定、視界の先の玉座の前には逆行を受ける形で人影が見える。


 「・・・・・・お久しぶりですね、桜様」


 「・・・え・・・・・・」


 その人影に目を凝らそうとした私は、その声を聞いて言葉を失った。



 「・・・・・・クレア、さん・・・?」

 

 透き通るような金髪に、深く鮮やかな碧眼。ただでさえ綺麗に整った美しい顔で優しく微笑むその姿は天使を彷彿とさせる、バーリングの教会に住んでいた、死んだはずの修道女。


 見間違えるはずがない。こんな美人がこの世に2人もいるとも思えない。


 そのクレアさんが今、目の前の玉座の傍で佇んでいた。



 背に2対、巨大な漆黒の翼を携えて。  

お読み頂き、ありがとうございます。


次回は5/4投稿予定です。

お楽しみに。

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