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親友を救いに異世界に行った話  作者: 祭
統括天
62/70

失せ物

 「改めてお疲れ様でした、桜さん」

 「それ言うの今日何回目よ、フィーネ・・・」

 フュンフゲイトを出発して南東に進んでいた私達は道中の街で1泊しつつ、立ち寄ったレストランで食事を摂っていた。


 「おめでたいことは何回言ってもいいじゃないですかー」

 「まあ、いいけど・・・」

 私は少し呆れながら料理を口に運ぶ。


 「ところで、次の目的地はゼクスピアで良いんですか?」

 「ん・・・・・・」

 私はここに来る途中にフィーネにも戯縫天(シュフクトール)の最期の言葉を伝えていた。


 アルファという堕天使。戯縫天の口ぶりからして戯縫天の、いや、おそらく最初に白ローブが言っていた7翼の堕天使のリーダー的存在だろう。

 これで残り2体の堕天使の中で本当に何も分からないのは1体だけ。もしかしたらそのアルファと一緒にいるのかもしれない。


 「でも、それって誘い出されてる感じもしません? 罠とか・・・」

 「・・・そうだね」

 「それでも、行くんですか?」

 「うん。今回の戯縫天と一緒だよ。例え罠だったとしても他に手がかりがない。それに、今はゼクスピアには人が住んでないらしいから大丈夫と思うけど、あいつら放っておくと人に危害を加えるから」

 

 「なるほど・・・。では、私も全力でサポートします! 行きましょう、ゼクスピア!!」

 「あ、ちょっと待って」

 「?」

 正直言えば今すぐにでも行きたい。でもその前に私にはひとつだけやっておかなければならないことがあった。


 「方向は違うんだけど、寄り道しても良いかな?」

 「・・・私は構いませんけど、どこへ行くんですか?」

 「アインスに。話がしたい人がいるから」

 私にとってゼクスピアでの闘いはこの世界で過す最後のイベントになるかもしれない。だから、その前に・・・・・・。


 「分かりました。私ももちろん着いていきます!」

 「ありがとう」

 フィーネは快く首を縦に振ってくれた。


 明日、私達はアインスに向かう。


 +++


 ―アインス中心街

 翌日の昼過ぎに私達は予定通りアインスに到着していた。


 商店リム。と言う看板が下げられた木製の扉の前で私はしばし深呼吸をする。

 緊張でいつもより速く脈打つ鼓動を抑えながら、私はゆっくり目の前の扉を押した。


 「いらっしゃいま・・・・・・」

 「お、お久しぶりです・・・」

 棚の掃除をしていたルカさんと早々に目が合う。

 私を認識した瞬間、ルカさんの笑顔が引き攣るのが見えた。


 「桜・・・、久しぶり」

 「はい・・・・・・」

 「・・・・・・」

 「・・・・・・」


 「・・・ま、まあお互い積もる話もありますよね! 一旦座りましょう! あ、そういえば私、フュンフゲイトでお菓子を買ったんでした!」

 言葉に詰まり、互いに俯いた私達を見かねたフィーネは、私達の間に入って仲を取り持とうとしてくれた。


 「そうだね。こっちきて」

 私はルカさんに店の奥へと案内された。


 「お店は、いいんですか?」

 「この時間はあんまりお客さん来ないから。もし来たら出るよ」

 「そ、そうですか・・・」

 「・・・・・・」

 促されるまま対面に座ったけど、空気が重い。

 謝らなくちゃいけないと思ってきたわけだけど、いざ顔を合わせると何から話せば良いのか分からない。まずは天気とかの話をした方が良いだろうか、いや、やっぱり最初に謝るべき?


 どうしよう、よくよく考えてみればこんな経験、私の人生で一度もない。


 ちらりとルカさんの方に視線を向けるも、ルカさんは俯いたまま。フィーネは何か言いたげに私とルカさんを交互に見ている。

 

 ・・・とはいえ、こんなところでうじうじしていても仕方ない。

 よし、覚悟を決めよう。


 「・・・あ、あの」

 私は意を決して声を絞り出した。


 「ごめんなさい!」

 「ごめん、桜」


 「「え・・・・・・?」」


 声が重なった。


 「え・・・、ルカさん? なんで」

 「いや、桜こそ。謝るなら私の方で・・・」

 「え?」

 私はてっきりルカさんは怒っているものだと思い込んでいた。


 再び沈黙が訪れる。しかし、今度はお互いに目を合わせたままだった。


 「まあまあまあ!! お一人ずつ話していきましょう!ね? ではまずルカさんからっ」

 「え、私?」

 相当限界だったのか、フィーネは慌てたように場を仕切る。

 正直、フィーネがいてくれて助かった・・・。


 「・・・私は桜が、3人があの日突然現れたことを運命だと思ってたんだ」

 ルカさんは低い声音で話を始める。


 「最初は頼りなくて、私がなんとか守らないとって思ってたのに、最後は私の方が救われた。何も知らない子供じゃない。可愛いけど、芯の強い、いざって時は頼りになる。まるで妹ができたみたいで嬉しかったんだ。でも、全部私のエゴだった。私は3人の話を聞かなかったし、3人の気持ちなんて考えたことなかった・・・」

 「それは違います!」

 私は思わず立ち上がった。

 反射的に顔を上げたルカさんの顔には酷い隈があった。


 「・・・違わないだろ。桜だってそう言ってたじゃないか」

 「あれは・・・」

 ルカさんと最後に会ったときに交わした言葉を思い返す。


 あの時の言葉が全て嘘だったわけじゃない。考えがすれ違うことがあったのも事実だ。

 でも、あの時の私も今の私もルカさんを嫌いになったわけじゃなくて、私の真意も言葉の通りではなかった。


 「・・・あの時の私は、ただ怖かったんです。恵が私の知らないところで殺されて、桐香が私を庇って殺された」

 私は椅子に座り直し、ありのままに話そうと思った。


 「危険な旅だとは覚悟していました。文字通り命がけの闘いを強いられると、人の命はそんなに軽くはないと」

 ルカさんは静かに私の話に頷く。


 「死にそうな目には何度も遭いました。それこそアインスにいるときだって・・・。痛くて、苦しくて、辛かった。でもなんとか乗り切ってきたんです。3人ならなんとかなるって、その時はそう思っていました」

 今思い出しても寒気がする。最初に見た闘簫天(フルーテル)に対する恐怖心は今でもはっきりと記憶に焼き付いている。


 「・・・1年前、アインスを出て数週間が過ぎた頃、ツヴァルスフィアで恵は死にました。最初にそのことを桐香から聞かされたときは理解できませんでした。ついさっきまで隣を歩いていた恵がいないなんて、信じられなかった。でも、時間が経って、桐香のことをもっと深く知って、恵の最期の瞬間を見ました。・・・そして、そのすぐ後、桐香は私を庇って目の前で死にました・・・・・・」


 口に出すのも嫌だ。全身の皮膚の下を虫が這い回るような気持ち悪さを覚える。ただ、今になってもその気持ち悪さが恐怖なのか、怒りなのか、悲しみなのか、私には分からない。

 

 「私の覚悟なんて、普通の平和な田舎で育った高校生が想像できる ’危険な旅' なんてものは高が知れていたんですよ。ただただ怖かった。親友を失う喪失感も、死んだ人間から溢れた血の温度も、大切な人を目の前で奪われる絶望も。全て私の想像を遙かに超えていた。怖かった。だから私は、誰かに奪われる前に自分で捨てようとしたんです・・・・・・」

 

 気づけば私の身体は小刻みに震えていた。死に対する恐怖に無理矢理慣れようとして、1年間、私は闇ギルドで人を殺した。


 でも、慣れることはなかった。


 私は少し間を置いて、息を整えようとする。


 「確かに私は、ルカさんは私達を信用してくれなかったって、私はルカさんを頼りにしていないって、言いました」

 「うん・・・・・・」

 「あの時の私は誰かの優しさすら怖くて、誰かを好きになってしまったらまた失ったときに絶望するって、だから私はルカさんを近くから遠ざけようとしました」

 「・・・でもあの時の言葉は嘘ではないんだろ?」

 「はい・・・・・・」

 ルカさんの呟くような低い声がやけに大きく響く。


 「・・・あの言葉が全て嘘だったわけじゃありません。あの時の私は本当に一人で戦い抜くつもりでした」

 「そうか・・・・・・」

 今だって失うことは怖い。でも、また一人になるのはもっと怖い。


 「嘘じゃありません。でも、アインスでルカさんにお世話になったことも海に連れて行ってもらったことも、戦争が終わって、皆で笑い合ったことも、全部嘘じゃありません」

 「・・・?」

 ここで言わなきゃきっと後悔する。このまま日本に帰ったらもうカブラルに戻ってくることはできない。


 「ごめんなさい。私はルカさんに酷いことを言いました。たくさん傷つけました。許してもらえなくても良いです。だから、これだけ伝えさせてください」

 私は顔を上げ、ルカさんの目を見る。


 「あの日々の私の感情に嘘はありません。私は今でもルカさんのことが大好きです! これは本当に心からの、100%私の本心です・・・!」

 「桜・・・・・・」

 

 伝えた。言いたかったことは全部言った。もう後悔はない。後悔は・・・・・・。


 「馬鹿・・・、思春期かよ・・・・・・」

 俯いた私の頭は温かい物に包まれた。


 ルカさんが私を抱きしめてくれていた。


 「私こそごめんな・・・。何の力にもなれなくて、何も知ろうとしないで、ごめんな・・・・・・」

 「ルカさん・・・・・・」

 

 私はルカさんの背中を抱き寄せて、涙を流した。

 温かかった。心にずっと引っかかっていたものが取れたように、体が軽くなった。


 一緒に笑って、時々すれ違って、喧嘩して。でもやっぱり心強くて大好きな、きっと私にお姉ちゃんがいたらこんな感じなのだろうか。


 

お読み頂き、ありがとうございます。


次回は4/27投稿予定です。

お楽しみに。

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