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親友を救いに異世界に行った話  作者: 祭
統括天
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ファイナルラウンド

 ―フュンフゲイト 街外れの森

 「・・・は、はは、調子に乗るなよ・・・! こっちにはまだ3人もいるんだぞ!」

 傑作と高らかに宣言していたうちの一つが目の前で倒された戯縫天(シュフクトール)は引き攣った笑みを浮かべながら吠える。


 「もういい、殺せ!! 全員であいつを殺せ!」

 戯縫天の号令と共に残りの3体が一斉に走り出す。


 「お友達設定はどこに行ったのか・・・」

 私は呆れながら体勢を整え、もう一度刀を構える。


 相手は3体。ギルバートの教えになぞらえるなら、まず全員に触れながら走り抜けるルートを考える。その後に姿勢とどこをどう斬るか・・・。

 人形の動きが単調なだけにそこまではさほど難しくないけど、私がそれを完璧にできるか。

 そして何より、高速で飛ぶ上に一発でも致命傷の能力を持っている戯縫天を無視するわけにいかない・・・。


 「あくまで警戒はしつつ・・・」

 私は呼吸を整え、地面を蹴る。


 配置は手前からキリンの人形、ゴリラの体にゾウの頭を取って付けたような人形。そして後方に羽ライオン。

 順に、足、首、胴の切断か。


 「帝国流極剣術 ”三頭蛇(ジーベラスラング)” !」


 最速で駆けながら最小の動きで剣を振るうことで3体を同時に斬っているように魅せる剣技。

 

 「・・・しまった。1匹逃した・・・」


 キリンは足を1本失ったことでバランスを崩し、物理的に起き上がって闘うことはできない。ゾウゴリラに関しても首を撥ね、動きはするけど、足取りが覚束ない。

 だが、羽ライオンに関してはうまく斬れず、切り傷を付けた程度で留まってしまった。


 「っ・・・、やっぱり全然駄目だな」

 ライオンの動きが緩慢だっただけに反撃が来る前に体勢を立て直して距離を取ることはできたけど、やはり戯縫天に注意を払いながら付け焼き刃の剣術を完璧にこなせるほどの才能は私にはないということだ。


 「・・・ははっ! さっきのはたまたまじゃん!」

 戯縫天は息を吹き返したように高笑いをする。


 「所詮、人間は人間なんだよ! いけ! お前も行くんだよっ!」

 戯縫天の指揮によりライオンが脇腹から綿を溢れさせながら突進する、頭がなくなり、右往左往していたゾウゴリラも思い出したかのように真っ直ぐ走ってきた。案の定、視覚や聴覚はもちろん、人形にとって頭部なんてただの飾りだったのだろう。


 「はぁ・・・実戦でやり慣れてないから、ずっと集中してるといつも以上に疲れる・・・」

 私は滴る汗を拭い、束を握り直す。


 改めて戦況を見る。

 あれだけ綿を出しながら動き回っていればいずれ勝手に動けなくなりそうだけど、消耗戦はごめんだ。とはいえ、戯縫天の動きに警戒しながら2体を倒して本番を迎えるのも体力的どうか・・・。


 だったらいっそ・・・・・・。


 私はもう一度集中し、ライオンとゾウゴリラの隙を見極める。

 「またそれねー」

 戯縫天は嘲笑にも似た笑みを溢す。


 「帝国流極剣術――」

 私はもう一度瞬時にライオンとの間合いを詰める。


 しかし、刀を抜くことなく私は2体の横を通り過ぎた。


 「――なんてね」

 「・・・!?」

 

 今回の人形はどれも反応が鈍い。最速で駆け抜ければ邪魔されることなく通り過ぎることだって可能だと思った。

 私は2体を無視したまま一気に戯縫天の下まで走る。


 長期戦も、人形なんかに体力を消耗し続けるのも都合が悪い。

 だったら、人形は無視して先に戯縫天と決着を付ける。戯縫天は人形を使って止めようとするだろうけど、もう遅い。集中すべきは戯縫天だけ。人形は勝手に暴れ回ってくれれば自壊する、はず。


 私は半ば強引な理論で戯縫天に迫る。


 「ちょっ・・・、何考えてんの!?」

 「あんたにはわかんないよ。だって、あんたは人間じゃない・・・!」

 咄嗟に腕を顔の前に出し、防御姿勢を取った戯縫天を斬らずに地面に叩き付ける。

 一歩間違えれば詰む可能性のある戯縫天を相手に未熟な剣術で守りを捨てるのは流石に愚策だろう。


 私は地面に落ちた戯縫天にすかさず斬り込む。


 「・・・おい! 早く捕まえろよ、ノロマ!」

 「させない・・・!」

 「待って・・・・・・」

 私は背後に人形の気配を感じながらも照準を戯縫天から逸らさなかった。


 戯縫天は人形の援護が間に合わないと思ったのか咄嗟に例の裁縫針を構える。


 「待て! これが分かるでしょ!? 僕はこれで君の友達、桐香お姉ちゃんと恵お姉ちゃんを殺した!恐いでしょ!?」

 「あぁ・・・、それを壊せばあんたは消えてくれるんでしょ?」

 「ひっ・・・」

 もう戯縫天の表情に余裕はない。


 私は本気でその裁縫針ごと斬り裂くつもりで刀を振った。

 

 「や、やめろっ!」

 戯縫天は左腕を捨てて針を守る。


 背後の人形は私を掴み損ねて前屈みに躓いた。


 「逃がさない!」

 腕くらいすぐに再生することは分かっている。

 私は飛んで逃げようとする戯縫天に対して刀を振る腕の止めなかった。


 「待っ、やめ、やめて!!」

 「やめない、あんただけは絶対に許さないっ!」

 「・・・くそっ、話が違う・・・・・・!」

 それでもギリギリ致命傷を避けるからボロボロになっていても急所に当たらない。


 でも1年前のバーリングとは違う、周辺に人形を隠しておけるような構造物はなく、戯縫天に反撃する気配はない。おそらく隙を見て逃げることしか考えていない。


 「っ何してんだよ! 早く来い! もういいだろっ!!」

 「今更あんな壊れた人形に何ができるって言うの・・・!」

 戯縫天は空に向かって必死に叫ぶ。

 武器が心臓という最大の弱点がここにきて恐ろしくなったのかもしれない。


 油断はしない。最後まで、集中して・・・・・・。



 「・・・お姉さん・・・・・・?」



 「・・・!」

 「!? ミモザちゃん!?」


 森の茂みの中、街の方角からか細い声が聞こえた。


 視線の先にいたのは泊めてくれた宿屋の亭主の娘、ミモザちゃんだった。


 「・・・・・・は、ははっ、ははははははは!」

 「あ・・・、まずい!」

 私の集中が一瞬途切れた。


 その一瞬を戯縫天は逃さなかった。


 「はははははははははは!!! まだ天は僕の味方みたいだねぇ!!!」

 「っやめろ!!」

 傷だらけで、修復も間に合っていないような体で、戯縫天は小さな翼をはためかせる。


 気付けば戯縫天はミモザちゃんの頭上にいた。

 

 「僕の下僕になれぇぇぇぇぇ!!!!」

 

 太陽の光を反射して、異様な気配を纏う針が白く光る。


 ここから踏み込んでいったんじゃ間に合わない・・・! 

 また一人、目の前で死ぬ・・・・・・。


 桐香と恵の顔が脳裏に浮かぶ。



 「あるだろ・・・、ひとつだけ」



 できるかできないかじゃない。もう誰も失いたくない。失わないための1年間だった。

 「力を貸して・・・」

 私はその場で、可能な限りの意識を切っ先に集中させる。


 勝負は一瞬。死はすぐそこにある・・・・・・!



 「・・・”天墜”!!!」 



 「・・・・・・!?」


 刃はその場で空を斬った。

 だが、同時に数m先の戯縫天の胴体が斜めに斬り裂かれる。


 針先はミモザちゃんに触れることなく地面に転がった。


 「・・・ぅああ!」

 真っ二つの断片と化した戯縫天は言葉にならない叫び声を発する。


 再生しきらず、唯一残った右腕一本で針に手を伸ばす戯縫天の背中を踏みつけ、私は針めがけて刀を振りかぶった。


 「やめろ・・・、やめろおおおおおおおおお!!!!!」

 

 たくさん奪われた。桐香も恵もクレアさんもバーリングも。



 ・・・でも、それもここで終わりだ。



 「私の勝ちだ! 戯縫天っっ!!」

 「ああぁぁぁぁぁぁあぁぁ・・・・・・」

 刀に触れた針はぐしゃりと形を歪めて砕ける。


 「・・・・・・は、はは。」

 「・・・何?」

 末端から朽ちていく中で、戯縫天は不気味に笑った。


 「あめでとう。僕の負けだ。でもねぇ、これで終わったわけじゃない」

 戯縫天はこれまでとは違う低い声で告げる。


 「絶対に許さないよ、君達。・・・これは統括天(アルファ)からの伝言――」

 戯縫天は今際の際でぐしゃりと笑う。


 「『ゼクスピアで待っている。』」


 戯縫天は僅かに残った頭でそう言い残すと、直後に黒く、遺灰のような砂へと変わり果て、風に攫われた。


 かくして桐香と恵の命を奪った戯縫天はこの世界から消えた。



 「お姉さ・・・」

 「ごめん。・・・友達を助けられなくて、ごめん」

 「・・・?」

 私はすぐ近くできょとんとしていたミモザちゃんを抱きしめた。


 最初は何故こんな所にいるのか聞きたかったし、目的は何であれ一人で街外れの森の中まで来たことを叱りたかった。亭主さんと女将さんが今どれほど心配しているだろうか。私が言うべきだった。


 でも、口から溢れた言葉は後悔と謝罪だった。


 私1人になった時からどうしようもないことは考えないようにしていた。死んでしまった人は戻らないし、失った物は帰ってこない。だから、もう救えない人のことを考えるよりも、今生きている人を助けようと考えてきた。


 だけど、ミモザちゃんの顔を見たときに私は今ここに居る子供の心を救うことができなかったような気がして悔しかった。情けなかった。


 戯縫天と闘っているときに桐香と恵のことを思い出していた。


 結局、命は守れても心には傷が残ってしまうのだ。


 「・・・ごめんね。帰ろうか・・・・・・」

 「うん・・・」

 ミモザちゃんは何も言わなかった。

 何も分からなかったのかもしれないけど、何かを察したのかも知れない。


 私はミモザちゃんを抱えて街に戻った。


 +++


 ―フュンフゲイトの宿屋

 「ミモザ!? どこに行ってたんだ、心配したんだぞ!」

 「・・・ごめんなさい」

 亭主さんは玄関先でミモザちゃんを抱きかかえた。

 口調こそ荒いけれど、その表情は心底安心したように笑っている。


 「君が連れてきてくれたのかい? ありがとう!」

 「まあ・・・、はい」

 私は少しばつが悪くて視線を逸らした。


 「ああ、そうだ。一応子供が失踪してた一連の事件の元凶はいなくなりました。実感はないかもしれませんけど、もうミモザちゃんも外で遊んで大丈夫だと思います」

 「本当か!? 流石カイルさんのところの子だ。何から何までありがとう!」

 「いえ・・・、でもやっぱり、もう攫われた子供達は手遅れでした。ミモザちゃんの友達も・・・助けることができませんでした。すいません」

 「そうか・・・。だがそれは君が謝ることじゃない。そんなボロボロになるまで頑張ってくれたんだろ?」

 亭主さんは私の汚れた服や乱れた髪を見て気を遣ってくれた。


 「今日はうちでゆっくり休みなさい。食事時にまた呼びに行くから」

 「・・・ありがとうございます」

 私は歯を見せて微笑む亭主さんの横を通り、昨日泊まった部屋へと戻った。


 

 「あ、おかえりなさい! 桜さん!」

 「フィーネ、ただい、ま・・・・・・」

 部屋の扉を開けるといつもの柔らかい笑みでフィーネは出迎えてくれた。

 ただ、どんな顔して待っているかと思えば、フィーネはお茶とお菓子を食べながら意外にもくつろいでいた。


 「は! ごめんなさいっ、私ばっかり、桜さんが大変なときに・・・」

 「いやいや、それでいいよ。むしろちょっと和んだ」

 少しだけ、自然に口角が上がった。戯縫天を倒した事実とは裏腹に、子供達を救えなかったことを憂いて沈んでいた感情が和らいだような気がした。


 「ところで、堕天使はどうなったんですか?」

 「見立て通り、桐香と恵を殺した奴だった。でもなんとか仇はとれたよ」

 「すごい! 流石桜さん!!」

 フィーネは大袈裟に手を叩いて喜んでいた。


 「それで、次は・・・」

 「ごめん。今日は休ませて」

 「・・・そうですよね。すいません」

 私は考えることが多かっただけでなく、単純に戯縫天との闘いの中で神経を減らしすぎたせいかいつも以上に眠かった。


 +++

 

 翌日、私達は荷物をまとめて玄関に出た。

 亭主さんと女将さんも見送りに来てくれて、その後にはミモザちゃんもいた。


 「もう帰るのかい? もっとゆっくりしていけば良いのに」

 「いえ、次に行くところもありますので」

 「そうか」

 靴紐を結び、立ち上がろうとする。だけど、私は誰かに背中を引っ張られた。


 振り返ってみるとミモザちゃんが俯きながら小さな手で私の服を押さえていた。


 「・・・どうしたの?」

 私はなるべく優しい声色を意識する。


 「あ、あの・・・、ごめんなさい」

 「あぁ・・・、怒ってないよ。ミモザちゃんが無事でよかった」

 おそらく勝手に私を追ってきたこと、抱えられて帰ってきたことを亭主さんか女将さんに怒られたのだろう。私はそっと柔らかい髪を撫でた。


 「うぅん。ちがうの。いじわるなこと言って、ごめんなさい」

 「え?」

 私は予想外の言葉に思わず亭主さんの顔を見上げた。


 「一昨日から酷いこと言っちまったって後悔してるみたいなんだよ。昨日あんたを追いかけていったのも謝りたかったからだってな」

 「え・・・・・・」

 私は後頭部を掻きながら話す亭主さんから、再びミモザちゃんに視線を戻す。


 「あの、助けてくれて・・・、ありがとう!」

 「これ・・・・・・」

 ミモザちゃんの小さな手には旅館の受付の隣に置いてあるお土産用であろう小さな造形品があった。だがそれは他の物よりも歪で、不格好で、温かかった。


 「ミモザちゃん・・・、ありがとう・・・!」

 私はもう一度ミモザちゃんの頭を撫でた。


 「案外、子供ってのは大人より人の気持ちに敏感なのかもな。ははっ!」

 亭主さんはそう言ってまた笑った。


 真理がどこにあるかは分からない。でも、心を救えなかったなんて、そんなことすら自分の中のエゴだったのかもしれない。


 「なあ、嬢ちゃん。あんたは俺らには理解できないような事情があんのかもしれないけど、あんま考え過ぎんなよ。時には気楽にいけ!」

 亭主さんはトンっと私の背中を叩く。


 「・・・はい。そうですね」

 昔何かのテレビで見た悪魔払いじゃないけど、それだけでなんだか気持ちが軽くなった気がした。すごく単純な言葉。でも、そんな言葉の中にこそ真理というものはあるのかもしれない。


 「では、改めてお世話になりました」

 「おう! 元気でな!」

 「ばいばい!」

 私達は手を振る。


 ミモザちゃんからの贈り物を胸にフュンフゲイトを後にした。


お読み頂き、ありがとうございます。


今更ですが、Xのアカウント作りました。もしよろしければフォローお願いいたします。

こちら→ https://x.com/suy_maturi


次回は4/20投稿予定です。お楽しみに。

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