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親友を救いに異世界に行った話  作者: 祭
闘簫天
6/70

戦場の首都

 バーリングでの事件から2日後の朝、私たちはいつもより早く起きて首都に向かう準備をしていた。と言っても食糧や移動手段はほとんどカイルさんが用意してくれていて、私たちは着替えてルートの確認をしているだけだった。

 「みなさん、こちらお弁当でございます。」

 ドアをノックして扉を開けたクレアさんは私たち3人分のお弁当を作ってきてくれた。

 「ありがとうございます。わ! こんなにお肉もらっちゃって良いんですか?」

 お弁当はいつも私たちが草原に行くときと同じようなサンドイッチとフルーツだったが、いつもより量が多く、特に貴重なお肉が2倍増しくらいになっていた。

 「はい、皆さんのためならばと町民の皆さんの総意でございます。ぜひお受け取りください。」

 「はい! 皆さんの気持ち決して無駄にはしません!」

 「ええ。ですがくれぐれも無理はなさらないように。健闘お祈りします。」

 私たちはクレアさんから3人分のお弁当が入ったバスケットを受け取り、部屋を出た。教会の一階にはカイルさんだけでなく町民の人たちも何人か集まってくれていた。

 教会の外には馬車とシルクハットを被った男の人が立っている。

 「こちらが皆様を首都まで送迎していただく御者のリッジさんです。」

 「リッジ=クリスキーと申します。よろしくお願いします。」

 「あ、よろしくお願いします。」

 1つの部屋のような大きな荷車の着いた馬車(馬と言っても日本の馬よりもがっちりしててどちらかと言えば牛に近い)の傍らでリッジさんはゆっくりと頭を下げた。リッジさんはいかにも真面目そうな感じでビシッと姿勢を正して挨拶した。

 「それと、こちらを。」

 「…? 巻物?」

 カイルさんは私たちに巻物状に巻かれ、革製のひもでまとめられた紙をくれた。

 「首都に行ったらまず中央監獄に行くのがいいでしょう。あそこなら中立の立場を取っているはずですし、衛兵もたくさんいるので安全です。そこに行ったらこれを見せていただければ融通を利かせてくれると思います。あと、不備はないかと思いますが、よろしいでしょうか?」

 「はい! 何から何までありがとうございます。」

 カイルさん達に首都に行くと言ったのは昨日のことだったのに完璧すぎるほど準備を整えてくれた。

 「頼みましたよ! 天使様!」

 「頑張れよー!」

 集まってくれた人たちは私たちに手を振り、応援してくれた。

 「任せてください! 必ず成果を上げて見せます!」

 まだ私たちに何ができるのかわからないけど、みんなの応援が嬉しくて、つい強気なことを言ってしまった。

 「では、お気を付けて。」

 「行ってきます!」

 私たちは馬車に乗り、カイルさんや町の人に見送られながらバーリングを出発した。


+++


 バーリングから首都のアインスまでは街道が引かれていて、馬車で1日くらいかかるらしい。町を出るとしばらくは畑やその農家の人の家がまばらに見える平原が続き、数時間進むと背の高い木が多くなり、やがて森に入る。森の中には見たことない花や木々がたくさんあり幻想的で戦争のことなど一瞬忘れてしまいそうな光景だった。段々と道幅が狭くなり、途中で大きな川にかかった橋を渡る。この川が地図に書いてあったバーリングとアインスの境界の川なのだろう。対岸に渡って、またしばらく進むと視界が開け、遠くに大きな街が見えた。あれがアインスの中心地なのだとリッジさんから教えてもらった。

 

 アインスの東部の街に入った頃には日が暮れていた。東部は民家が多く、特に傷ついた様子はなかったが、出歩く人は一人もおらず、ほとんどの建物はカーテンが閉まっていて、中に人がいるかどうかはわからなかった。

 「誰もいないのね…。」

 「いえ、東部は西部から中央部で暮らしていた人たちの避難場所になっていて、人は多いはず出ず。ただ、間近で戦争を経験した人がほとんどなので、警戒しているのでしょう。」

 比較的安全な東部でも、なんとなく物々しい雰囲気が漂っていた。もう少し街の中まで進むとカーテンの隙間からこちらを怪訝そうに覗く人がちらほら見えた。

 「あ、人いるよ。でもなんかすっごく怯えてる。」

 「普段人なんて通らないでしょうから、私たちに警戒しているのでしょう。あまり見ない方が良いかもしれません。」

 これまでの話から、ここの避難先の街を通る馬車なんて軍の応援か物資を届けに来る兵隊くらいだろう。どう見てもどちらにも当てはまらない私たちを警戒するのは当然だ。私たちは馬車の窓を閉め、中に座った。


 「一応確認なんだけど…」

 馬車の中で桐香がメモ帳のようなものを取り出して言った。

 「この国の戦争の主戦力って何だと思う?」

 「主戦力?」

 「まあ、なんて言うか、銃とか大砲とか、この戦争で一番警戒しないといけない武器みたいなの。それがわかったらこの戦争の規模とか避けなくちゃいけないこととかある程度わかるかなって。」

 「あ~、それは考えてなかった。飛行機みたいなのは見たことないし、やっぱり大砲とか銃とかになるんじゃない?」

 「魔法とかは?」

 「魔法はないと思う。こないだバーリングの図書館で調べてみたんだけど、魔法に関する本はないんだよ。それっぽいのは小説とか神話とかで現実的なやつじゃなかった。」

 桐香は図書館で書いたであろうメモ書きを見せてくれた。

 「そうなんだ、異世界なのに…」

 「それと、調べた限り私たちが知ってる銃とかもなかった。」

 「そういえば、内乱のきっかけになった事件も火矢で襲撃したって言ってたね。それにこないだのバーリングを襲った兵士も火矢だったし。」

 「確かに。猟銃でもあったらウルサスとかも狩れそうだものね。」

 「そう。この国は電気とかのインフラは結構進んでるんだけど、火器はあんまり発展してない。だから多分この戦争も主力は剣か火矢なんだろうね。」

 「でも、それだったらここまで規模広がる?」

 「うん。あと剣と火矢ほど数は多くないだろうけど…」

 桐香はメモ帳をめくり、瓶の中に液体と石のようなものが入った図を指さした。

 「この黄化石っていう石があって、黄リンみたいに空気に触れると激しく発火するらしいんだよ。」

 「あ、あーなるほどオウリンね。」

 「桜、わかんないなら素直に言っていいよ。」

 「うー…、聞いたことはあるけど何だかは覚えてません…。」

 「まあ、要は甁ごと投げて割れたら爆発する爆弾みたいなやつ。普段は水に漬けとくらしいんだけど、特定の酒に入れておくと密度が大きくなって爆発の規模が大きくなるんだって。普段はカブラル国軍の武器庫に保管されてるらしいけど。」

 「じゃあ、軍が使わない限りは関係ないんじゃ…」

 「いや、もし内乱のゴタゴタの中で軍から盗まれてたとしたら、反乱する側が持っていてもおかしくない。」

 銃とかがないのは助かるけど、そんな危ないものがあるんじゃ安心はできない。何か対策を考えようと言いかけたとき、馬車が止まった。

 「…大変申し訳ないのですが、ここから先は内乱の戦火が届く区域になります。正直私はこれ以上進む勇気がありません。どうかここまでと言うことにしていただけないでしょうか。」

 リッジさんは申し訳なさそうに私たちに頭を下げたけど、戦地に行くのが怖いのは当たり前のことで、むしろここまで連れてきてくれたことに感謝したいくらいだった。

 「大丈夫ですよ! 身の安全が一番大事ですから、ここまでありがとうございました。」

 私たちは中の荷物とランタンを取り出し、リッジさんを見送った。

 リッジさんと別れてから中央部の近くまで歩いてくると、目に入る建物は看板や窓が割れていて、戦争の跡が生々しく残っていた。人が住んでいる気配はなく、半ばゴーストタウンのようになっている。

 「この看板、レストランだったのかな…」

 それぞれの建物の玄関には、その店を表す絵の描かれた鉄製の看板が吊り下げられていた。多くの店が軒を連ね、普段ならたくさんの人で賑わっているだろうその通りは、今日は人一人おらず、真っ暗だった。

 「ここから中央監獄までは…次の角を曲がって、時計塔の方に行くのかな?」

 桐香は地図を見ながら道を確認していた。私たちのとりあえずの目的地はカイルさんが言っていた中央監獄で、あわよくばそこで他に捕まっている人の話が聞けたらと思っていた。

 「それにしても静かね。戦争していると聞いていたからもっと騒がしいのかと思っていたよ。」

 「確かに妙に静が過ぎるような…」

 街は耳が痛いほどに静まりかえっていた。そんな話をしていた矢先、すぐ近くで突然ドンッと言う爆発音がした。

 「え!? 何の音!?」

 音がした方を見てみると、建物が燃えて黒い煙が上がっている。おそらく桐香が話していた黄化石っていう爆弾が使われたのだろう。

 「恵と桜がフラグ立てるから! とにかく一旦ここを離れよう!」

 「う、うん!」

 「待った。」

 桐香の合図で走り出そうとしたとき、私たちは誰かに裏路地の方に引っ張り込まれた。

 「あなたたちこんなところで何してるの!?」

 放り投げられるように路地に引っ張られ、私たちは尻餅をつくように倒れた。私たちの目の前にいたのは少し年上の眼鏡をかけたポニーテールのお姉さんだった。

 「どこから来たのか知らないけど、ここが戦地だってことわかってる?」

 お姉さんは語気を強めて私たちに詰め寄った。私があまりの迫力にたじろいでいると桐香が答えた。

 「私たちはバーリングからこの内乱の真相を探りに来たんです。」

 「真相? あなたたちが? 冗談でしょ?」

 お姉さんは私たちを信用していないように鼻で笑った。まあ、どうみても私たちがそんな重要な役割を担っているとは見えないだろうから仕方がないのだけれど。

 「にしてもバーリングか…少し遠いな。とにかく私に着いてきて。」

 お姉さんは裏路地をさらに奥まで進んでいった。私たちはその後ろをついていった。裏路地は奥に進むほど道が狭くなり、迷路のようになっていたけど、お姉さんは一切迷うことなく進んでいった。

 「あの…、お姉さんはここで何してるんですか?」

 歩きながら私はお姉さんに質問した。お姉さんは私たちが戦地にいることに驚いていたけど、私たちからしても大学生くらいの歳の人がここに居るのも驚きだった。

 「ルカでいいよ。私はこの街で内乱の仲裁を目的にしてる組織を指揮してる。」

 ルカさんは歩きながら振り返らないで答えた。

 「戦争の仲裁!? それにその組織を指揮って、リーダーってことですか!?」

 「一応ね。まあ、組織と言っても有志の民間の集まりだし、そんなに大きな組織じゃないけどね。」

 謙遜するようにルカさんは言ったけど、この歳で戦争の仲裁だなんてすごい。ましてやそのリーダーなんて、私たちは初っ端からとんでもない人に出会ってしまったようだ。

 「着いた。ここが私の家兼、組織の拠点だよ。」

 路地を抜ると、目の前に他の建物よりも少し大きい平屋の建物があり、看板には『商店リム』と掲げられている。中に入ると組織の人と思われる人が何人かいて、私たちは地下の方に誘導された。地下には3つくらい部屋があって、そのうちの一つの一番大きな部屋に私たちは案内された。

 「はい。これくらいしかないけど、飲んで。」

 ルカさんは私たちを椅子に座らせ、お茶を持ってきてくれた。

 「ありがとうございます。あの…ルカさん、『商店リム』って……」

 「あー、さすがに知ってるよね。そうだよ。私はこの内乱の引き金になった事件を起こしたカール=リムの娘だよ。」

 カイルさんから聞いた話では、内乱が勃発する発端となった西部での襲撃事件で捕まった人が商人をしているリムという人という話だったので、もしかしてと思った。

 「でも、ここってまだ東部と中央部の間くらいですよね。事件が起きたのって西部だったんじゃ…」

 「あの日、私とお父さん西部に出張に行ってたんだ。ある資産家の人が私たちの商品に興味を持ってくれて、その屋敷で商談があったんだよ。それでその夜は西部地区の宿屋にいた。私がその事件を知ったのはその翌朝だよ。」

 「それじゃあ、ルカさんはリムさんがなんでその人を襲ったかわからないんですか?」

 「一応、商談は失敗してるんだ。でも、そんなこと日常茶飯事で、お父さんが一番それをわかっていたはずだ。何よりその日私たちは武器なんて持っていなかった。あの日以来、私はお父さんに会えていないけど、何かの間違いだって信じてる。」

 ルカさんは思いを語るように感情的に話してくれた。

 「そうだったんですね…。」

 「はは、ごめんね暗い話して。君たちは私たちがバーリングまで送り届けるから。」

 ルカさんはまだ私たちを信じていないようで、笑いながら地図を広げようとしていた。

 「いや、本当に私たちは目的があって来たんですよ! 証拠にここにカイルさんが書いてくれた文書があるんです!」

 私はルカさんの前に、出発前にカイルさんから受け取った巻物を出した。

 「え…、バーリングでカイルさんって、マルティアス司教のこと?」

 カイルさんの名前を聞いたルカさんは目を丸くして、文書を広げた。

 「え? はい。教会のカイル=マルティアスさんですけど。」

 「うそ!? 本物!? じゃあ、あなたたち本当にバーリングから派遣されてきたんだ…。」

 やっと信じてくれたようだけど、反応が思っていたのと違った。

 「え、カイルさんってもしかして有名な人?」

 私は驚き、3人で顔を見合わせた。

 「そりゃ、カブラルで生まれ育った人なら多分全員知ってるよ。あの人、本当なら首都で豪華な生活してても許される人なんだよ。」

 「そんなに!? 何があったんですか、あの人。」

 「ざっくり言うと、昔この国を危機から救ってるって言うか、あと本業は礼拝とか説教とかなんだけど、国の議会に呼ばれたり、国民の話とか聞いてたり、とにかく何でもできる人なんだよ。」

 「国を救うって、相当じゃないですか!」

 「そうそう。それくらいの人なんだけど、本人は自分だけ贅沢するわけにも行かないからって、地方の教会で暮らしてるらしい。」

 「え、えー…」

 私たちがバーリングに来てから初めて会ったのがカイルさんだったし、終始物腰が低くて、オーラがあまりない人なので、そんなすごい人だとは思わなかった。

 「マルティアス司教のことは一旦置いといて。そうなると、私たちが君たちのサポートしないといけないね。」

 「本当ですか!? でも、忙しいんじゃ…」

 「大丈夫、大丈夫。それに君たちだけで行かせたら道中で死んじゃいそうだし。」

 笑いながらルカさんは冗談で言ったんだろうけど、さすがにこの状況じゃ笑えない…

 「じゃあ、お言葉に甘えて。よろしくお願いします。」

 こうして私たちはしばらくルカさんの家に泊まらせてもらえることになった。


+++


 「やあ! 僕は平和騎士団の副リーダーのルークだよ! よろしく!」

 「……。」

 翌朝、中央監獄に行くためにルカさんの家を出ると私たちと同じくらいの歳の男の子が待っていた。明るくよくわからない自己紹介をしたこの人は中央監獄まで案内してくれる、仲裁組織の人だった。

 「実は今日、君たちを中央監獄まで護衛するようにルカから頼まれたんだ!」

 「…いや、知ってますけど。この組織って平和騎士団なんて名前だったんですか?」

 「違うよ。今僕が考えた。」

 「……この人、ほんとに大丈夫?」

 確か副団長と聞いていたので、ルカさんのような頼りがいのある大人かと勝手に思っていたけど、なんというか、こんな軽い感じの人だとは思わなかった。

 「でも、明るいことは悪くないんじゃない?」

 一方で恵ははやくもルークさんと打ち解けたようで、似たようなテンションで話している。

 「なんか、恵が増えたみたいだな…」

 桐香は後ろから冷たい視線を送っていた。

 

 気を取り直して私たちは中央監獄へと向かった。道中ではルークさんがもともとこの店の料理がおいしいとか意外にもちゃんとしたガイドをしてくれていた。

 「ところで、仲裁ってどうやってやるんですか?」

 「一番の目的は市民の人から署名を集めることだよ。」

 「署名?」

 「この戦争は大きくわけて反乱軍とそれを止める国軍の衝突で起きてるんだけど、反乱軍って組織じゃなくて武装した一人ひとりの市民で構成されてて、リーダーがいるわけじゃないから要求もバラバラで何か条約的なもので収めることが難しい。だから市民側に闘う意志がないことの証明として武器を持たないというサインをさせる。その代わりに国軍側にアインスから武器の3分の2を取り去るっていう誓約を誓わせる。って言うのが僕らの最終的な目的だよ。」

 「すごいですね。でもそれって結構難しいんじゃないですか?」

 「まぁねー、でも、ルカは『戦争を仲裁するなんて夢物語、理想を押しつけでもしないと達成できない』ってね。」

 「なるほど。ルカさんらしいですね。」

 「そうだよねー。」

 ルークさんと話していると四方が塀に囲まれた大きな建物が見えてきた。

 「あれが中央監獄だよ。それじゃあ、また夕方戻ってくるから」

 「ありがとうございます。では。」

 しばしの別れを告げて私たちは中央監獄の門の方へと向かった。


 鉄製の門の前には門番らしき、鎧を着た衛兵が2人立っていた。

 「私たち、反乱を起こした人たちの話が聞きたくてバーリングから着たんですけど。」

 私たちはカイルさんからもらった文書を門番の人に渡すと少し待つように言われた。

 「あの人、本当に副団長なんだろうか。」

 「まあ、明るいのは悪いことじゃないし、意外と中身は普通だったじゃん。」

 少しの間、門の前で話していると、金属の門が開き、背の高い青白い顔をした男の人が現れた。

 「どうも。長官のレアンドロです。マルティアス司教の文書は見せてもらいました。こちらへ。」

 レアンドロさんは低い声で淡々と話した。

 「大体状況は把握しました。どうぞこちらへ。」

 レアンドロさんに案内されるまま私たちは施設内に入った。施設の中は日本の市役所のような感じで、思っていた刑務所のような感じではなかった。中は開けていて受付や食堂のようなものも見える。

 「罪人とかってどこにいるんですか? てっきり牢屋がいっぱいある感じかと思ってました。」

 「もちろんいますよ。ただし、地上部は局員が仕事をする場所で、罪人が収容されている牢獄は全て地下にあります。」

 「ああ、じゃあ今から地下に行くんですね。」

 「いえ、いくらマルティアス司教の頼みといえ、あなた方を簡単に罪人とあわせることはできません。あなた方に見ていただくのはあくまで罪人の聴取記録です。」

 「いや、直接話を聞きたいんだけど。今回の件はだいぶ複雑みたいですし。」

 「そうはいきません。私もあなた方を完全に信頼してるわけではありません。まして、反乱軍の仲間である可能性も捨てきれていないので。」

 「は? 疑ってんの? カイルさんからもらった文書もちゃんと見せたんだけど。」

 レアンドロさんの話を聞いていた桐香がキレ気味に返して、恵が後ろからまあまあとなだめていた。

 「疑っているわけではありません。規則です。」

 「こいつ…」

 それから一切の会話がなくなり、気まずくなりながらも、目的の部屋に着いた。白いレンガで囲われた無機質な小さな部屋には古びた木製の本棚がいくつも並んでおり、その中には紙の束が整然と並べられていた。レアンドロさんはその中の一つを取り出し、私たちに差し出した。

 「こちらが今回の件の聴取の内容です。」

 ぱっと見200枚ほどの紙が束ねられた資料には1枚1枚びっしりと文字が書かれていた。

 「そちらの机を自由に使ってください。では私は仕事に戻りますので。」

 「説明ってそれだけ…」

 桐香が言い終える前にレアンドロさんは扉を閉め、部屋を出て行った。

 「…何なんだよあの人。私たちが子供だからって適当に扱いやがって。」

 「ま、まあそんなに起らなくても。色々疲れてるのかも知れないよ?」

 レアンドロさんに対する苛立ちが募っている様子の桐香は扉を睨みながらそんなことを言っていた。

 「ほら、とりあえずここに来た目的果たそうよ。」

 私と恵は桐香の手を引いて机に座った。

 束ねられた資料には1枚ごとに捕らえられた人の情報が書かれていて、国家転覆未遂や殺人罪、窃盗罪など罪状が名前の脇に記されていた。他に年齢や職業などのプロフィールがざっと書かれていて、その下は状況や動機、共謀者など文章で事件の詳細が書かれていた。

 「私たちが必要なのってやっぱり動機だよね。」

 ここに来た最大の目的はこの事件に例の堕天使というものが関わっているかどうかを確かめることで、一番知りたいのは反乱を起こす動機があるのかどうかだった。要は悪魔にささやかれたみたいなことかどうかと言うことだ。

 

 「ここら辺ははっきりした動機がなさそうだね。」

 しばらく分担で紙を読み、気になったところが合ったら3人で話し合うという作業を続け、昼過ぎには30枚くらいは読み終えていた。

 「鍛治屋、罪状は兵士2人を殺害。武器は50cmほどの剣で、動機は腹が立ったからだって。しかも単独で通りすがりの兵士を襲ったって、突発的すぎない?

 「こっちもよ。兵士宿舎に火矢で放火。動機不明。」

 私たちはそれぞれ気になった人をピックアップしていった。

 「動機がない人が一定数いるね。」

 「やっぱり、動機がないのに人を襲うっておかしいよ。っていうか反乱してなにが目的なんだろう?」

 「う~ん、見た感じ体制に不満があるとか、そういうのが一切出てこないのが奇妙だよね。」

 「それと、ここの人たち、変な音を聞いたって。」

 桐香は8枚の資料をまとめて私たちも前に出した。

 「遠くで妙な音を聞いた。角笛のような低い音、聞いたこともないような音…、これってバーリングの人と同じじゃん!」

 「もしかして、本当に堕天使が関わってるんじゃ…」

 「これだけで断定はできないけど、変なのは確かだね。」

 動機がない人の中には、バーリングを襲った兵士と同じく奇妙な音を聞いたと話している人がいた。もしかしたらこの音が戦争の引き金になっているのではないかと言う話をしているときに部屋の扉が開いた。

 「お連れ様が門前でお待ちです。」

 扉を開けたレアンドロさんはその一言だけを残して去って行った。お連れ様というのは迎えに来たルークさんなのだろう。

 「もうこんな時間になったの!?」

 「あ~、なんか気づいたら急に疲れてきた~。」

 気づけば時間を忘れて1日中作業をしていた。

 部屋を出て建物を出るとルークさんが待っていてくれた。

 「お帰りみんな! 疲れてるみたいだね。」

 「1日集中して作業してましたからね。ていうかルークさん普通にここ来て大丈夫なの?」

 「まあ、ここの人たちとは利害が一致してるからね。それにここちゃんと申請すれば一般人も入れるからね。」

 「へぇ、なるほど。」

 どうやらルカさんの仲裁組織は正確に国軍の仲間というわけではないけど、有志の義勇軍みたいな立ち位置になってるらしい。

 私達はアインスでの最初の仕事を終えて、ルカさんの家に戻った。



お読みいただきありがとうございます。

第一章もう少し続きますので、続きも読んでいただけると嬉しいです。

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