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親友を救いに異世界に行った話  作者: 祭
鑑蟲天
52/70

正義

 ―’マルファス’の城内

 「・・・・・・まずいですね。流石にやられました。」

 屋上から侵入した私達は幹部の1人、馬面の山賊を追っている過程で炎ともう1人の幹部の眼帯に挟み撃ちをされていた。


 「とにかく目の前の敵をなんとかするべきだ・・・。班長! ここは我々で行きましょう、サクラは後からの矢をなんとか・・・。」

 「眼帯は任せますね。」

 「・・・は?」

 私はそう言って炎の中に踏み出した。


 こんな痛みも熱さも苦しみではない。どうせ火傷を負おうが怪我しようが生きてさえいればすぐ治る。この体はそうなってもいいように改造された体なのだから。


 「サクラさん!? 何してるんですか!」

 「そうだ、無茶だ! ここで怪我人を増やしたところで利はないぞ!」

 「大丈夫です。だから黙って眼帯をなんとかしてください。」

 「おい! 馬鹿・・・!」

 私は班長とネルランの制止を無視して炎の中に飛び込んだ。


 「!?」


 これにはここまで無表情だった馬面も流石に驚いたようだ。

 足から伝わる熱さはやがてビリビリとした痛みに変わり、徐々に全身に伝播していく。段々と皮膚の感覚は消え。地面に足を着くだけで激痛が走る。


 だが、それも一時的な苦痛に過ぎない。


 私は炎の中を駆けながら剣を抜き、容赦なく射られる矢を防ぐ。馬面も連射を試みるが、ゆらゆらと揺れる炎の中の私を正確に捉えることはできていないようだ。


 僅か数秒、私は炎の中を抜け、馬面に肉迫していた。


 「っ・・・! そんな!」

 「まず1人。」

 

 私は衣服に引火した炎を置き去りにするように最速で馬面を斬り伏せた。


 「はぁ・・・、まだうまくいかないな。」

 「・・・すごい。流石です、サクラさん! あとはこちらでなんとかしますので、サクラさんは戻れるルートを探してください!」

 炎の対岸で、まだ眼帯と対峙している班長は背中を向けたまま私にそう指示を飛ばした。


 「・・・了解です。」

 私はその通り、2人を置いて通路の奥へと進んだ。



 ・・・とはいえ、戻れと言われてもこんな迷路のような建物の中じゃ方向感覚も失ってしまいそうだ。

 私は僅かな照明を頼りに壁伝いに歩を進める。


 「―――!」

 

 「ん?」

 しばらくそうしていると目の前の角の向こうから何やら怒鳴り声のような会話が聞こえた。


 「―おい! 一体何が起きている!? さっきの大きな音は何だ!」

 「お、落ち着いてください。今、先兵達が向かってますのでっ。」

 「敵襲か!? 誰がこんなことを・・・、儂は安全なんだろうな!」


 「あれって・・・・・・。」

 子供のように喚き散らしている男に見覚えがある。おそらく’マルファス’のトップ、ガル=ベンガードだ。


 「話が早くて助かる。」

 私は一呼吸置いて、角から標的の下へ歩み出た。


 「ガル=ベンガードで間違いないね。」

 「あ!? だ、誰だ! 貴様ぁ!?」

 「知らなくて良い。どうせあとで分かる。」

 私は狼狽えるガル=ベンガードの方に剣を抜きながら近づいた。


 「何だと!? お前ら、話が違うぞ! あいつを殺せ!」

 「は、はい!」

 

 慌てたようにガル=ベンガードの傍らにいた2人の男が私の方に向かってくる。

 それと同時に当の本人は反対方向にドタドタと走って行った。


 「何が目的だ! 覚悟しろ!」

 「あなた達は今回の標的には入っていない。何もしないなら私も何もしない。邪魔するなら。文句は言わないでね。」

 「だ、黙れ! 小娘1人殺せないで山賊なんかやってられるかよ!」

 「そう・・・。じゃあさようなら。」

 狭い廊下、2人並ぶのがやっとの空間で部下2人を掻い潜ってガル=ベンガードを追うことはできない。

 私は仕方なく向かってくる2人を斬った。


 「さて・・・、どっちに逃げたかな。」

 私は見失ってしまったガル=ベンガードが逃げたと思われる方向に走った。



 少しの間適当に走っていたので、内心班長達と合流することは半ば諦め、曲がり角を3回曲がったあたりで私は初めて部屋の扉を発見した。木製の軽そうな扉には鍵が掛かっていたようだが、壊すのはそう難しくはなかった。


 「・・・ひっ!」

 「あ。」

 「何故ここが分かった!?」


 何やら棚の前でごそごそしていたガル=ベンガードは扉が開いたのに気づいて鈍くさく尻餅をついた。


 「逃げ場は・・・、なさそうだね。」

 「ふざけやがって・・・! 俺が無策でここに逃げ込んだと思うなよ!!」

 「・・・何?」

 そう言ってガル=ベンガードは手に取った何かを私の足下に投げた。


 カランカランと乾いた音を立てて転がる筒は私の足先にコツンと当たると、プシュッと炭酸が抜けるような音を立てた。


 「まさか・・・・・・・!」

 私は咄嗟に扉の外に飛び退く。と同時にその金属製の筒は激しく爆発し、充満する煙とともに私の体中を金属片が切り裂いた。


 「ぐはははは!! やった、やったぞ! これがプラータが開発した新兵器 ”雷火(いかづち)” だ!」


 「はぁ・・・、手榴弾か。地球の物とも違うだろうけど、実物は初めて見た。」

 「・・・!? 生きてるだと!?」

 直撃は避けたかったけど流石に無理だった。とはいえある程度距離をとれたからほぼ軽傷といえるだだろう。

 

 「確かにすごいのかもしれないけど、桐香の砲弾に比べれば威力も範囲も大したことない。」

 「に、人間じゃない、何なんだ貴様!」

 

 「ベンガード様、今の音は!? ・・・これは・・・・・・・!!」

 「サイゾか! 良いところに来た!」

 「・・・誰?」

 再びガル=ベンガードに近づこうとすると部屋の入り口から聞き覚えのない声がした。振り返ってみるとそこにいたのは3人目の幹部のブタだった。


 「襲撃者は入り口で止めていると聞いていたが・・・。そうか、ここにも居たのか!」

 ブタはそう言って妙に曲がった変な形の剣を構えた。


 「・・・どっちにしろブタも標的だったっけ。まあこの部屋の入り口もそこだけみたいだし、ブタを先にやっても良いか。」

 さっきの爆弾のせいで全身に切り傷がある。でも事前にできるだけの回避行動をとってたおかげで深手は負っていない。


 私は先にブタを捕らえることにした。


 +++


 ―第九師団兵舎

 少し前、ルカを見送ったフィーネは兵舎の玄関のベンチで項垂れていた。


 「よう! 浮かない顔だな!」

 「あ、えっと・・・。」

 声をかけてきたのはトレーニングを終えた中年のリーゼントの兵士だった。


 「ここで何度か遭難者だの山賊から逃げてきた輩だの拾って送り届けたことはあるが、戻ってきたのはあんたが初めてだ。」

 「・・・すみません。」

 「責めてるんじゃねぇよ。隣良いか?」

 「はい・・・。」

 兵士は少し間を空けてベンチに座る。


 「あの新入りのことが気になって戻ってきたんだろ?」

 「・・・・・・はい。」

 「まあな。確かに何か抱えてそうな奴だ。ここに居る奴はみんなそうだけどな。」

 「え?」

 「ここは一応国軍の一師団だが、団長に全ての権利があってだな。他の師団みたいに試験があるとか士官学校卒業したあとに配属されるみたいな場所じゃねぇんだよ。」

 兵士はタオルで流れ落ちる汗を拭きながら軽い話しでもするように話し始めた。


 「だから、ここに居る兵士は全員団長が直々に連れてきた奴ばかりだ。士官学校の落ちこぼれ、戦争や賊によって肉親を奪われた奴、故郷を追われた奴、国に捨てられた奴、そして自分を見失った奴・・・って感じでな。」

 「どうして、そんなこと・・・。」

 「ま、そう思うよな。うちの団長、クールで如何にも冷徹って感じの雰囲気出してるけどよ、実際は本人にその気があれば誰でも拾ってきちまうようなお人好しなんだよ。それに、そんな奴でもちゃんと立派な兵士に育てちまうから流石ってもんだ。」


 「意外ですね・・・・・・。」

 「っはは。だろ?」

 兵士は自分のことを褒められたように笑った。


 「んなもんで、ここの兵士って一回全部失っちまったような人間が多いんだよ。家族、友人、生きる意味。何かしらを理不尽に奪われた。でも逆に、そこから立ち直って、ここが新しい居場所になって、第2の人生だって腹くくった奴が今ここにいる。」

 兵士は指を折りながら静かに続ける。


 「だが、俺の見立てではあの新入りは違う。」

 「・・・・・・え?」

 「詳しくは知らないし、聞けもしないけどよ。きっと何か、それこそ人格が壊れちまうような出来事があったんだろう。でもあいつの中にはまだ何か残ってる。そんで、それをあいつ自身も自覚している。」

 フィーネは驚きながらも静かに兵士の話しに耳を傾けた。


 「だが、それを受け止められずにいる。きっと認めるのが恐いんだろうな。まるで辛い記憶を上塗りするように剣を振り続けてる。自分の心を殺すように、必死にな。」

 「・・・・・・・。」

 「でもそれは自分を追い込むだけで、なんの解決にもなりゃしねぇ。そんなの分かってるくせに自分ではもうそうするしかなくなってるんだ。だから、もしあいつの心を解放できる奴がいるとしたら、それはあいつの隣で真っ直ぐにあいつのことを見てやれる奴だけだ。それこそ、あいつが失っちまったもんみたいにな。」

 「それって・・・。」

 

 「あ、悪ぃな。こんなおっさんの与太話に付き合わせちまって、忘れてくれ!」

 そう言って兵士は鼻歌を口ずさみながら寮へと戻っていった。


 +++


 ―’マルファス’城内

 「はぁ・・・、ちっ。」

 私はガル=ベンガードが逃げ込んだ部屋の入り口付近でブタと交戦していた。


 「はぁ、はぁ、見た目の割に腕が立つようだな。」

 「・・・・・・。」


 別に苦戦するような相手じゃない。だけど、幹部であるだけにそれだけ腕がたつこととあの妙な形の武器の出方をうかがっていたこともあり、有効打は与えられていなかった。


 ただ、その様子見ももう終わりで良いだろう。


 あの武器の用途はおそらく相手の武器の奪取。先端がフックのように曲がっていて普通に斬るには使いづらい形をしている。だが、打ち合った段階で手首を返せば相手の武器を引っかけられる。実際に何度かそれで取られそうになっている。


 「来ないならこっちから行くぞ!」

 少し考えていると、しびれを切らしたブタの方から仕掛けてきた。


 「目的は武器・・・・・・、それなら。」

 私はそのまま普通に剣を構えた。


 やっぱり。

 その姿を見たブタの口角が少し上がった。そして間合いを詰めるも剣を振り上げるまでのテンポがあまりに遅い。確定だ。私が応戦して切り込もうとしたところを上から引っかけて剣を奪いたいのだろう。


 でもその動きは緩着だ。先制を許すなら絶対にその初撃に対しては防衛しか選択肢がない。


 だから、その初撃でブタが反応できない速度で斬ってしまえば良い。


 「ふぅ・・・。」


 (来た! 小娘がっ、動きは良くても経験は浅いようだ・・・あぁ!?)


 狭い部屋の壁に血が飛び散る。

 随分警戒してしまったけど、蓋を開けてみれば簡単な話だった。


 「次は・・・。」

 「な、何をしているサイゾ! 待て! 来るな!」


 ガル=ベンガードは対角線上の壁際に背中をついて腰が抜けたように後ずさる。


 「分かった、俺が悪かった。許してくれ!」

 「部下を散々盾にしといて、今更見苦しい。」

 「違うんだ! 頼む、死にたくなかったんだ・・・!」

 ガル=ベンガードは土下座をするように必死に命乞いを続ける。


 「自分のことばっかり・・・。せめて大義のためとかないの? まあどうでもいいけど。」

 

 「・・・げふっ、ベンガード様、今のうちにお逃げください・・・!」

 「何!?」

 私は剣の血を払い、1歩歩こうとしたとき、後から血塗れのブタに肩を掴まれた。


 「こんな瀕死の力で、何ができるの!」

 「ベンガード様! この者は私が抑えておきますので・・・・・・。」

 「良くやった! そのまま抑えておけ、サイゾ!!」


 「え・・・・・・。」

 「・・・は?」


 ふとガル=ベンガードの方に目をやると、それはさっきの爆弾を手に持っていた。


 「嘘でしょ・・・・・・。」


 私はブタに抑えつけられたまま、足下で爆弾が炸裂した。


 ―

 

 「はあ、はあ、馬鹿め! 今度は直撃だ、儂の勝ちだ! はははは!!」

 ガル=ベンガードは安堵したように大口を開けて笑う。


 「まったくふざけやがって。だがこれで逃げて政府にチクれば助けてもらえる。これまでの実験で金も十分だ! 部下もいらねぇ!! これからは内地で遊んで暮らしてやるぜ! ぐはははっははは!!」

 「文字通り夢物語ね。」

 「・・・!? 誰だ!」

 

 つくづくこの体で良かったと思う。元の体だったらこの世界に来てから何回死んでいたことだろう。

 とは思いつつも、無傷というわけではなかった。急所を守れただけで手足には片が深く突き刺さり、頭からも血が流れている。


 「な、何故だ・・・! 直撃だっただろう!!?」


 「なんでこんな人間のために命張ったんだろうね、このブタ。」

 私はボロボロになったブタの死体をチラリと見てからガル=ベンガードの方に向き直った。


 「くそっ、でも手負いだろう! お前など俺でも!!」

 ガル=ベンガードは手頃なナイフを手によろよろと立ち上がる。


 ここに来るまで色々な人を見てきた。色々な世界を見てきた。日本にいたときは知らなかったような世界を、たくさん。そこで見た一人ひとりにそれぞれの事情があって、悪だと思っていたものが誰かの正義だったり、その逆もあったりすることを知った。

 

 そうして日を追うごとに私には善悪の区別が付かなくなっていった。

 母国のために名も知らぬ敵兵を殺すことが正義か? 家族を守るために狂人を殺した人間は悪か?

 人のあるべき姿とは? 何のために人は生きているのか・・・・・・?



 私は何もかもが分からなくなっていた。



 「何でお前みたいな人間が生きてるんだよ。」

 私はナイフを振り上げるガル=ベンガードの右腕を斬り落とす。


 「お前みたいな奴でも生かすことが正義なの?」

 私は逃げようとするガル=ベンガードの左脚を切り裂く。


 「善いことって何? 悪いことって何?」

 私は跪きながら振り返ったガル=ベンガードの左肩に剣を突き立てる。


 「ねぇ・・・、なんでお前みたいな奴が生きて、恵と桐香は死ななくちゃいけなかったんだよ!!」


 私は思いきり剣を振り上げた。



 「・・・桜さんっ!!」

 

 だが、その剣がガル=ベンガードの首を斬ることはなかった。


 「・・・なんで、ここに居るの・・・・・・・。」

 ガル=ベンガードにとどめを刺すのを防ぐかのように、フィーネのか細く弱々しい両腕が私の手首を後から掴んでいた。


 「駄目です・・・。これ以上は、駄目ですよ・・・・・・。」

 「! ふざけ、ないで・・・・・・」

 「桜さん!?」

 

 無理矢理その腕を振りほどこうとしたとき、ふっと私の視界は暗転し、記憶が飛んだ。




 

 

お読み頂き、ありがとうございます。


次回は2/9投稿予定です。

お楽しみに。

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