プラータの雷
―カブラルとプラータの国境沿い
「さて、準備は良いな?」
カブラルとプラータの国境となっている山脈のちょうど境目、数十mの谷の上から谷底の’マルファス’の根城を捉えていた。
「あれが’マルファス’の本拠地・・・。」
「思ってたより堅牢ですね。」
谷底に隠れるように存在するそれは石造りの古城のようで、おそらく屋上を除けば4階建てだろう。
「作戦は伝えたとおりだ。まずは俺達が正面から入り、有象無象を引きつける。そのタイミングに合わせてボイズ隊は対岸より屋上から侵入、混乱に乗じて標的を狙え。次いで、定刻にガードル隊が同ルートで侵入し、逃げ出した幹部の拘束。各標的の実力は高が知れているが、プラータの兵器とやらには警戒しろ。目的は標的を1人残らず拘束することだ。」
「「「はい!!」」」
「相変わらず要求多いな・・・。」
事前の説明では、その標的というのはリーダーのガル=ベンガード含め4人。他の3人の名前なんて覚えていないけど、見た目でブタと馬面と眼帯と覚えている。
「確認は以上だ。各自直ちに配置に付け。タレス、ルイス、行くぞ。」
「よっしゃっ!!」
「は、はい!」
そう言って団長達は崖を降りていく。
各編隊は以下の通り。
囮となるギルバート隊は最年少組のカド=タレスとベティ=ルイス。続いて、最初に奇襲をかけるボイズ隊は班長のクラウス=ボイズを指揮者に私とフェルナンド=ネルラン。最後に、逃亡者の捕縛と補給をメインに時間差で行動するガードル隊は副班長のレア=ガードル、そして真面目そうな面持ちのラリー=ガルシアとマララという編成だった。
+++
―ギルバート隊
「正面に見張りがいますね。」
「構わん。盛大に騒いでくれた方が囮として好都合だ。」
「え? もう行くんですか!?」
ギルバートは降り立った場所から悠然と正門に向かって歩いて行く。
「あ? 誰だ?こんな夜中に・・・っえ!? お前、知ってるぞ! 確か名前は・・・。」
「黙れ。貴様に聞きたいことは一つ。ガル=ベンガードはどこにいる?」
「ば、馬鹿が! のこのこ俺達のホームに来やがって! お前の首は高く売れるんだってな!!」
「・・・そうか、残念だ。」
見張りが一瞬すくみながらも武器を取ろうとする。しかし、その時には見張りの両腕は地面に転がっていた。
「・・・は!? う、うわぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
「・・・ん? 何だ、騒がしいな・・・。」
見張りの断末魔とともに建物内から数人が内門に出てくる。
「来たか。始めるぞ。」
「「はい!!」」
3人はそのまま正面から門内に侵入した。
「な!? 門番がやられてる! 侵入者! 侵入者だ!!」
「い、いっぱい来ましたよっ。」
「いや、少ない方だ。問題ない。」
玄関と正門の間を半分ほど進んだころに、3人は四方を山賊に囲まれた。
「お前ら、カブラルの傀儡か!? 答えろ!」
「よく言えたものだ。もしそうだったら、どうする?」
「ふざけやがって! 捕らえろ! 殺せ!」
正面の男のかけ声とともに山賊は一斉に飛びかかける。
「まずはお前が一番強そうだな! ジジイ!!」
(一度に6人。戦術も思索も素人のそれだな。)
ギルバートには各々武器を持った山賊が6人、適当な方向から迫ってくる。
「・・・・・・。」
視角、聴覚、触覚、そして勘。外界から入るあらゆる情報を統合し、ギルバートは次の瞬間に自らがいるべき最善の位置を思考する。その間0.1秒。その後、ギルバートは最速で体勢を整え、身を翻す。僅か1秒未満の間にギルバートの脳内では6人を討つための最適の策が完成していた。
「帝国流極剣術 "六頭蛇” 。」
「き、来たよ! カド君!」
「ああわかってる! いくぞ!」
一方で、後方のカド=タレスとベティ=ルイスは背中合わせに左右両方からの山賊を迎え撃とうとしてた。
「後はガキじゃねぇか! ははっ、こりゃ人質にちょうど良い!」
「ベティ! 分かってるな!?」
「う、うん!」
2人は山賊が間合いに入ると同時に互いの足裏を起点に、地面を這うように瞬時に両方向の山賊の背中に回った。
「!?」
カブラル国軍士官学校では基礎的な戦闘術が教えられる。その中でも小柄だった2人がそれを応用した、瞬時に背後を取り、流れの中で攻撃を入れる技。
寸分違わぬ連携は完璧なタイミングで山賊の虚を衝いた。
「「軍式・バックスイッチ!!」」
+++
僅か数分の内に3人は内門の山賊をほぼ全て戦闘不能に伏せた。
「やったー! どうだ、俺の実力は!!」
「わ、私にもできた・・・!」
「2人とも良くやった。」
「・・・? どうしたんですか? 団長。」
カド=タレスとベティ=ルイスがそれぞれ喜びを露わにする中、対照的にギルバートは怪訝な表情を浮かべていた。
「・・・17人。」
「はい?」
「表に出てきた者の数だ。奴らの規模を考えれば少なくとも30は湧いて出ると踏んでいたがな。」
「・・・・・・まあ、良いんじゃないですか? 少ないならそれに越したことはないですし。」
「母数が減っているならそれでもいいが、そうでないのなら問題だ。さっさと中の連中を引き摺り出すぞ。」
「「はい!!」」
3人はすぐさま扉を押し開け、城内に入った。
だが、中は真っ暗な上、しんとしていて人の気配がない。
「あれ? 誰もいない?」
「そんなはずはない。おそらくどこかに潜伏して・・・!」
「うわっ!」
暗闇の向こうから何かが飛来した。
ギルバートが眼前で斬ると、乾いた音ともに金属片が飛び散った。
(何だ? これは・・・。)
飛散する金属片とともに何かキラキラした粉のような物がギルバートの視界で漂う。
(・・・・・・!!)
「タレス! 離れろ!!」
「え?」
ギルバートは隣にいたカド=タレスを後方に放り投げた。
「え、何が・・・・・・!?」
カド=タレスがベティ=ルイスとともに外に飛ばされると同時、激しい閃光と轟音が響き、ギルバートの前で爆発が起きる。
「・・・!? 団長!」
「だ、大丈夫ですか!?」
「・・・・・・チッ、そういうことか。見積もりが甘すぎたな。」
「く、くっ、くひひいひ!! まんまと引っかかったぜ! ざまあねぇな。」
直撃を免れた2人が急いで戻ると、玄関だった場所の床は抜け、3mほどの場所にギルバートの姿があった。
「だ、団長!!」
「あぁ、無事だ。問題ない。」
「くひひひひ。お前らカブラルの刺客だよなぁ? いつか来ると思って用意してた甲斐があったぜ。どうだ? 流石に驚いたろ?」
部屋の中の穴の向こうから鼻の高い細身の男が現れる。
「団長、すいません! 俺を庇って・・・。」
「謝る余裕があるなら現状の把握に頭を使え。クソ、これがプラータの新兵器とやらか。さしずめ黄火石の粉末だろうな。どうやってそんなもの精製できたかは知らんが。」
「正解だ! だが、もう手遅れだぜ?」
男の合図で地下と1階の暗闇から山賊が姿を現す。
さっきよりも屈強で、倍以上の数。分断された3人は完全に退路を防がれていた。
「・・・なるほどな。道理で表の人数が少ないわけだ。」
「後悔したって遅いぜ、くひひひ! さっきの闘いは見せて貰った。要はお前だろ? 俺達の掃討が目的だろうが迂闊だったな! 捕らえられて情報を吐くのはお前らの方だ! 最期の遺言でも考えておきな!!」
両手を広げて高笑いする男に呼応するように山賊は武器を掲げ咆哮する。
「分断か・・・。そうだな、如何にも尤もらしい作戦だ。」
「さぁ、殺せ!」
「だが、見積もりの甘さはお互い様だ。俺は当然、あの2人がこの程度の数的有利で殺せると思うなよ?」
+++
―ボイズ隊
「そろそろだ。行くよ。」
「御意。」
谷の対岸に移動した私達はマララ達より一足早く根城の屋上に向かって飛び降りた。
「う~、緊張してきました・・・。」
「まあまあ肩の力抜きな。あたしらはまだ行かないし、今回のメインは補給だから。」
「はい・・・。」
円形で平らな屋上から中に通じる階段は一つ。だが見張りはおらず、侵入は容易だった。
「さて、どこにいるかだね。」
「ボスといえばどの組織も物理的に高い位置にいるものだが、果たしてここはどうか。」
「っていうかさっきの爆発音みたいな音で全員起きたんじゃないですか。」
暗い上に狭く、何度も分岐する建物の中はまるで迷路のようだった。
「確かにさっきの音は妙ですね。皆さん無事だと良いですが・・・。」
「団長がいる以上、大事には至らないでしょう。」
「そうですね。我々は我々の任務に集中しましょう。」
「はい。」
「・・・・・・。」
にしてもさっきの音が引っかかる。この世界で爆弾なんか見ていない、けど、それがプラ―タが研究しているという兵器なら・・・・・・。
「! 伏せろ!」
「は?」
先頭を走っていた私は後からフェルナンド=ネルランに頭を抑えられた。
「何して・・・!」
抗議してやろうと頭を上げると目の前の壁に矢が突き刺さっている。
「!」
すぐさま飛んできた方向に視線を移すと人影が隠れるのが見えた。
「・・・馬面!」
「追いましょう!」
一瞬だが、それは確かに幹部の1人だった。
とはいえ迷路のような屋内だ。追うだけでも容易ではない。
「くっ、待ちなさい!」
「なんとかどちらに曲がったくらいは追えていれば・・・・・・!?」
しばらくそうして通路を走り、ある角を曲がった瞬間に私達は絶句した。
「な、なぜこんなこと・・・。」
一際長い廊下の10mほど奥に馬面はいる。だが、その馬面と私達の間にはゴオゴオと逆巻く炎が行く手を阻んでいた。
「自分の城に火を放ったのか!?」
「それに・・・、なぜこんな石造りの建物内で火がここまで燃え広がるのでしょう・・・?」
「ガソリンか・・・。」
「え!? サクラさん知ってるんですか?」
正確には違うかもしれないけど、黒い煙ともに充満する匂いは確かにガソリンスタンドの匂いに似ていた。
「油よりも燃えやすい油みたいな物です。」
「はい?」
「今はどうでもいいです。それよりも・・・!」
別ルートを探そうかと思案しながら再度馬面に視線を戻すと、馬面は無表情のままこちらに向かって弓を引いていた。
「ここで撃つ気か!?」
「まずいです! 一旦撤退・・・え!?」
「よぉ。あんたらカブラル軍の関係者だろ? こんな夜更けに何の用だ。」
「眼帯・・・・・・。」
振り返ると、唯一の退路には2人目の幹部である眼帯が立っていた。
「なぁ? 聞こえてるよな? 質問してるんだけど。」
「・・・やられましたね。」
私達は完全に挟み撃ちを食らった。退路のない狭い廊下。眼前には屈強な大斧を持った眼帯。後方には燃え盛る炎とさらにその奥で弓矢を構える馬面。数の利などこの狭い場所では寧ろ邪魔でしかない。一見詰みの盤面。
だが私の脳裏に浮かんでいたのはこんな状況よりもよほど地獄めいた記憶だった。
無意識にその記憶を押しつぶすように自然と口角が上がる。
「・・・面白い。」
お読み頂き、ありがとうございます。
次回は2/2投稿予定です。
お楽しみに。




