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親友を救いに異世界に行った話  作者: 祭
鑑蟲天
49/70

過去の遺恨

 「助けてください。お願いします・・・。」

 「・・・・・・。」

 作戦の標的’マルファス’による襲撃を受けた町の外れにある森の中で1人の銀髪の少女に出会った。その少女は憔悴した目で私に助けを求めている。

 中学生くらいの年齢だろうか。幼さの残るその少女は寒くもないのにマフラーを首に巻いていた。


 「悪いけど、私は・・・。」

 「あ、あの、私達は山賊に襲われて、それで・・・・・・。」

 少女はぐうぅぅと露骨に空腹を主張しながら私に手を伸ばしてきた。


 「・・・。はぁ・・・・・・。」

 「・・・! これは・・・・・・・?」 

 「これでいい? 私はあなたに構ってる暇ないから。助けが欲しいなら町にいるもう一人の兵士のところまで行くといいよ。」

 私はその少女の目の前に、ここに来る前に渡された非常用の乾パンのような食糧を置いてその場を去ろうとした。


 「でも・・・、良いんですか? 必要な物なのでは?」

 「別に。どうせ食べるつもりもないし。」

 「そう、なんですね・・・。」

 少女はパンを握ったまままじまじとパンを眺めている。


 「あ、ありがとうございます! この恩は忘れません!」

 「そう。じゃあ私は・・・」

 「ちょっと! サクラちゃん、勝手にどっか行かないで・・・、って、え!? 遭難者!?」

 「・・・・・・。」

 タイミングの悪い。

 私は追ってきたマララに見つかり、一振りもできないまま少女を連れて基地に戻ることになってしまった。


 

 ―第九師団兵舎

 「いやぁ、まさか任務に慣れて貰うための最初の指令で、情報ではなく遭難者を連れてきてしまうとは。」

 「すいません。」

 「いえいえ、むしろお手柄ですよ。我々は国民の安全を守ることが最重要課題ですから。」

 兵舎に戻ると、班長は柔らかい笑みを浮かべながら私達を出迎えた。


 「お名前伺ってもよろしいですか?」

 「フィーネ、です。名字はありません。物心ついたときから親は居なくて、旅芸人の1人として仲間とずっと旅をしていたんです。それで、今回はカブラルのアインスに向かっていたんですが、3日前に仲間はあの山の中で山賊に襲われてしまって、生き残ったのは私だけで・・・・・・。」

 「ほぅ・・・・・・。」

 班長は膝を折りながら少女の言葉に耳を傾けていた。


 「なるほど。では、とりあえずフィーネさんは私達が責任を持ってアインスに送り届けましょう。ただ、一応持ち物と身体検査を受けて頂きます。念のためですのでご了承ください。」

 「はい・・・・・・。」

 少女はか細い声で返事をして、小さく頷いた。


 「マララさん、フィーネさんを救護班の元へ。後のことは救護班にお任せしますので。」

 「はい!」

 「それと、もし可能でしたら襲ってきた山賊というのについて何か聞き出せないか救護班の方に打診してみてください。我々では少々圧が強すぎるかもしれないので。」

 「は、はい! 承知しました!」

 班長は小さくそう告げて、マララは少し緊張したように肩を上げた。


 「さて、サクラさん、今日は食事の後にもう一度会議を行いますので、早めに荷物を置いてきてください。」

 「・・・はい。」

 その一言だけを残し、一度この場は解散となった。


 +++


 「ふぅ~、初任務緊張したね~。」

 「ただのチュートリアルですけどね。」

 私は一度部屋に戻り、荷物を置いた後マララと合流してから食堂に来ていた。


 「しかしプラータもこんな大胆なことしてくるなんてね。びっくりだよ。」

 マララはパンを一口サイズにちぎりながらそんな愚痴のような言葉を吐いている。


 「そうですね。1年前の内乱を除けば、この国は平和なものと思ってたので確かに意外でした。まあ、そもそも私はこの国の外交事情なんて何も知らなかったんですけど。」

 私も適当に干し肉を口に運びながら話を合わせた。


 「・・・あれ? そういえば、サクラちゃんって海外出身?」

 「はい。一応そうです。」

 「そっか~。確かにあんまりカブラルで見ないタイプの顔だもんね。全然言葉通じるし、海外の人見たことないから気づかなかったよ。」

 マララは改めて珍しい物でも見るかのように私の顔を眺めながらパンをパクパクと口に詰めている。


 「じゃあさ、もしかして戦争の話とかも知らない?」

 「・・・・・・戦争?」

 「そう。50年くらい前にあった大陸のカブラルとプラータを含む4カ国連合と一つの帝国の間で勃発した歴史的な戦争だよ。」

 「いや・・・、知らないです。」

 

 あの日、突然カブラルに飛ばされてから1年半ほど。色々な町に行ったがアインスでの内乱以外で戦争だの国外情勢だのの話を聞く機会などなく、そんな話は初耳だった。


 「カブラルで生まれ育った人ならみんな学校で習うんだよ。そうでなくても、終戦宣言が確か47年前だからおじいちゃんくらいの年齢の人は実際に体験してるしね。」

 「それで、何があったんですか?」

 「うん。じゃあせっかくだし教えておくよ。これからここに居るなら絶対必要な情報だろうし。」

 「はい。」


 「昔ね、その戦争が終わる前はカブラルの北側にルディアス帝国っていうすごく大きな国があったんだよ。今のツヴァルスフィアとかも昔はその帝国の領土でさ、とにかく帝国って言うくらいだから、周辺の国に攻め込んでは武力統治を広げてて、その結果、たった2代で国力は大陸最大級の大国だったんだ。」

 マララは1杯の水を飲み、授業で先生が話すように続けた。


 「教科書の受け売りだけど、帝国は各国に圧力をかけては無理な要求を突き出して、他の国からの対話には応じない、今では信じられないくらい横暴な国だったの。そして、資源や物資が必要になれば武力行使も厭わないような体制に、ついに56年前、帝国の周辺国家4カ国が結託して攻撃を仕掛けた。それが戦争の始まりだよ。」

 「はぁ・・・。」


 「それでも最初は帝国が優勢だったらしい。帝国は4カ国合わせても構わないほどの数的有利と当時では最先端の兵法を駆使して、攻め返されたいくつかの地域は植民地支配を受けて多くの人が奴隷になった。」

 「はい。」

 

 「ただ、そんな感じで勢力を拡大していた帝国だったけど、一般国民も戦地に無理矢理投入させるような独裁的な体制に帝国国民のヘイトも高まってたのも史実として記録されてるの。それで、開戦から7年以上が過ぎた頃、勢力はようやく連合国側が優勢になり始めたらしいんだけど、それでも国民を捨て駒のように使い続けた3代ルディアス帝はカブラル領土内での作戦失敗を皮切りにクーデターが起きて磔行き。そして一気に指揮系統が崩れた帝国を押し返して、約9年間の長い戦争が終わったって話だよ。」

 「そんなことがあったんですね。」

 

 「そうだね。その後、帝国は完全に解体。もともと他国の領土だった場所は返還されて、その他の地域は独立して、今は共和制国家として成立してるよ。ただ、帝国の首都だったゼクスピアだけは立地の悪さとか有用性の低さから負の遺産として今も廃都として残ってるよ。」

 この世界に来てから初めて聞く話だった。確かにゼクスピアという地名だけはツヴァルスフィアの村長から聞いたことがあったけど、その時はその背景は教えてもらえなかった。でも、今の話を聞けば何故話そうとしなかったのは容易に想像がつく。


 「ところで、なんで今プラータ王国はカブラルに攻撃を? その戦争では一緒に戦ってたみたいですけど。」

 「う~ん、それは私もよくわからないんだけどね・・・。多分当時は利害の一致で徒党を組んで立ってだけなのかも。交易とかは確かにあるんだけど、プラータ王にも支配思想みたいなのはあるって聞いたことあるし・・・・・・。」

 「なるほど。」

 まあ元いた世界でも戦争が終わった後に関係が悪化するなんて珍しい話でもない。この世界も結局は人間の世界なのだろう。


 「おーい! マララとサクラ、そろそろ始めるぞー。」

 「あ! すいません! 今行きますっ!」

 少し長話をしていたら副班長のレア=ガードルに呼び止められた。私はマララに急かされるまま食器を片付けて朝集まった部屋へと向かった。


 

 ―兵舎講堂

 今朝と同様に再び私達は狭く重苦しい雰囲気の講堂に集められた。ただ一点、朝と違うことは第九師団の団長であるグリフィン=ギルバートもそこにいたことだ。


 「全員集まったな。始めるぞ。」

 皆同じように円卓を囲んでいるけど、ギルバートが口を開くと、一気に緊張感が高まったのを感じた。


 「単刀直入に話す。今日、作戦決行許可申請の返答が国軍省から返ってきた。」

 「!」

 「・・・ってことは・・・・・・!」

 「ああ。明日より五日後、作戦目標’マルファス’の掃討作戦を開始する。」

 「「「!!!!」」」


 口にこそ出してはいないが、ギルバートのその一言に全員の表情が変わった。


 「まず、成すべきことは大きく2つ。幹部の拘束と、奴らとプラ―タが繋がっていることを示す物証を確保することだ。」

 「でも、本当に良いのでしょうか? 表面上は山賊とはいえ’マルファス’の本拠地は国境のプラータ側です。勝手に踏み入れてしまっては侵略行為ととられるのでは?」

 「構わん。奴らがプラータの犬であることはお前達の調べでわかっている。だが、カブラルが俺達を公表しないように、プラータも’マルファス’に関して明るみにはできん。俺達が国境を越え、奴らを捕らえたところで端から見れば山賊同士の抗争として片付けるしかない。寧ろ、カブラルとプラータ、先に言及した方の立場が悪くなるのは火を見るより明らかだ。」

 「な、なるほど・・・。」


 「つまり、プラータとカブラルの代理戦争と言うわけですね。」

 「そこまで大仰な話ではないがな。だが、僅かな綻びが戦争に繋がる歴史もある。危険な芽は早期に摘むにこしたことはない。」

 実際はそう簡単な話ではないだろうけど、それこそもっと上層部の仕事なのだろう。


 「そして、次は掃討作戦の概要だ。まず前提として、作戦は俺達9人を3つの分隊に分けて実行する。」

 「え、ってことは一分隊3人ですか!?」

 ベティ=ルイスは驚いて立ち上がったが、ギルバートは構わず続ける。


 「哨戒班と指令班の報告では’マルファス’の規模は130あまり。幹部を奇襲で捕らえるとしても、少数対多数の戦闘は避けられない。そうなった場合、下手に人数をかけるよりも敢えて少数で防戦に出た方が効率が良いことは知っているだろう。俺達では3人が限度。あとは個々の分隊の連携でどうとでもできる。」

 「そ、そっか・・・。確かに士官学校で習ったかも・・・。」


 「だが、俺達も奴らの根城の構造までは調べきれん。だから、俺の小隊は正面から入り囮となる。その隙に他2隊は別の場所から侵入し、幹部の拘束を狙え。顔は事前に知らせたとおりだ。」

 ギルバートは腕を組み、淡々と作戦を伝えていく。


 「各小隊の編成、行動は決まっている。具体的な連携の演習は明日から行う。5日で叩き込め。」

 「「「はい!!!!」」」

 ギルバートの言葉とともに7人は一斉に立ち上がり、敬礼をした。


 「それと、これは別件だが、サクラ。少し着いてこい。」

 「・・・? はい。」

 そうして夜の緊急会議は終わったのだが、私は1人ギルバートの部屋に呼び出された。



 「・・・、何? まさかあの日私があなたを殺そうとしたこと・・・」

 「お前は何よりも強さを求めていたな?」

 「・・・・・・。」

 「変わったか?」

 「いや、何も。私はずっと変わらない。ただ誰よりも強くなりたい。あなたよりも。」

 「面白い。」

 私のその言葉にギルバートは微かに笑ったように見えた。


 「ならばお前に俺の剣を教えてやろう。」

 「なっ・・・!」

 私はその一言に内心驚いた。どういう意図で一度殺そうとした私を部下にしているのか知らないし、それどころか剣術を教えるなんて普通ではない。相当に下に見られているとしか考えられない。


 でも、それでも良いかもしれない。

 本気で挑んで勝てなかった相手が手の内を晒すというのだ。これほど好都合なこともないだろう。


 「どうだ。お前に、修羅に身をやつす覚悟はあるか?」

 「・・・もちろん。お願い。」

 「良いだろう。泣こうが喚こうが、容赦はないぞ。」

 「当然。」

 やっとだ。やっと私はまた前に進める。


 「まずは明日。それまでにこれを頭に入れとけ。」

 そう言ってギルバートは私の前に一冊の本を差し出した。

 「わかった。」

 私はそれを受け取り、団長の部屋を後にした。


 +++


 「あの・・・。」

 1日の日程が終わり、部屋に戻ろうとすると、兵舎寮の入り口付近にさっきの銀髪の少女が背中を丸めて立っていた。


 「あの、少しお話良いですか?」

 「・・・明日アインスに行くんでしょ。早く寝たら?」

 私は少女を無視して、建物内に入ろうとした。


 「少し聞きたいことがあって、サクラさん。」

 「はぁ・・・、何?」

 「サクラさん、どうしてサクラさんは無理に剣を振っているんですか?」

 「は?」

 私が怪我をしていることはこの少女には言っていない。歩く動作に出ていたか?


 「私は兵士、剣を握るのは当然。そんなくだらないことのために時間使わせないで。」

 「あ、いや、そういうことじゃ・・・。」

 少女はビクビクしながら続けた。


 「その、私の勘違いかもしれないんですけど、サクラさん、本当は闘いたくなんかないんじゃないかって・・・。」

 「・・・・・・何が言いたいの?」

 「私にはサクラさんの目が虚ろに見えて。現実から逃れるためにわざと無理して闘っているような気がして・・・。」

 「・・・・・・・。」

 少女の言葉は意外なものだった。


 「・・・あぁ、なんだ。仲間に取り残されて傷心かと思ったけど、そんな口きけるくらいには元気なんだね。」

 「え? そんなつもりじゃなくて、私はただサクラさんが苦しそうだったから少しでも話して楽になればと・・・。」

 「っ・・・!」

 私は少女に詰め寄り、胸ぐらを掴む。


 「!?」

 「さっきから、何様のつもり? あなたに私の何が分かるの? 私がたまたま通りがからなければ野垂れ死んでたような人間が私の時間を奪わないで。推測だけで私の感情を察したつもりになって、そういう同情が一番腹立つんだよ・・・!」


 「・・・でも! そうしてまで強くなって、サクラさんには何が残るんですか・・・・・・?」

 「! なんだと・・・・!」

 「ちょっ、サクラ!? 何してるの!?」

 私が少女の胸を締め上げかけたとき、ちょうどマララが戻ってきた。


 「・・・じゃ、二度と話しかけないで。」

 「あ・・・・・・。」

 「えぇ!? 本当に何があったの!?」

 私は困惑したような表情を浮かべる少女とおろおろするマララを尻目に部屋に戻った。


 できもしない綺麗事並べるだけの弱い人間を見ていると以前の私を見ているようでイライラする。


 私は久々に頭に血が昇った気がしていた。

 

 

お読み頂き、ありがとうございます。


次回は1/19投稿予定です。

お楽しみに。

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