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親友を救いに異世界に行った話  作者: 祭
鑑蟲天
47/70

9番目の兵団

 「・・・んっ、あぁ・・・・・・。ここは?」

 確か私は、森でグリフィン=ギルバートという男と闘っていたはず・・・。

 それで、私は勝てなかったんだ。本気で、堕天使と闘うための刀まで使ったのに・・・・・・。


 「あ! 目覚めたんだね、気分はどう?」

 「・・・?」

 ついさっきまで森の中で剣を交えていたような気がするけど、今は無機質な白いベッドの上で横になっていた。状況を把握しようと部屋を見渡すとベッドの横に若い女の人が座っている。


 「え・・・、誰?」

 「そっか、私からしたらもう2日も見てるけど、サクラちゃんから見たら初対面だもんね。初めまして、私はマララ=アーベル、ここの兵士の1人だよ。」

 「はぁ・・・、2日?」

 「そうだよ。2日前に団長がサクラちゃんをここに連れてきてさ。それはもうボロボロの傷だらけで、一応体拭いたり止血したりはしたけど、相当のダメージだったみたいだね。あ、着替えとかしたのは私だから、他の誰にも見られてないから安心してね!」

 「2日って、そんなに・・・・・・。」

 ここまで1年くらいまともに寝れてなかったから妙な違和感がある。でも、それよりも2日も寝てしまっていたなんて・・・。馬鹿か、私は。


 「すいません、ありがとうございます。私は・・・、痛っ!」

 私は焦りを抱えながら体を起こすと脇腹に激痛が走った。


 「落ち着いて。本当に少しでも処置が遅れたら死んじゃうくらいの酷い傷だったんだから。今は縫ってあるけど完全に傷が閉じたわけじゃないし、無理に動かしたら出血しちゃうよ。」

 「いや・・・、でも私には休んでる暇なんてない。」

 「待って待って! ほんとにダメだって!」

 マララと名乗る女の人は無理矢理ベッドから這い出ようとした私の肩を掴んで制止しようとする。


 「・・・どいて。」

 「だから! そんな傷で動けるわけないって・・・」

 「うるさい! 私は闘わなくちゃいけないんだよ! 休んでる暇なんてないんだよ・・・!」

 「! ・・・・・・・。」

 今は体を動かせる状態なんかじゃないことくらい分かる。でも、休んでなんていられない。ずっと恵と桐香が私の後で私を見てるんだ。負けちゃダメなんだ。今度こそ勝たなくちゃいけないんだ・・・・・・。


 「サクラちゃん・・・、落ち着いて。大丈夫、ここじゃ1人じゃないから!」

 「っ、だから・・・!」

 マララはその私の肩をそっと抱いた。


 「団長から話は聞いてるよ。この師団に入るんでしょ? みんな仲間だから、私だってサクラちゃんの味方だから。」

 「・・・仲間なんて・・・・・・・。」

 そんな物を求めてここに来たんじゃない。

 私はそう思って、マララの腕を掴んだとき、マララはぱっと顔を上げた。


 「じゃあさ! せっかくだから私がここ案内してあげるよ! どうしても動きたいって言うならそれでどう?」

 「は?」

 「ほら、ここに入るならいずれは知らなくちゃいけないことでしょ? 今は訓練なんてできないだろうし、ね!?」

 「そんなこと、どうだって・・・。」

 私は反論しようとして、また痛む脇腹をおさえた。

 「・・・なんで・・・・・・・。はぁ・・・、分かりました。」

 正直まだ何も信用なんてしていないし、興味もない。だけど、確かにこの人の言うことが間違っているわけではない。

 それに、確かに今の私では1人で外に出たところで獣にすら敵わないだろう。私は不本意ながらこの人の提案に乗ることにした。


 +++


 それから流れに任せて私はこの施設の設備の説明を受けた。

 所属する兵士が寝泊まりするための兵舎が2棟に屋内外の訓練場、石造りの重厚な講堂、食堂、そして中には入れなかったけど司令塔。想像していたよりも敷地が広く、1回で全てを把握するのは難しそうだった。


 「お、お疲れさん。そっちは・・・、新人か?」

 訓練場の近くを歩いているとき、私はタオルを首に巻いた屈強なリーゼントの兵士に会った。


 「はい。多分今日の夜あたりに紹介あると思うんですけど、入団希望者のサクラちゃんです!」

 「おう、そうか! よろしくな!」

 「・・・はい。」

 兵士はそう言って私の肩をぽんと軽く叩いた。


 「なんだ、元気ないな。緊張してんのか? まあ無理ないか。ははは!」

 リーゼントの兵士はそう言って快活に笑っていた。


 「んじゃ、新入りの教育は頼んだぜ、マララ。」

 「はい!」

 マララはそう言って男に敬礼をする。


 「それじゃあ、大体見たし、次は私たちの部屋を紹介するよ。」


 

 ―兵舎女子寮

 最後に案内されたのは2つある兵舎の内の一つの一室だった。部屋の中にはベッドが2つ並んでいて、その一つは新品のように綺麗だった。


 「ここが今日からサクラちゃんが寝泊まりする部屋だよ。まあ私もいるけどね。」

 話を聞いていると、どうやらここでは2人一部屋が基本なのだがマララの部屋がたまたま1人分空いていたので私がそこに入り、ついでに私の教育係を任されたらしい。


 「ま、これも何かの縁だから、改めてよろしくね!」

 「はい・・・。」

 「あ、サクラちゃんなんか飲む? と言ってもたいした物はないんだけど。」

 そう言ってマララは私に1杯のコーヒーともお茶とも言えない飲み物を手渡して、私にベッドに座るよう促した。


 「どう? 少しは落ち着いた。」

 「・・・いえ、落ち着いている暇なんて私にはありません。」

 「そっか・・・。でも無理はダメだよ? 本当に酷い傷だったんだから。」

 私は焦りともどかしさの中でビリビリと痛む脇腹にそっと手を当てた。


 「・・・ところでさ、サクラちゃんはどうして兵士に志願したの?」

 マララは一口飲み物を啜ってから落ち着いた声音で聞いた。


 「私は・・・・・・・。」

 私は少し間を置いて、ゆっくりと口を開いた。


 「・・・正直言って成り行きです。そうするしかなかった。死ぬか従うか、ただそれでもここで得られるものがあるかもしれないので。何か一つでもあの人の技を盗めれば、と。」

 「・・・えっと、それって団長に脅されて、ってこと・・・?」

 「いえ、負けたのは私なので。」

 「うわぁ・・・。じゃあ、その傷ってまさか団長が?」

 「はい。」

 「ちょっと、えぇ・・・? あの人、ほんとに容赦ないなぁ・・・・・・。」

 マララは呆れたように頭を抱えた。


 「なるほどねぇ。まあ、そういう人が初めてって訳じゃないけど、なんかすごいね。」

 「ところで、訓練とかしなくて良いんですか? 他の人はやってるみたいですけど。」

 「私? ああ、今日は非番だから。それに私は救護班だからそんなに前線に立つ人ほどの訓練はしないかな~。」

 「そうですか・・・。」

 マララは終始柔らかく微笑みながら返答していた。


 そんな会話をしているうちに私はまた微睡んできていた。


 +++

 

 『・・・さくら、さくらあああああああ!!!!!』

 「! はぁ、はぁ・・・・・・、痛っ・・・。」

 いつの間にか眠ってしまっていた。

 いつもと同じ夢、私は反射的に身を起こして脇腹に激痛が走った。


 「大丈夫・・・? すっごいうなされてたけど。」

 顔を上げると部屋の中がオレンジ色になっていて、マララは部屋の隅に置かれた机の上で何か書いていた。


 「・・・問題、ないです。」

 私はまた時間を無駄にしてしまったことを後悔して、ベッドから出た。


 「そうだ。言い忘れてたんだけど、今日の夜、サクラちゃんの紹介と色々配属とかの説明があるって。」

 「そうですか・・・。」

 私は額の汗を拭い、呼吸を整えた。



 ―兵舎講堂

 日が沈み、外で訓練していた兵士達が集まってきたあたりで私たちは講堂に入った。石造りでランプが照らすだけの薄暗い部屋で兵士が綺麗に整列している。聞いたところでは、ここで重要な作戦会議とかを行うらしいから、外に声が漏れ出ないように重厚な造りになっているのだろう。


 「さて、全員集まりまったな。ではここへ。」

 50人ほどが並ぶ前で、私は1人の初老の眼鏡を掛けた細身の男に手招きされた。


 「あの人は?」

 「ダニアル=ギヴン副団長兼教官だよ。大丈夫、行っておいで。」

 私はそうマララに背中を押されるまま壇上に上がった。


 「えー、明日から正式に入団する新入りを紹介する。ここに来たのは2日前だが、諸事情で連絡を見送っていた。さあ、名乗れ。」

 「サクラです。」

 「・・・それだけか。まあいい。早速だが、配属は特殊先攻班。各装備品は部屋に持って行かせる。班員は顔と名前を覚えておけ。」


 「・・・え? 新人で特殊先攻?」

 「即戦力ってことか。・・・強そうには見えないが。」

 副団長がしゃがれた声でそう説明すると講堂内が少しざわめいた。


 「静粛に。加えてマララ=アーベル、お前も特殊先攻班に異動だ。」

 「え!? 私もですか!?」

 「そうだ。異議があるか?」

 「・・・いえ! 全力で務めさせて頂きます!」

 マララはそう言ってビシッと敬礼をした。


 「私からの報告は以上だ。それから・・・・・・」

 それからは数人が何かよくわからない報告をして、その場は解散となった。


 +++


 「はぁ~、私も特殊先攻だなんて聞いてない・・・。」

 マララはわかりやすく肩を落としてため息を吐いている。


 「その、特殊先攻ってなんですか? いや、それよりもこんなに簡単に入って良いものなんですか? 軍って国の重要機関ですよね、それに何の試験も手続きもなしに入るなんて・・・。」

 今更だけど、私はこの国の人間でもなければ、ついこの間まで非合法の仕事をしていた身だ。いくらトップの人に連れてこられたとは言えそんな適当に入れるはずがないだろう。


 「え? あ、そっか。団長がそんな詳しい話するわけないか・・・。じゃあ一から説明しないとだね。」

 マララは思い出したかのように改めて説明を始めた。


 「まず、カブラル軍は9つの師団に分かれてて、管轄する場所とか任務が少し違うんだよ。中でも一番トップなのが第一。拠点をアインスに置いてて、主に国の要人の警護とか、首都の治安維持とか、軍隊というよりは近衛兵に近い役割を担ってる。」

 内乱があったときに見回りをしていたり、首相の護衛に付いていた人達はその第一師団の兵士だったのだろう。


 「次に第二と第三。アインスの周辺の主要内陸都市に常駐して、基本的には第一と同じく治安維持とか外法者の捕縛とかだね。」

 ウェスタンリードの兵士がそうだろう。


 「そして第四から第八。ざっくり分けるとアインスの東西南北の国境沿いに常駐してて、周辺国との外交経路の安全確保とか哨戒とかが主な任務だね。ただ、海沿いは国境線が広いから第六と第七の2部隊が取り締まってるって感じかな。」

 「はぁ・・・、ん? じゃあここは?」

 今の話だと第九師団の話は出てこなかった。ここはアインスから東側の国境沿いだと聞いていた。それなら第四か五か八の管轄だろう。


 「うん。実はね、もともとカブラル国軍は第八師団までしかなかったんだよ。」

 「・・・はい?」

 マララはその質問を待ってましたと言わんばかりに人差し指を立てている。


 「多分30年近く前かな? ここって国が作った組織じゃなくて、国が団長に特別な権限を与えて、団長が一から作った組織なんだよ。だから他の師団とは一線を画してて、ある程度の自由さが認められてるんだ。そんなこともあって、ここは特別な試験や資格が必要なわけじゃない。反対に望んでも団長に認められない限りは入れないってことでもあるけどね。」

 「なるほど・・・。でもなんで、団長1人にそんな権限与えたんですか?」

 「まあ、そこまでは詳しくは分からないんだけど・・・。」

 マララは少し考えてから話し始めた。


 「あくまで噂なんだけど、あの人異常に強いでしょ? それが若いときからそうだったらしくて、周りが全然ついて行けなかったとか。それで、当時の偉い人が厄介払いじゃないけど、単独で特別な任務を与えたのが始まりらしいよ。」

 ・・・何だその話は。とは思ったけど、実際にあの人と闘った経験を考えるとない話しでもないのかもしれない。


 「それで、段々人が集まって一兵団並みの戦力が集まったから9つ目の兵団として成立したんだって。そして肝心のその任務の話なんだけど・・・。」

 「お! 良いところに居たな。今良いか?」

 マララの話を聞いていると、私たちは短髪の背の高い女の人に呼び止められた。


 「はっ! ガードル大佐!」

 「まあまあ、そんなにかしこまるなよ。」

 気さくに話しかけてきたその人はマララの敬礼を見て笑っている。


 「サクラ、特殊先攻班の副班長だよ。敬礼しないと!」

 「はぁ・・・。」

 私は言われるがまま、見様見真似の敬礼をした。


 「さて、まずは挨拶だね。レア=ガードル、君らが新たに配属された特殊先攻班の副班長だ。よろしく。」

 「はい! よろしくお願いいたします!」

 「それで、用は?」

 「ちょっ!? サクラ、そんな物言い失礼でしょ!!」

 「ははっ! これは確かに大型新人だな。まあ君の言うとおりだ。」

 大佐はそう笑って話し始めた。


 「まあ最初の顔合わせは明日だが、その前に今のあたしらの任務の概要くらいは伝えておこうと思ってな。夜も遅いんで手短に済ますが。」

 「はいっ。」

 「・・・はい。」

 「マララは知ってるかもしれないけど、あたしらは今そこそこ大きな任務の最中にいる。サクラが配属されたのはその戦力の増強だろうね。」

 マララは大佐の話に合わせてどこからともなくメモを取り出している。


 「簡潔に言うとある組織の掃討作戦ってやつだ。」

 「確か、プラータとの国境沿いで活動してる反国家組織の調査、でしたっけ?」

 「そう。ここ数年、隣国のプラータ王国とカブラルの国境沿いで略奪だの人攫いだのが横行しててね。その原因が今言った組織、あたしらは識別名”マルファス”って呼んでるけど。元々はただの賊だったはずなのに、なんか最近の動きがきな臭いんだよね。」

 「それって・・・・・・。」

 「まだ確証はないけど、プラータ政府がマルファスと繋がってる可能性がある。」

 「え!? それって、国がその組織の蛮行を認めてるってことですか!?」

 「黙認してるだけなら良いけどね。ま、とりあえずあたしらはそれの調査中ってことくらいは頭に入れときな。」

 「は、はい!」

 背景はよくわからないが、要は反社会組織が隣国政府の援助を受けてるみたいな話だろう。


 「じゃ、呼び止めて悪かった。また明日。」

 「ありがとうございました!」

 そう言って大佐は手を振って歩いて行った。

 マララは相変わらず背筋を伸ばして、大佐が廊下の角を曲がるまで敬礼を続けていた。

 「・・・って、サクラも敬礼してよ!」

 

 「それよりもさっきの話の続きは。」

 「それよりもって・・・、えっと、第九の任務の話だったよね。」

 マララは少し呆れたような表情で話の続きを始めた。


 「この第九師団って、実は他国には公表されてない、言わば幻の組織なんだよ。」

 「なんでそんなことを?」

 「その理由が任務の話に直結するんだけどね、実際公表しない方が都合が良いんだよ。」

 「・・・?」

 「さっきの話で気づいたかもしれないけど、この兵団の目的はイレギュラーな案件の解決。大佐の話で例えると、もし本当に対象の組織が隣国の傀儡なら、国軍が下手に関わると最悪の場合、戦争になりかねないでしょ? だから、目には目をって感じで、事実上独立した兵団の私たちが対処するって感じになるんだよ。つまり、私たちは唯一自由に動ける遊撃部隊っていうのが一番近いかな?」

 「・・・なるほど。」

 なら、もともとの団長の任務は密偵や暗殺だったのだろうか。国が表立って関わることのできない任務を秘密裏に行う。それこそ映画やドラマの中のような話だ。


 「・・・さて、とりあえず私から説明することはこれくらいかなぁ。任務の詳しい話は私もわかんないし、サクラも疲れたでしょ? 今日は休も。」

 「いえ、これくらいでは・・・。」

 そう言って立ち上がろうとして、また脇腹が痛んだ。


 「ほら。慌てなくて大丈夫だから。今は怪我を治すことに集中して、また治ったら全力でがんばろ!!」

 「・・・・・・。」

 内心はそんなわけには行かないと焦っている。でも、確かに今できること何てたかがしれていた。

 だから私は今はこの人に従うことにした。



 

 

お読み頂き、ありがとうございます。


年内最後の投稿です。

約1年間ここまで読んでくださった皆様には感謝しかありません。

今後ともお付き合い頂けると幸いです。


次回は年明けの1/5投稿予定です。

お楽しみに。

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